調査・報告  専門調査 畜産の情報 2016年6月号


広島県における稲WCSを用いた広域のTMRセンターと集落営農法人の展開

岡山大学大学院環境生命科学研究科 教授 横溝 功



【要約】

 国内の主食用米需要の減少、TPPによる輸入米の増加を控え、主食用米以外で水田を有効活用する方策として、稲WCSを取り上げた。本調査研究では、広域のTMRセンター、および TMRセンターへWCS用稲を供給している2つの集落営農法人の組織・事業・経営における現 状と課題を明らかにして、今後の教訓を導出した。

1 はじめに

わが国の米の需要は年々減少している。図1は、農林水産省の『米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(案)』から抜粋した図である。回帰式からも分かるように、主食用米等(注1)の需要が、年々、約8万トンも減少している(回帰式のxの係数が−8.2912になっている)。平成8/9年度(平成8年7月〜平成9年6月)には、943.8万トンの需要量であったが、28/29年度(28年7月〜29年6月)には、762万トンにまで減少すると予測されている。この762万トンをもとに適正在庫を勘案して、農林水産省は平成28年産主食用米等生産量を、743万トンと設定しているのである。

しかるに、27年7月15日現在のわが国の水田の面積は、244.6万ヘクタールである。この水田にすべて水稲を栽培して、1ヘクタール当たり5トンの収穫量とすると、1223万トンの米が収穫できることになる。農林水産省が設定する743万トンとの差は、480万トンに上る。面積に換算すると96万ヘクタールになる。従って、96万ヘクタールは主食用米等以外の作物を栽培しなければならないのである。39.2%の転作率ということになる。

さて、わが国は、このような状況の中で、ガット・ウルグアイラウンド農業合意によって、ミニマムアクセス米(以下「MA米」という)を毎年76.7万玄米トン受け入れている。ただし、66万玄米トン(MA米の中の一般輸入)は加工用、飼料用、援助用に回り、食用に回るのは10万実トン(MA米の中のSBS(売買同時契約)輸入、玄米換算では10.7万トン)と、国内稲作への影響を回避している。

しかし、TPPの大筋合意で、現行関税1キログラム当たり341円は維持したものの、TPP発効後、米国、豪州から追加でのSBS輸入を行うことになる。そして、発効後13年目以降には7.84万トンもの米(米国7万トン、豪州0.84万トン)を、現行の76万に加えて輸入することになる。

以上のように、わが国の稲作は、内外からの厳しい環境にさらされていることが分かる。また、近年の米価低迷の現象を説明することができる。しかし、わが国の水田において、水稲以外の作物を栽培することは容易ではない。水田という装置は、水稲に適しているが、その他の多くの作物 、特に畑作物には適していないからである。

そこで、米を主食用米等ではなく、飼料用として用いることが、わが国の農業において重要な戦略になる。すなわち、WCS(発酵粗飼料)用稲と飼料用米である。表1は、全国と広島県の稲栽培面積の推移を見たものである。主食用米に比較すると、両者はまだまだ栽培面積は少ないが、近年伸びていることが分かる。本稿では、広島県におけるWCS用稲を取り上げる。

WCS用稲は主として酪農経営が利用することになるが、稲作経営と酪農経営の耕畜連携が必要不可欠である。広島県では、酪農専門農協が、WCS用稲を用いたTMRを生産し、酪農経営に供給している。また、広島県では、集落営農法人の法人数が多く、稲作において重要な役割を果たしている。これら集落営農法人にWCS用稲を栽培してもらい、収穫調製においては酪農専門農協が引き受けるという、広域かつ魅力的なシステムを創出している。

そこで、本稿では、広島県の酪農専門農協によるTMRセンター、ならびにTMRセンターへWCS用稲を供給している2つの集落営農法人を取り上げ、組織・事業・経営における現状と課題を明らかにして、今後の教訓を導出することにする。

(注1) 農林水産省の『米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(案)』における、「国内で生産された水稲うるち米及び水稲もち米から、需要に応じた米生産の推進に関する要領(平成26年4月1日付け25生産第3578号農林水産省生産局長通知)第3において生産数量目標の外数として取り扱う米穀等として定める加工用米その他主食用に充当されない米穀を除いた米穀」の定義に基づく。

