特集:世界の牛肉需給と肉牛・牛肉産業の状況  畜産の情報 2016年11月号


EUの牛肉需給と肉牛・牛肉産業の状況

調査情報部 国際調査グループ


【要約】

 EUは、世界第3位の牛肉生産量を誇る。28の加盟国では、多様な気候や文化・歴史により、牛肉の生産や消費形態に大きな違いはあるものの、生産については、酪農部門の強い影響を受けていることが共通の特徴と言える。EUの牛肉産業としては、価格が低迷する現在、需給を引き締めようとしても、酪農部門からの供給があり、牛肉部門だけでの需給調整が難しい。

1 はじめに

EUは、米国、ブラジルに次ぐ世界第3位の牛肉生産を誇り、5億人という巨大なマーケットを抱える地域である。EUの牛肉需給は域内で均衡しており、自給率はほぼ100%と言えるが、生産量と消費量の5%前後となる40万トン程度の輸出入がある。

EUは、世界最大の酪農生産地域であることから、牛肉生産も酪農部門の影響を強く受け、牛肉生産の3分の2が酪農部門から供給(廃用牛、乳用種雄牛、未経産牛)される構造となっている。

現在、EUは28の加盟国から成り、牛肉の生産や消費形態は地域ごとに大きく異なる。牛肉の生産・消費は旧西欧諸国が中心であり、繁殖雌牛の9割以上が旧西欧諸国で飼養されている。肉用牛経営には、繁殖専門、肥育専門、繁殖肥育一貫、さらには酪農生産者が乳用種雄牛を肥育する経営など多様な生産形態が存在している。

ここでは、EU全体の牛肉産業の概要に加え、EUの牛肉生産量の約半数を生産する上位3カ国のフランス、ドイツ、英国の状況を紹介することとしたい。

2 EUの牛肉需給

(1)牛肉生産の構造

ア 牛飼養頭数の動向

EUの牛飼養頭数(乳用牛を含む)は、2000年には9400万頭を超えていたが、その後はキャトルサイクルによる増減を繰り返しながら、長期的には減少基調にあり、2015年には15年で5.2%減少し8915万頭(前年比8.4%増)(概算)となっている(図1)。

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牛飼養頭数が長期的に減少基調にあるのは、酪農部門の影響によるものと考えられる。酪農部門では、生乳の生産抑制を目的とした生乳クオータ制度が1984年に開始され、乳用牛の改良、飼料給与の改善などにより1頭当たり乳量が年々増加する中で、乳用牛の頭数は減少してきた。その結果、牛飼養頭数は、2000〜2006年まで年平均0.9%で減少し、乳用種雄牛など牛肉生産に仕向けられる牛資源も減少することとなった。

2007年から2008年にかけて乳用牛の頭数が一時的に増えたが、2009年に世界的な景気低迷による需要減退もあって生産者乳価が暴落(欧州酪農危機)したことから、2011年にかけて牛飼養頭数は減少した。

その後、2015年3月末の生乳クオータ制度廃止に向けて後継牛確保の機運の高まりなどから、2012年以降、再び増加している。

イ 牛飼養戸数の動向

EU農業センサスによると、2013年の牛飼養戸数(酪農経営を含む)は、230万戸となっており、2005年と比較すると40%減少している。これは、従来からの小規模経営の経営中止に伴う減少傾向に加えて、従来、生産者補助金は生産に応じて支払われていたが(カップル支払い)、EUの共通農業政策(CAP)の2003年改革により、支払いを生産と切り離して(デカップリング)支払われるようになった(デカップル支払い)ことで、小規模経営を中心にさらに離農が進んだことによるものと考えられている。

この間に100頭以上の飼養戸数は3.3%増加しているのに対し、100頭未満のすべての階層では減少している。しかしながら、依然として100頭以上層は全体の11%にすぎず、10頭未満の飼養戸数が56.3%と半数以上を占め、1戸当たりの平均飼養頭数は38.4頭となっている(図2)。

