特集:生産基盤の強化に向けて  畜産の情報 2017年2月号


繁殖雌牛増頭にまい進している
宮崎県・綾町・JA綾町の官民連携

中村学園大学 学長 甲斐 諭



【要約】

 黒毛和種の子牛価格の上昇は、直接的には子牛を出産する繁殖牛の減少が要因であるが、その遠因としては繁殖牛を飼養していた南九州などの大都市から遠隔地に立地している高齢繁殖牛飼養農家の脱農である。過去の子牛市場データを分析したところ、当年の高い子牛価格は1年前の少ない繁殖牛頭数に影響されているが(負の関係)、4年後には繁殖牛頭数を増加させる効果(正の関係)があることが明らかになった。従って、いま繁殖牛を増頭すれば1年後には子牛価格が下落することが明らかになったが、問題はどのようにして繁殖牛を増頭するかである。そこで繁殖牛増頭に全県を挙げて取り組んでいる宮崎県と集中的に施設投資しているJA綾町を訪問した。

1 調査研究の背景と目的および方法

和子牛価格が高騰しており、和牛枝肉価格がもし大幅に下落すれば肥育牛経営が大きな被害を受ける可能性がある。和子牛価格の高騰を抑制しなければ、肥育牛経営のリスクが増大するし、和牛肉が庶民の食べ物ではなくなってしまう。和子牛価格の高騰を抑制するには和子牛を生産する繁殖雌牛頭数を増加させる必要がある。まず、和子牛価格と繁殖雌牛頭数との間にはどのような関係があるのか検討してみよう。

図1に全国の肉用牛の繁殖雌牛頭数と主要子牛市場における黒毛和種の子牛価格(毎年9月第3週の平均価格)を示す。近年の肉用牛の繁殖雌牛頭数は平成22年の68万4000頭をピークに減少し、27年には58万頭まで減少したが、28年には58万9000頭に若干ながら増加している。同図から、23年から繁殖雌牛頭数が減少すると、逆に子牛価格は上昇していることがわかる。

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子牛価格と繁殖雌牛頭数とはどのような関係にあるのだろうか。その関係を明示したのが、図2と半対数直線式の(1)式である。

log(Pt)=4.58888−0.003003329Ht−1・・(1)

        (−6.604)

            R2=0.770

ただし、Pt=当年の子牛価格

    Ht−1=1年前の繁殖雌牛頭数

    ( )内の数値=t値

    R2=決定係数

である。

同図と同式によれば、14年から28年までの全国の当年の子牛価格の変動は、全国の1年前の繁殖雌牛頭数の変動によって77.0%説明される(R2=0.770)。

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では、逆に当年の子牛価格は繁殖雌牛頭数にどのような影響を与えるのであろうか。その関係を明示したのが、図3と直線式の(2)である。

Ht+4=380.698+0.59588Pt・・・・・・(2)

         (4.737)

              R2=0.692

ただし、Pt=当年の子牛価格

    Ht+4=4年後の繁殖雌牛頭数

    ( )内の数値=t値

    R2=決定係数

である。

同図と同式によれば、17年から28年までの全国の当年の子牛価格の変動は、全国の4年後の繁殖雌牛頭数の変動に69.2%の影響を与えることがわかった(R2=0.692)。

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以上の繁殖雌牛頭数と子牛価格の関係を整理すると、図4のようになる。当年の繁殖雌牛頭数は1年後の子牛価格に負の影響(繁殖雌牛頭数が少なくなると子牛価格が上昇する)をし、それは5(=1+4)年後の繁殖雌牛頭数に正の影響(子牛価格が上昇すれば、繁殖雌牛頭数は増加する)をすることが明らかになった。

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本研究では、以上の関係を考慮し、現在高騰している子牛価格を1年後に沈静化するためには、当年の繁殖雌牛頭数を増加させる必要があるとの認識の下、近年、官民を挙げて繁殖雌牛頭数の増加に熱心に取り組んでいる宮崎県と同県内の綾町農業協同組合(以下「JA綾町」という)の取り組みを分析し、今後の繁殖雌牛頭数増加対策を考察する。

