調査・報告 畜産の情報 2016年6月号


地域の未利用資源の飼料化への取り組み
〜JA鹿児島きもつきにおけるかんしょでん粉粕を利用したTMR製造の現状と課題〜

鹿児島事務所 山領 弥奈



【要約】

 鹿児島県の鹿児島きもつき農業協同組合では、かんしょでん粉の製造過程で発生するでん粉粕 や、地域内で生産される粗飼料を主原料としてTMRを製造し、地域の肉用牛繁殖農家に供給している。地域の未利用資源を活用したエコフィードの実例として、飼料化までの経緯と現状を紹介する。

1 はじめに

わが国の平成26年度における飼料自給率は概算で27%と、前年度に比べてわずかに上昇したものの、依然、低い水準である。中でも、国産原料を用いた濃厚飼料の自給率は14%にとどまっており、飼料自給率の向上に向けて、飼料用の国産原料の確保が課題となっている(図1)。

そのような状況下において、しょうゆ粕や焼酎粕といった食品製造副産物、売れ残り弁当や廃食油といった余剰食品および調理残さ、規格外農産物といった農場残さは、輸入される濃厚飼料の代替として飼料に利用することで、飼料自給率の向上につながると期待されている。

これらの食品製造副産物などを利用して製造された家畜飼料は、エコフィードと呼ばれ、飼料自給率の向上のほか、食品リサイクルの点でも意義を持ち、飼料を利用する畜産業側においては、飼料費の削減や品質・生産性の向上、食品残さなどを排出する食品産業側においては廃棄物処理費の削減というメリットがある。

本稿では、かんしょでん粉粕を用いた繁殖雌牛用のTMRを製造している、鹿児島きもつき農業協同組合(以下「JA鹿児島きもつき」という)のJA鹿児島きもつきTMRセンター(以下「きもつきTMRセンター」という)と、そのTMRを給餌して繁殖雌牛を飼養している株式会社きもつき大地ファーム(以下「きもつき大地ファーム」という)を取り上げ、かんしょでん粉粕の飼料化の状況を紹介する。

2 エコフィードとしてのかんしょでん粉粕

鹿児島県は全国1位のかんしょの生産地であり、平成27年産の生産量は青果用、焼酎用、でん粉原料用を合わせて29万5100トンであった。

27年産は6〜7月の降水量が平年の約2倍、日照時間が平年の約2分の1となるなどの天候不順により、収量が例年に比べ約15%減少したものの、それまでの5年間の生産量は概ね35万トン前後で推移している(表1)。

鹿児島県におけるかんしょ生産量の約40%はでん粉原料用であり、宮崎県で生産されるでん粉原料用のかんしょと合わせて、県内16の工場で、でん粉に加工されている。

かんしょでん粉の製造工程では、かんしょを洗浄して、さい機によって細かく砕いた後、分離器ででん粉粒を含む「でん粉乳」を抽出し、残りはでん粉粕として取り除かれる(図2)。

かんしょでん粉粕の主な利用用途は、家畜飼料やクエン酸原料、農地還元などがあるが、鹿児島県が24年1月に策定した「鹿児島県バイオマス活用推進計画」において、対象バイオマスの1つとして挙げられ、活用方針や目標が設定されている。

同計画では、クエン酸原料は輸入クエン酸などとの競合、肥料用としての生でん粉粕の農地還元は窒素飢餓や水分過多による収量低下などの課題を挙げている。一方、畜産飼料としては、たんぱく質やミネラルなどの不足、生でん粉粕の貯蔵性の悪さはあるものの、サイレージ化などによる飼料利用が可能であり、飼料原料としてのでん粉粕の利用拡大が期待されるとしている。

27年度の県内のかんしょでん粉粕の発生量は約2万トンである。

利用用途としては、約1万トン(全体の50%)が畜産飼料に向けられた(表2、図3)。

なお、かんしょでん粉粕の発生時期はでん粉工場稼動時期である9月から12月に限られ、また、他のエコフィードの原料となる食品残さなどと同様、水分が多く腐りやすいため、そのままでは給餌できる期間が限られてしまう。

でん粉粕を長期間利用できるようにするためには、サイレージ化などの加工が必要である。

3 きもつきTMRセンターの概要

(1)設立の経緯

鹿児島県は肉用牛飼養戸数(注1)および肉用種の飼養頭数が全国1位の主産地であるが、全国的な傾向と同様に、県内の肉用牛飼養戸数および肉用種の飼養頭数は減少傾向にある(図4)。

(注1) 肉用牛飼養戸数と肉用種飼養頭数の表記について  
 農林水産省「畜産統計」の表記に基づき、飼養戸数は「肉用牛」を使い、飼養頭数は「肉用種(乳用種以外の肉用牛をいう)」を使っている。

