特集:生産基盤の強化に向けて  畜産の情報 2017年2月号


オール香川県で取り組んだ「オリーブ牛」の戦略
〜畜産クラスター協議会「讃岐牛・オリーブ牛振興会」を対象に〜

岡山大学大学院環境生命科学研究科 教授 横溝 功



【要約】

 全国で畜産クラスター協議会が結成されているが、本稿で扱った「讃岐牛・オリーブ牛振興会」は、オール香川県で取り組まれた協議会である。篤農家の石井正樹氏の営農努力のプロセスを付加価値に実現するために、生産から流通までの多くのステークホルダーが集合しているところに、大きな特徴がある。「オリーブ牛」の消費は、現在、香川県内が多いが、増頭に伴い、県外への販路開拓にも力を入れている。今後は、香川県内での繁殖・肥育地域内一貫生産を目指すことが重要な戦略になる。

1 はじめに

畜産クラスター協議会である「讃岐牛・オリーブ牛振興会」(以下「本振興会」という)の魅力ある取り組みに、本稿では少しでも迫りたいと考えている。そのためには、まず、「讃岐さぬきうし」と「オリーブぎゅう」から説明をする必要がある。

両者とも香川県のブランド牛であるが、前者の「讃岐牛」は、昭和63年10月14日に商標登録されている。これは、香川県内で肥育された血統明瞭な黒毛和種で、その枝肉が(公社)日本食肉格付協会制定の牛枝肉取引規格の歩留等級のAとBであり、肉質等級の5、4等級が(金ラベル)になり、3等級が(銀ラベル)になるのである。

後者の「オリーブ牛」は、平成23年7月29日に商標登録されている。「讃岐牛」のうち1日1頭当たり100グラム以上、出荷前2カ月以上、「オリーブ飼料」を給与したものである。「讃岐牛」の商標登録から、「オリーブ牛」の商標登録まで20年以上が経過していることになる。オリーブ牛が誕生するまでには、生産者や関係者による、試行錯誤があったのである。

なお、本振興会の取組概要は次の通りである。

「地域内一貫経営体制の確立により、香川県独自ブランド「オリーブ牛」を確立し、関係者一体となって収益向上を図る取組」

また、取組内容は次の通りである。

「オリーブ牛の地域内一貫経営の体制を整備し、香川県生まれ香川県育ちのオリーブ牛を香川県内消費者向けに安定的に供給させるため、繁殖基盤および生産体制の強化を図る。」

「増頭及び品質向上させたオリーブ牛の県内と畜場への出荷を推進させることにより、オリーブ牛生産者のみならず、オリーブ農家、飼料製造者、県内流通・販売業者等の収益性を向上させることを目標とする。」

以上のように、取組概要にしても、取組内容にしても、「讃岐牛」という用語が一切使われていないことに留意する必要がある。「讃岐牛・オリーブ牛振興会」は、まさしく「オリーブ牛」の畜産クラスターということになる。

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2 「讃岐牛・オリーブ牛振興会」の萌芽

(1) 「オリーブ牛」の誕生

先行する「讃岐牛」は、各県の和牛がブランド化される中で、苦戦を強いられることになる。そのような中で、香川県小豆島の肥育農家の石井正樹氏が、新たなブランド化を模索することになる。すなわち、石井氏は、地域の遊休資源を飼料に用いることができないかという問題意識を持つのである。

香川県といえば、オリーブで有名である。特に、小豆島はオリーブの産地であり、全国で9割以上の生産量を占めている(写真1)。

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さて、平成19年10月に、第9回全国和牛能力共進会が鳥取県で開催されたが、そこではオレイン酸の含量が初めて測定され、順位決定の要素として取り入れられた。石井氏は、オリーブにも、多くのオレイン酸が含有していることに注目する。

そこで、石井氏は、島内のオリーブ搾油工場からオリーブの搾油粕をもらい、肥育牛に飼料として給与しようとしたのである。しかし、オリーブ果実は、たいへん渋く(搾油粕も同様)、そのままでは肥育牛の飼料にならなかった。

石井氏は、渋柿を干せば甘くなる原理を、搾油粕にも適用しようとした。搾油粕を天日干しして、食味の変化を狙ったのである。最適な風通しの場所を求めて、移動を繰り返すことになるため、人力での天日干しは、かなりの労働投入を要求することになる。しかし、この努力によって、牛の嗜好に合った飼料が生み出されることになった。すなわち、メイラード反応(注)を引き起こし、渋みから甘みに変化することになる。