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ウ と畜される牛の構成

と畜される牛の性別や経産・未経産などの種類を見るとEUの牛肉生産の特徴が表れている(図3)。

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2015年に生産された牛肉(759万トン)の内訳を見ると、最も多いのは成牛雄(雄牛(非去勢牛)+去勢牛)で41.8%を占める。このうち、雄牛(非去勢牛)が8割を占め、去勢牛は2割にすぎない。EUでは、去勢しない方が増体が良いという考えから、舎飼い肥育において去勢しない場合が多い。

次いで、経産牛が30.2%を占める。肉用繁殖雌牛と乳用牛の廃用牛が含まれるが、EUの経産牛飼養頭数の7割が乳用経産牛であることや供用年数を考慮すると、経産牛の多くが酪農部門から供給された乳用牛の廃用牛と考えられる。また、未経産牛は14.8%となっている。

一方、牛肉の8.1%が子牛(8カ月齢未満)であり、若齢牛(8〜12カ月齢)は4.9%となる。子牛と若齢牛を合わせると、12カ月齢未満の牛肉は13%を占める。

エ 肉用牛の肥育形態

EU加盟28カ国においては、多様な気候、地理、歴史の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や牛の種類(子牛、経産牛、未経産牛、去勢牛、非去勢牛)、経営形態(繁殖、一貫、肥育)、飼料などは、国や地域によって異なるが、ここでは、EUにおける肥育部門について、よく見られる舎飼い型と放牧型の2つのパターンの飼養形態を紹介する。

(ア)舎飼い型

肉牛の肥育を舎飼いで行う形態は、夏季の日射しが強い欧州南部や穀物生産に適した欧州中央部で多く見られる。

穀物肥育は、放牧肥育より増体が良いことから、肥育期間は短い。この肥育期間の短い穀物肥育牛の肉は、肉色が明るく味が淡泊になる傾向がある。

(1) コーンサイレージ+配合飼料給与

トウモロコシが収穫できる欧州大陸の各国(フランスやドイツなど)で採用されている。

乳用種の場合、3カ月齢からコーンサイレージと配合飼料を給与して舎飼いされ、増体は1日当たり1.15キログラムで生体重550キログラム(18カ月齢)まで肥育される。

肉用種の場合、7カ月齢からコーンサイレージと配合飼料を給与して舎飼いされ、増体は1日当たり1.4キログラムで生体重660キログラム(18カ月齢)まで肥育される。

(2) 牧草サイレージ+配合飼料給与

トウモロコシが収穫できない欧州北部の地域で見られる。

乳用種の場合、3カ月齢から牧草サイレージと配合飼料で舎飼いされ、増体は1日当たり0.95キログラムで生体重505キログラム(18カ月齢)まで肥育される。

肉用種の場合、3カ月齢から牧草サイレージと配合飼料で舎飼いされ、増体は1日当たり1.25キログラムで生体重600キログラム(18カ月齢)まで肥育される。

(3) 雄牛(非去勢牛)穀物肥育

トウモロコシや大麦などの穀物が収穫できる地域で採用され、同時に5〜10%程度の粗飼料が与えられる。

乳用種の場合、3カ月齢から舎飼いされ、増体は1日当たり1.25キログラムで生体重450キログラム(18カ月齢)まで肥育される。

肉用種の場合、7カ月齢からコーンサイレージを給与して舎飼いされ、増体は1日当たり1.55キログラムで生体重640キログラム(18カ月齢)まで肥育される。

なお、スペイン、ポルトガル、イタリアなど、乳用種雄牛(非去勢牛)を3カ月齢から枝肉重量250キログラム(12カ月齢)まで肥育する地域もある。

(イ)放牧型(冬季舎飼いを含む)

