調査・報告 学術調査 畜産の情報 2016年10月号
東京大学大学院農学生命科学研究科 助教 村上 智明
特任助教 佐藤 赳
教授 中嶋 康博
牧草地の更新率がどのような要因に左右され、更新率の低下が生じてきたのかを分析することを目的として、リモートセンシングによる更新地の特定と、農業センサスデータとの組み合わせによる草地更新率の決定要因の分析を行った。
分析結果では、乳牛あたりの牧草地面積と周囲の更新率が大きな影響を与えていることが明らかとなった。
周囲の更新率の影響が大きいということは、一度地域の更新率が下がると雪だるま式に更新率が低下する可能性があるということである。草地の改善は周辺にも波及効果の大きいものであり、地域が一体となって更新率を高めていくことが重要であるといえる。
近年、酪農生産における輸入飼料価格の高騰も相まって、粗飼料供給基盤の重要性はさらに高まってきている。しかし、こうした市場環境下にあっても、国内粗飼料生産は減少傾向にある。牧草地から十分な質と量の粗飼料を収穫するためには、適期の刈取りやサイレージ積み込み技術の向上といった育った牧草をどのように収穫・調製するかも重要であるが、牧草地の状態が悪化していれば、収穫・調製をいかに行っても良質な粗飼料を確保することは困難となる。牧草地の状態を良好に保つには、牧草地に雑草が繁茂したときに一度地上の植物体を除去し、牧草の種子を蒔き直すことにより、乳用牛にとって利用価値の高い植物体が支配的になるようにする更新作業を継続的に行う必要がある。
しかし、北海道全体でも草地の更新率は低下傾向にある。北海道農政部の「北海道の飼料を巡る情勢」平成28年2月版によれば、北海道全体の草地更新・整備面積割合は1995年に4.8%、2000年に4.6%、2005年には4.1%と徐々に低下傾向にあったが、2010年以降は毎年3%前後とさらに低下している。本報告の分析対象地である根釧地域でも、1990年代では更新率が10%弱あったが、聞き取り調査によれば、現在は5%程度まで低下している。草地の生産性低下は、生乳の供給能力低下に直結するため、特に乳製品の貿易自由化が差し迫っている中では、どのような要因によって牧草地の更新が滞るようになってきたのかを明らかにすることが求められる。
そこで、本報告では草地酪農の中心的な地域である北海道別海町を対象に、まず、牧草地更新の決定要因について簡単な経済モデルにより考察する。次に、衛星リモートセンシングを用いて、近年の別海町における草地の更新状況について明らかにする。最後に、更新地割合の決定要因を明らかにするために、2010年度の農業センサス集落カードデータ(注1)を用いて計量分析を行う。ここでは、草地の更新状況は周囲の更新状況(注2)の影響を受けるということが予想されたため、空間自己回帰(Spatial Autoregressive、以下「SAR」という)モデルによって計測を行うこととした。
(注1) 農業集落カードデータとは、農業センサスのデータを農業集落単位で集計したデータである。農業センサスでは個票データが公開されていないため、公表されている中では最小の集計単位のデータである。また、集落単位のGISデータも付属しているため、矢尾田(2006)以降、農業経済関連の空間統計分析にも用いられるようになってきている。
(注2) ある特定の農地の周りのエリアという意味で「周囲」を、特定のエリアを指定せずに特定の農地の近くという場合には「周辺」を使用している。
統計計算上は相互影響を与える地域を特定しているため、計算から得られた結果は「周囲」の草地更新率は当該地域の草地更新率に影響を与えるが、ここでの計算はあくまで計算の便宜上相互影響を与え合う範囲の近似として統計的に支持されるものを選択しただけであくまで近似であるので計算結果のインプリケーションとしては「周囲」ではなく、「周辺」の影響を受けるという書き方にしている。
(1)調査対象地の概況
本報告における分析対象は北海道野付郡別海町である(図1)。別海町では総面積1320平方キロメートルの土地に人口約1万6000人が居住するが、乳用牛は10万頭以上が飼養され、人より牛の多い町として有名な草地酪農地帯である。町内は南部に矢臼別演習場が存在しているが、それ以外の地域では大半の土地利用は牧草地と防風林によって構成されている。
