調査・報告 専門調査 畜産の情報 2017年8月号
鹿児島大学 農学部 教授 豊 智行
【要約】
未利用資源を有効利用した耕畜連携の事例として、茨城県かすみがうら市の養豚農家である株式会社広原畜産がJA土浦れんこんセンターなどからの規格外れんこんを飼料として有効利用する一方、同社からの堆肥をれんこん農家が利用するシステムを取り上げ、そのシステムを形成する主体の役割や取り組み、主体へもたらされる効果を明らかにする。
1 はじめに |
畜産農家で生じる家畜ふん尿を堆肥にし、それを耕種部門の投入物として供給する一方、耕種農家の生産物を畜産農家が投入物として需要する耕畜連携にはさまざまな形態が存在する。
本稿で取り上げる耕畜連携において、耕種部門と畜産部門での投入物は要約で述べた通り、株式会社広原畜産(以下「広原畜産」という)からの堆肥とれんこん農家からの規格外れんこんである。
未利用資源であった規格外れんこんを利用した耕畜連携を要約で述べた目的に沿って解明するために、JA土浦れんこんセンター(以下「れんこんセンター」という)、れんこん農家、蓮根豚取扱飲食店の豚串豊司、広原畜産への聞き取り調査を実施した。
本調査に基づき、まず、広原畜産とその堆肥を利用するれんこん農家の経営概況を、また、このシステムの形成に至った経緯、そこでの投入物である堆肥と規格外れんこんはどのような特徴を有し、流通しているのか、また、同様にこのような投入物を利用した広原畜産とれんこん農家からの生産物である豚とれんこんの特徴などについて述べていく。さらに、システムの構築が広原畜産とれんこん農家に及ぼした効果についても言及していく。
2 広原畜産とれんこん農家の経営概況 |
広原畜産は、茨城県かすみがうら市に所在し、法人化して2年になる。広原畜産では40歳の代表取締役とその弟夫婦の3人が従事している(写真1)。代表取締役が生産、弟は加工・販売、弟の妻は生産補助と役割を分担している。広原畜産は、規格外れんこんを飼料利用した蓮根豚を開発するとともに、六次産業化と販売連携にも取り組んでいる。調査時は、母豚70頭を飼養し、肉豚を年間約1200頭出荷している。出荷頭数のうち上物率は約70%であり、また出荷頭数全体の10〜20%を蓮根豚として販売している。
JA土浦管内のれんこん農家は、4〜5月下旬にれんこんを植え付けし、8月から翌年の3〜5月に収穫する。同地域におけるれんこん農家の多くは、経営耕地面積が1〜1.5ヘクタールの規模であり、中には8ヘクタールほどの大規模農家もあるという。金澄20号という品種の導入により収量が上がったものの、れんこんの収量は土壌によって差が生じているそうである。堆肥を利用しない農家もいるという。ここ数年は同地域のれんこん農家戸数にあまり変化がないという。
広原畜産の堆肥を利用するれんこん農家の皆川氏(52歳)は、皆川氏の妻、父、母が農業に従事している。家族以外にも常勤で外国人研修生1名、非常勤で農繁期に親戚2名を雇用している。田の経営耕地面積は4ヘクタール(うち所有面積3ヘクタール、借入耕地面積1ヘクタール)である。今後の経営規模の意向は現状維持である。れんこんを4ヘクタールに作付し、10アール当たり平均2トンの収量がある。もし、JAを通して出荷するならば調製作業を農家でする必要はないが、現在は収穫したれんこんのすべてを自ら調製後、れんこんの取扱専門業者に販売している。
3 規格外れんこんの飼料利用以前の耕畜連携 |
れんこんセンターにおける規格外れんこんの一部は、以前から加工業者に販売されており、その量に大きな変化はないが、産業廃棄物として処理されるものもあった。
皆川氏は、広原畜産が規格外れんこんを飼料として利用開始するはるか昔の約30年前から広原畜産の堆肥を利用している。それまでは、ブロイラーの鶏ふんが紙袋に梱包されたものを利用していた。
広原畜産では、れんこんを飼料として利用する前は、全て配合飼料を給餌していた。また、土浦市にある茨城協同食肉株式会社に肉豚のと畜を委託し、JA全農ミートフーズ株式会社にその枝肉を販売していた。参考資料によれば、広原畜産では当時、全量一般豚を生産していたが、豚の差別化、販売単価および利益の向上を目指して、地域オリジナルブランドの開発と加工・販売体制を整備していくことが課題となっていた。
4 蓮根豚、れんこん、堆肥、規格外れんこんの特徴 |
参考資料には、『蓮根豚は生の蓮根を食べ育った丈夫な豚であり、茨城県かすみがうら市の広原畜産で一頭一頭大切に育てられ、あっさりとした脂身にうまみの違いがわかる豚肉となる』とある。実際の食味試験の結果をみても、一般豚よりも総合的に高い評価となっている(表1)。
