調査・報告 専門調査  畜産の情報 2017年7月号


成長産業化ファンドを活用した肉用牛6次化ビジネスの拡大展開
〜鹿児島県の潟rースマイルプロジェクトを事例として〜

中村学園大学 流通科学部 准教授 中川 隆



【要約】

 かねてより大規模な肉用牛の6次化を手掛けてきた鹿児島県のカミチクグループが、(株)ビースマイルプロジェクトを立ち上げることで、6次化ビジネスの強化・拡充を図っている。株式会社農林漁業成長産業化支援機構のファンドによる出資額(約10億円)は過去最高の大規模事業であり、当該グループの経営はさらなる進化・発展を遂げている。その本質は、飼料生産から商品の研究開発、輸出を含めた販売まですべて自社で完結させる究極の肉用牛インテグレーションの促進であり、輸入飼料価格や子牛価格など畜産をめぐる外部環境に他律的に規定されることのない経営体の構築である。

1 はじめに

飼料生産に始まり牛の精液自給・繁殖・育成・肥育、食肉加工、商品開発、外食事業に至る肉用牛に係る大規模な6次化をかねてより手掛けてきた鹿児島県のカミチクグループが、(株)ビースマイルプロジェクトを立ち上げることで、6次化ビジネスのさらなる強化・拡充を図っている。株式会社農林漁業成長産業化支援機構(以下「A−FIVE」という)のファンド(以下「成長産業化ファンド」という)による1件当たりの出資額(約10億円)は過去最高となる大規模事業であり、カミチクグループの畜産経営はさらなる広がりをみせている。

本稿では、畜産経営の自由度の拡大といった視点から、鹿児島県の(株)ビースマイルプロジェクトを事例として、繁殖基盤強化から食肉センターの新設、外食・輸出拡大に至る畜産バリューチェーンの構築を進める肉用牛経営の実態と今後の可能性を検討する。

2 高度に統合化され拡大するカミチクグループの6次化ビジネス

(1)カミチクグループの概要

まず、巨大な企業グループ経営体であり、高度に統合化された6次産業を構成するカミチクグループの概要を以下に整理しておこう。

グループの1次産業を構成するのは、(有)錦江ファーム、(株)ケイファーム宮崎(2017年4月に「(株)カミチクファーム九州」に社名変更)、(株)ケイファーム熊本、(有)三州育成牧場、(株)伊佐牧場の5社である。肉用牛の繁殖・哺育・育成・肥育を担う前4社の飼養頭数は約1万8000頭であり、酪農を担う(株)伊佐牧場では乳用牛1000頭(搾乳牛750頭)が飼養されている。

2次産業は、食肉の製造・加工・企画・開発・販売を担う(株)カミチク、豚肉の製造・加工を担う(株)クオリティミートの2社により構成される。

3次産業は、本稿で事例とする(株)ビースマイルプロジェクトおよび(株)ケイファーマーズの2社により構成される。

これら1〜3次産業を束ねるのが(株)カミチクホールディングスであり、計10社によりカミチクグループは構成される。

グループ全体の従業員数は、1000名強である。売上額は約350億円で、半分弱は2次産業の(株)カミチクによる売上である。残りを1・3次産業でおよそ折半する形となっている。本社機能を有する(株)カミチクの概要を表1に示す。従業員150名を擁する同社の平均年齢は32歳と非常に若い。

と畜・解体は鹿児島食肉センター内の施設で行っており、部分肉カットやスライスカットを行っている。また、後述の(株)ビースマイルプロジェクトの一環として、将来的には食肉センターの整備も視野に入れている。

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(2)カミチクグループの発展経緯

カミチクグループは、2017年で33年目を迎える。表2にカミチクグループの沿革を示す。代表取締役会長の上村昌志氏は畜産農家の子息である(写真1)。大学を中途退学後、2年間ほど畜産経営に携わっている。その後、公益社団法人全国食肉学校で食肉について学んでいる。23歳で零細な食肉卸を共同で立ち上げ、1985年、有限会社上畜の設立に至っている(写真2)。

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かねてより、上村氏は従来の牛肉流通の在り方に疑問を持っていた。会社設立後には、九州大手の焼肉店社長や南九州最大手小売業社長などとの出会いがあり、いかに外食業者や小売業者に満足してもらうかを考えたとき、牛肉の高付加価値化が重要であると強く思うようになった。和牛肉だけでなく、多種多様な牛肉を客のニーズを満たすべく生産することを念頭に事業を展開し、外食展開を起点として事業に幅を持たせるようになった。

(3)消費者ニーズに対応したブランド牛肉と外食事業の展開

カミチクグループは、以下の4つの異なる特色を持つブランド牛肉を提供している。

ア 「4%の奇跡」

5等級でBMSナンバー10以上の鹿児島県産黒毛和種の牛肉であり、銘柄名は同等級の牛肉の中でも発生率がわずか4%という希少性に由来している。当該牛肉はカミチクグループが東京および大阪で展開する焼肉店「薩摩 牛の蔵」でのみ扱われている。

イ「薩摩牛」

品評会の歴代受賞者から選抜された生産者が育てた4等級以上の鹿児島県産黒毛和種の牛肉である。

ウ「元米牛」

飼料用米を加えた自社開発のTMR発酵飼料を給与し仕上げた肥育牛の牛肉であり、トウモロコシの代替飼料としての地元産米の活用により、特に、安全・安心を訴求している。大阪府のスーパーなどでも販売されている。

エ「ヘルシークイーンビーフ」

飼い直し肥育の後期に濃厚飼料とともに米ぬかを給与した経産肥育牛の牛肉である。低脂肪・低カロリーで、肉中にカルニチンやビタミンEなど老化防止成分が豊富に含まれていることを売りにしている。1年間肥育する「上」と6カ月間肥育する「並」の2種類があり、ユーザーのニーズに合わせ期間を調整している。

