調査・報告 学術調査 畜産の情報 2016年3月号


飼料作コントラクターによる
飼料供給サービスの質に関する研究

東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授        中嶋 康博
                          助教       村上 智明
                          特任研究員  佐藤 赳 



【要約】

 本報告では、北海道野付郡別海町を対象に、コントラクターの提供するサービスの質に着目して分析を行った。粗飼料の収穫日程と飼料成分の関係についての計量分析では、作業の遅れに従って栄養分含有量は落ちていく上に、粗飼料の消化性は悪化していくことを確認した。また、発酵品質については、収穫時期間で大きな差が無いことも確認した。また、2つのコントラクターの収穫作業について聞き取りとGISによる分析を行い、効率的な作業のために農家の作付品種の調整を行っている実態とそれによって機械の移動距離を小さくできていることによって短時間で作業を終えられるようにしていることを確認した。

 こうした状況で新規のコントラクター創設やコントラクター間の作業調整の必要性について報告する。

1 はじめに

 酪農経営(注1)における規模拡大と労働力の不足を背景として、1990年ごろから活動が見られるようになったコントラクター組織は、この20年間でかなりの広がりを見せている。

 コントラクターの普及は北海道が全国に先んじており、1995年には全道で29組織が1000戸程度から飼料収穫作業受託実面積で約1万5000ヘクタール程度の受託を行っていた(図1)。以降、堅調に組織数、受託実戸数ともに増加してきており、2008年には132組織が2902戸から受託するまで至っている。

 ただし、こうしたコントラクター組織の普及は近年停滞が見えつつある。2009年以降は、収穫を請け負った組織数は120組織台、受託実戸数は3000戸前後でほとんど変化していない。

 受託実面積の増加は組織当たりの受託面積の増加によって実現されており、近年も増加傾向にある(図2)。現在は、組織ごとの受託面積の拡大という形での受託面積の広がりによって全道における受託面積の拡大が生じるようになっているのである。コントラクター組織の広まりから20年が経過し、新組織の樹立という形でのコントラクターの普及は一段落しつつあるが、現在でも実面積自体は増加傾向にあり、需要はまだまだ増加傾向にあると言ってよい。

 ただし、コントラクターは酪農経営の多い地域の大半ではすでに活動を行っており(表1)、現在はコントラクターの無い場所に組織を立ち上げ、新たにサービスを供給するという状況ではなくなっている。

 一方で、北海道内のコントラクターの利用戸数は3000戸程度と全部で8000戸近くある酪農経営の4割程度にとどまっている。粗飼料の収穫作業の効率自体は大型の機械を使用するコントラクターの方が個別経営で収穫作業を行うよりも高いことは確かであるにもかかわらず、多くの経営では粗飼料の品質を含め、さまざまな事情により自身で粗飼料の収穫を行っているのである。

 そこで、本報告では、コントラクターの提供するサービスに着目して、それがどのような形で提供され、粗飼料の品質はどのような状況にあるのか、コントラクターの作業行程上改善の余地はあるのか、といった点を分析する。研究の対象は道内でも牧草地に恵まれ、規模拡大も進んでいる一方で、現在も多くの経営が自身で粗飼料の収穫作業を行っている北海道野付郡別海町とした。

(注1) 「酪農経営」と書かないと意味が通りにくい箇所は「酪農経営」としており、「経営」としているのは、酪農を営まない経営を含んだ意味として取られるようなことはないと判断した箇所である。

2 調査対象地域の現状

(1)別海町の概況

 別海町は根釧台地の中央部に位置し、土地の大半が牧草地として利用される道内でも屈指の酪農地帯である。

 降水量は太平洋側に位置するため夏場に多く、年間平均1130ミリメートルの多くは5月から10月の間に降り、冬場の降雪量は多くない。平均気温がプラスになるのは4月以降であり、この頃から雪が解け、牧草地での作業が可能となる。夏場は千島海流の影響で霧の発生が多く、昼間の時間帯が長いにもかかわらず、6月以降は日照時間が短くなりがちである(図4)。このことは、降雨後の粗飼料の収穫を困難にさせている。