別海町の年間平均気温は約5度と道内でも冷涼な地域に当たるが、特徴的なのは「じり」と呼ばれる夏場に発生する千島海流の影響からの海霧の存在であり、夏場に気温が上がらず、日照時間が短くなる要因となっている。そのため、7月の平均気温でも15度程度であり、東京の4月の平均気温14度と比較するといかに冷涼な気候であるのかがわかる。夏場に気温の上がらない気候のため、積算気温の関係でデントコーンやその他の畑作物の生産が困難な状況にあり、牧草地が地域内の支配的な土地利用となる要因ともなっている。
表1は北海道と別海町の酪農についてまとめたものである。
別海町では1980年時点で既に乳用牛の平均飼養頭数は61.9頭まで規模拡大が進んでおり、道内で比較しても非常に大規模な酪農が営まれていた。
2010年においては平均135.3頭と倍以上の飼養頭数まで拡大しており、道内平均と比較しても20頭以上飼養頭数が多い大規模化の進んだ地域である。
大規模化の背景となったのは、恵まれた草地基盤の存在である。町内の牧草専用地面積は近年でも6万ヘクタール前後で推移しており、道内全体牧草専用地の1割以上占めている。
経営当たりの牧草専用地面積でみると、近年は道内平均との差が縮少しつつあるが、それでも70ヘクタール超と道内平均よりも2割程度大きい。ただし、乳用牛当たりでみると平均50アール程度と近年は北海道平均に近づきつつあり、規模に比して広大な草地に恵まれているとは言えない状況になりつつある。
(2)草地更新の意思決定要因
ここでは、草地更新の意思決定を投資行動と想定して、単純な経済モデルによる整理を行う。
草地の更新を行うことによる影響は、収穫される牧草の質と量の向上である。一方で、更新には費用が必要である。
一般にこうした投資行動を分析する際にはNet Present Value(以下「NPV」という)による評価が行われる。NPVは投資によって生じる利得の期待割引現在価値によって評価され、正であれば投資が行う方が適当であるという評価法である。NPVは次式によって表現される。
ただし、btはt期における投資による利得、rは割引率、Tは投資にかかる費用であり、利得はT期間にわたって享受されるものとする。
ここで草地更新について考えると、btは牧草の質と量の向上であり、その価値は生乳生産を通して得られる。その際には、代替品としての配合飼料との関係が大きな要素となり、配合飼料価格の上昇は粗飼料からの栄養摂取の価値を向上させる。
また、酪農生産に当たっては、牧草と質と量の改善による利得は、他の要素を一定としたときには収穫逓減が生じていくと考えられる。このことの意味するところは、草地に恵まれた地域においてはそうでない地域と比較して草地更新による利得が少ないというものである。
次に、更新の費用について考察する。更新にかかる費用は自家更新の場合は種子を含む物財費と更新用の機械費、更新のための労働費である。労働費については、単純な労賃というよりは、追加的な労働時間に対する酪農経営の主観的な費用としての評価と考える方が妥当であろう。ただし、対象地域においては、JAやコントラクターによる更新作業の受託が行われており、更新者は自家更新と委託を選択することができる。
このとき、自家更新費用の主観的評価が委託費用を下回る場合においては自家更新がなされ、そうでない場合は作業は委託される。この選択に大きな影響を与えるのは更新に必要な労働に対する評価であり、これが低い経営は自家更新の費用を負担して更新を行うが、高い経営は委託費を払って更新を行うことになる。このとき、委託更新費はどの経営に対しても共通であるから、
が成り立つ。個人の労働の評価については、乳用牛飼養頭数と経営内の労働力賦存に加え、設備投資の状況によって決定されると考えられる。ただし、この点については、この地域では種子対応による自家更新は全体の6分の1程度しかないため、大きな影響を与えていない可能性もある。
次に投資のリターンの期間について考察する。現状の北海道のように草地更新率が3%程度であれば更新した植生からの飼料の収穫は30年間続くことになるが、草地更新の植生改善効果が続くのは長くて10年程度のようである。この間確実にリターンを受け取れるのであれば、更新投資によるリターンを全て受け取ることができると考えられるが、それまでに引退してしまえばリターンを受け取ることはできない。こうした長期のリターンは途中で引退する可能性のある高齢であったり、後継者のいない経営では全て受け取れない可能性があり、利得の期待値を減少させる。
また、長期間でどの程度草地の劣化が進むかは、管理者の草地管理に対する知識や周辺草地における雑草の分布の影響を受けると考えられる。劣化が早く進めばbの値は期が進むにつれて大きく減少していくことになり、そのことが予想されれば、更新を行う確率に負の影響を与えることとなる。