放牧型は、穀物を給与するより牧草地に放牧した方が経済的である大陸北部や、アイルランド、英国、スカンジナビア諸国など欧州北部の他、山間部でも見られる形態である。

放牧では、舎飼いの穀物肥育より1日当たりの増体が小さくなるが、肥育期間を長くとり目標出荷体重を大きくする傾向がある。その結果、肉の味は濃くなると言われる。

一般的に肉専用種が放牧されており、各々の地域に適した品種が飼養され、地域により異なる。

典型的な放牧型としては、以下の2つがある。

(1) 2年間放牧

春から夏に210日程度放牧され、冬季の150日間は舎飼いで牧草サイレージや配合飼料が給与される。春子牛の場合、2回目の放牧後の冬季の舎飼いで、配合飼料主体により仕上げられ、通常24カ月齢で出荷される。出荷体重は、牧草の質により異なるが、概ね575キログラムである。

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(2) 2.5年間放牧

2年間放牧と異なり、配合飼料を給与せず、3回目の夏季放牧時に仕上げられる。通常30カ月齢程度で出荷され、出荷体重は牧草の質により異なるが、概ね640キログラムである。

オ 牛肉生産量の動向

EUの牛肉生産量は、2000年には860万トンを超えていたが、その後はキャトルサイクルを繰り返しながらも酪農部門の飼養動向を反映して減少基調で推移し、2016年は810万トンと見込まれている(図4)。

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詳述すると、2000〜2011年は、酪農部門の乳用牛頭数の減少により、肉牛部門に供給される乳用種雄牛などの頭数が減ったことから、牛肉生産量は年平均0.4%減のペースで減少した。

さらに、2012年、2013年には2年続けて大きく減少(年平均4.3%減)したが、これも酪農部門による影響である。2009年に欧州酪農危機と呼ばれる生産者乳価の暴落があり、乳用牛の飼養頭数は減少したが、その後、生産者乳価が底を打ち2011年も上昇が続くと、酪農生産者が後継牛として乳用雌子牛を確保するようになったことに加え、2012年と2013年の廃用牛頭数も減少したことから、牛肉生産量は大きく減少することとなった。

その後は、酪農部門で乳用牛飼養頭数が増えるに連れ、肉牛部門に仕向けられる子牛が増えたことから、牛肉生産は2013年以降年平均2.6%で増加している。

(2)牛肉流通

ア 生体牛の流通

繁殖牛や肥育もと牛などの生体牛は、家畜市場で取引されることが多い。家畜市場では、生体重、月齢、品種の情報が提供され、入札方式で取引が行われる。一般的に、繁殖牛や肥育もと牛は、1頭当たりの価格で取引され、肥育牛は、キログラム当たりの単価で取引される。

EUでは、家畜市場で肥育牛を販売する場合、一般的には、最低価格が設定され、落札価格の2〜4%の手数料が発生する。家畜市場によっては、登録料などが加算される場合もある。

その他、生産者が、と畜・食肉処理業者に直接販売する場合や、生産者団体や家畜商を経由する場合もある。フランスやドイツでは生産者団体を経由することが多いが、英国ではまず見られない。肥育牛の取引価格は、枝肉重量を基に決められ、単価は直近の最寄りの家畜市場の週の平均価格や卸売価格などが使われているが、このことは予め契約事項として定められている。

イ トレーサビリティ

肉牛のトレーサビリティ(個体識別)が、EU規則により定められており、すべての牛に個体識別番号が与えられ、個体登録情報がデータベース化されている。

 EUのトレーサビリティ制度の概要

(1)牛の証明および登録(生産段階)

ア 耳標の装着

すべての牛(EU域外からの輸入牛を含む)は、個体識別番号を記載した耳標を両耳に装着しなければならない。

イ データベースの整備

各加盟国の主管当局は、個体登録情報をデータベース化して、整備・運用しなければならない。

ウ パスポート

主管当局は、出生通知から14日以内(EU域外からの輸入牛については個体情報の通知後14日以内)に、各々の牛についてパスポートを発行しなければならない。牛の移動に際しては、パスポートを携行しなければならない。

牛が死亡した場合には、飼養者は7日以内に主管当局にパスポートを返却しなければならない。と畜場に送られた場合には、と畜場管理者はパスポートを返却しなければならない。