 別海町は戦後続いた開拓事業によって日本有数の酪農地帯となっており、1980年時点でも1経営当たり平均乳用牛飼養頭数は61.9頭と道内で比較しても非常に規模が大きく、2010年時点では同飼養頭数は135.3頭と道内平均よりも20頭以上多い(表2)。

 別海町の酪農の中でも特筆すべきは恵まれた草地基盤である。1経営当たりの牧草専用地面積も近年では道内全体での規模拡大によって道内平均との差は縮まりつつあるが、それでも70ヘクタール超と道内平均よりも2割程度大きい。

(2)別海町の土地利用

 2005年時に別海町内の経営耕地面積は6万3451ヘクタール、牧草専用地は6万1301ヘクタール であった(農林水産省「2005年農林業センサス」)。それに対し、2010年では経営耕地面積は5万9521ヘクタール、牧草専用地は5万9521ヘクタールとされており(農林水産省「2010年世界農林業センサス」)、経営耕地・牧草専用地ともに1割程度の面積減少が見られる。このように農業用地の減少が市町村レベルで明らかになっている中で、その分布の変化や直近年の面積量、牧草地繁茂の実態を推計することが、本節の目的の1つである。

 ここでは、リモートセンシング解析(注2)を行い、対象地域の土地利用/土地被覆を明らかにする。

 本研究では、取得したLandsat8衛星画像を「教師なし分類」で複数のクラスターに分類した。ここでいう「教師なし分類」とは、事前に分類項目の分からないデータを使用して行う分類手法を指す。これに対し、あらかじめ土地利用/土地被覆が分かっているトレーニングデータ(教師データ)を用いる分類は教師つき分類と呼ばれる。本研究では、ISO-DATA法を用い、分類項目数は40として教師なし分類を行った。

 教師なし分類で分けた40項目それぞれについて元の衛星画像や同一地域の航空写真、Google Earthでのより詳細な画像、GPSで位置を記録した現地調査による土地利用/土地被覆確認データと照らし合わせ、土地利用/土地被覆を定めた。

 土地利用/土地被覆分類の精度を向上させるために、一度目の分類で正確に分類しきれなかったと考えられる湿地・市街地・雲などを抽出し、再度、教師なし分類で20項目に分類し、土地利用/土地被覆を定めた。これによって、画像判別上、似かよったグループ間で、より細かく正確な分類を行った。

 最終的に、別海町の代表的な土地利用として以下の通り、9つの土地利用/土地被覆に分類した(表3)。

 項目1は衛星画像自体のエラーやエリア外の範囲が混ざっていた部分で、これは分析の対象外である。

 項目2は、水域であり、海や河川、湖を指す。

 項目3は、図中水色で示されるのは主に湿地である。

 項目4は、建造物を判別しており、主に市街地を指す。

 項目5は林地である。それぞれの経営耕地・牧草地は、緑の林地で示される防風林によって仕切られている。

 項目6は、不耕作地・植生がほとんど無い草地・荒地である。これらは、草地と似た区画を持っており、整備された土地もあるが、植生はほぼ見られない。牧草地としては有効に活用できない事が予想される。

 項目7は、植生の多い牧草地である。図中黄色で示されており、緑の林地(防風林)に囲まれた牧草地が全体に広く分布していることが分かる。牧草地全体に占める面積割合は約42%と最も広い範囲を占める土地利用/土地被覆である。

 項目8は影であるが、今回の解析ではこの項目に分類されたものはなかった。

 項目9は雲である。雲の下にある土地利用/土地被覆は衛星画像解析では判別できず、不明である。

 表3の右側に示される面積・面積割合は、図5での土地利用/土地被覆分類結果のうち、北東部分の野付半島、および南部の陸上自衛隊矢臼別演習場の二つの地域を除外した土地利用/土地被覆面積である。

