話 題 畜産の情報 2017年8月号

第11回全国和牛能力共進会宮城大会によせて
〜全国の代表牛が宮城に集う〜

公益社団法人全国和牛登録協会 専務理事兼事務局長 穴田 勝人


1 全国和牛能力共進会とは

全国和牛能力共進会(以下「全共」という)は、昭和41年の第1回岡山全共から数えて今回で11回目(表1)となる歴史と伝統ある和牛の共進会です。この全共が、形を変えながらもほぼ半世紀にわたって継続されてきた要因は、まず、全共がいわゆる“共進会”ではなく,“能力共進会”であると位置付けられていることが挙げられます。常に和牛の経済能力とその斉一性を高めることを意識し、その時代の要求に応じた改良目標と開催テーマが設定されることによって、地域における全共への取り組みが地域の和牛改良に直結し、地域の和牛が漸次良くなっていくことが期待できる仕組みとなっています。また、このことが地域の和牛ブランドを定着させるための一つの足掛かりともなります。どんな農産物でも品質がばらばらではブランドにはなり得ず、ブランド化には地域全体の高いレベルでの安定した品質が必須条件です。地域における全共への取り組みは、まず、改良目標を達成するにふさわしい牛を選抜することから始まり、計画的に子牛を生産・育成し、それらの中から数々の厳しい能力条件をクリアしたものが、県代表牛として全共の最終比較審査会場で実証展示されます。一方で、惜しくも県代表になれなかった牛においても地域の和牛改良をリードしていくためには必要な素材であり、これらのシステムが全共への取り組みを通じて繰り返され、改良の成果として積み上げられていくことが重要なのです。

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また、全共が継続されてきた第2の要因としては、日常の登記・登録事業と結び付いた形で全共が開催されていることも挙げられます。5年に一度全共に取り組むだけでは、なかなかその改良効果を積み上げることができませんし、また、改良の方向性も定着しません。全共はその準備期間が最も大事です。全共への取り組みを日常の登記・登録事業と結び付けて、会員ならびに関係者とともに改良目標に向かって改良を進めていくことが大事なことです。和牛は、こうした改良成果の積み重ねがあってはじめて、わが国独特の肉用種となり、日本固有の財産になっています。全共なくして今の和牛はあり得ません。

2 第11回全共宮城大会の特徴

第11回全共宮城大会(表2)の最も大きな特徴は、何と言っても過去最大規模の出品頭数となったことです。実は、前回の第10回全共長崎大会が開催された平成24年は、その直前に、口蹄疫、そして東日本大震災と国内で大きな災害が続き、和牛にとって将来への明るい希望が見いだしにくい時期でもありました。そのような状況の中で、多くの関係者の理解を得ながら開催にこぎ着け、和牛関係者から復興への足掛かりとなるような大きなエネルギーが沸き上がり、次の宮城大会を目指してより一層頑張ろうといった形で閉幕できたことが今回の出品頭数の拡大につながったものと考えられます。例えば、今回の初出品県としては、まず福岡県が挙げられます。福岡県は肉牛の部に初挑戦です。また、和歌山県は肉牛の部に出品したことはありましたが、種牛の部には初挑戦です。これらの地域では、いずれも博多和牛や熊野牛など地域ブランドの盛り上げとともに全共への出品が計画されました。

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また、開催県である宮城県は、東日本大震災により甚大な被害を受けましたが、全国各地域から集まった和牛関係者からの大きなエネルギーをもとに、震災からの復興(あるいは復旧)からさらに次のステージである再生、発展につながるような気持ちが込められていることも今大会の特徴です。

さらに、今回、付帯行事ですが、復興特別出品区として「高校の部」を初めて設定しました。高校生が出品に向けて取り組む一生懸命な姿を通じて、被災地の方々にもその勇気と感動が届けられるよう願っています。また、高校生が和牛や全共に対して関心を持ち、和牛の将来を担う後継者として育って欲しいとの願いも込められています。今回は、全国14県の高校が宮城県に集います。

3 宮城大会に期待する和牛の改良

宮城大会における和牛改良上の狙いは、開催テーマである「高めよう生産力 伝えよう和牛力 明日へつなぐ和牛生産」に盛り込まれています。また、各出品区の狙いについては、表3に示しています。今、和牛振興における重要な課題は繁殖基盤の拡充ですが、その課題に真正面から挑もうとしているのが「高めよう生産力」です。つまり、全共種牛の部には、和牛の繁殖能力を高め、分娩間隔を短縮し、子牛生産率を高めようという狙いがあります。

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また、肉牛の部には、和牛は効率的な牛肉生産が可能で、かつ“世界一美味しい牛肉”であるという和牛の魅力を発信する役割も含まれています。和牛の魅力を消費者にも理解いただき、和牛生産への関心が高まれば、さらに和牛肉の需要が増えることが期待されます。そうすれば、担い手も和牛経営に対して将来への希望を持ちながら、安心して経営を始めることができるのではないでしょうか。また、今回肉牛の部では新たな審査基準が採用されることとなり、BMS(注)ナンバー10以上は同点とし、その上で脂肪の質の評価を加味した序列化を行います。これはBMSナンバーで評価される脂肪交雑だけではなく、よりおいしい和牛肉を追究していくために必要な指標である脂肪の質にも着目した新たな牛肉の評価を実施しようとするものです。このように、全共肉牛の部に新たな価値観が導入されれば、今の消費者ニーズの多様化にも応えることができ、また新たな和牛の魅力が発見されることにも期待されます。このように「伝えよう和牛力」というテーマにおいて、新たな和牛の魅力を消費者も含めて広く伝えていくことも第11回全共宮城大会の役割です。さらに、地域の特色ある牛づくりが地域の和牛ブランドを支えており、全共を通じてそのことを広く示していくことも大事な役割です。現在,日本農業を取り巻く環境がさまざまな要因で不安定となっている中で、地域の和牛ブランドが地方創生の起爆剤として、また海外に向けては和牛肉が海外輸出への重要な品目として期待されているところです。このような点において、各方面から今後さらなる和牛生産の拡大が求められていく中で、将来、和牛が一層発展し、このことが「明日へつなぐ和牛生産」につながるものと期待しています。

4 おわりに

いよいよ第11回全共宮城大会最終比較審査まであと1カ月余りとなりました。宮城県での最終比較審査会場は、今までの全共と比較すると非常に交通の便が良いところに設置されています。従って、出品頭数も過去最大ということですが,期間中の来場者も過去最大規模になるのではないかと予想されています。多くの関係者の想いが詰まった5年に1度の全共ですので、できるだけ多くの方々に日本固有の財産である和牛を見ていただきたいと思っています。和牛に関心がある人はもちろんのこと、今まで和牛を見たことがない人も、ぜひ一度見に来てください。きっと和牛のことをより知ってもらえるきっかけになると思います。

(注) ビーフ・マーブリング・スタンダードの略で、「脂肪交雑」を評価するための基準。赤身の肉にどれだけサシ(霜降り)が入っているかでランクが異なる。12ランク中ナンバー12が最良。


(プロフィール)

平成3年4月    社団法人全国和牛登録協会入会

平成28年7月から 現職


				

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