草地の更新を行うことがどのような効果をもたらすのかという面での知識・情報も投資に対する影響を与えると予想される。投資行動を行う際に、情報が不完全でNPVの評価を判断できないのであれば、投資行動を行うことができないからである。
以上の点を踏まえると、投資行動に影響を与える要因とその効果は表2のように整理できる。草地更新率を低下させる要因としては、
・配合飼料価格の低下
・乳用牛当たりの牧草供給量の増加
・経営内保有労働力の減少
・酪農従事者の高齢化
・後継者の不在
・周辺草地における雑草の繁茂
・草地管理の知識が不十分である
・更新を行うことによってどの程度の利得を享受することができるのかが明らかでない
などが挙げられる。
(1)リモートセンシングの技術
本報告は、衛星データを基に、独自に土地利用/土地被覆を明らかにし、経済分析を行う。以下、研究で使用するリモートセンシング技術のコア部分を紹介する。
リモートセンシングとは、物体に関する情報を接触せずに収集することである(Champbell 1996)。その定義には曖昧さも残るが、ここでは主にRees(2012)に準じて、対象を上空から衛星や航空機を使い、電磁波によって観測する手法に絞ることにする。広範囲の土地利用/土地被覆を宇宙からの衛星画像データの解析により明らかにすることができる。この技術は、日本では特に衛星リモートセンシングという名称で取り扱われている。近年は政府機関だけでなく商業衛星の打ち上げと観測も盛んになっており、さまざまな地域において解像度の高いデータが入手可能である (日本スペースイメージング社 2013 (http://www.spaceimaging.co.jp/) 他)。
本研究では特に、再訪周期16〜18日で撮影範囲は150×150キロメートル、ピクセルは30メートルのLandsat8衛星(http://landsat.usgs.gov/landsat8.php)、再訪周期3〜6日で撮影範囲は60×60キロメートル、ピクセルは6〜30メートルのSpot衛星(http://www.spot.com/)、再訪周期16〜18日で撮影範囲は77×77キロメートル、ピクセルは5メートルのRapideye衛星(http://blackbridge.com/rapideye/)の3つの衛星により撮影された衛星写真を用いた。
(2)衛星画像解析の方法
一般に、耕起して更新された草地は、1カ月程度は地表面に土壌が露出する。そこでの変化を衛星データを用いて判別することができる(美濃ら 1996)。現地調査によって、別海町では更新の多くが7月〜8月初旬に行われることが判明したため、本研究では8月〜10月のデータを取得した。また、2010年〜2014年では、先行研究での衛星画像より解像度の高いRapideyeやSpotの画像を用いることで、ほ場の境目や道との混交を防ぎ、更新草地の植生の違いをより明確に区分することができると考えられる。
本研究では、3回の現地調査を行い、コントラクター業者などへの聞き取り調査に加えて、現地での土地利用を記録した。記録したデータに基づき、内容の判明している約50カ所の参照となる土地利用/土地被覆を選定し、12項目に分けた。その上で参照となる土地利用/土地被覆と似た特徴を持つ土地を判別する教師付分類法によって土地利用/土地被覆の判別を行った。
図2は、2014/9/21 Spot 6の衛星画像の一部である。衛星画像は拡大するとこのように見える。図中で細長く伸び交差している深緑の部分は、森(防風林など)である。黄緑色や黄土色、焦げ茶色で並んでいる土地が牧草地や更新草地である。
図3が、図2の土地利用分類結果である。12項目の土地利用/土地被覆は以下の通りである。
項目0は衛星画像の範囲外で、透明もしくは白色となっている(図3には存在しない)。
項目1は防風林や自然林などの森および林地を指す。
項目2はトウモロコシ畑を指す。
項目3は図中黄緑色で示される牧草地で、特に植生が多いものを指す。
項目4も牧草地である。項目3よりは少ないが、植生は十分に存在する土地を示す。項目3との差はあまり大きくなく、図3でもあえてほとんど同じ色にしている。
項目5は更新草地である。土壌が露出しSpot6画像では、図3の焦げ茶色の箇所の様に見える。
項目6も牧草地で、項目3、4と比較し明らかに植生が少ないものである。