2 宮崎県における繁殖雌牛増頭の取り組み

(1)宮崎県農業における肉用牛の重要性

宮崎県では、平地から山間地に至る変化に富んだ地形、豊かな大地と清浄な空気および水などの資源を生かし、畜産と施設園芸を中心に、付加価値の高い農業が展開されている。

表1に示すように宮崎県は、農家数が3万8400戸(全国の1.8%のシェア)、耕地面積は6万8200ヘクタール(同1.5%)ではあるが、農業産出額は約3326億円であり、全国(約8兆4000億円)の4%のシェアを誇り、全国有数の食料供給基地となっている。ちなみに農業産出額は全国第5位である〔3〕。

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表2に宮崎県の農業産出額の推移を示す。平成22年に同県で発生した口蹄疫により多くの牛、豚が殺処分されたために畜産部門の農業産出額減少が主因となって、23年には農業産出額が減少したが、24年からは農業産出額は増加傾向を維持している。近年、農業産出額が減少している全国の傾向〔4〕と比較すると対照的である。

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同県の増加を続ける農業産出額をけん引しているのが、畜産部門である。その畜産部門の農業産出額の内訳を示したのが図5である〔5〕。同図から畜産部門の中でも肉用牛が大きなシェアを占め、宮崎県農業の振興には肉用牛、なかんずく繁殖雌牛の増頭が重要であることがわかる。

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(2)宮崎県における繁殖雌牛増頭の取り組み

宮崎県における平成28年の肉用牛飼養頭数は24万4000頭であり、全国の9.8%(全国第3位)を占めているが、黒毛和種に限定すると21万頭であり、全国の13.2%(同2位)を占めている。同県は黒毛和種の子牛の大産地であり、繁殖雌牛増頭が同県の農政上の最重要課題の一つになっている。

しかし、その繁殖雌牛を飼養する経営は非常に零細であり、表3に示すように子取り用めす牛(農林水産省「畜産統計」では繁殖雌牛を「子取り用めす牛」と表現している)9頭以下層の経営が66%(平成28年)を占めており、この零細性の克服が課題となっている。20頭以上層では飼養戸数の増加が顕著である。

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宮崎県では表4に示した「酪農・肉用牛生産近代化計画書」の中で繁殖雌牛頭数を25年度の7万7000頭から37年度には8万3000頭に6000頭増頭する計画を策定し、各般の施策を展開している。

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その具体化のために、26年度から県内を9地域に区分し、官民の畜産関係者・団体が緊密に連携して「人・牛プラン」を策定している。各地区のプランでは、地域の実情に応じた繁殖基盤強化の振興方針を定め、「地域の担い手をどのように育成していくのか」、「どのように増頭を図っていくのか」などを検討している。具体的には(1)個々の経営における飼養規模の拡大に取り組むほか、(2)キャトル・ステーション(CS)やキャトル・ブリーディング・ステーション(CBS)への預託などを通じた地域全体での増頭、(3)大規模繁殖施設の整備、(4)定期的な繁殖検診や情報通信技術(ICT)などの活用による分娩間隔の短縮や事故率低減など生産性向上に熱心に取り組んでいる〔6〕。

同県では県庁、県出先機関、役場、農協の関係者が各地区において会議を重ねて作成した「人・牛プラン」に基づき、生産者団体などは畜産クラスターの仕組みを活用しつつ、図6のように地域の飼養規模を拡大するためのCS・CBSの整備を進め、地域で繁殖・育成を集約化する体制の整備を推進している。また、図7のように新規就農者などを対象にして生産者団体などが入植施設を整備している。

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その官民挙げての懸命な努力の結果、表5のように繁殖雌牛頭数は27年から28年にかけて4.0%増加しており、全国の1.5%の増加に比較して、特筆に値する。

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3 綾町とJA綾町における繁殖雌牛増頭の取り組み

(1)綾町とJA綾町の概要

調査対象地である宮崎県の綾町とJA綾町は、図6と図7に示すように宮崎県のほぼ中央に位置している。同町は東部に広がる宮崎平野と背後の九州中央山地の接点に位置する中山間地域に立地しており、特に土の自然生態系を取り戻し化学肥料や農薬などの合成化学物質の利用を排除する農法により、食の安全と消費者に信頼され愛される農業を確立するため、平成元年に「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定し、生産者・農協・町が一体となって「自然生態系有機農業の町づくり」にも取り組んでいる。