県内有数の畜産地域の1つであるきもつき地域も例外ではなく、平成10年に約4000戸あったJA鹿児島きもつき管内の肉用牛飼養戸数は、26年には約1600戸まで減少した。さらには、将来的にも高齢化などの影響により生産基盤の縮少が懸念されている。

そのため、地域の生産者の飼料調達にかかる労力を軽減し、かつ肉用牛の生産基盤拡大などを図るため、JA鹿児島きもつきと鹿児島県経済農業協同組合連合会(以下「鹿児島県経済連」という)が一体となり、地域における大規模肉用牛繁殖経営の分業化体制の構築が進められ、その一環として、23年にきもつきTMRセンターが鹿屋市に設立され、24年に稼動を開始した。

それにより、粗飼料の生産を地域のコントラクター組織が、繁殖雌牛用の飼料の調製をきもつきTMRセンターが、繁殖雌牛の飼養管理をきもつき大地ファームが、子牛の哺育育成を鹿児島県経済連の肉用牛哺育・育成センターが、それぞれ担うこととなった(図5、図6)。



(2)TMRの原料の調達

きもつきTMRセンターで製造されるTMRの原料はかんしょでん粉粕と粗飼料、たんぱく質を補うための配合飼料である。

きもつきTMRセンターの特徴はかんしょでん粉粕を主原料とする前提で設立したことにある。

JA鹿児島きもつきでは、同農協および近隣3農協の5つのでん粉工場を新西南でん粉工場に集約し、平成21年に操業を開始した。同でん粉工場は年間約1万8000トンのでん粉原料用かんしょを処理する県内有数のでん粉工場であり、毎年3000トンを超えるかんしょでん粉粕が発生している。しかしながら、従来、その用途はクエン酸用に限られ、地域内でより有効に活用できる方法が模索されてきた。きもつきTMRセンターが管内に設立されたことで、現在では同でん粉工場で発生するかんしょでん粉粕のほぼ全量(約3000トン)がTMRの原料としてきもつきTMRセンターに搬入、利用されている。

なお、きもつきTMRセンターでは、かんしょでん粉粕が発生する9月から12月に、1日当たり10トントラックで8回程度、片道30分かけて、かんしょでん粉粕を搬入している。搬入されたでん粉粕はバンカーにて発酵させ、貯蔵することで、かんしょでん粉粕の通年での利用を可能としている。また、腐敗などを防止するため、かんしょでん粉粕は同でん粉工場で水分が75~80%程度になるまで脱水したものを搬入している。

一方、粗飼料については地域の生産組合など4者からなるコントラクター組織が生産しており、イタリアンライグラス、エンバク、スーダングラス、WCS、稲わらを年間約3500トン供給している。きもつきTMRセンターでは、品質を保つため、粗飼料の出荷にあたっては水分が20〜30%程度になるまで乾燥させてからラッピングするよう、このコントラクター組織に依頼している。搬入された粗飼料は、ラップに飼料名と入荷日を記載の上、敷地内に保管し、入荷日の古いものから順に使用している。

(3)TMRの製造

TMRは粗飼料63.75%、かんしょでん粉粕28.57%、配合飼料7.68%という配合割合に基づき製造されている。各原料をカッティングフードミキサーに投入、かくはんした後、圧縮梱包機にてフレキシブルコンテナバック(注2)に570~650キログラムを梱包し圧縮する。梱包されたTMRはきもつきTMRセンターの敷地内で1カ月間発酵させてから、肉用牛繁殖農家へ出荷される(図7)。十分に脱気および梱包してから発酵させるのが、品質保持のけつだという。

注2) フレキシブルコンテナバックとは、繊布、樹脂フィルムまたは紙のような柔軟な材料で作られた胴部と、つり上げるためのつり部及び注入、排出ができる間口部などを備えた中形容器。

かんしょでん粉は全国で鹿児島県のみで製造されていることから、かんしょでん粉粕も鹿児島県特有の未利用資源である。そのため、かんしょでん粉粕の利用に関する研究の大部分は鹿児島県で行われてきたが、かんしょでん粉粕の繁殖雌牛向けの飼料化に関する研究は限られており、上述の配合割合が決まるまでは試行錯誤が繰り返された。

現在も、攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業を利用して、県畜産試験場でTMRの成分分析を、きもつき大地ファームでは繁殖雌牛の脂肪の蓄積状態を示すボディコンディションの計測を行い、配合割合についての検証を続けているところだ(表3)。



(4)TMRの出荷

平成27年度のTMRの製造量は6400トンとなり、稼動当初の24年度の4607トンと比較して、約39%増加した。供給先は当初はきもつき大地ファームのみであったが、25年度からは管内の新規参入農家に、26年度からはJA鹿児島きもつきが運営するじめ繁殖センターにも供給が始まり、27年度には製造量の20%がきもつき大地ファーム以外への出荷となっている。