2 稲WCSを活用する みわTMRセンター

(1) みわTMRセンター竣工の経緯

広島県酪農業協同組合(以下「広酪」という)は、広島県全域を管轄とする酪農の専門農協である。平成6年4月1日に、それまでにあった18の専門農協が合併して、誕生している。合併以前の備北酪農業協同組合は、平成元年に、庄原市一木町に庄原飼料混合所を開設している。また、双三酪農協同組合も、2年に、三次市三和町にミックスフィードセンターを開設している。これらTMRの販売形態は、フレキシブルコンテナバッグで行われていた。

両施設の老朽化、広酪統合後20年を節目に、新たにみわTMRセンターが竣工した。そして、26年12月から稼働することになる。庄原飼料混合所は、その役割を終えている。

みわTMRセンターでの製品は、ラップベールマスター(写真1)で、500キログラムの大型の直方体に梱包されている(以下では、この製品を「キューブベール」という。写真2)。この機械の導入に当たっては、先進地視察を行う中で、熊本県八代市にある施設を参考にしている。その理由は、メンテナンスのコストが少ないことがあった。また、通常のロールベールよりも密度が大きく、破れにくいというメリットもあった。

なお、以前の2つのセンターでは、豆腐かす、ビールかすなどの未利用資源を有効活用し、海外からの輸入トウモロコシに代替することを目指していたが、今後は、それに加えて、広島県内で生産される、稲WCSを積極的に活用することを目指している。さて、ほ場で収穫調製されるロールの重量は約300キログラムであるが、それを表2のように混合して製造されるキューブベールの重量は500キログラムである。

(2) みわTMRセンターの投入原料

みわTMRセンターの投入原料は、表2の通りである。基礎配合飼料は全国酪農業協同組合連合会(以下「全酪連」という)から、かす類のうち、ビールかすは岡山県や関西にあるビールメーカー4社から、豆腐かすは商社1社から、醤油かすはJA西日本くみあい飼料株式会社から、焼酎かすは全酪連からそれぞれ購入している。

輸入乾草は、アルファルファ、オーツ麦、スーダングラスなどを全酪連から購入している。

添加剤の種類としては、カルシウム・塩・カビ吸着剤・乳酸菌である。

以上の原料に、水と糖蜜を加えている。糖蜜を加えるのは、周知のように発酵を容易にするためである。

みわTMRセンターでは、稲WCSを用いることで、海外からの飼料依存の脱却を図っている。製品4トンに対して、稲WCSを1.5ロール(450キログラム)投入しているので、約11%の割合になる。稲WCSの調達方法は、大きく2つに分けることができる。

第1に、5年間、広酪と栽培経営との間で、稲WCSを立毛の状態で売買契約を締結するやり方である。そして、みわTMRセンターが、売買契約した栽培経営のWCS用稲を収穫調製するのである。それに対して、栽培経営は、10アール当たり2万8000円+消費税を、みわTMRセンターに支払うことになっている。逆に、みわTMRセンターが、収穫調製された稲WCSの1ロール(300キログラム)に対して3100円+消費税を、栽培経営に支払う契約となっているため、1ヘクタール当たり97個のロールの収量と考えると、10アールで約10ロールの収量になり、みわTMRセンターは栽培経営に約3万1000円+消費税を支払うことになる。平成27年度は、約88.9ヘクタールの契約面積にもなる。そして、88.9ヘクタールで、約8600ロール収穫調製が見込まれているのである。ちなみに、みわTMRセンターに最も多く供給する市町村が庄原市で、52.2ヘクタールと全体の約6割を占めている。次に多いのが三次市で、13.6ヘクタールと続く。

第2に、みわTMRセンターが、稲WCSのロールを買い付けて、取りに行くというものである。こちらは、県外が2700ロール、県内が1800ロールと見込まれている。県外は、島根県おおなん町であり、他県ではあるが、みわTMRセンターから近い。みわTMRセンターが、1ロール当たり、3100円+消費税を支払う契約になっている。なお、ロールの重量は1個が300キログラムで、1ヘクタール当たり97個のロールの収量と考えると、県外が27.8ヘクタール、県内が18.6ヘクタールの栽培面積ということになる。