 ここで、項目7に分類された土地の面積は5万0678ヘクタールであった。これを牧草専用地面積と仮定すると、面積は2010年の5万4877ヘクタールから4年で4000ヘクタールほど減少している。2005年からの6万1301ヘクタールからは、1万ヘクタールほど減少している様子が分かり、1年でおおむね1000ヘクタールずつ、牧草専用地面積が漸減している実態が明らかになった。

(注2) リモートセンシングとは、人工衛星や飛行機などに搭載された検知器を用いて、地球上の海、森、都市、雲などから反射または放射される電磁波を測定・記録し、地表付近の情報を調べる技術のこと。

3 コントラクターによる飼料生産と飼料品質

(1)A農協管内におけるコントラクターの活動状況

 A農協管内のコントラクターの活動状況を表4にまとめた。A農協管内に立地しているコントラクターは現在22組織(2014年現在)であるが、全て民間企業(コントラクター専業・酪農経営・運送業)によるものである。A農協によれば管内の牧草地面積はおよそ5万ヘクタールであるが、そのうち2014年度にコントラクターへの委託が行われたのは20%程度の9788ヘクタールである。ただし、管内では多くの経営が夏季には牧草地で放牧を行っており、牧草専用地の全てがサイレージ製造に利用されている訳ではないので、実際のコントラクターの利用率はもう少し高い。経営数で見ると受託戸数は186戸で、およそ3割の経営がコントラクターを利用しているということになる。この数字は1章で取り上げた道全体と比較しても小さく、相対的には個人で刈り取りを行う傾向の強い地域であると言える。

 コントラクターの平均受託面積は466ヘクタールであり、道平均と比較すると約半分と小さい。ただし、ハーベスタ当たりの受託面積は381ヘクタールあり、これはハーベスタの能力をフルに発揮して一番草を適期に刈り取ることができる面積に近い。この点においては、規模の経済を享受するための面積は確保しており、道平均よりも受託面積が小さいことによって、機械の能力を発揮できない状況にあるという訳ではない。

 一方で、いくつかのコントラクターではハーベスタ当たりの飼料収穫面積が500ヘクタールを超えており、適期に作業を収穫させることが困難な状況となっている。特にハーベスタ当たりの収穫面積が最大の経営では、一番草収穫の受託面積693ヘクタールとなっており、機械の能力上適期に収穫を終了させることが困難な状況にある。また、コントラクターの受託作業が広範囲にわたっていることも、収穫を適期内に終了させることが困難な一因となっている。複数の地区にわたって作業受託を行っているコントラクターは全体のおよそ半分であり、コントラクターによっては別海町外にまで受託ほ場が広がっている経営もある。

 図6はA農協管内における聞き取りから牧草関連作業の農事暦を示したものであるが、管内で主に利用されているチモシーの一番草の収穫は6月20日頃から始まり、7月10日前後までが収穫適期となっている。

 別海町A地区のコントラクターについてしかデータが無いが、平均的な収穫速度であった2012年には7月10日以降も収穫を行っていたコントラクターは10組織あり、ほとんどの組織が適期内に刈り取りを終了させることが困難な状況にある。2012年は7月20日以降まで収穫を行っていた組織も3組織あり、かなり遅くまで収穫作業が終了していなかったことが分かる。

(2)コントラクターの飼料収穫時期と飼料成分

ア 刈り取り時期と成分の分布

 A農協管内におけるコントラクターの活動状況から、コントラクターにおける飼料収穫受託面積上は、適期に飼料を収穫するには限界に近い状況にある実態が明らかとなった。このような状況で、酪農経営が新たに粗飼料の収穫をコントラクターに委託しても適期内に収穫を行ってもらうことは困難であり、遅い時期の作業になることが想像される。このことは酪農経営に対する聞き取りにおいても懸念されていた事項であり、新規に作業を委託すると適期内に収穫ができず、飼料の質が低下する可能性が高いために、自身で収穫する方が良いという意見が得られた。遅い時期に収穫が行われることが想定される新規に委託する酪農経営では粗飼料の品質低下の懸念から、作業委託がなかなか行われなくなっていると考えられる。

