調査・報告 学術調査  畜産の情報 2016年9月号


籾米サイレージのウシ・ブタへの利用拡大に必要な飼料特性の解明に関する調査研究

国立大学法人山形大学農学部 准教授 松山 裕城
教授 堀口 健一
教授 浦川 修司



【要約】

 飼料用米の生産コスト削減や地産地消を目的に、完熟期に収穫した後に乾燥・籾摺りを行わず破砕して乳酸発酵させる籾米サイレージが生産されているが、その飼料特性に関する情報は十分とはいえない。ウシでは可消化養分総量が約80%であったこと、ブタではトウモロコシからの代替割合の増加に伴い可消化養分総量は低下するため、籾米サイレージの配合割合は30%以下にすることが望ましいことなど、給与試験の結果を報告する。

1 はじめに

全国各地で飼料用米の作付面積が年々増加している。収穫された飼料用米の多くは、食用米と同様、乾燥・籾摺りされ、その後、飼料工場に持ち込まれ畜種に合わせて粉砕・圧片などの加工処理がされる。この体系では、飼料用米を他の飼料穀物と同じ流通に乗せることで広域的な利用を図るには適しているが、飼料用米の生産費を押し上げること、供給地と需要地のかいを生むことが課題である。

最近、山形県のむろがわ町や鶴岡市では、完熟期に収穫した後に乾燥・籾摺りを行わず、破砕して適度な水と乳酸菌資材を添加してフレキシブルコンテナバッグ(注1(写真1)に詰め込み、密封して乳酸発酵させる籾米サイレージの生産・利用が進められている。

この籾米サイレージは地域内のライスセンターなどで生産されており、収穫後の費用が抑えられるとともに飼料用米の地産地消も容易にしている。この籾米サイレージの取り組みは、近隣の耕種経営・畜産経営の両者を支えるものであり、特に水稲栽培が盛んな東北地域での定着が望まれる。

籾米サイレージの研究としては減反政策の始まった1970年代より、コメを完熟期以前に収穫してサイレージ調製するソフトグレインサイレージの研究が実施されている。しかし、現在の籾米サイレージとは収穫時期、調製方法(加工機械、添加資材)および給与対象の家畜の遺伝的能力が異なるため、その情報を現在の飼養管理に当てはめることは難しい。

(注1) フレキシブルコンテナバッグとは、穀物や飼料、石灰、土砂などの梱包、輸送、保管に適した袋状の包材のこと。





また最近、飼料用米の生産増加に合わせて、国内の研究機関で給与技術の開発が進められている多くは、収穫後に乾燥・籾摺り・加工処理した飼料用米であり、籾米サイレージに関する研究成果は十分ではない状況である。

国外の研究においては、トウモロコシやムギの子実のみをサイレージ調製する研究報告は多くあるものの、籾米サイレージといったコメに関する研究報告はほとんどない。従って、籾米サイレージの給与技術に関する研究は遅れており、飼料特性に関する情報は充分ではないため、生産現場では確信をもって給与が進められない状況である。

今後、飼料用米の作付面積の増加も見込まれており、飼料用米の利用を拡大・推進するためには、籾米サイレージの適切な給与技術を確立することや多様な畜種(ウシ、ブタ)への給与が必要である。ウシへの籾米サイレージの給与試験の報告は少しずつ増えてきているが、消化試験を実施して消化率や栄養価を測定した報告は少ない。また、ブタへ籾米サイレージを給与した報告はほとんどない。ウシやブタに籾米サイレージを給与し、その消化率や栄養価などの飼料特性を把握することは、さまざまな生理状態のウシ、ブタに最適な飼料設計を行うための有益な情報となる。籾米サイレージの飼料特性が明らかになることで精密な飼料設計が可能となり、期待通りの畜産物生産が達成される。さらに、籾米サイレージを遺伝的能力が向上した現代のウシ、ブタに実際に給与して、その飼料特性を評価することが重要である。

そこで本調査研究では、飼料用米の利用拡大・地産地消を推進するため、ウシ、ブタ用飼料としての籾米サイレージの飼料特性を明らかにすることを目的として実施した。

2 ウシ用飼料としての籾米サイレージの飼料特性

(1)試験方法

供試動物には、繁殖用の育成牛である黒毛和種雌牛8頭(平均体重438.3キログラム)を用いて個別のストールで飼養した。供試飼料には、調製方法の異なる2種類の籾米サイレージと基礎飼料としてリードカナリーグラス乾草、大豆粕および混合ビタミン飼料添加物を用いた。