エ 各農場での登録簿の保管

牛の飼養者は、最新の登録簿を保持し、牛の移動・出生・死亡については、日付とともに3〜7日以内に主管当局へ届けなければならない。主管当局の要請に応じ、入手先、個体識別および所有・移動・販売・と畜した牛の行き先に関するすべての情報を提供しなければならない。また、登録簿は最低3年間保管しなければならない。

(2)牛肉および牛肉製品の表示(流通および消費段階)

ア 義務的表示

各加盟国で牛肉(製品)を販売する者または団体は、牛の生産(出生)国名、肥育国名、牛と牛肉の関連を示すコード番号(個体識別番号など)、と畜場の所在国名および承認番号、食肉加工場の所在国名および承認番号、牛肉について出生国・肥育国・と畜国が異なる場合、それぞれの国名を表示する必要がある。

イ 自発的表示  

牛肉(製品)を販売する者または団体が義務的表示以外の項目を表示する場合には、製造・販売が行われる加盟国の主管当局の承認を得る必要がある。

(3)規則の順守のための措置

各国の主管当局は、本規則の順守状況の検証および確認のための現地検査を実施することとなっている。

ウ と畜・食肉処理場

EUにおける牛肉産業は、肉牛生産者、と畜場、食肉処理場、レンダリング施設、卸売業者、小売業者、各種業界団体などさまざまな関係者からなる複雑な産業であり、それらの連携や統合の度合いは加盟国間で大きく異なっている。

と畜場と食肉処理場の有り様も加盟国間で異なっている。例えば、ドイツでは法律によりと畜処理と枝肉を食肉に加工する食肉処理は別々の主体で行われるが、多くの国ではと畜処理と食肉処理は一体化する方向に動いている。

フランスには202の牛の認定と畜場があり、年間牛肉生産量は146万トンであり、1カ所当たりの年間平均生産量は7248トンである。ドイツには約2000の牛の認定と畜場があり、年間牛肉生産量は113万トンであり、同生産量は566トンである。英国には78の牛の認定と畜場があり、年間牛肉生産量は88万トンであり、同生産量は1万1321トンである(表1)。

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と畜場は、特定の畜種に対応している場合もあるが、複数の畜種(鶏肉を除く)を処理する施設が多い。多くの加盟国で、規模拡大と自動化によりと畜場数が減少しているが、これにはと畜場側が競争力をつけるためのものと、小売企業の影響力によるものがある。後者は、巨大小売企業が同一規格の製品を低コストで仕入れるために、と畜・食肉処理部門を手中に収めることにより行われている。

と畜・食肉処理場の1頭当たりの利益は一般的に小さいことから、小売り用カットまで手を広げることが利益拡大の道の一つとされる。そのためには大きな投資が必要であるが、それができない小規模なと畜場は淘汰されることになる。

エ 枝肉の格付け

EUにおける牛肉の格付けは、EU規則に基づき、資格を有する格付員により、枝肉の外見から判断可能な「枝肉の形態」および「枝肉の脂肪の付着度合」を判断要素として実施されている。

枝肉は、格付けに先立って牛の区分により6つのカテゴリーに分類される(表2)。

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次に、まず、「枝肉の形態」について6段階(S、E、U、R、O、P)で評価される(表3)。

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さらに、「枝肉の脂肪の付着度合」が5段階(1〜5)で評価される。加盟国によっては、さらに区分ごとにL(少ない)とH(多い)などを付して上下に分けて評価している(表4)。

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そして、この2つの評価により格付けされている。例えば、一般的な去勢牛の枝肉は、「枝肉の形態」は「R」で、「枝肉の脂肪の付着度合」は「4L」であることから、この場合「R4L」と格付けされる。

加盟国当局は、定期的に無通告で食肉処理施設の現地調査を実施し、格付けが適正に行われていることを確認している。

オ 輸出入動向

2003年以前は、CAPによるカップル支払いが行われており、生産者は補助金の受け取りを増やすために需給に無関係に増産する傾向があり、その結果、供給過剰となった牛肉は域外市場に輸出せざるを得ず、EUは牛肉の純輸出国となっていた。