項目7は項目6と同じかそれ以上に植生が少ない牧草地であるが、その差は少ない。今回の多くの衛星画像解析では、この項目7は特に分類していない。その分の面積は項目6に含まれている。図3に示す際にも項目6と項目7の色は区別していない。
項目8は建造物を指し、住居や牛舎、道路や市街地の大部分を指している。
項目9は海岸である。海沿いにしか存在しない。
項目10は海である。
項目11は不耕作地で森林や海岸以外のものを指しており、茂みや湿地、荒れ地などを示している。
項目12は画像に写り込んでしまった雲である。
図3に示す範囲では、項目0、9、10、11、12は存在しない。
本報告の分析においては、フィルタリングやセグメンテーション(注3)といった手法を使って土地被覆判別の精度を向上させるように勉めているが、この点については紙幅の関係もあり、詳細版を参照されたい。図3はセグメンテーション後の土地被覆の判別結果である。
(注3) フィルタリング(選別)とは、誤った画像データ箇所を除去したり、特定の土地被服を強調するために用いられる。本研究では、各ピクセルに対して、その周囲の8ピクセルを入れた(3×3の範囲における)最も頻度が多かったピクセルに変換し、誤った画像データ箇所を除去している。
セグメンテーション(断片化)とは、画像データを個々のピクセルの値やその周囲のピクセルの値に基づいて画像を複数のセグメント(断片)に分割する方法を指す。位置が隣り合っていて値も近いピクセルは同じセグメントに、位置が遠かったり値が大きく異なるピクセルは違うセグメントに分割される。本研究では、同じような牧草が見られる圃場ごとのセグメントに分割されている。
以下では、対象地全体の土地利用/土地被覆の分類結果を示し、その面積を表3に示す。
ほ場のみ抽出した際の分析結果は次節以降の更新地の分析に用い、本節では、土地利用/土地被覆全体の面積について概観する。なお、土地利用/土地被覆の分類自体は2010年から2015年まで6年間分行っているが、ここでは2011年分についてのみ記述する。その他の年次については詳細版を確認されたい。
図5は2011/11/1 Rapideye衛星画像である。表3は同2010/8/6 Rapideye衛星画像の土地利用/土地被覆分類結果面積(ヘクタール)である。解像度は同じく5メートルである。撮影時期が11月であり、2010年の8月の土地利用/土地被覆の分布と季節は異なるが、土地利用そのものは大きく変わらない様子が分かる。
分類の結果、西春別や大成においてトウモロコシ畑が多く確認された。また、上春別においては、更新草地面積が713ヘクタール(7%程度)と非常に多く見られた。
(1)計測の方法とデータ
ここでは、ここまで特定した更新地のデータをもとに、草地更新率の決定要因を計量分析から明らかにする。ただし、リモートセンシングによる解析はラスターデータに基づくものであるため、どこで更新がなされたかは明らかにできるが、更新率の決定要因を分析するためのその他のデータとの接続を行うことが困難である。そのため、ここでは農業集落ごとに更新率を集計し、農業センサスのデータとの接続を行い、農業集落を単位として分析を進める。分析に用いたのは2014年単年分の更新データである。
まず、計量分析を行なうに当たって、2章における考察をもとに更新率の決定要因を定式化する。2章において更新率の決定要因として挙げられたのは、配合飼料価格、乳用牛当たり牧草供給量、経営内労働力保有量、主たる酪農従事者の年齢、後継者の有無、周囲の更新状況、経営主の草地管理の知識、更新の効果に関する情報であった。これらを説明変数として計量分析を行うわけであるが、クロスセクションデータという性質上、配合飼料の価格水準は各経営共通のものとなるため、分析からは除外する。また、後継者の有無については、2010年度センサスでは調査を行っていないため、説明変数に含めることはできなかった。労働力の保有状況については、雇用を行うことによって外部から労働力獲得を行っているかという意味で雇用労働力の状況を、乳用牛の飼養頭数が大きくなると労働がひっ迫するため乳用牛飼養頭数を説明変数として加えた。酪農従事者の年齢については、高齢農業者の割合を加える。ここに、周辺の更新状況と経営主の知識レベルを加えると、次式のように表現される。
草地更新率
=f(乳牛当たり牧草地面積、高齢農業者割合、乳用牛飼養頭数、雇用労働力、周辺の更新状況知識レベル)
この式を線形で特定化し、推計を行うわけであるが、近隣の更新状況と経営主の知識レベルについては、自身の周辺の経営と相互に影響を与えあうということが想定される。