以上のようにオリーブ飼料を給与した肥育牛を兵庫県加古川食肉地方卸売市場へ出荷したところ、市場で高い評価を得ている。

(注) 酵素を介さないで、糖とアミノ酸が結合する反応のことである。

(2) 「オリーブ牛」の普及

平成22年に、石井氏を中心に小豆島オリーブ牛研究会を立ち上げ、翌年からは、地元である土庄町内の小中学校の学校給食に、年に1度、「オリーブ牛」を提供している。このように当初、「オリーブ牛」は、小豆島だけで取り組まれていた。

23年に、「うどん県」を前面に打ち出していた香川県の浜田恵造知事は、「うどん県。それだけじゃない香川県」プロジェクトを打ち出し、香川県の農産物のブランド力強化に乗り出すことになる。その中に、「オリーブ牛」が位置付けられたのである。そして、24年に、生産者・流通業者・行政が一体となって、本振興会ができる。

22年度以降の「オリーブ牛」出荷頭数の推移は、表1の通りである。22年度に「オリーブ牛」生産者が3戸で、出荷頭数が115頭であったものが、27年度にはそれぞれ89戸、1817頭と大きく増加していることが分かる。22年度は、小豆島だけでの生産であったが、香川県全域に広がっている。なお、香川県は、29年度2100頭、32年度3000頭の出荷を目標としている。

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このように短期的に、「オリーブ牛」が拡大した理由は、図2に凝縮されている。すなわち、本振興会のメンバーが、生産者、香川県農業協同組合(以下「JA香川県」という)、香川県肉連、香川県畜産協会、香川県畜産課だけにとどまらず、指定販売店や指定料理店も含んでいるのである。さらには、その他のステークホルダーとして、オリーブ飼料製造業者、オリーブ農園、獣医師、普及員、関係団体も含まれている。まさしく図2にもあるように、川上(生産者)から川下(小売業者)まで参加した畜産クラスターといえるのである。

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(3) オリーブ飼料の供給体制

「オリーブ牛」確立のためには、安定したオリーブ飼料の供給が不可欠である。図2にも記載されているが、(株)東洋オリーブ、(株)アグリオリーブ小豆島、ほうしょうと、図には記載されていないが、(株)瀬戸内オリーブの4社がオリーブ飼料を供給している。法美匠は、経営形態が特定非営利活動法人の障害者福祉サービス事業所である。

また、(株)東洋オリーブは、小豆島と小豊島の生産者のみに供給を行っている。同社以外の3社は、香川県全県の生産者に供給している。

いずれも10月に収穫を開始し、1月まで搾油を行っている。搾油粕は、水分含量9%以下にまで乾燥させる。香川県全体のオリーブの栽培面積と収穫量の推移は、表2の通りである。栽培面積は、近年の健康ブームの影響で増加傾向にある。平成27年度のオリーブ収穫量は、394トンである。このうち約6割が搾油用で、約4割が新漬け用である。それ故、236トン(=394トン×60%)がオリーブ飼料の対象になる。オリーブ油の歩留まり率は約1割で、約9割が搾油粕になる。それ故、212トン(=236トン×90%)が搾油粕になる。この搾油粕を水分含量が9%程度になるまで乾燥させた時の歩留まりは約15%になる。それ故、32トン(=212トン×15%)が、オリーブ飼料の生産量になる。オリーブ飼料は、主としてJA香川県を通じて、生産者に供給される。

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なお、28年2月〜29年1月までの予想供給量は33.4トンであり、32トンの生産量との差は、前年度の在庫が用いられることになる。33.4トンの供給先は、「オリーブ牛」が18.4トン、「オリーブ豚」が15トンである。JA香川県では、低温倉庫で保存して、1年間かけて生産者に供給することになる。生産者への供給価格は1キログラム当たり514円である。

以上のように、オリーブ飼料が生産者に安定的に供給できるシステムが構築されていることが分かる。

3 各ステークホルダーの展開

以下では、オリーブ飼料製造業者として(株)アグリオリーブ小豆島(以下「アグリオリーブ小豆島」という)を、「オリーブ牛」生産者として合田畜産を、指定販売店として株式会社カワイを取り上げることにする。

(1) オリーブ飼料製造業者

アグリオリーブ小豆島は、自社農園11ヘクタールを所有する。内訳はオリーブ園が7ヘクタール、ミカン園が4ヘクタールである。代表取締役の秋長正幸氏が、オリーブの生産から加工、販売まで自社で一貫して行うモデルを確立している。自社農園で製造された搾油粕以外に、井上誠耕園などオリーブ生産者6経営体から、搾油粕を集めている。搾油粕は、自ら収集に行っている。調達コストは1トン当たり1万円である。平成27年度は、20トンのオリーブ飼料を製造している。

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20トンのオリーブ飼料を逆算すると、自社農園も含めて約130トン(=20トン÷15%)のオリーブ搾油粕を収集したことになる(写真3、4)。