籾米サイレージは、完熟期に収穫した品種「ふくひびき」を用いて、ハンマーミル式破砕装置(注2)(ミリングマシーン、EX200M、タカキタ、写真2、3)ならびに籾殻蒸砕膨軟処理装置(注3)(プレスパンダー、P50L型、関西産業、写真4、5)で破砕後、水分30%を目処に加水と乳酸菌資材(畜草1号プラス、雪印種苗)を添加して、200リットルのポリエチレン製ドラム缶に詰め込み密封して、サイレージに調製した。ドラム缶サイレージは、55日間の発酵・貯蔵期間を経た後に開封し、消化試験に用いた。

(注2) ハンマーミル式破砕とは、高速に回転するハンマーブレードにより、籾米を細かく破砕する方式。

(注3) 籾殻蒸砕膨軟処理とは、籾米に蒸気を当て、回転するスクリュー刃で圧縮・破砕する方式。





消化試験は全ふん採取法とした。全ふん採取法とは、飼料として摂取した化学成分量からふんとして排泄された化学成分量を差し引いて消化された成分量を求める方法である。

消化試験はまず、雌牛8頭を群の平均体重が均等になるよう4頭ずつの2群に分けた(表1)。1期目は、一方の群にハンマーミル式破砕装置で破砕処理した籾米サイレージ、もう一方の群に籾殻蒸砕膨軟処理装置で破砕処理した籾米サイレージを給与して消化試験を実施し、2期目は給与する籾米サイレージを入れ替えて消化試験を実施した。3期目は間接法(注4)により籾米サイレージ単味の成分消化率、栄養価を算出するため、基礎飼料のみを雌牛4頭に給与して消化試験を実施した(写真6)。飼料の給与量は「日本飼養標準・肉用牛(2008年版)」に基づき、可消化養分総量(以下「TDN」という)換算で維持要求量とし、水と鉱塩は自由摂取とした。なお、本調査研究の動物試験は、山形大学動物実験規定に準じて実施した。

(注4) 間接法とは単独で給与することの難しい試験飼料を、別途消化率を求めた基礎飼料と一緒に給与して消化率を測定し、その後、基礎飼料の消化率は変わらないものとして試験試料の消化率を間接的に求める方法。





(2)結果

ウシの消化試験に給与した飼料の化学組成を表2に示した。籾米サイレージの水分含有率において、ハンマーミル式破砕装置が32.4%、籾殻蒸砕膨軟処理装置が28.2%であり、若干の数値の差はあったものの、どちらも水分含有率30%を目処に加水したことが反映されていた。

有機物、粗タンパク質、粗脂肪、α-アミラーゼ処理中性デタージェント繊維、非繊維性炭水化物および粗灰分含有率のいずれも装置間の数値の差は小さかったため、ハンマーミル式破砕装置もしくは籾殻蒸砕膨軟処理装置により籾米サイレージの化学組成に及ぼす影響は小さいと考える。



ハンマーミル式破砕装置は回転するハンマーブレードにより籾米を細かく破砕するが、籾殻蒸砕膨軟処理装置は籾米に蒸気を当て、回転するスクリュー刃で圧縮・破砕する。そのため、籾殻蒸砕膨軟処理装置では籾米のデンプンに熱が加わることで、デンプン分子は規則性を失い糊状となる(α化)ため、ウシのルーメン内(注5)での分解特性、特に分解速度に影響を及ぼす可能性はあると考える。

消化試験に給与した飼料の配合割合を表3に示した。給与した飼料の配合割合は、リードカナリーグラス乾草を粗飼料として6割、籾米サイレージ(3割)と大豆粕(1割)を濃厚飼料として4割とした。評価する籾米サイレージの割合を増やしつつも、極端に多くの濃厚飼料が配合されないよう飼料設計した。そのため、消化試験期間を通して飼料の食べ残しはなく、また体調を崩す雌牛もいなかった。



給与飼料の成分消化率と栄養価の結果を表4に示した。給与飼料の成分消化率のうち乾物消化率、有機物消化率において、ハンマーミル式破砕装置は70.3%、72.8%、籾殻蒸砕膨軟処理装置は70.8%、73.2%であり、装置間に有意な差は認められなかった(P≧0.05)。