従って、2つの調達方法で、27年度は約1万3000ロールが確保されることになる。これによって、県内の107.5ヘクタール(=88.9ヘクタール+18.6ヘクタール)、県外の27.8ヘクタールが、WCS用稲の栽培として有効利用されることになる。

(3)製品の製造と販売

キューブベールの製品製造量は、1日当たり80〜88個である。1年に270日稼働で計算すると、1年間に2万1600〜2万3760個の製造量になる。1個が500キログラムであるので、1年間に約1万1000トンの製品製造になる。なお、みわTMRセンターの製品製造の目標は、1万2000トンとのことであった。

月間の製品製造量は、約900トンになるが、うち3.3%の約30トンは県外にも販売している。こちらは、全酪連を通じて、島根県・山口県の畜産経営に販売されている。このように、製品のほとんどが、広島県内の酪農経営に販売されているのである。

みわTMRセンターのキューブベールを利用している酪農経営は45戸で、経産牛飼養頭数の合計は1500頭である。当然のことながら、みわTMRセンターが県北に立地しているので、利用する酪農経営も県北に多く立地している。みわTMRセンターが稼働する以前は、2つのセンターの利用戸数が35戸であったので、10戸増加していることになる。

ちなみに、広島県全体の酪農経営は137戸で、合計の経産牛飼養頭数は5500頭である。それ故、利用経営のシェアは、戸数で33%、経産牛飼養頭数で27%になる。

なお、現物の成分分析は、全酪連が行っている。また、嗜好性に関しては、稲WCSを加えることによって、以前よりも良くなっているとのことであった。このことは、利用する酪農経営の増加にもつながっている。

なお、製品の種類は、下記の5つである。

(1)高泌乳用 (2)中泌乳用 (3)産乳用 (4)ファイバーミックス (5)移行期用

製品の主力は、(1)と(2)である。価格は、(2)よりも(1)を1キログラム当たり1円高く設定している。(3)は、以前のセンターからの引き継ぎで、3戸の酪農経営が利用している。彼らは、発酵TMRを嫌い、フレッシュなTMRを求めている。従って、彼らの注文があると、製造後その日のうちに配達している。それ故、価格は、(1)よりも1キログラム当たり8円程度高く設定している。(4)は、試験的に1戸の酪農経営に提供している。(5)は、2戸の酪農経営に提供している。

(4)組織と経営成果

みわTMRセンターのスタッフは6人で、広酪の職員3人とオペレーターを委託している運送会社の職員3人から構成されている。オペレーターは、飼料の収穫調製や運搬を担当することになる。

みわTMRセンターでは、収穫機4台と、ラッピングマシーン6台を所有している。

製品の価格に関しては、みわTMRセンターでは、4半期ごとに見直している。また、価格設定に当たっては、製造原価を生産量で割った1キログラム当たりの製造原価を算出し、それに手数料として1キログラム当たり1円を上乗せしている。それ故、大きな赤字を抱えるリスクを回避しているといえる。

前述のように、1年間に約1万1000トンの製造であるので、1キログラム当たり1円の手数料は、総額では、1100万円になる。この金額で販売費および一般管理費を充当することになる。

(5)今後の課題と展開方向

みわTMRセンターの今後の課題としては、第1に、製品の販路を伸ばし、製品の製造量を増やして、平均固定費用(=固定費用÷製品製造量)を下げ、販売単価を下げることが挙げられていた。

第2に、品質をいかに安定するかが挙げられていた。そのためにも、主要な原料である稲WCSの品質の確保が重要になる。WCS用稲の落水の時期、雑草対策、収穫をスムーズに行うことが肝要である。

第3に、製品製造量が増加すると、置き場所の問題が課題となる。現在、キューブベールを3段にしてストックしているが、一番下の段が上からの圧力を受けて固くなるという課題があった。

3 稲WCSの供給サイド(農)一木生産組合の展開

(1)集落営農法人成立の経緯

まず、みわTMRセンターに稲WCSを供給している農事組合法人一木生産組合(以下「一木生産組合」という)について取り上げることにする。一木生産組合は広島県における集落営農法人の先進事例でもある。庄原市一木町に立地している。昭和40年代に、2.2ヘクタールの農地を経営する農家が廃業し、他の集落の農家に農場を移譲しようとする事態が発生する。そこで、9人のオペレーターを中心に、任意団体の営農集団を作り、集落内で引き受けることになった。