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なお、この20トンのオリーブ飼料のうち、9割がJA香川県に販売され、1割が商系に販売される。この分配は、香川県が行うことになる。アグリオリーブ小豆島の販売価格は1キログラム当たり470円であるので、約940万円の売上高になる。生産原価の一部は次の通りである。合計では450万円である。

【生産原価の一部】

人件費  240万円(=30万円/月 × 8カ月)

光熱費   80万円(=10万円/月 × 8カ月)

原料仕入 130万円(=130トン×1万円/トン)

合計  450万円

さらに、生産原価に減価償却費などのコストが加わることになる。大切なことは、生産原価の人件費や原料仕入が、アグリオリーブ小豆島にとってはコストになるが、地域にとっては付加価値になり、お金が地域住民に還元されることである。その金額は、370万円(=240万円+130万円)になる。

もし、オリーブ粕が廃棄されていたら、上記の370万円は地域に生み出されていないことになる。

なお、香川県では、県独自に、オリーブ飼料製造業者が乾燥機などの施設投資を行う場合に、半額の補助を行い、オリーブ飼料供給体制の強化を図っている。

(2) 「オリーブ牛」生産者

合田畜産は、肉専用種230頭の肥育とトマト40アールの水耕栽培を行う複合経営である。労働力は、経営主の合田政光氏と夫人、息子の文彦氏と夫人、ならびに文彦氏の友人の5名である。観音寺市の海岸近くに立地し、近隣は、レタスやセロリーのハウス栽培が盛んである。現在、25戸がハウスで9ヘクタールの面積を経営している。25戸のうち12戸の経営者は若い。土壌は砂壌土であり、ハウスでは、10アール当たり6トンのたい肥が必要である。合田畜産のたい肥は地域の貴重な有機資源になっている。ちなみに、昭和53年に、耕種サイドが中心となって、合田畜産の敷地にたい肥舎を建築している。

合田畜産が「オリーブ牛」を開始したのは、平成23年である。参入の契機は、石井氏の成功が大きい。すなわち、石井氏の肥育牛が市場で評価されたことにある。また、香川県が、「オリーブ牛」を推進していたことも後押しになっている。

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合田畜産では、10カ月齢の肥育もと牛を導入し、約20カ月飼養して、30カ月齢の肥育牛で出荷している。肥育もと牛は、95%を長崎壱岐家畜市場から導入している。残りの5%は香川県内または鳥取県の家畜市場からである。2カ月に1回、政光氏は自ら長崎壱岐家畜市場へ出向き、セリで肥育もと牛を購入している。1回の上場頭数が600〜700頭であるが、合田畜産は20〜25頭を購入している。

政光氏によると、オリーブ飼料の抗酸化作用で、肥育牛の皮膚・細胞が若返るとのことであった。肥育牛の健康に、オリーブ飼料が貢献していることになる。

オリーブ飼料の給与量は、100グラム以上で、2カ月以上という条件であった。最低、6キログラムのオリーブ飼料を与えれば良いが、合田畜産では、平均すると75日間で、8〜9キログラムを給与している。オリーブ飼料のコストは、1キログラム当たり514円であるので、1頭当たり4112〜4626円ということになる。

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合田畜産では、肥育牛は、兵庫県加古川食肉地方卸売市場、神戸市中央卸売市場西部市場、香川県坂出食肉地方卸売市場で販売しているが、枝肉で1キログラム当たり100円の「オリーブ牛」のプレミアムがあるので、枝肉500キログラムとすれば、1頭当たり5万円の経済的メリットがあることになる。

前述のオリーブ飼料のコストを差し引くと、1頭当たり約4万5000円の経済的メリットということになる。

(3) 指定販売店

株式会社カワイ(以下「カワイ」という)は、大正15年10月創業の老舗の食肉加工会社である。曾祖父が、大阪から香川へ移住して、精肉販売を開業している。

河合伸一郎氏は4代目で、平成27年に社長に就任している。43歳と若く、従業員30名を擁している。取り扱う牛肉の6割が「オリーブ牛」である。仕入先は、香川県坂出食肉地方卸売市場と株式会社高松市食肉卸売市場公社であり、その割合は7:3である。

カワイの特徴は、枝肉のカットにこだわるところにある。社長含めて4名が脱骨を行っている。そのうち、2名が30年の経験を持っている。月に70〜80頭の牛肉を扱っているが、そのうち約20頭が枝肉での仕入れで、それ以外は、部分肉での仕入れである。従って、年間に約900頭の牛肉を扱っていることになる。6割が「オリーブ牛」であるので、約560頭の「オリーブ牛」を扱っていることになる。表1から、27年度の「オリーブ牛」出荷頭数が1817頭であるので、カワイのシェアが約3割ということになる(写真8、9、10)。