かすみがうら市にある蓮根豚取扱飲食店の豚串豊司の経営主は、他の豚と比べると蓮根豚は甘みが増していると評価している。実際に蓮根豚を食べて甘いと言うお客さんが多いそうである。肉豚は生後180日で出荷されるが、出荷前45日間に肉豚用の飼料として、配合飼料に対して15%のれんこんが給与されている(写真2)。参考資料によれば、この方法は、ステージ(子豚期、肥育期)、給与期間(60日、45日、30日)、給与量(30%、15%、10%)の3つの項目についてれんこん給与比較試験を実施した結果、肉質、発育及び健康の向上を目的とした場合の最適な条件として判断されたため、採用されている(表2)。れんこんは母豚にも給与され、これによって母乳の出が良くなるそうである。
茨城県はれんこんの生産量が全国一の産地であるが、その発端は減反政策によりれんこんの生産振興が始まったことだ。茨城県は地下水が豊富であるためれんこんの生産に適していることも要因の一つである。また、れんこんは台風があっても安定して供給できることから、近年は、年間を通して使用される食材になっている。以前は中国から輸入されたれんこんが国内加工業者に仕向けられていたが、2007年12月から2008年1月にかけて日本国内の10人が中毒症状を訴え、後にギョーザから殺虫剤が検出された中国冷凍ギョーザ事件以降、れんこんの調達を国産に切り替えた国内加工業者が増加したという。参考資料によれば、れんこんはビタミンCなどを多く含み、老化防止やガン予防、疲労回復にも効果がある。
広原畜産では堆肥製造のためにもみ殻を使い、約3カ月かけて完熟させている。皆川氏は、養豚からの堆肥の中でも、広原畜産のものは良質であると評価している(写真3)。
れんこんセンターにおける規格外れんこんの発生率は10%もない(写真4)。規格外れんこんは夏場を除くほぼ毎日調達できるが、そのまま保存はできないので、すぐに加工しなければならない。参考資料によると、夏場はれんこんの端境期でその確保が難しくなるので、蓮根豚を周年出荷できなくなるという問題があったが、牧草サイレージを参考に、茨城県畜産センターの畜産研究所と連携し、サイレージ化の試験を実施し、密閉・乾燥方法などを検討した結果、長期貯蔵に成功した。それにより蓮根豚の周年出荷も可能となっている。
5 蓮根豚、れんこん、堆肥、規格外れんこんの流通 |
広原畜産では、蓮根豚の飼養を2010年に開始した。先述したように、それ以前から豚へのれんこんの給与方法と肉質の関係を研究していた。2011年には県の補助事業「食と農のチャレンジ事業」を利用して加工施設も作った。また、蓮根豚の部分肉をJA全農ミートフーズから買戻し、それを加工して販売するようになっている。
広原畜産は蓮根豚を飲食店6店に供給するとともに、ギフトセットとしても販売している。ギフトセットはインターネットの「蓮根豚ドットコム(http://renkonbuta.com/)」や「スマートファームマーケット(https://smafa.jp/smafa/)」を介して販売している。インターネットを介して販売する場合の商品やその価格は広原畜産が独自で考えている。
蓮根豚取扱飲食店の豚串豊司では、蓮根豚を使ったメニューとして、「とんとろ」「ばらなんこつ」「かたろーす」「ばら」「つくね」といった豚串、「しゃぶしゃぶ鍋」「ステーキ」などを提供している(写真5)。この店は調査時点では、開店して7カ月と新しく、蓮根豚を取り扱うようになった理由は、店主の先輩と広原畜産の代表取締役が知り合いであるため、蓮根豚を食べる機会があり、おいしいと思ったためである。店主は地元のもの、他の店にまだないものを使用したいと考えていたため、蓮根豚は店主の地元産志向、差別化志向に応える食材でもあったといえる。広原畜産でスライスされた蓮根豚の肉は、広原畜産代表取締役の弟が店まで納品している。蓮根豚の肉の仕入価格は他の豚肉より高く設定されている。参考資料によれば、蓮根豚は他の茨城県産豚より1頭当たり単価が高く、このことは蓮根豚の価値がより高いことを表している。豚1頭当たり単価に加えて、豚肉への加工に要する費用を考慮して決まるであろう豚肉価格も蓮根豚の方が必然的に高くなり、蓮根豚の豚肉を確保するには他の豚肉より高い価格で仕入れることになるであろう。
JA土浦管内におけるれんこんの共販率は6割を超えるといわれる。れんこんセンターからのれんこんの年間売上は約9億円であるが、95%は卸売市場への出荷、残り5%が農協直売所での販売や小売である。出荷先となる卸売市場のほとんどは京浜、東北、大阪に位置し、れんこんセンターは12〜13社の卸売業者と取引関係にある。皆川氏は、現在、収穫したれんこんの調製作業まで独自で行ったものを1社のれんこん取扱専門業者に販売している。
皆川氏は広原畜産の堆肥を1袋当たり250円で購入している。この価格は、広原畜産代表取締役の先代である父の時に決めた価格で現在も変わっていない。広原畜産の堆肥は、皆川氏を含めて8〜9戸のれんこん農家だけに販売されている。広原畜産にはこれら農家から年間約3000袋の予約があるが、広原畜産でストックできるのは約1500袋である。堆肥は各れんこん農家まで広原畜産が輸送しているが、中には30〜40キロメートルの輸送もある。