 本節では、こうした飼料の収穫時期と飼料成分の関係について、A農協によるサイレージ成分データを基に分析を行う。A農協では管内コントラクターの収穫したサイレージのサンプル調査を行っており、ここで用いるデータは2011・2012年度におけるサンプル調査データである。サンプルは2011年度101件、2012年度67件の計168件分であり、そのうち刈り取り時期の記載されていない2012年度の2件分を除いた166件についての記述統計を粗飼料の収穫時期を3つに区分した上で、全データとそれぞれの年度について表5から表7に記した。

 表5を見ると、水分量や踏圧に関しては収穫期間で差が見られない。

 ただし、このことは、原料草水分の高い6月では予乾時間の確保や予乾方法を工夫したり、繊維含量が高まり踏みづらくなる7月以降では牧草の切断長を短くすることにより踏圧をかけやすくするといったことと関連している可能性が推測される。差が見られるもので、収穫時期が遅くなるほど悪化するのは粗たんぱく質、TDN、NDFである。粗たんぱく質、TDNの含有量は収穫時期が遅くなるにつれて減少し、NDFは時期が遅くなるにつれて増加する。このことは飼料の収穫時期が遅くなるほど栄養価は乏しく、繊維質の多い消化性の悪い粗飼料になっていくことが分かる。収穫時期が遅くなるにつれて草丈自体は育つので収穫量を多く取るためには収穫があまり早いと良くないのは確かであるが、収量さえ十分に確保できるのであれば、早い時期に収穫を行うことによって、より良質な粗飼料を入手できると言える。ただし、V-Scoreやアンモニア態窒素といった発酵面では早い時期の刈り取りはマイナスに影響している。早い時期の刈り取りでは収穫時の水分量が多くなりがちであり、ぎ酸などの添加剤によって発酵品質を保っているとのことである。ただし、こうした早い時期と遅い時期の刈り取りの間の発酵品質の差は当然年次ごとの降雨状況によって影響を受ける。相対的に降水量の多かった2012年では2011年には見られたような遅い時期における発酵品質の改善は見られなくなっている。

イ 計量経済分析

 本項では、重回帰分析を用いて、前項で見た収穫時期の変化と飼料の状態に関する分析結果がコントラクター間の違いや年次ごとの気候の違いを考慮しても有意なものであるのかを確認する。分析にはコントラクターごとの特性をコントロールした固定効果のモデルを用いた。また、先述の通り収穫時期が未記載のデータが結果にバイアスを与えないようにコントロールするために記載の有無を説明変数に加えている。

 分析の結果は表8である。まず飼料成分の主なものを取り上げると、粗たんぱく質、TDNにおいては収穫時期が遅い方が値が有意に減少し、NDFに関しては遅い時期の収穫ほど有意に高くなるというこれまでと同様の結果が得られた。ただし、TDNやNDFに関しては7月に入ってしまえばほとんど収穫時期による差が見られない。

 次に発酵状態について見る。アンモニア態窒素割合については、7月10日以降の積み込みについてのみ有意に少ない。一方で、V-Scoreにおいては収穫時期間で有意な差とはなっておらず、アンモニア態窒素以外も考慮すれば、収穫時期によって発酵状態が大きく左右されることはないと考えられる。これは、早い収穫時期での収穫時には添加剤が混ぜ込まれており、発酵品質の悪化を防ぐことができているためであろう。

4 コントラクター・TMRセンターによる飼料生産作業の工程

 前章の収穫時期と飼料成分の関係では、収穫時期が遅くなることによって栄養分含有量の点からは粗飼料が劣化して行くことが明らかとなっている。このことから、コントラクター組織において、より多くの面積を適期に刈り取ることが可能となれば生乳の産出に対しても正の影響をもつことが想定される。本章ではA農協管内でも効率的な収穫作業を行うことによって良質な粗飼料供給を行っているコントラクター2社をとりあげ、どのような経緯で作業工程を構築してきて、現在の作業はどのような状態にあるのか実態を明らかにする。