TMRの販売価格は製造コスト相当の1キログラム当たり30円程度である。

出荷に当たっては、供給先農家がきもつきTMRセンターへ取りに来る場合と、きもつきTMRセンターが配送する場合とがあり、配送する場合は、別途配送費を徴収している。

なお、TMR自体は梱包、圧縮された状態なら半年以上保存可能だが、フレキシブルコンテナバックの中のビニールが劣化して空気が入ることがあるため、農場に搬入されてから1〜2カ月程度で使用してもらっている。

4 きもつき大地ファームでのTMRの活用

きもつき大地ファームは、先述の肉用牛繁殖経営分業化体制の一環として、JA鹿児島きもつきが90%出資して、平成21年に設立された。同体制の繁殖部門を担い、種付け、分娩などの繁殖雌牛の飼養管理と約7日齢までの子牛の哺育を行っている。その後は、鹿児島県経済連の肉用牛哺育・育成センターに委託している。

現在、鹿屋農場と南大隅農場の2カ所で、それぞれ繁殖雌牛を500頭ずつ飼養し、2農場合計で年間980頭の子牛を生産している。

2農場ともに繁殖雌牛用の飼料は全てTMRであり、2農場合計で、きもつきTMRセンターのTMR製造量の80%に当たる約5100トンを使用している。

うち鹿屋農場では、繁殖牛舎が3棟、分娩舎1棟の計4棟において、ステージごとに牛房を固定しており、牛を移動させる形式で管理している。発情や分娩の管理には発情発見装置および分娩監視通報システムを用いるなど、ICTの活用も進めている。

また、きもつきTMRセンターから約2キロメートルの近隣に位置しており、毎日定期的にTMRが搬入されている。

給餌に当たっては、前日に翌日分のTMRのフレキシブルコンテナバックを開封し、給餌当日にバンカーでほぐしてから、給餌機にて給餌するという流れで作業が行われる。1日に1回、1頭当たり14キログラムの目安で、500頭分の給餌が完了するまでには3時間程度を要する。

子牛の哺育育成を鹿児島県経済連の哺育・育成センターに委託していることに加えて、TMRを使用することで、給餌や飼料調製に係る時間が節約され、500頭の繁殖雌牛に対して従業員4〜5人という少人数管理体制が実現した。また、繁殖雌牛のTMRに対する嗜好性に問題はなく、子牛の増体も良い。



5 今後の課題

このようにJA鹿児島きもつきでは、原料の集荷からTMRの製造、肉用牛繁殖農家における給餌まで、きもつきTMRセンターを核とした生産・供給体制を確立させることができた。また、TMRの製造量としては、設立時の繁殖雌牛1500頭分という計画をおおむね達成できている。一方で、新規参入農家に対する供給量が伸び悩んでいるという課題も出てきている。

当初、きもつきTMRセンターは、製造したTMRを、きもつき大地ファームに75%、新規参入農家に25%供給する計画で設立された。しかしながら、現在供給している新規参入農家はわずかで、余剰分は根占繁殖センターに供給している。

新規参入農家への供給が進まない背景としては、まず、粗飼料の自給体制が既に整っている者が多いことが挙げられる。新規参入農家といえ、親の代から経営を引き継いだ者も多く、飼料畑を持っている場合が少なくない。TMRを購入すると、自給粗飼料を使用する機会がなくなってしまうため、TMRを購入するという選択をなかなか受け入れてもらえない。

次に、TMR供給を受ける手間がかかることに対して、生産者が不便性を感じてしまっていることが挙げられる。飼料を取りに行く労力や配送してもらう運賃がネックとなり、特に遠方の生産者ほど、供給を依頼しにくくなっている。

このことから、JA鹿児島きもつきでは、TMR利用による給餌作業や栄養計算などでの省力化というメリットを、新規参入農家へしっかりとPRしていく予定だ。また、TMR価格が製造コスト相当となっていることから、きもつきTMRセンター内での作業の一層の効率化を進める意向である。さらには、飼料の配送に運賃がかかることで生じている利便性の格差の解消も検討課題としている。

6 おわりに

新たな「食料・農業・農村基本計画」では、平成37年度の飼料自給率の目標が40%に設定され、粗飼料の目標自給率は100%、濃厚飼料の自給率は20%とされた。エコフィードは飼料自給率の向上へ寄与するものと期待されるが、特に、国産の原料に由来するエコフィードの拡大が望まれている。そのような現状の中、きもつきTMRセンターにおけるTMRは、国産の原料由来のかんしょでん粉粕を使用していることに加え、粗飼料も全て地域のコントラクターが生産していることから、地域特有の資源を活用した飼料生産体制を設計する上での指標となり得ると感じられた。

最後に、今回の取材にご協力いただきました、鹿児島きもつき農業協同組合、JA鹿児島きもつきTMRセンター、株式会社きもつき大地ファームの皆さまに改めて御礼申し上げます。


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