特集:世界の牛肉需給と肉牛・牛肉産業の状況 畜産の情報 2016年11月号
総括理事 小林 博行
最近の世界の牛肉を取り巻く状況を振り返ると、米国では、2011年から2012年にかけて大きな干ばつが発生し、肉用牛がと畜に回されて肉用牛頭数が減少し、牛肉生産量が減少したことから、牛肉価格は上昇して高値となっていた。一方、豪州では、近年、輸出需要の増加から肉用牛頭数が増加傾向にあった中で、2012年から2015年にかけて干ばつが発生し、やはりと畜に回される肉用牛が増加していった。2015年前半まで豪州の牛肉生産量は拡大し、牛肉価格は下落して安価となる中、大量の牛肉が米国へ輸出されるという状況となった。これは日本から見ると、米国産牛肉が高値で調達しにくいという一方で、豪州産牛肉は比較的安価に調達できる環境であった。
それが2016年になると、米国では、肉用牛頭数の回復に伴い牛肉生産量も増加し供給量が豊富になるにつれ牛肉価格は低下した。一方、豪州では、2015年後半から、肉用牛の生産基盤を再構築するため繁殖雌牛の保留が進められたことから、と畜頭数が減少し牛肉生産量も減少しており、供給量の減少から牛肉価格が上昇している。このような状況から、日本市場においては、豪州産牛肉は、2015年からはじまった日豪EPAによる段階的な関税削減というアドヴァンテージをもってしても、米国産牛肉に対する優位性が失われてきており、競争力の面で米国産牛肉と豪州産牛肉の立場が全く逆になるという現象がわずかな期間で生じている。
他方、牛肉の需要側から見ると、中国の近年の輸入量の増加ぶりは目覚ましく、新たに大輸出国であるブラジルからの輸入が解禁されると、数カ月のうちにその輸入量は膨大となり、豪州やウルグアイなどの既存の輸入量を凌ぐようになった。これまでの中国向けの勢力図が大きく変わってくる中で、中国はようやく、かつての最大の輸入先国であった米国との間で輸入再開に向けた協議を進めてきている。
このように世界の牛肉需給は、刻々とその情勢を変えており、これに伴い、わが国の牛肉調達をめぐる環境にもさまざまな変化がもたらされることは避けられない。また、官民を挙げた取り組みによりわが国の牛肉輸出も着実に拡大しつつあり、和牛肉など差別化された牛肉が中心ではあるが、今後輸出拡大に当たり、こうした世界の牛肉情勢をよく理解し、戦略を立てていくことが必要となってくるであろう。
今号では、世界の主要国の動向と今後の見通しについて報告をまとめて掲載するものであり、牛肉をめぐる世界の動きを理解する一助となれば幸いである。