話 題 畜産の情報 2016年7月号

平成27年度養豚農業実態調査の結果から〜今後の経営動向を中心に〜

一般社団法人日本養豚協会 参与 山梨 育男


養豚農業実態調査の実施

(一社)日本養豚協会(JPPA)は、「平成27年度養豚農業実態調査(以下「本調査」という)」を実施した。

養豚農業に関する基礎的な調査としては「平成21年度養豚基礎調査(以下「21年度調査」という)」以来の6年ぶりの調査である。本調査は、養豚生産者の全体像をより正確に把握するために「21年度調査に回答していただいた生産者」に「県養豚協会などの会員である生産者」を加えた4154経営体(注)を対象とし、回答が得られた1281経営体のうち廃業(389経営体)および無効を除いた885経営体の回答を集計した。

経営実態を見るため、経営形態、従業員数、後継者の有無、種豚頭数、飼養頭数、肉豚出荷状況、事故率のほか、今後の経営動向(意向)、衛生レベル・防疫対策、豚肉の輸出、環境対策、アニマルウェルフェアなどの実態・意識を調査した。

今後の経営動向を中心に特徴的ないくつかの項目について紹介したい。

(注) 平成27年8月1日現在。また、本調査は、原則、農場単位で記入していただくこととしているが、大半が経営体単位での記入となっており、本稿では便宜上「経営体」という表現にしている。「2015年農業センサス結果(平成27年2月1日現在)」によると、販売目的の家畜を飼養している経営体数は3673経営体、飼養頭数798万頭となっている。
 調査対象などが異なるため直接の比較はできないが、本調査に回答いただいた生産者の飼養頭数合計は321万頭とセンサス結果の約40%に当たる。
 また、平成26年の肉豚の出荷頭数は約600万頭で全国のと畜頭数約1620万頭(農林水産省「食肉流通統計」)の約37%となっており、養豚農業の全体像をある程度、反映できているのではないかと考えている。

経営の概況

調査対象の経営の概況を見ると表1の通りとなっている。

回収率などが異なるため厳密な比較は出来ないが21年度調査と比較すると、経営形態別では個人経営の割合が減少(60.1%→41.5%)、会社などの事業体の割合が増加(34.9%→53.4%)しており、経営タイプでは一貫経営の割合が増加(80.2%→86.3%)、子取り用雌豚頭数は200頭以上の階層の割合が増加(23.1%→42.2%)、年間肉豚出荷頭数では4000頭以上の階層の割合が増加(21.3%→40.2%)が特徴となっている。

また、平均従業員数は増加(4.6人→8.1人)、農場責任者(あるいは経営者)の平均年齢は(57.5歳→56.4歳)で若干若返りがみられ、30歳以上50歳未満の層の割合が増加(20.2%→27.0%)している。

大規模農家、会社などの事業体へのシフトが進むとともに若返りも徐々に図られつつあるとみられる。



繁殖成績、事故率、出荷状況、給与飼料の現況など

繁殖成績、肉豚の出荷状況などを見ると表2の通りとなっている。



21年度調査と比較して見ると平均分娩率、平均分娩回数を除き生産性の指標はおおむね向上の方向を示している。

離乳から出荷までの通算事故率も、7.6%と21年度の9.6%に比較して2.0ポイント低下している。これを子取り用雌豚飼養頭数規模別に見ると1〜19頭の階層を除きいずれの階層も低下している(図1)。



本調査では、事故率減少の理由の調査を実施していないが、農場における人、資材、車両の入退場、野生動物の侵入対策など衛生レベル・防疫対策充実が図られている調査結果となっており、また、種豚改良、人工授精の導入増加、衛生対策の充実などさまざまな事故率改善の取り組みの成果と考えられる。

一方、生産コストに大きなウエイトを占める飼料の使用状況(複数回答)を見ると、市販配合飼料使用者の回答者数全体に対する使用割合は21年度調査とほとんど変わりはないが(92.4%→92.2%)、回答総数の使用割合は21年度より増加(118.6%→131.4%)しており、内訳をみると飼料用米の使用割合が増加(2.6%→8.6%)、食物残さなどリサイクル飼料の使用割合が増加(16.0%→20.0%)するなどコスト削減などの取り組みが進められている(図2)。



しかしながら、飼料用米、リサイクル飼料などは十分利用されているとは言えず、調達ルートの多様化、調達材料の安定的確保、加工施設、加工賃、保管場所の確保、保管費用、給餌施設の設備投資、肉質などの影響、補助金の継続不安など多くの課題が報告されておりこれらを改善しながら利用の拡大を進める必要がある。

今後の経営動向(意向)

今後の養豚生産者の経営動向を見ると全体の28%が「経営を拡大する」としており、11%が「経営を縮小する」としている。21年度調査を見ると「経営を拡大する」が15%、「経営を縮小する」16%となっており「経営を拡大する」が大きく増加している(図3)。



これを、子取り用雌豚頭数規模別に今後の経営動向を見ると、規模が大きくなるほど「経営を拡大する」が多くなる傾向があり、「200〜499頭」、「500〜999頭」の階層で40%を超え、「1000頭以上」の階層は53.2%を占めている。

一方、99頭以下の階層で「経営を縮小する」割合は20%以上となっている(図4)。



また、後継者の有無について見ると、経営を拡大すると回答した生産者のうち「後継者がいる」が55.7%、「対象者はいるが決まっていない」が16.8%、「自分の年が若いので後継者は考えていない」が18.3%となっており、「後継者がいない、後継者は考えていない」が9.1%とわずかとなっている。一方、経営を縮小する意向のある生産者は「後継者がいない、後継者は考えていない」が69%となっている。

「廃業したい」「廃業する計画がある」の理由を見ると「後継者がいない」が42.5%を占め、次いで「生産資材(飼料など)の高騰で儲からない」が17.5%となっている。

持続可能な経営を目指して

このように、今後の経営動向を見ると明るい回答が多く見られるが、これは本調査が平成25年度以降の枝肉価格の上昇により収益性が向上した時期であったこと、また、TPP交渉の大筋合意前であったことに注意する必要があろうと考える。一方、高齢化などにより縮小、あるいは廃業を考えている生産者もいる。

26年6月に養豚農業振興法が成立し、養豚農業は、豚肉の安定供給を通じて国民の食生活の安定に貢献し、豚肉の処理や加工、流通、販売などの裾野の広い関連産業を有しており、雇用の維持・拡大などにより地域経済などに貢献していることから振興に向けた取り組み推進が行われている。

TPP交渉大筋合意を受け養豚農業は、ますます国際的な競争力の強化が求められるとともに、飼料の高騰、家畜の伝染性疾病の侵入などのさまざまなリスク、さらに排せつ物などの処理、水質などの環境対策、アニマルウェルフェアの進展など生産コスト増加要因も抱えている。

六次産業化、輸出促進など生産だけにとらわれず新たな取り組みも行われているが、このような時期にこそ、地道な経営努力に加え行政の支援も含めさまざまなリスクに対応できる準備をすることが後継者の方々にも希望を与え、今後の経営を継続していくうえで重要であると考える。


(プロフィール)

1975年 東京農業大学農学部農学科卒、農林水産省入省、(独)農林漁業信用基金、(一社)全国農協保証センターを経て現職


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