2004〜2009年においては、酪農部門の乳用牛頭数の減少により飼養頭数が減少したこと、さらには2005年の肉牛生産者に対するデカップル支払いの導入もあって、牛肉生産は減少局面に入った。一方で、消費がBSE危機から回復すると、牛肉の不足分を輸入で賄うようになったことから、EUは牛肉の純輸入国となった。

2010年以降は、国際牛肉市場における供給不足から輸入が減少するとともに、EU産牛肉の国際競争力が増加して輸出が増加したことから、再び牛肉の純輸出国になった(図5)。

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(3)牛肉消費

ア 牛肉消費の動向

EUでは、1986年以降のBSE危機により牛肉消費は低迷したが、その後のBSE対策の実施により、消費者の牛肉に対する安心感は取り戻され、2000年代に入ると牛肉の消費は比較的良好に推移した。GDPの伸びが消費者の可処分所得を増やしたことも牛肉の消費を後押しした。2008年以降は、経済危機を受けた消費者の可処分所得の減少などにより牛肉の消費は6年連続で減少している。

2008年と2009年、さらに2012年と2013年は、牛肉生産量および供給量の減少により小売価格が上昇したことも消費を減退させた。消費者需要は、より安価な動物タンパク源として鶏肉にシフトしていった。

この時期、牛肉の中においても、より低価格な商品(ひき肉など)に消費が集中し、高価格帯のロインなどのステーキ肉の消費は減少した。この傾向は外食産業の売り上げにも顕著に表れ、ハンバーガーなどの低価格帯の牛肉商品を提供するファストフードの売り上げは堅調に継続しているものの、ステーキレストランの売り上げは下落した。

この結果、牛枝肉の部位間の需給バランスが崩れ、ステーキカット肉を含む高級部位は需要が減り在庫が増えることとなった。

2014年以降は、景気がやや回復基調にあることから、牛肉の消費は増加基調で推移している。

2015年のEU市民1人当たりの牛肉消費量は10.7キログラムとなり、底となった2013年の10.4キログラムから0.3キログラム増えているが、2004〜2007年の同12キログラムより1.3キログラム少ない状況にある(11%減)。

2015年のEUの食肉消費に占める牛肉のシェアは16%であるが、2000年代の半ばには18%以上であった。牛肉より安価な鶏肉に消費が取って代わる傾向があり、鶏肉のシェアは29%から33%に増加し、同年の1人当たりの消費量は22.9キログラムと牛肉の2倍以上となっている。

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イ 和牛の消費と展望

2013年3月に日本産牛肉のEUへの輸出が解禁され、2014年6月に3つの食肉工場が認定されると少量ではあるが和牛の輸入が始まった。

EUでは、米国産、豪州産、英国産などのWAGYUが既にマーケットに入っており高級牛肉として認知されていたが、日本産和牛は、本家本元の和牛としてWAGYUマーケットに入り込み、輸入1年目は6月からの6カ月間で77トンが、翌2015年には、その3倍以上となる251.8トンが輸入された。そして、2016年は、6月までに114.4トン(前年同期比52.5%増)と伸び率は鈍化しているものの着実に増えている。

日本産和牛の通関国は、必ずしも消費国とは一致しないものの、輸入解禁以降2016年6月までのEUの和牛輸入量に占めるシェアをフランス、ドイツ、英国の3カ国で見ると、ドイツが21.6%、英国が16.8%であるのに対して、フランスは1.7%とその少なさが目を引く。

EUの牛肉の需給は域内均衡型であり貿易量は少なく、2014年の域外からの輸入量は消費量の4.3%となっている。これを国別に見ると、英国は6.8%、ドイツは4.5%とEU平均を上回っているが、フランスは0.5%と極端に少ない。また、欧州委員会の消費者購買動向調査によると、フランスの消費者は、自国産の商品を購入する傾向がEU平均より強いという結果になっている。

EUの消費者は、高価なものであってもそれに見合う理由が見つけられれば手を出す傾向が強いと言われている。外食では、鴨肉や鹿肉など伝統的な食肉とは異なる新しい食肉を求める消費者が増えており、牛肉であっても高級部位を選ぶなど、消費者は家庭で食べるものとは異なるものを好んで選ぶ傾向がある。