粗脂肪消化率はハンマーミル式破砕装置に比べて籾殻蒸砕膨軟処理装置が2ポイント低かったが統計的な差は認められなかった(P≧0.05)。



給与飼料のTDNにおいて、ハンマーミル式破砕装置は70.0%、籾殻蒸砕膨軟処理装置は70.2%であり、装置間に有意な差は認められなかった(P≧0.05)。

籾米サイレージの成分消化率と栄養価を表5に示した。



籾米サイレージの成分消化率と栄養価は、基礎飼料であるリードカナリーグラス乾草と大豆粕のみを給与した消化試験を実施し、そこで得られた基礎飼料の消化率(乾物消化率:68.2%、有機物消化率:69.7%、粗脂肪消化率:52.9%)を用いた間接法により得られた推定値である。

籾米サイレージの成分消化率のうち乾物消化率において、ハンマーミル式破砕装置は75.6%、籾殻蒸砕膨軟処理装置は76.8%であり、装置間に有意な差は認められなかった(P≧0.05)。有機物消化率、粗脂肪消化率も、装置間に有意な差は認められなかった(P≧0.05)。籾米サイレージのTDNにおいて、ハンマーミル式破砕装置は80.4%、籾殻蒸砕膨軟処理装置は80.4%で数値は等しく、装置間に有意な差は認められなかった(P≧0.05)。

「日本標準飼料成分表(2009年版)」に掲載されているウシにおける籾米(飼料番号:5591)のTDNは77.7%であり、それと比較すると本調査研究の籾米サイレージの数値は同程度もしくは高いと言える。少なくとも、籾米のサイレージ化によって消化性が劣ることはないと考える。

本調査研究では、籾米サイレージを調製する際に籾米を破砕する装置として、ハンマーミル式破砕装置と籾殻蒸砕膨軟処理装置を用いた。いずれの装置で調製した籾米サイレージも黒毛和種雌牛の嗜好性は良く、また成分消化率や栄養価においても装置間の違いは見られず、TDNも約80%と消化性も良いことが明らかとなった。

本調査研究で得られた籾米サイレージの成分消化率や栄養価は、生産現場で給与する際の飼料設計に利用できる。また、籾米サイレージを用いた精密な飼料設計が可能となったことにより、泌乳牛や肥育牛など生産性の高いウシでの評価を今後、実施することで、籾米サイレージのウシへの給与技術が確立できると考える。

(注5) ルーメンとは、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの反すう動物のもつ複胃のうち、一番目の胃をルーメン(第一胃)と呼ぶ。ルーメンの容量は成牛では100〜150リットルにも及び、多数の微生物により発酵が行われている(農研機構のHPより)。

3 ブタ用飼料としての籾米サイレージの飼料特性

(1)試験方法

供試動物には、ハイポー種注6去勢豚15頭(平均体重98.5キログラム)を用いて個別の代謝ケージで飼養した。供試飼料には籾米サイレージ、トウモロコシ、大麦、大豆粕、アルファルファミール、混合ミネラル飼料添加物および混合ビタミン飼料添加物を用いた。籾米サイレージは、完熟期に収穫した品種「はえぬき」を用いて、籾殻蒸砕膨軟処理装置(プレスパンダー、P50L型、関西産業)で破砕後、水分30%を目処に加水と乳酸菌資材を添加し、約5キログラムをパウチ袋に詰め込み密封して、サイレージに調製した。パウチサイレージは、1カ月以上の発酵・貯蔵期間を経た後に開封し、消化試験に用いた。

消化試験は全ふん採取法とし、その設定は、去勢豚15頭を各群の平均体重が均等になるよう5頭ずつの3群に分け、トウモロコシと籾米サイレージの配合割合(乾物換算)が異なる3種類の飼料(100:0、50:50および0:100)にそれぞれ割り当てて実施した。