さらに、昭和44年に、42戸で営農集団を発足させた。水田面積は32ヘクタールでスタートした。現在の面積は30.6ヘクタールとほぼ集落内の農地を維持している。現在の営農集団の組合長は、岩竹重城氏の兄が務めている。なお、岩竹重城氏は広酪の組合長である。

平成元年には、営農集団の中の一部の組織を、一木生産組合として法人化している。当時は、法人化の先行事例がなかったので、手探りでの法人化であった。一木生産組合の組合員は25人であり、うち非農家4〜5人が含まれている。この25人の中で、トラクターのオペレーターが5人、田植機のオペレーターが7〜8人、コンバインのオペレーターが7〜8人である。草刈作業(9時〜12時)に関しては、25人のうち10人〜14人が必ず出役して作業に当たっている。

発足当時の営農集団は現在もそのまま維持され、任意団体のままである。

また、集落内には、営農集団以外に、サイロ組合という任意団体も存在する。こちらは、 集落内の酪農経営2戸、肉用牛繁殖経営1戸で構成されている。酪農経営は多いときには、集落内に8戸存在したが、現在は2戸に減少している。

一木生産組合は、農業機械を大型化して、共同利用することによって稼働率を上げ、平均固定費用の低減を目指している。

一木生産組合の役員は、理事6人、監事2人の8人である。代表理事組合長は、岩竹重城氏が務めている。岩竹氏のリーダーシップが極めて大きい。なお、事務局長1人が設置されている。

出資金は、1人1万円の25万円で出発したが、剰余金を留保するなどの努力で、現在の出資金は103万円になっている。

(2)集落営農法人活動の推移

前述のように、現在の集落の水田面積は、30.6ヘクタールである。そのうち、WCS用稲は9.6ヘクタールを栽培しているが、すべて「たちすずか」である。「たちすずか」よりも2週間ほど出穂期の早い「たちあやか」を導入すれば、作業を分散できるが、「たちあやか」の種子が入手できなかったのである。9.6ヘクタールの内訳は、一木生産組合が6ヘクタール、個々の農家が3.6ヘクタールを栽培している(表3)。

主食用米の面積は14ヘクタールであるが、一木生産組合が4ヘクタール、個々の農家が10ヘクタールを栽培している(表3)。なお、主食用米は全量JAに出荷している。JAでは集荷した主食用米を酒米の掛米(注2)としても販売している。10アール当たりの収量は、8〜9俵(480〜540キログラム)で、品種は「なかしんせんぼん」である。苗の購入もJAで、JAのカントリーエレベーター(乾燥・調製)を利用している。

表作そばと裏作イタリアンライグラスの面積は7ヘクタールであるが、一木生産組合が表作そば2ヘクタール、個々の農家が表作そば5ヘクタールとイタリアンライグラス7ヘクタールを栽培している(表3)。この7ヘクタールのイタリアンライグラスは、2戸の酪農経営が3ヘクタールずつ、1戸の肉用牛繁殖経営が1ヘクタールを栽培している。

なお、集落には、水田30.6ヘクタールとは別に畑が6ヘクタールあるが、すべて表作そば、裏作イタリアンライグラスが栽培されている(表3)。こちらは、前述のサイロ組合が管理している。サイロ組合では、トラクター8台を所有し、1人が収穫作業、2人がラップ作業というように、3人1組で収穫調製作業を行っている。

以上のように、一木生産組合は、WCS用稲6ヘクタール、主食用米4ヘクタール、そば2ヘクタール、合計12ヘクタールを栽培している(表3)。この12ヘクタールは、借入地という形態で利用権を設定している。そして、10アール当たり1万円の賃借料を地主に支払っている。

一木生産組合の栽培の特徴としては、中山間地域に立地するが故に、鳥獣害の被害に備えて、ほ場の中央部に主食用米、その周辺部、特に谷の部分にWCS用稲やイタリアンライグラスを栽培していることが挙げられる。また、中山間地域等直接支払制度からの助成金を活用して、あぜにシートをかけ、雑草防除に取り組んでいる。このことは、中山間地域に立地する他の集落営農法人だけではなく、任意組合の集落営農にも重要な示唆を与えている。