しかしながら、和牛の価格は他の高級牛肉よりも頭一つ抜けており、消費拡大の足かせとなっており、高価な和牛について、それに見合う理由を認識している消費者もまだ少ない。和牛の特徴である霜降りや、健康にプラス作用をもたらすという和牛の脂肪酸の特性が周知され受け入れられれば、消費者の購買行動は変わってくるかもしれない。和牛に関する知識普及(啓発)が、和牛の消費拡大には欠かせないと思われる。

EUには、長い牛肉の文化があるので、既存の料理の材料となる牛肉を和牛に置き換えることが手っ取り早いと考えられるが、和牛の良さを生かすには、EUにはない和牛のおいしい食べ方を紹介することも肝要であろう。

3 主要国(牛肉生産量上位3カ国)における需給動向

(1)牛肉生産の構造

牛肉生産の構造は加盟国ごとに大きく異なるが、ここでは牛肉生産量の上位3カ国であるフランス、ドイツ、英国の状況を紹介する。この3カ国でEU全体の牛肉生産量の45%を占めている(フランス19.9%、ドイツ14.7%、英国11.5%)。

ア フランス

(ア)肉用牛のタイプと品種

と畜される牛(約470万頭)の半分強が肉専用種で残りの半分弱が乳用種(交雑種を含む)である。約250万頭が肉専用種であり、もと牛は肉用牛の繁殖経営で生産される。主な肉専用種は、シャロレー種、リムザン種、ブロンド・ダキテーヌ種(Blonde d'Aquitaine)であり、他にサレー種(Salers)やオーブラック種(Aubrac)などがある。

そして、約220万頭は酪農部門で生産された乳用種(主にホルスタイン種)またはその交雑種(シャロレー種やリムザン種との掛け合わせ)をもと牛としている。

(イ)と畜される牛の種類

と畜牛(2015年)の内訳を見ると、4割弱を経産牛が占める。フランスはEU最大の繁殖雌牛飼養頭数を誇ることから、経産牛のうちでは繁殖雌牛の割合が高い。次いで、子牛が27%を占める。フランスはEU最大の子牛肉生産国である。成牛雄は25%であるが、8割強が去勢されていないが、これは、効率的な増体が求められることによる。また、未経産牛は1割弱となっている。

肉用牛の肥育(肉専用種、乳用種とも)は、一般的に舎飼いで、コーンサイレージと配合飼料が給与される。ただし、北西部では草地が豊富なことから2年間放牧型も見られる。コーンサイレージは、カロリーは豊富だがタンパク質が少ないので、タンパク質中心の配合飼料が給与される。

種類別に牛肉生産量を見ると、経産牛は全牛肉生産量の43%、雄牛(非去勢牛)は27%、子牛肉は13%、去勢牛は5%を占めている。

(ウ)牛肉生産量の動向

牛肉生産は、長期的に見ると、EU全体の傾向と同様に減少傾向にあるが、2000年以降の年平均減少率は、EU平均の0.6%に対し0.3%と小さい(図6)。これは、フランスはEUの全繁殖雌牛の3分の1を飼養するEU最大の繁殖雌牛飼養国であり、繁殖雌牛頭数も増加しているため、乳用牛頭数の減少による影響を他の加盟国ほど大きく受けなかったという事情がある。

イ ドイツ

(ア)肉用牛のタイプと品種

と畜される牛(約350万頭)の86%が乳用種(交雑種を含む)であり、肉専用種は14%にすぎない。300万頭が酪農部門で生産された乳用種(ホルスタイン種、フレックフィー種(Fleckvieh))またはその交雑種(シンメンタール種、アンガス種、シャロレー種、リムザン種との掛け合わせ)をもと牛としている。

そして、50万頭が肉専用種であり、そのもと牛は肉用牛の繁殖経営から生産される。主な肉専用種は、シンメンタール種であり、その他アンガス種、シャロレー種、リムザン種などがある。