飼料と水は自由摂取とした。なお、本調査研究の動物試験は山形大学動物実験規定に準じて実施した。

(注6) ハイポー種とは、4つの系統のブタを交配した「四元交配」のハイブリット豚のこと。



(2)結果

ブタの消化試験に用いた籾米サイレージの発酵品質を表6に示した。



pHは4.2、乳酸含有率は4.2%、酪酸含有率は0.0%(検出限界以下)であり、サイレージの発酵品質の指標となるV-スコアはほぼ100点であった。この籾米サイレージは籾殻蒸砕膨軟処理装置で破砕後、水分30%を目処に加水し、さらに乳酸菌資材を加えたことで良好なサイレージ発酵品質となったと考える。

消化試験で給与した飼料の配合割合を表7に示した。給与飼料中のトウモロコシの配合割合を60%とした飼料(100:0)、トウモロコシと籾米サイレージの配合割合をそれぞれ30%とした飼料(50:50)および籾米サイレージの配合割合を60%とした飼料(0:100)の3つの飼料を設定した。



消化試験で給与した飼料の化学組成を表8に示した。それぞれの飼料の化学組成においては、籾米サイレージの配合割合が増えるにつれて水分含有率に加えて可溶無窒素物、粗灰分含有率が高まり、逆に粗タンパク質、粗脂肪および粗繊維含有率が低下した。「日本標準飼料成分表(2009年版)」によると、トウモロコシ(飼料番号:5501)と玄米(飼料番号:5601)の化学成分の含有率は、ほぼ同程度であることから、本調査研究で設定した3つの配合飼料の化学成分値の差は、籾殻の有無によるものと考える。



給与した各飼料の成分消化率と栄養価を表9に示した。飼料摂取量は籾米サイレージの配合割合が高まると増えたが、飼料間に統計的な差は認められなかった(P≧0.05)。籾米サイレージの配合割合が高まるにつれて乾物、粗タンパク質および可溶無窒素物消化率は有意に低下した(P <0.05)。一方、粗脂肪消化率はトウモロコシのみ(100:0)に比べて籾米サイレージのみ(0:100)が有意に高くなった(P <0.05)。乾物、粗タンパク質および可溶無窒素物消化率の低下も、籾米サイレージに含まれる籾殻が影響していると考えるが、籾米サイレージの配合割合が増えた際に粗脂肪消化率が向上する原因は不明である。TDNは籾米サイレージの配合割合が高まるにつれて有意に低下し(P <0.05)、トウモロコシのみ(100:0)では86.6%、トウモロコシと籾米サイレージが半分ずつ(50:50)では82.4%、籾米サイレージのみ(0:100)では77.6%であり、いずれの飼料間においても有意な差が認められた(P <0.05)。



以上の結果より、ブタにおいてトウモロコシの代替として籾米サイレージの配合割合を高めていくと粗脂肪を除き各成分消化率、TDNが低下することから、籾米サイレージの配合割合は制限する必要があると考える。給与飼料中のトウモロコシの配合割合を60%とした飼料(100:0)と比べて、トウモロコシと籾米サイレージの配合割合を30%ずつとした飼料(50:50)では粗タンパク質、粗脂肪および可溶無窒素物消化率には統計的な差は認めらなかった(P≧0.05)が、TDNは4.2ポイント有意に低かった(P <0.05)。従って、トウモロコシの代替に籾米サイレージを利用する場合、ブタでは飼料中の配合割合を30%以下にすることが望ましいと考える。

4 おわりに

山形県をはじめ東北地域では、水田から得られる飼料用米、イネホールクロップサイレージ(注7)、稲ワラなどの飼料資源を生産・利用拡大することで地域農業の振興が期待されている。飼料用米の生産は、食用米の技術を生かすことが可能であり、助成金の支えもあって年々増加している。従って、本調査研究の籾米サイレージ含め飼料用米の給与技術を確立することで増加する供給量を受け止め、飼料用米の取り組みを円滑に進めることができる。さらに東北地域では既存の飼料基盤に加えて豊富な水田を飼料生産に活用することで、より多くの飼料を供給し、家畜の頭羽数を増やすことも可能になると考える。国産飼料を積極的に活用することで、消費者にも支持される畜産物生産が可能となり、地域農業の振興につながる。

(注7) イネホールクロップサイレージとは、イネの実が完熟する前に、子実と茎葉を一体的に収穫し、乳酸発酵させた飼料。イネ発酵粗飼料とも呼ばれる。水田の有効活用と飼料自給率の向上に資する飼料作物として、作付面積が拡大している(参考:農林水産省のHP)。


				

元のページに戻る