(注2) もろみ造りに直接使われる米。

(3)営農の展開

前述のように、一木生産組合の水田の経営面積は12ヘクタールである。集落の水田の面積が30.6ヘクタールであるので、集落営農法人による集積率は39%になっている。平成26年度の賃借料は96万6420円である。前述のように、10アール当たり1万円の賃借料を地主に支払っているので、120万円になるが、法人化の契機になった2.2ヘクタールの土地の賃借料が6万円などになっているからである。これは、集落営農法人が他の経費を賄うことになっているからである。

なお、集積率は、毎年増加していて、近い将来、半分以上になるとのことであった。また、オペレーターは比較的若年層が担当しており、一番の若手が30代後半である。

さて、水田裏作のイタリアンライグラスについて、言及する。前述のように、7ヘクタールの栽培面積であるが、サイロ組合の3戸の畜産経営が、各々ほ場を管理している。しかし、収穫調製は共同作業で当たっている。1時間当たり、作業労働賃金1200円でロール単価を共同計算しているのである。なお、2戸の酪農経営の経産牛の飼養規模は、各々30頭ずつである。

イタリアンライグラスの転作料は、10アール当たり3万5000円であるが、一度、営農集団に支払われて、営農集団から、10アール当たり5000円がサイロ組合に支払われ、地主に3万円が支払われることになる。従って、7ヘクタールの栽培面積であるので、35万円がサイロ組合に支払われる。この35万円は、7ヘクタールの収穫調製の管理費に充当される。

そばに関しては、集落のそば部会が、飲食店を展開している。土日だけの営業ではあるが、リピーターがついていて、1年間に1000万円の売上高である。こぶ・かつおぶしだけでだしをとるというように、本格的なそば作りにこだわっており「一木一寸そば」の名称で販売している。また、そばは、普通型コンバインで収穫できるなど、新たな機械投資を必要としない。ただし、水田でのそばは収量がとれないという欠点がある。そばは湿害に弱く、当該集落の水田が粘土質であるので、栽培には不適ということになる。それ故、6ヘクタールの畑地でのそば作りが重要になる。

(4)今後の課題と展開方法

高糖分WCS用稲「たちすずか」の乳用牛や肉用牛への給与実証は、すでに、広島県の畜産技術センターの試験結果の蓄積があり、飼料として極めて有用であることが実証されている。また、平成26年度の米価低迷が、WCS用稲栽培の追い風になっている。

表4からも明らかなように、10アール当たり損益でみると、利益では、主食用米がマイナスになっている。オペレーターの労賃を加えた所得でみると、主食用米が約1万4000円であるのに対して、WCS用稲が約4万6000円と3万円以上上回っている。このことからも、WCS用稲の有利性は明らかである。なお、主食用米の60キログラム当たりの販売単価が1万1000円であったが、仮に1万4500円に上がると、所得はWCS用稲と同じ水準になる。しかし、現状では、この様な条件になることは、難しいといえる。

WCS用稲の栽培は、食用米栽培に比較すると容易である。ただし、稲WCSは、多くの堆肥の投入を必要とする。幸いなことに、当該営農集団は堆肥センターを持っており、堆肥センターを有効活用することにより、耕畜連携ができている。

一木生産組合のオペレーターは、比較的若いが、集落全体で見ると、高齢化が進展している。従って、後継者へのバトンタッチが大きな課題である。すなわち、農作業の技術の継承が今後重要になってくる。

4 稲WCSの供給サイド(農)清流の里ファーム庄原の展開

(1)地域の概要

農事組合法人清流の里ファーム庄原(以下「ファーム庄原」という)は、庄原市濁川町川西にある。川西の集落戸数は34戸で、集落人口は114人である。男女の内訳は、男性54人、女性60人である。行政組織は川西自治区で、集落34戸全戸が加入している。34戸のうち、農家戸数は27戸であり、さらにそのうちの11戸がファーム庄原の組合員である。

当該集落では、ハード面では、昭和63年10月から、ほ場整備事業の工事に着工した。平成5年3月に、あんきょ排水換地処分が完成し、従前地施工面積(水張面積)が27.8ヘクタールであるのに対して、完成面積(水張面積)が24.3ヘクタールになっている。5年当時のJA委託販売米価は1俵当たり1万6660円であるのに対して、26年には9400円にまで落ち込んでいる。