(1)事例分析 〜別海町A地区A社〜

 A社は表4では別海町A地区に分類されるコントラクターであり、2014年には7戸から358ヘクタールの一番草収穫を請け負っている。労働力は8人を雇用しており、そのうち社長と社長の父、弟の3人の家族労働力は周年雇用を行っており、残りの5人は季節雇用の労働力である。

 コントラクターに参入したきっかけは、酪農の大規模化の過程で既に粗飼料の収穫を専門で行う業者が欲しいというニーズが地域内にあったためである。参入時は現在のような大型の自走式ハーベスタを使用している訳ではなかったので、作業面積の上限は1日に7〜8ヘクタールで適期に収穫を終えることができるのは100ヘクタールくらいと現在と比較すればかなり小規模であった。飼料収穫に対するニーズはその時点でも100ヘクタール以上あり、初期時点から多くの顧客を確保して事業を開始している。事業開始時点での受託ほ場は会社の立地する図7の北西部地区のみであり、狭い範囲にほ場が集中していた。南東側へ受託先を広げたきっかけは、親戚からの要請であり、現在の収穫面積は200ヘクタール程度と会社のある地区での請負よりも多くの面積を請け負っている。

 A社の2014年度の一番草の収穫作業日程とほ場分布を表9、図7に示した。A社では主に南東側の地区から作業を開始し、北西側の地区で後に作業を行っているがこれはなるべく機械の移動にかける時間を減らし、特定の地区で集中的に作業を行うためである。ただし、そのことによって牧草の適期収穫を逃さないために、A社では北西側地区では晩生品種を、南東側地区では早生品種を栽培してもらうように依頼している。2014年度は天候に恵まれたため7月4日に作業は終了しているが、雨の多い年はより遅くまで収穫作業がかかることになり、その分飼料成分は劣化することになる。

 A社の作業の進捗状況とそれに合わせた機械の道路上の移動距離をQGIS(注4)を用いて計測した。通常は収穫作業期間中は機械を会社に戻さずにほ場間を移動するか、少なくとも連続した作業の間は機械を会社に戻さないで作業することが想定されるが、雨天などの場合を考慮して、毎日、作業後に会社に機械を移動させる場合の移動距離も計測した。

 計測の結果では、移動距離は一切会社に戻らない場合でも120キロメートル程度あり、作業期間ごとに会社に戻る場合では160キロメートル程度、毎日、会社と往復すると想定する場合には340キロメートルほどとなった。時速30キロメートル程度の移動と考えれば、作業期間全体で4時間〜11時間程度を移動に費やしていることになる。A社の場合は作業地区が2地区に集中しており、作業順番に関してもある程度地区ごとに固めることができているため移動距離を比較的短時間で済ませることができていると言えよう。

(注4) QGIS(Quantum GIS)は、地理情報システムの閲覧、編集、分析機能を有するクロスプラットフォームのオープンソースソフトウェアである。

(2)事例分析 〜別海町B地区B社〜

 B社は表4では別海町B地区に分類されるコントラクターであり、2014年には11戸と1TMRセンターから856ヘクタールの一番草収穫を請け負っており、うち約半分はTMRセンターからの委託である。事業開始は2004年であり、設立の経緯はそれまで3戸共同で利用していたけん引式ハーベスタから飼料品質の向上とそれに伴う購入飼料費の削減を目標として自走式ハーベスタに変更するに当たって、作業能力の余力で周辺の農家の収穫作業を請け負う形で開始したものである。B社では、現在の受託ほ場で適期に収穫できる限界であると考えており、新規の申し込みもあったが断っているとのことである。