住民基本台帳から総人口の変化をみると、23年の7584人から26年の7663人に3年間で79人(1.0%)増加している。27年の総世帯数は2851戸であり、うち総農家数は16%の465戸である。

JA綾町は昭和23年に設立され、平成28年7月末現在の正組合員数は697名、准組合員数は704名合計1401名の未合併農協である。同農協の受託販売品取扱実績を表6に示す。24年度以降確実に総額が増加しているが、それに大きく貢献しているのが畜産であり、その主体は繁殖雌牛から生産された子牛の販売額(5億6500万円)の増加である。その他には牛(3億4000万円)と豚の枝肉販売収入が含まれる。肉用牛部門が全体の29.9%を占めている。

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図6と図7に示すように同JA管内には繁殖センターやキャトルステーションなどが集中的に設置されている。宮崎県内では比較的多く、支援施設の整備が進んでいる地域である。

表7に示すように、繁殖牛は27年の1230頭から28年には1290頭に4.9%増加している。同様の数値を示した表5の全国の1.5%、宮崎県の4.0%に比較して高い増加率になっている。以下、繁殖雌牛増頭の要因を検討しよう。

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(2)綾町とJA綾町における官民連携による繁殖雌牛増頭の取り組み

昭和59年以降の綾町とJA綾町における肉用牛関連施設の設置の経緯と目的などを振り返ってみよう。

(1) 昭和59年に「JA綾町肥育センター」がJA直営肥育施設として設立された。規模は80頭肥育牛舎が2棟(計160頭収容可能)であった。当時、子牛価格が安く、JA綾町が子牛を市場で買い支えることによって、繁殖雌牛飼養農家を維持し、地域内一貫体制を推進するものとして期待された。

(2) 平成5年に「JA綾町キャトルステーション」が設立された。2つの施設があり、第1は「子牛預託施設」(100頭の育成牛舎1棟)であり、目的は3カ月齢の子牛をセリ出荷時まで1日当たり450円で農家から預かることで、農家の労力を軽減し、併せて農家の牛舎の空きスペースを活用した繁殖雌牛の増頭であった。第2は「JA直営肥育施設」(2棟で肥育牛200頭収容)であり、目的はJA綾町が子牛を市場で買い支えることによって、繁殖雌牛飼養農家を維持し、地域内一貫体制を推進することであった。

(3)平成7年に「JA綾町マザーファーム」が入植施設として設立された。規模は繁殖雌牛頭数60頭牛舎3棟であり、繁殖雌牛飼養の中核農家として2戸の入植を図り、地域の繁殖雌牛飼養基盤の強化を促進した。

(4)平成9年に「JA綾町肉用牛総合育成センター(リーリングファーム)」が設立された。2つの施設があり、第1は「子牛預託施設」(100頭の育成牛舎1棟)であり、目的は3カ月齢の子牛をセリ出荷時まで1日当たり450円で農家から預かることで、農家の労力を軽減し、併せて農家の牛舎の空きスペースを活用した繁殖雌牛の増頭であった。第2は「育成牛供給施設」(100頭収容の育成牛舎1棟)であり、目的は受精卵移植技術などを活用し、資質が優れた繁殖雌牛を生産・育成して、JA綾町管内の農家に供給することで管内繁殖雌牛群のレベルアップであった。

(5)平成26年に町営の「綾町肉用牛総合支援センター」が設立され、JA綾町が指定管理者として運営に当たっている。3つの施設があり、第1は「母子預託施設」(母子30頭の授乳牛舎1棟と母子128頭の授乳牛舎1棟)であり、目的は分娩直後の母牛と子牛を農家から預かることで、農家の労力を軽減し、農家の牛舎の空きスペースを活用した繁殖雌牛増頭と分娩間隔の短縮ならびに子牛の斉一性の向上であった。第2は「不妊・育成牛預託施設」(56頭の不妊牛・育成牛舎1棟)であり、目的は長期不受胎牛を牛舎併設の放牧場を活用した飼養環境の改善により、受胎成績の改善を図り、地域の分娩間隔を短縮することであった。第3は「堆肥発酵処理施設」(堆肥舎2棟と堆肥発酵処理施設1棟)であり、目的は施設内で排出される家畜排泄物から優良堆肥を作り、町内の耕種農家に供給することによって地域内耕畜連携を推進することであった。