ソフト面では、2年3月に、任意組合の営農集団組合を設立して、農家27戸全戸が加入している。さらに、2年3月に、任意組合の機械利用組合を設立して、農家27戸のうち22戸が加入している。

また、当該集落では、中山間地域等直接支払制度を、17年4月の1期から4期(27年4月〜)まで活用している。そのために、濁川川西集落中山間地協議会を発足させている。当該協議会には、農地所有者34戸全戸が加入している。鳥獣対策として、(1)1.2メートルの高さの金網フェンスを設置したり(写真6)、(2)はこわなを設置したりして、イノシシの捕獲を行っている。なお、イノシシ1頭の捕獲に対して、庄原市から1頭当たり5000円の助成が出ている。27年は、1月から8月までに16頭を捕獲している。3人が「わな猟免許」を取得している。

そして、22年8月には、ファーム庄原を設立している。当該集落営農法人の組合員は11戸である(表5)。

さらに、24年には、濁川川西地区資源保全隊を設立している。こちらは、集落の全戸34戸が加入し、農地・水保全管理支払交付金を活用して市道の法面200メートルに芝桜を植栽するなどの活動を行っている。

(2)集落営農法人成立の経緯

集落営農法人成立の一番の目的は、先祖から受け継いだ農地を集落全員の力で守ることにあった。行政支援の指導指針に従った経営展開が、当該集落営農法人の基本である。そして、組合員を大切に、やる気のある担い手を育成し、永続的な経営展開を目指している。

ほ場整備前は、農家個人の作業が中心であったが、ほ場整備後は、営農集団組合や機械利用組合が、大型機械を導入して、オペレーターによる作業が中心になっている。そして、転作は、集落全体で調整して、耕畜連携に積極的に取り組むようになる。

表5のとおり、集落においてアンケート調査を実施するなど、集落での意向を組み入れて、極めて民主的に集落営農法人を設立していることが分かる。法人化の検討から、約3年をかけて設立にこぎつけている。そして何よりも、現代表理事の清水氏のリーダーシップは、集落をまとめる上で、大きな役割を果たしているのである。

ファーム庄原が参考とした集落営農法人は、前述の一木生産組合、および庄原市口和町(隣の集落)の農事組合法人ファーム永田である。

(3)集落営農法人活動の推移

ファーム庄原の主要な投資は、施設(鉄骨倉庫・ビニールハウス)と機械(トラクター・田植機他)である。前者は、平成23年10月に472万5000円で取得している。平成26年期末残高は、193万786円である。

後者は、平成23年5月に442万800円で取得している(庄原市が3分の1を助成)。26年期末残高は、70万9046円である。当該機械は、機械利用組合に貸与している。

以上のように、ファーム庄原では大きな投資を行っていない。すなわち、個人が所有する農業機械を有効利用したり、JAのライスセンターを利用したりしている。

22年8月設立時の水田の経営面積(水張)は、1038.37アールであったが、26年12月末には、1105.03アールと増加させている。これは、小規模ほ場66.66アールを新たに集積したためである。

なお、組合員は、農地すべてをファーム庄原に、10年間の賃貸契約で貸与する形態になり、10アール当たり支払地代(水張面積)は1万円となっている。集落の中における経営面積の集積率は、集落の水田面積24ヘクタールに対して、集積面積が約11ヘクタールであるので、46%にもなることが分かる。

(4)組織の概要(平成26年12月現在)

ファーム庄原の役員(理事・監事)は7人であり、平均年齢は66歳である。組合長・副組合長・会計担当を設置している。組合員戸数は11戸であるが、組合員数は20人である。これは、夫婦で加入しているからである。組合員の平均年齢は55歳である。オペレーターは8人であり、平均年齢は67歳である。

出資は、平等割と面積割からなっている。前者は1口5万円であり、後者は1アール当たり500円である。なお、出資組合員は11人である。

設立時は、出資金は、下式の通りである。

11人×50,000円+1,183アール×500円=1,141,500円

 ただし、1183アールは台帳面積であり、水張面積は前述のように1038アールである。

なお、平成26年度に、地代部分の配当105万6870円を増資して、現在の出資金は219万8370円になり、資本の充実を図っている。

集落営農法人の場合、オペレーターの育成が重要であるが、ファーム庄原では、機械利用組合との連携で育成している。ちなみに、大型特殊免許取得者は10人であるが、うちファーム庄原の組合員は3人である。