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高松市のりつりんに小売店を持っているが、卸売りが中心である。ホテル、飲食店、量販店、生活協同組合コープかがわに卸している。ホテルは、ロース・ヒレの需要が多い。焼肉などの飲食店は、ばらの需要が多い。また、生活協同組合コープかがわは、ももの需要が多い。このように多元的な卸売りで、さまざまな部位の販売を可能にしている。なお、県内での販売が9割で、県外への販売が1割である。圧倒的に県内で消費されていることが分かる。

カワイでは「オリーブ牛」の輸出も行っている。鹿児島県の株式会社ナンチクでと畜し、そこからロース・ヒレ・肩ロースの部分肉をシンガポール、米国へ輸出し、残りの部分肉はカワイが引き取って国内販売を行っている。輸出の実務は、JA香川県やJA全農ミートフーズ株式会社が担当している。現在、シンガポールへは月に1頭分輸出されているが、円高の影響で輸出は減少しているとのことであった。商談会には、伸一郎氏も出かけている。

以上のことから、輸出も行われているが、量的にはわずかであり、国内戦略が重要であることが分かる。現在は、香川県内を中心とした販売であるが、出荷頭数の拡大に従って、県外への販売が不可欠になってくる。

香川県では、優良繁殖雌牛の導入、県外販路拡大のため、首都圏では飲食店を対象としたセミナーを、関西圏では食肉市場の購買者である卸・仲卸業者へのセミナーを開催し、販売促進を図っている。

4 おわりに

本振興会は、篤農家の石井氏の営農努力のプロセスを付加価値に実現するために、生産から流通までの多くのステークホルダーが集合した畜産クラスターといえる。また、香川県の浜田恵造知事による「うどん県。それだけじゃない香川県」プロジェクトの役割が大きい。オール香川県で取り組む「オリーブ牛」ということになる。

今まで廃棄されていたオリーブ搾油粕を、オリーブ飼料に転換したところが優れている。前述のように、212トンの搾油粕が、32トンの高価なオリーブ飼料に生まれ変わったのである。これは、「オリーブ牛」だけではなく、「オリーブ豚」にも用いられている。アグリオリーブ小豆島では、オリーブ搾油粕の購入に、1トン当たり1万円を支払っていた。従って、212万円が搾油企業を経てオリーブ栽培者に新たに支払われることになる。また、前述のように、オリーブ飼料製造に伴う新たな雇用も生じることになる。20トンの製造で240万円分の雇用が生み出されていたので、32トンとすると、単純計算で384万円分(=240万円×32トン÷20トン)の雇用が生み出されることになる。

また、「オリーブ牛」生産者は、1頭当たり約4万5000円の経済的メリットを享受していた。それ故、平成27年度の「オリーブ牛」出荷頭数が1817頭であったので、約8000万円の経済的メリットを受けていたことになる。

今後、香川県では、29年度2100頭、32年度3000頭の出荷を目標としている。それ故、香川県内だけではなく、香川県外への販売促進が重要な戦略になる。そのためにも、香川県内での繁殖・肥育地域内一貫生産を目指すという戦略は、まさしく正鵠を射ている。本振興会の活動は、畜産クラスターを目指す他の事例にとっても、多くの教訓を与えてくれるのである。

本稿を作成するに当たり、合田畜産の合田政光様、文彦様、株式会社カワイ・代表取締役社長の河合伸一郎様、株式会社アグリオリーブ小豆島・代表取締役の秋長正幸様、JA香川県・営農部・畜産担当部長の次田尚兄様、香川県・農政水産部・畜産課・生産流通グループ副主幹の田中宏一様、課長補佐の澤野一浩様、主任の上村知子様、(公社)香川県畜産協会・事務局次長の藤井眞次様から多大なご協力を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。

【引用文献】

[1]豊 智行「オリーブ牛のブランド化」『平成23年度国産牛肉産地ブランド化に関する事例調査報告W』」
(公財)日本食肉消費総合センター、pp. 31-35

[2]香川県『オリーブ牛の秘密』、2014.1

[3]石井正樹「オリーブ粕の飼料化技術の開発と地域ブランド化の推進」JATAFFジャーナル、3(3)、pp. 12-15、2015.3

[4](公社)中央畜産会『畜産クラスター協議会 情報交換会報告書』、pp. 34-36、2015.3

[5]車谷泰子「オリーブ牛のブランドで香川県をPR」肉牛ジャーナル、pp. 1-5、2015.4

[6]本松秀敏「国内事例調査(7) 讃岐牛・オリーブ牛振興会−オリーブ飼料を給与したオリーブ牛の付加価値向上と販路拡大による収益力向上」『畜産クラスター事例調査報告書』(公社)中央畜産会、pp. 51-56、2016.3


				

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