(6)平成28年には「JA綾町哺育センター」と「JA綾町尾立繁殖センター」の設置が計画されている。

上記の昭和59年から平成26年までのJA綾町における繁殖雌牛増頭の取り組みを総合的にちょうかんしたものが図8である。それらの取り組みの成果が表7に示した繁殖雌牛頭数の増加と理解される。

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(3)JA綾町管内の3施設の繁殖雌牛基盤強化に果たす機能と役割

上記の各施設のうち特にJA綾町キャトルステーションとJA綾町肉用牛総合育成センター(リーリングファーム)および綾町肉用牛総合支援センターの3施設が繁殖雌牛基盤強化に果たす機能を整理したものが表8である。

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3施設は分業化推進、事故率低減、斉一性向上、増頭効果、完全預託、分娩間隔短縮によって、繁殖雌牛基盤強化の機能を果している。

(4)JA綾町キャトルステーションの成果

JA綾町キャトルステーション(以下「キャトルステーション」という)は、平成5年度の低コスト肉用牛生産実証展示事業によって建設された。総事業費は約1億円であり、国庫補助が50%、町補助が20%であった。前述のように3カ月齢までの子牛を市場出荷までの約6カ月間預託育成を引き受ける施設である。

そこで育成された子牛の市場価格は表9の通りである。同表をみるとキャトルステーションから出荷された子牛の販売価格は、綾町内や宮崎県内の子牛価格より高い。ちなみに、26年では町内より1頭当たり5312円高く、県内より1万160円高い。

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キャトルステーションが受け入れた子牛には直ちにワクチンが接種され、健康管理に万全が期されており、粗飼料を十分に給与されていることが肥育業者から高く評価されている。また、預託育成された肥育もと牛は群飼されているので、肥育牛舎に導入される時、飼いやすく、総じて規格が揃っていて、その後の肥育効率が優れている点も挙げられる。これらの特長が評価され、市場平均より高くなっている〔7〕。

キャトルステーションへの子牛導入事業の円滑な推進のため、綾町、JA綾町、契約農家の3者でキャトルステーションに預託された子牛の価格保証と事故補償を行うため、基金を造成している。ちなみに1億円を限度として、子牛1頭当たり契約農家1万円、綾町4万円、JA綾町1万7000円、合計6万7000円を造成している。この基金制度は、国の肉用子牛生産者補給金制度と連動しており、独自の保証基準価格を35万円に設定し、セリ市平均価格が35万円を下回った場合に3万6800円((35万円−30万4000円)× 0.8)を上限として、その差額の80%を補塡する。さらに、キャトルステーション内で事故が発生した場合は導入月齢に応じて最高35万円まで補償する仕組みである。

キャトルステーションには肥育牛舎もある。そこから出荷された肥育牛の肉質を表示したのが、表10である。同表は、5等級率ならびに4等級と5等級を含めた上物率を示しているが、宮崎県全体と比較して肉質は常に高く、優れた肥育技術が食肉業界からも高く評価されていることがわかる。

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(5)綾町肉用牛総合支援センターの成果

前述の平成26年に設立された町営の「綾町肉用牛総合支援センター」(JA綾町が指定管理者)は、農山村地域整備交付金(畜産担い手育成総合整備事業:事業主体は宮崎県農業振興公社)により、総事業費約2億2000万円(国庫約1億円、県費約1000万円、町費約1億1000万円)を投入して設置されたものである。

全体面積は約5万3000平方メートル、施設用面積は約2万4000平方メートル、飼料用畑約2万平方メートル、その他約1万平方メートルである。その中に授乳牛舎2棟(繁殖牛158頭、子牛158頭収容可能)と繁殖・不妊・育成牛舎(繁殖牛56頭収容可能)が設けられている(その他堆肥舎なども併設)。