(5)営農の展開

ファーム庄原では、平成27年は、食用米を栽培せず、すべてWCS用稲を栽培している。そして、すべてのWCS用稲を、みわTMRセンターに原料供給しているのである。ファーム庄原では、表6のような10アール当たりの主食用米とWCS用稲の利益を計算している。一木生産組合の表4と同じく、WCS用稲の生産の方が有利になっているのである。

WCS用稲の栽培に関して、ファーム庄原では、以下のような厳しい栽培管理を行っている。

第1に、栽培の指導指針の厳守である。このことによって、収量・品質の安定を目指している。

第2に、省力化を目指して、たんすいちょくを試験的に行っている。平成27年は21.2アールで取り組んでいる。ミストで10アール当たり5キログラムのもみをしゅしている。この場合、除草がポイントとのことであった。

第3に、26年の秋に、プラウ(注3)で深く耕やしている。

第4に、施肥対策として、全農の施肥設計書に基づいて、4つの施肥区で施肥試験を行っている。すなわち、「たちすずか」通常施肥区、増肥区、減肥区、硫安単肥区の4つである。

第5に、25年度、26年度に全農に土壌分析を行ってもらっている。

なお、育苗は、JA庄原に委託している。1箱702円である。27年度には、10アール当たり育苗箱14箱を用いて田植えを行っている。28年度は、13箱に減らして田植えを行う計画をしている。すなわち、経費の節約と収穫量の関係を明らかにしようとしているのである。その結果、合理的な育苗箱の箱数を決定することになる。このように、ファーム庄原では、地道に栽培の研究を遂行していることが分かる。

(注3) トラクターに取り付けて使用する機械で、種まきや苗の植え付けに備えて土壌を耕起するためのもの。

(6)今後の課題と展開方向

ファーム庄原では、平成26年度の米価低迷の影響を受けて、27年度には、主食用米の栽培面積がゼロで、すべてWCS用稲を栽培している(表7)。集落営農法人単独の耕畜連携だけでは、このような対応は難しかったといえる。まさしく、近隣に存在するTMRセンターの機能をフル活用したことによって、WCS用稲の栽培で集落営農法人の経営が安定したといえる。

以上のように、ファーム庄原では、主食用米をまったく栽培していないことになる。それ故、組合員の家庭で消費するお米に関しては、ファーム永田に委託して160袋(1袋当たり30kg)の米を栽培してもらっている。

ファーム庄原の今後の課題や展開方向としては、以下の4項目が挙げられている。

第1に、役割分担の徹底

第2に、現在のファーム庄原の経営面積11ヘクタールを、いかに集落全体の経営面積24.3ヘクタールにまで広げるか。

第3に、後継者への継承

第4に、従事分量配当の活用

なお、第3の課題において、11戸の組合員のうち、8戸は後継者が期待できていた。後継者にとってもWCS用稲の存在は大きいといえる。

5 おわりに

わが国の稲作は、国内の主食用米需要の減少、TPPによる輸入米の増加を考慮した場合、極めて厳しい状況におかれている。このような状況の下で、水田を有効活用する方策として、本稿では、稲WCSを取り上げた。

具体的には、広酪のみわTMRセンター、およびみわTMRセンターへWCS用稲を供給している2つの集落営農法人を取り上げた。

みわTMRセンターでは、事業面において、輸入飼料依存から脱却するため、積極的にTMRの原料として稲WCSを利用していた。また、稲WCSを調達するために、稲作経営と立毛の状態で5年間の売買契約を結び、収穫調製作業をみわTMRセンター自らが行っていた。

ただし、組織面において、収穫調製作業には、近隣の運送会社にオペレーターを委託していた。このことによって、事業面において、安定して稲WCSの調達が可能になり、平成27年度にはWCS用稲の栽培面積が88.9ヘクタールと、表1の広島県全体の栽培面積437ヘクタールの約20%を占めることになる。

