話 題 畜産の情報 2016年6月号

畜産現場における女性の活躍

一般社団法人農山漁村女性・生活活動支援協会 諸藤 享子


畜産物の加工製造・販売分野で活躍する女性たち

畜産物生産を取り巻く国内外の情勢が厳しさを増す中、生産者には、消費者ニーズの変化に対応した新たな市場を確立するために、多様な取り組みによる経営体質の強化が求められています。

この課題に対して、畜産経営における女性は、畜産物を加工製造して商品にしたものを直売したり、カフェや農家レストランを経営して、直接、消費者に届ける事業を展開しています。

具体的には、牛乳をアイスクリームやヨーグルト、チーズに、牛肉や豚肉をハムやソーセージに、鶏卵をプリンやケーキなどのお菓子に、そして、そうした商品を自前のカフェやレストランでメニューにして提供するといった具合です。そのモットーは、消費者に安全・安心を届けることです。

農産物の生産から加工製造販売へと事業展開することを「6次産業化」といいますが、畜産経営において女性による6次産業化の取り組みがより活発化してきたのは、直近10年余りのことのようです。生産調整や海外からの輸入畜産物との競合、表示偽装問題、BSEや口蹄疫などを背景に、自分の生産物を直接消費者に届けたいという思いを、女性が起業という形で結実させたものでした。

さて、そうした女性の活躍を多くの人に知ってもらい、女性がいきいきと活躍できるように、そして、女性の活躍によって畜産経営が発展することを目的に、当協会では、平成27年度から、日本中央競馬会の特別振興資金助成事業による「畜産現場における女性の活躍推進事業」に取り組んでいます。初年度は、全国で活躍されている畜産農家の女性を対象にした聞き取り調査や消費者アンケートを行いました。

また、女性の活躍を知っていただくために、新潟と福岡の2カ所で地域セミナーを開催して、女性から畜産現場のお話を伺うシンポジウムや畜産商品の試食会などを実施しました。参加者からは、生産者のお話を聞きながら実際に商品を食べてみることで「畜産現場の女性の話が聞けて良かった」「(試食品を食べ比べて)違いがわかった」「おいしかった」「勉強になった」と、好評をいただき、理解や共有の輪が広がりました。

女性の力を畜産経営に生かす

では、どんな風に女性の力が畜産経営に生かされているのか、具体的に紹介しましょう。

まず、生産現場においては、繁殖や肥育の場面で女性が活躍しています。子牛や子豚の飼養は、健康管理に特に注意が必要とのことで、女性の観察力は変化に気付きやすく、おかげで順調な発達が期待できるそうです。出産・育児を経験する女性の特性だという、現場の声もあります。これを発展させた形が、酪農教育ファームや体験教育です。動物を扱う畜産業だからこそ伝えられる命の大切さを、女性が講師となって、子供達に教え伝えています。


次に、畜産物の加工製造においては、商品開発の場面で女性の経験と感性が生かされています。女性が家族のために手作りしてきたおやつや食卓にあがっていた料理が商品化につながる例も少なくありません。また、商品化の際には、他の原材料にもこだわりを持ち、地元農家と連携した原材料を使用するなど、目の行き届いた商品開発を行い、安全・安心を保証することで、消費者の信用を獲得しています。

さらに、販売においては、女性の消費者目線とコミュニケーション力が売上向上につながっています。小人数世帯に合わせた少量パックを考案したり、顧客の家族構成や消費のペースを考慮しながら商品構成や販売するタイミングを見計らって提案するなど、消費者側の立場に立った販売を行っています。

そして、経営管理面においては、女性が収支を把握し、経営の采配を振るう例も散見されます。特に、夫が飼養管理に集中するタイプが、これに当たります。働く人たちへの細かな配慮が求められる労務管理や店舗のディスプレイなどの店舗管理運営も女性の担当者がほとんどです。

このように畜産現場において、女性は実質的な共同経営者として欠かせない存在となっているといえるでしょう。

畜産現場において女性が活躍できる環境づくりを

は、畜産現場において女性が活躍するには、どんな環境が必要なのでしょう。

それは、家庭生活と農業経営の両面において、家族の理解や協力がとても重要だということです。畜産業に限らず、女性が就農するきっかけの多くは結婚によるものです。

日本の農業は家族経営が多数を占めており、生活スタイルは多世代同居や敷地内別居が一般的で、生活と家業が一体化しています。そうした環境に適応し、一人前の農業者となるには、家庭生活と農業経営の両面において、配偶者はもとより家族が協力を惜しまず、女性の成長をサポートすることです。

具体的には、女性のキャリアを生かして専門性や得意な分野を畜産経営に反映させ、女性が能力を発揮できるような投資と環境整備を行うことです。また、一方で、女性が地域内外の人的ネットワークを広げていけるように、家の外へと積極的に出て行く機会を確保してあげることです。

女性が家の内外に自分の“居場所(役割や地位、精神的なよりどころなって、裁量を発揮できる場)”を確立することが、本人の自信と成長へとつながり、活躍の場や機会を広げていくための足掛かりとなります。

さて、当協会事業による地域セミナーは、平成28年度も全国3カ所で開催を予定しています。この機会に、魅力あふれる女性と畜産商品に出会っていただき、女性の活躍を応援していただきたいと思います。

(注) 写真は、日本中央競馬会特別振興資金助成事業「平成27年度畜産現場における女性の活躍推進事業 畜産現場における女性の活躍推進に関する事業」報告書より。


(プロフィール)
一般社団法人農山漁村女性・生活活動支援協会

 当協会では、昭和32年成立以来、農山漁村女性支援センター機能を有する団体として、農山漁村女性のチャレンジを支援しつつ、農林漁業の振興・農山漁村の男女共同参画社会の形成に向けた事業を行っています。
 URL:http://www.weli.or.jp/weli/

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