 B社の2014年度の一番草の収穫作業日程とほ場分布を表10、図8に示した。

 図8はB社の一番草収穫作業のうち、TMRセンターから受託した収穫分のほ場の分布図である。収穫は南西側から開始した後北側へ移り、最後には南東側へ向かうという時計回りで作業をするような形となっており、機械の移動距離を抑えるような行程になっている。

 B社についても、TMRセンター分の作業について、作業行程に従う作業面積と機械の移動距離の計測をQGISを用いて行った。B社の場合はTMRセンターからの作業受託に関してはまとめてサイロに積み込めるので、移動距離が小さくて済むような行程で作業を行えている。そのため、作業場所順に会社に戻らずに機械を動かしていくことを想定した場合の総移動距離はA社と比較しても3分の2程度で済むようになっている。また、1日当たりの収穫面積も、コンスタントに一日平均30ヘクタール程度の面積を収穫期間の最初から最後まで通して維持することができている。この点は、作業の初期は1日当たり30ヘクタールのペースで作業を行えていたが、後半に少しずつ作業ペースの落ちていたA社とは異なっている。個人で行程を工夫することでコントラクターの作業効率はかなりの程度で向上させることはできるものの、TMRセンターのような形で1カ所にまとまった土地を行程が合理的になるような形で作業する場合と比較すると、十分に早い作業速度を保つことは難しい。ただし、多くのコントラクターでは、酪農経営間の収穫作業順をなかなかコントロールできておらず、7月下旬以降も収穫作業を続けている業者が多いのも事実である。

5 おわりに

 本報告では、北海道野付郡別海町を対象に、コントラクターの提供するサービスの質に着目して分析を行ってきた。第2章では農業センサスとリモートセンシングによる土地被覆の分析から、別海町酪農の現状の確認と近年牧草地が減少しつつある現状を確認した。第3章ではまず、現状のコントラクターは適期に収穫可能な面積の限界に近い作業を行っており、多くのコントラクターは、好天が続かない限りは7月半ば以降も一番草の収穫作業を続けていることを確認した。その後、こうした作業のずれ込みによって飼料成分と発酵品質にどのような影響が出るのかを固定効果を用いた重回帰から分析した。ここでは、作業の遅れに従って栄養分含有量は落ちていく上に、粗飼料の消化性は悪化していくことが確認できた。また、発酵品質については、収穫時期で大きな差は生じさせていないことも明らかとなった。また、コントラクター固定効果の分析から、粗飼料の発酵品質についてはコントラクター間で有意なばらつきは生じていない点も明らかになっている。最後に第4章では2つのコントラクターを取り上げ、どのような行程で作業を行っているのかQGISを用いて分析した。A社では地区ごとに作業ができるように地域ごとに牧草の早生晩生を調製するように依頼しており、その結果大きく2地区に分かれるほ場間の移動を2往復程度で済むようにしていた。ただし、それでもTMRセンターの作業受託を行っているB社と比較すると移動距離も大きく、日によっては作業面積が落ちる日程もあり、理想としてはTMRセンターのような形でまとまった土地でコントラクターが収穫しやすい順に作業を行うことが適期に刈り取りを行う上ではもっとも効率が良いものと考えられる。

 現状では別海町においては作業委託へのニーズはあっても多くのコントラクターは追加的な受託が困難な状況にあると言える。また、受託面積を増やすためや目に見えやすい粗飼料の品質に影響を与える要素である収穫日の早期化を優先して、サイレージの調製作業がおろそかになってしまっては受託のメリットを失わせてしまう。一方で、現在新規のコントラクター創設はなかなか起きる状況にはない。コントラクターの新規参入が困難な背景には、初期にA社、B社のような形である程度確実な需要を効率的な作業が行える範囲で確保しないと大型機械を使用する投資を行うことが困難なためであろうが、そうしたコントラクター需要の空間的な分布を把握することは現在も十分になされていない。また、現在ではコントラクター間で作業効率の改善を行えるような受託酪農経営の移動や作業の融通なども行えておらず、こうした点の改善も粗飼料の適期収穫には必要な点であろう。


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