こうした近隣と相互影響についてはSARモデルを分析に用いることによって計測に組み込むことができる。更新に関する情報についても、周辺でどの程度更新を行っているかが大きな影響を与えると考え、空間ラグによってまとめて効果を推計する。
SARモデルは以下のように特定される。
ここで、αは切片、Xは外生変数ベクトル、βは外生変数のパラメータベクトル、ρは空間的自己相関のパラメータ、Wは空間重み行列である。
(2)計測結果
表4の計測結果は、計測の結果最も当てはまりの良かった10キロメートル以内の集落同士は相互の影響を与え合うという仮定に基づく計測結果である。
有意な説明変数は乳用牛当たり牧草地面積のみであり、経営当たりの牧草地賦存が更新への投資行動に大きな影響を与えるということは明らかとなった。一方で、労働力の不足や高齢化といった問題は草地更新率に大きな影響を与えているとは言えず、近年の酪農経営の大規模化が草地の更新率に影響を与えているという仮説は少なくとも分析対象地域内では否定される。
空間的自己相関(結果の相互影響の大きさを表す)パラメータρは有意であり、値も0.575と比較的大きい。周辺の更新状況が、各経営の草地更新の意思決定に対して大きな影響を与えているということが想定される。
ここでのρの解釈であるが、1つには周辺に雑草の多い更新されていない土地が多い場合に雑草の草地への侵入が起こりやすく、草地の劣化が早いために更新した場合のリターンが減少する、というものが考えられる。ただし、それだけでなく、周辺の多くの農家が盛んに更新を行っていることによる更新の効果に対する情報不足の解消や草地更新に関する勉強会などの地域内ネットワークによる農家内の草地更新に対する知識の蓄積の影響についても項の中に含んでいると考えられる。そうした総合的な影響により、草地の更新率に関しては、集落間の相互影響が大きな影響を持っている。
本報告書は、牧草地の更新率がどのような要因に左右され、更新率の低下が生じてきたのかを分析することを目的として執筆を行ってきた。分析を行うに当たっては、ミクロな範囲での更新率のデータが存在しないことから、リモートセンシングによって、更新地の特定をすることから行った。全道や振興局単位での更新率の推移からでは生産者の行動を分析するには対象として大きく、生産者間の相互の関係についても見ることができないからである。
リモートセンシングに当たっては、既存の更新地判定方法に加えて、セグメンテーションやフィルタリングの手法を活用することにより、可能な限りの精度向上に努めた。こうしてリモートセンシングによって特定した草地の集落別更新率データと農業センサス農業集落データを組み合わせることによって、どのような要因によって牧草地の更新率が影響を受けているのかを検証した。
本報告の分析結果では、更新率に大きな影響を与えるのは乳用牛当たりの牧草地面積と周囲の更新状況である。表1で確認したように、別海町においては乳用牛当たりの牧草地面積は減少傾向にあり、牧草のひっ迫から更新率が上昇する可能性はある。この傾向に関しては、配合飼料や購入粗飼料の価格動向にも大きく影響を受けると思われるため、今後の価格変動によっても傾向は変化するものと思われる。
一方で、周囲の更新率の影響はより重大である。酪農経営の更新行動が周囲の更新状況に影響を受けるということは、一度更新率が下がってしまうと雪だるま式に更新率が下がっていってしまう可能性があるということである。これは、更新に対する経営者の知識や意欲もあるだろうが、当然、雑草の侵入速度の増加も影響しているものと考えられる。草地の改善は周辺にも波及効果の大きいものであり、地域が一体となって更新率を高めていくことが重要であるといえる。
【引用文献】
・Champbell, J. B. (1996) Introduction to Remote Sensing, Taylor and Francis, 626pp.
・美濃伸之、 斎藤元也 (1996) 「多年次衛星データを利用した草地更新状況の把握」 『写真測量とリモートセンシング』35(3): 18-25.
・Rees, G. W. (2012) Physical principles of remote sensing, Cambridge University Press,460pp.
・矢尾田清幸(2006)「農業地域における空間データ整備の課題 : 空間計量経済分析の適用による提言」『農業経営研究』44(1) : 183-188.