規格外れんこんを広原畜産へ供給しているのはれんこんセンターである。れんこんセンターにおけるれんこん出荷のための利用者は75名である。ここではれんこんの選別、調製、箱詰め、出荷が行われている。皆川氏の場合、れんこんセンターを通しておらず、規格外れんこんは1社の加工業者へ販売している。
れんこんセンターで発生した規格外れんこんのうち、1割程度の量となる腐敗したものは産業廃棄物として扱われるが、それ以外の3割が広原畜産、残る7割のほとんどが特定の2社の加工業者に仕向けられている。産業廃棄物として処理する場合は、れんこんセンターが1キログラム当たり5円を支払うことになるが、広原畜産には無償、加工業者には有償(1キログラム当たり100〜300円)で供給されている。広原畜産に無償で供給することは、広原畜産とれんこんセンターの話し合いによって決められた。広原畜産はれんこんセンターへ規格外れんこんを、毎日引き取りに行っている。広原畜産にとって規格外れんこんは大半の時期において余るほどあるが、端境期には不足するため、JA土浦管内のかすみがうら市にある別の集荷場から引き取ることもある。
6 今後の蓮根豚の供給意向に伴う堆肥と規格外れんこんの地域内需給バランス |
広原畜産は、作業員を増員し母豚飼養頭数を80〜90頭に増頭したいと考えている。そうなれば年間1800〜1900頭の肉豚の出荷が可能となる。規模拡大を図ろうとするのは、蓮根豚の出荷ロットが拡大すると枝肉で大口需要者に販売できると考えられるからである。また堆肥の袋詰作業の機械化も考えている。
一方、れんこん農家の皆川氏は、堆肥を投入する際に注意すべきことは窒素過多を抑えることであるという。広原畜産からの完熟堆肥を利用することにより土が軟らかくなり、掘り取り作業がしやすくなるとともに、秀品率が上がりれんこんの価値が高まる効果もあるといわれている。この評判を聞きつけたれんこん農家からは、このような良い堆肥を入れたいという要望が多くなっているという。広原畜産の堆肥への潜在需要はあるといえるであろう。規格外れんこんは上述した通り広原畜産にとって端境期以外は余るほどあり、そのサイレージ化により長期貯蔵も技術的に確立されている。そのため、広原畜産が蓮根豚の供給を拡大させたとしても、増加する堆肥が地域のれんこん農家に余すことなく利用されると同時に、規格外れんこんが飼料として不足することなく確保できていくものと推察される。
7 規格外れんこんの飼料利用による広原畜産の経営への効果 |
飼料費については、規格外れんこんは無料であるが、肥育日数は増えることから、配合飼料費の削減は一定程度に留まる。獣医師料および医薬品費は、れんこんを給餌することにより豚が健康になったので低くなっている。一方で、れんこんを引き取りに行く分、労働時間が長くなるために、労働費は高まることになる。そのために、規格外れんこんを飼料として利用することによる豚の生産費の削減効果があるとはいえない。
しかし、参考資料には、1頭当たり単価は蓮根豚が他の茨城県産豚よりも高いという結果が示されており、このことは生産費に変化はなくても、れんこんのサイレージ化により蓮根豚の周年出荷が可能となっていることから、販売単価の上昇による利益増加に結び付くことを裏付けている。
8 おわりに |
以上に述べてきた耕畜連携は、地域内でれんこん農家からの規格外れんこんを広原畜産が利用し、広原畜産からの堆肥をれんこん農家が利用するという地域内循環型農業システムといえる。
もともと広原畜産からの堆肥をれんこん農家が利用する連携は存在したが、これに近年、規格外れんこんを広原畜産が飼料として利用するという連携が成立した。
このきっかけとしては豚肉の差別化を図り収益を上げたいという広原畜産の課題があり、それを達成するために、規格外れんこんの飼料利用に目が向けられたことである。この循環システムの構築に重要であったと思われるのは、規格外れんこんの豚への給餌や端境期のれんこん不足を解消するためのれんこんのサイレージ化という長期貯蔵の技術が確立できたこと、また規格外れんこんの引き取りや堆肥の供給のための輸送を広原畜産が精力的に担っていることである。
このシステムの構築により、れんこん農家にとってはれんこんの掘り取り作業がしやすくなることによる生産性の向上や秀品率が増加することによるれんこんの価値の上昇、れんこんセンターにとっては産業廃棄物としての規格外れんこんの処理費用の削減、広原畜産にとっては蓮根豚の一般豚との差別化による販売単価上昇といった効果が生まれた。
【付記】
現地調査に当たっては、株式会社広原畜産、JA土浦れんこんセンター、れんこん農家の皆川氏、蓮根豚取扱飲食店の豚串豊司の方々にご協力頂き、筆者の質問に対し懇切丁寧なご教示を頂きました。心より御礼申し上げます。
【参考資料】
茨城県かすみがうら市 廣原畜産 廣原賢「地域循環型農業で「蓮根豚」を育てる〜ブランド豚開発による収益UPの挑戦〜」(広原畜産より入手)