(イ)と畜される牛の種類

と畜牛(2015年)の内訳を見ると、4割を成牛雄が占め、そのほぼすべてが非去勢牛である。肥育は舎飼いで行われるが、それは効率的な増体が求められるからとしている。次いで、経産牛が35%を占める。子牛は1割弱であり、未経産牛は14%となっている。

肉用牛の肥育(肉専用種、乳用種とも)は、一般的に舎飼いで行われ、コーンサイレージと配合飼料が給与される。雄牛はほとんど去勢されずに肥育されることから、牛肉生産の48%が非去勢牛から生産され、去勢牛は1%未満となっている。そして、33%が経産牛である。

(ウ)牛肉生産量の動向

牛肉生産は長期的には減少傾向にある(図6)。2000年以降の年平均減少率は0.9%となり、EU平均の0.6%を上回っている。これは、フランスと異なり、酪農部門の影響を大きく受ける構造になっているからである。

ウ 英国

(ア)肉用牛のタイプと品種

と畜される牛(約260万頭)の半分強が乳用種(交雑種を含む)であり、残りの半分弱が肉専用種となる。140万頭が酪農部門から生産される乳用種(ホルスタイン種)またはその交雑種(シャロレー種、リムザン種との掛け合わせ)をもと牛としている。また、地域によってはエアシャー種、ジャージー種、ガンジー種が乳用牛として飼養しているところもあり、同様にその子牛から肉用のもと牛が供給される。

そして、120万頭が肉専用種であり、そのもと牛は肉用牛の繁殖経営から生産される。主な肉専用種は、アンガス種、ヘレフォード種、シャロレー種である。

(イ)と畜される牛の種類

と畜牛(2015年)の内訳を見ると、4割弱を去勢牛が占める。成牛雄の約8割が去勢され、非去勢牛は2割程度である。未経産牛は3割弱であり、経産牛は2割強で、子牛はほとんどない。

肥育牛の多くは、去勢牛と未経産牛となる。英国人はこれらの牛から生産される軟らかく明るい肉色の牛肉を好む。

英国で雄牛が去勢されるのは、去勢により扱い易くなることに加えて、肉質が改善され、肉色が明るくなることも理由となっている。

舎飼いでは非去勢牛の方が去勢牛よりストレスを受けるとされ、その結果、肉質が悪化する(肉色が濃くなる)とされる。英国では濃い肉色の枝肉は低く格付けされる。また、軟らかさや脂身の付き方も去勢牛の方が優れていると評価される。

英国では、消費者の子牛を食用とすることに対してイメージは悪く、子牛肉はほとんど生産されていない。

肉用牛の主な肥育は、舎飼い型(肉専用種、乳用種)で牧草サイレージと配合飼料が給与されるタイプと放牧型(2年間放牧)となる。

(ウ)牛肉生産量の動向

フランス、ドイツと異なり、英国の牛肉生産は増加基調にある(図6)。これは1986年以降のBSEや2001年の口蹄疫の影響による生産の落ち込みから復調しているためであり、2001年以降の増加率は年平均1.7%となっている。

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(2)消費

牛肉の消費形態は国によって異なるが、牛肉消費量はフランス、ドイツ、英国でEU全体の約半分を占めている(2015年)(フランス:20.0%、ドイツ:14.7%、英国:15.2%)。これに消費量第2位のイタリアを加えるとEU全体の約66%を占める(イタリア:16.2%)。

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ア フランス

EU最大の牛肉消費国であり、2015年の1人当たりの消費量は、23.9キログラムと、EU平均(10.7キログラム)の2倍以上となる(図7)。フランスは、伝統的に鶏肉より牛肉を消費する文化を有している。最近の1人当たり消費量の動向は、減少傾向が続いていたが、2015年には景気の回復基調とともにわずかに増加している。フランスは子牛肉のEU最大の消費国でもあり、1人当たり3キログラムを消費している。