第1の機能である「母子預託施設」では、図9に示すように、分娩後1週間前後の母子牛をセットで預かり、適正な飼養管理の下で離乳までの間(90〜120日)に、母牛は人工授精を実施し、受胎確認後農家へ返還している。子牛は3カ月齢で前述のキャトルステーションへ移行している。

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26年11月〜28年3月までの受入実績をみると、(1)総受入母子頭数は158頭であり、そのうち138頭への受胎に成功している(受胎率87.3%)。また、(2)受胎牛(138頭)の平均分娩間隔は388日であり、平成27年の綾町の平均分娩間隔の423日より35日の分娩間隔の短縮に成功している。

第2の機能である「不妊・育成牛預託施設」では、図10に示すように、長期不受胎牛を預かり、施設に併設された屋外パドックによる簡易放牧の実施や、発情発見装置の活用、2週間ごとのNOSAI獣医の診療などを活用して、受胎を試み、受胎確認後農家に返還している。

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26年11月〜28年3月までの受入実績をみると、(1)総受入長期不受胎牛95頭のうち、84頭への受胎に成功している(受胎率88.4%)。(2)受入牛の平均空胎日数は347日(最大1618日)と分娩間隔600日以上の牛であったが、受胎成功牛の施設受入から受胎まで平均日数は85日であり、管内の長期不受胎牛の解消に大きな効果があり、綾町内の分娩間隔短縮に大きく貢献している。

以上の第1と第2の機能により、綾町内の分娩間隔が短縮し、子牛生産頭数が増加した結果、農家所得の向上に綾町肉用牛総合支援センターは大きく寄与していると評価される。

4 官民連携による繁殖雌牛増頭の重要性

和子牛価格が高騰している。この高騰を抑制しなければ、肥育牛経営のリスクが増大する。その対策として子牛を生産する繁殖雌牛増頭施策が全国各地で展開されている。繁殖雌牛増頭施策には3つのタイプがあると思う。第1は県・地方自治体・農協による官民連携型、第2は個別農業経営多頭化型、第3は大手資本の垂直的統合型である。

本稿の事例は第1の官民連携型であり、宮崎県・綾町・JA綾町が緊密に連携して、国の補助金などを活用して、各種の施設を展開している。特に、(1)全国に先駆けて設置された子牛預託施設であるキャトルステーションでは子牛をセリ出荷時まで預かり、農家の労力を軽減するとともに農家の牛舎の空きスペースを活用して繁殖雌牛の増頭を可能にしていた。(2)併設された肥育施設ではキャトルステーションなどから導入された肥育もと牛を農協職員の高い肥育技術により上物率を高め、農家所得の向上に貢献していた。(3)マザーファームでは繁殖雌牛飼養の中核農家を入植させ、地域の繁殖雌牛飼養基盤の強化を促進していた。(4)育成牛供給施設では受精卵移植技術などを活用し、資質が優れた繁殖雌牛を生産・育成して、農家に供給し、管内繁殖雌牛群のレベルアップを図っていた。(5)不妊・育成牛預託施設では長期不受胎牛の解消に大きな効果を発揮し、町内の分娩間隔短縮と生産率向上に大きく貢献していた。

これらの官民連携による同一農協内の多様な取り組みは他地域のモデルとして高く評価される。

【参考文献】

〔1〕農林水産省「食肉鶏卵をめぐる情勢」平成28年9月。

〔2〕農畜産業振興機構「主要な家畜市場における子牛の取引状況(黒毛和種)」各年。

〔3〕宮崎県「図説宮崎県の農業 2015」平成28年。

〔4〕農林水産省「平成27年度食料・農業・農村の動向」平成28年。

〔5〕農林水産省「生産農業所得統計」平成28年。

〔6〕宮崎県「酪農・肉用牛生産近代化計画書」平成28年6月。

〔7〕宮崎昭「肉用牛生産を活気づける組合活動」『畜産の研究』平成18年2月号。


				

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