また、事業面では、需要者である酪農経営のニーズに応えるために、飼料の調製においては、5種類の製品を、500キログラムのキューブベールの形態で提供していた。その結果、広島県全体における利用経営のシェアは、戸数で33%、経産牛飼養頭数で27%に上っていた。

経営面においては、5年間のWCS用稲の買入価格(300キログラム当たり3100円+消費税)とオペレーター委託費(10アール当たり2万8000円+消費税)は一定であるが、TMR製品の価格は4半期ごとに見直している。これは、表2のように、基礎配合飼料や輸入乾草のように、輸出国(主として米国)の作況や為替相場が大きく影響する原料を多く含むからである。しかし、かす類や稲WCSなどの国産粗飼料のウェイトを高めていけば、輸出国や為替相場を考慮することなく、価格設定できることになる。見直し方法としては、4半期ごとに製造原価を生産量で割った1キログラム当たりの製造原価を算出し、それに手数料として1キログラム当たり1円をオンしている。この1円×製品製造量(約1万1000トン)の1100万円で、販売費および一般管理費を賄うことになる。その結果、大きな赤字を抱えるリスクを回避できる仕組みになっているのである。このような正確な製造原価を考慮した製品の価格設定は、他のさまざまな形態のTMRセンターにも参考となりうる。

一木生産組合とファーム庄原の2つの集落営農法人の事業は、集落内での農地の集積率を高め、前者では39%、後者では46%にもなっていた。一木生産組合の法人化の歴史は古く、平成元年に法人化している。ファーム庄原は、22年に法人化している。法人化の経緯は、前者が集落内の大規模農家の廃業、後者が農地の維持存続というように異なっている。

組織面では、一木生産組合の組合員25人、うち役員は8人であるのに対して、ファーム庄原の組合員20人、うち役員は7人である。前者は、組合長のリーダーシップの役割が大きく、後者は、組合長のリーダーシップの役割とそれを支える補佐役の役割が大きい。両者の立地条件、歴史や文化が異なっていて、極めて興味深い。

経営面では、両者は、平成26年度の米価低迷を受けて、表4や表6のようなWCS用稲と主食用米の10アール当たり利益(労務費は控除されている)を算出している。その結果、WCS用稲が3万円以上を確保しているのに対して、主食用米はマイナスになっているのである。その結果を受けて、ファーム庄原では、主食用米の栽培をまったく止めて、WCS用稲にすべて転換しているのである。しかし、このような思い切った経営行動が可能なのは、みわTMRセンターの存在が大きい。5年間の売買契約で、WCS用稲の買取価格や、収穫調製のオペレーター委託費が固定されているので、将来計画が容易になるからである。しかも、集落営農法人にとって、稲WCSの収穫調製の機械投資が不要なのである。

今後は、両法人のように、WCS用稲の栽培の指導指針を厳守して、収量と品質を安定させることが、耕畜連携の維持存続に不可欠といえる。このことは、酪農経営だけではなく、集落営農法人のメリットにもなるのである。

謝辞:本稿をまとめるに当たり、広島県酪農業協同組合・事業推進課課長補佐 藏崎哲治様、(農)一木生産組合・代表理事組合長(広島県酪農業協同組合・代表理事組合長)岩竹重城様、(農)清流の里ファーム庄原・代表理事 清水忠昭様、同・理事 四水利治様、同・理事 植松和昭様から長時間にわたって調査のご協力や貴重な資料提供を賜りました。また、広島県立総合技術研究所・畜産技術センター・総務部管理課長 神田則昭先生からは、広島県の集落営農法人や稲WCSの技術面・経営面について、懇切なご指導を賜りました。広島県農林水産局畜産課・県産牛振興担当の小川寛大様からは、広島県の集落営農法人の現状について、懇切なご指導を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。

【参考文献】

〔1〕高橋仁康・窪田潤他(2015年3月)「Whole Crop Silage用稲の低コスト収穫・調製体系に関する研究」『農業食料工学会誌』第77巻第2号、pp.105-112 農業食料工学会

〔2〕城田圭子(2015年6月)「酪農経営における「たちすずか」WCSの給与実証と自給飼料型TMRセンターでの活用展開」『畜産技術』第721号、pp.33-36 公益社団法人畜産技術協会


元のページに戻る