イ ドイツ

EU第4位の牛肉消費国で、2015年の1人当たりの消費量は14.0キログラムと、フランス、英国を下回るものの、EU平均を31%上回っている(図7)。なお、子牛肉の消費は、フランスと比べると少なく1人当たり1キログラムとなっている。ドイツは、牛肉消費がフランスや英国と比べ少ない反面、豚肉を多く消費している。

牛肉消費は景気の影響を受けることから、リーマンショック以降、EU全体では減少傾向にあるものの、ドイツは、比較的景気も好況が続き、牛肉消費量は増加傾向となっている。

ウ 英国

フランス、イタリアに次ぐEU第3位の牛肉消費国であり、2015年の1人当たりの消費量は17.0キログラムでEU平均を59%上回る(図7)。1人当たりの消費量は、豚肉や鶏肉より少ないが、伝統的に牛肉を食べる国である。

フランスやドイツが子牛肉を消費するのに対し、英国ではその消費はほとんどない。英国は、アニマル・ウェルフェアの観点から子牛に対する消費者の反応が厳しいことが背景としてある。

2014年以降、景気の回復基調とともに1人当たりの牛肉の消費量は増加基調にある。

4 おわりに

EUの牛肉産業の概観してみたが、28カ国と多くの加盟国があり、地域も北は北極圏から南は地中海沿岸まで南北に4000キロメートル以上に及ぶことから、気候が大きく異なったり、山間部や平野部などの地形の違いやそれぞれの地域の多様な文化・歴史・民族もあって、「EUの牛肉産業」とひとくくりで説明するのは難しい。

共通してEUの牛肉生産の特徴として言えるのは酪農部門の強い影響を受ける構造にあるということであろう。それ以外の生産や消費については、加盟国ごとにより大きく事情が異なるものも多い。例えば、EUの牛肉生産の1割強を占める子牛肉はEUの特徴と本文で述べたが、主要消費国である英国ではまず見られない。また、EU全体では雄牛の8割が去勢されていないと紹介したが、英国では逆に8割が去勢される。

現在のEUの農業政策は、グローバリズムが進展する中、市場経済化を強く指向している。農産物には市場原理を当てはめるのは困難とする論もあるが、EUの政策の方向性は明確である。低迷する農産物の価格を上げるためには需給を引き締めれば良いが、EUの牛肉部門は酪農部門の影響を強く受けることから、牛肉部門だけでの需給調整は困難な構図となっている。現在、EUでの牛肉価格が低迷していることから、牛肉部門としては需給を引き締めたいところであるが、酪農部門では生産者乳価の低迷から乳用牛の淘汰が進み、それが牛肉として供給され、牛肉価格の低迷に拍車を掛けている。

そのような中、EUの牛肉産業が需給引き締めの策として力を入れているのは輸出である。トルコやレバノン、イスラエルなどの中東、アフリカに加え、アジアでは香港に輸出されている。直近2年間では、毎年2割増のペースで輸出を増やしているものの、生産量に占める輸出量は5%に満たない。

一方、EU域内は、牛肉消費について成熟した市場であるため、域内でのさらなる拡大は容易ではない。特に、牛肉は主要食肉の中で最も高価であることから、その消費は景気の影響を強く受ける。EU経済は、2008年のリーマンショックを端とする世界経済の冷え込みの影響による低迷からまだ完全に脱出できずにおり、牛肉産業の見通しも明るくない。

日本は、そのようなEUに和牛の輸出拡大に力を入れているが、EUの牛肉産業のように見通しが明るくない訳ではないだろう。和牛は、最も高価な牛肉であると認知されており、ごく一部のニッチなマーケットかもしれないが、5億人を超すEUマーケットにおいては、それなりの規模を持つ。その市場を上手く開拓できれば、EUの牛肉消費量である780万トンに対し、輸出量がわずか250トン(2015年)という現状から見ても、さらに大きな市場を獲得していくことは実現可能な取り組みであると理解される。そのためには、EUでの市場開拓だけではなく、それと併せて供給サイドの課題も解決するよう日本全体で一丸となって取り組むことが重要であると考える。  

(中野 貴史(JETROブリュッセル))


				

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