3 6次化ビジネスの基幹を成す有限会社錦江ファームの取り組みの実態

(1)カミチクの関連農場の展開過程

図1にカミチクグループの直営農場、預託農場、三州育成農場の立地を示す。本社のある鹿児島県を中心に、宮崎県、熊本県、大分県に約60の関連農場が立地している。

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当初は県内のみでの農場運営であった。鹿児島開拓畜産農業協同組合の経営破綻(2008年)、株式会社安愚楽牧場の経営破綻(2011年)により、各々が所有していた農場の一部の経営をカミチクグループが引き受けたことから、近年、農場数は急激に増加した(甲斐〔1〕)。とりわけ、後者の破綻においては、多くの牧場が立地していた地域(大隅半島)の衰退を防ぐ意味でも、カミチクグループが受け皿となり畜産経営を継承した経緯がある。農業の企業参入に積極的な大分県などからは企業誘致の関係で打診があった。現在では、政府系金融機関から畜産経営の再生に関する相談が来ている。

以下で検討する(有)錦江ファームは地域資源を活用したTMRを利用する大規模肉用牛経営法人であり(福田〔2〕)、カミチクグループの6次化ビジネスの基幹を成す農場である。

(2)金峰農場における牛飼養管理の実態

調査した(有)錦江ファームの直営農場の1つである金峰農場は、中山間地域である南さつま市金峰町に立地している(写真3)。ここでの肥育・繁殖・育成は15名(パート含む)で行っている。後述する飼料生産は10名で行っている。牛舎は肥育16棟、繁殖4棟、種牛2棟である。

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当該農場における牛飼養頭数は、現在、肥育牛1200頭、繁殖雌牛150頭、育成牛100頭、種雄牛15頭である(写真4)。育成雌牛を繁殖用にするか否かの選畜は8カ月齢で行う。血統に加えて骨格(体型)の良さや乳頭の形状などが基準であり、繁殖用7割、肥育用3割の比率である(錦江ファーム全体でみると、約4割が繁殖用)。繁殖雌牛は、図1でみたように約60箇所の直営農場および預託農場で飼養されている。

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子牛の導入先は鹿児島県内家畜市場(鹿児島、肝属、姶良など)であり、自家生産は約6割である。この比率は高まりつつあるものの、肥育牛の販売必要頭数を考えると、子牛は外部から調達せざるを得ない状況である。後述のように、ホルスタインやF1の借り腹による増頭の取り組みも行っている。

肥育牛の出荷月齢は28〜30カ月である。出荷した肥育牛の枝肉は550キログラム(去勢)、500キログラム(雌)であり、上物率は60〜70%である。経産牛の一部はカミチクグループ外にも出荷するが、ほとんどがグループ内出荷である。

飼料給与の特徴として、和牛には、粗飼料主体のTMRを給与している。穀物等を混合すると、ネズミ・カラスなどの被害に遭うリスクが高い。乳用牛にはフレッシュTMR(生のかす類など高水分飼料と濃厚飼料を混合させた未発酵のTMR)を給与している。

完熟堆肥の多くは、(株)伊佐牧場のコンポストバーン牛舎に敷料として戻している。そこでは、牛床に酵素を入れハエの発生を抑えるなどして臭いの発生を抑制している。また、堆肥の販売も行っており、当該農場近隣の茶農家、露地野菜農家などが購入している。

(3)高度な技術を要する繁殖雌牛の多頭飼養

金峰農場だけでも繁殖雌牛150頭を飼養している。当然ながら、多頭飼養となると、さまざまな困難な課題が発生する。受胎率の向上を図るため、飼料給与の面では、母牛の栄養管理やビタミンコントロールなどの課題があり、衛生管理の面では、獣医師との連携やワクチネーションの実施などの課題がある。当該農場内には家畜診療所が設置され、獣医師がエリアごとに配置されており、肺炎を罹患する牛などの治療にあたる。

なお、経産肥育牛の飼養に関連し、近年、「交雑種1産取り肥育」がにわかに注目されている。カミチクグループにおいても、和子牛の繁殖を行いながら肥育牛も提供できるこのモデルには、繁殖基盤強化の視点からも大きな可能性があると考えている。錦江ファームでは、1カ月当たり交雑種の雌牛など40頭に和牛受精卵を移植させ、繁殖させており、受精卵自体も自社生産している。

(4)低コストで精液を自給する家畜人工授精所と乳肉一貫体制

当該農場敷地内に2008年に設けられた家畜人工授精所では、採卵用和牛(ドナー牛)とともに種雄牛15頭(うち半分が検定済み)が飼養されている。受精卵移植のための採卵と優秀な種雄牛の精液採取、凍結保存(永久保存)、そして雌牛への人工授精が行われている。ここでのドナー牛とは、A5等級BMSナンバー9以上の枝肉の実績のあった和牛を親とする雌子牛であり、これらを選定し採卵している。受精卵移植によって生まれた子牛はロボットで自動哺乳している。

この人工授精所の取り組みにより、一般には高価な精液を外部調達する必要がなく、低コストでの精液自給が可能となっており、カミチクグループの低コスト和牛生産および牛肉の安定供給を支える重要な基盤になっている。

さらに、この取り組みは、ホルスタインの育成牛に和牛の受精卵を移植し、和子牛を産ませる乳肉一貫体制による酪農を機能させている。妊娠して分娩期が近づいた牛は、(株)伊佐牧場に戻している。この母牛から搾乳される生乳を使用した牛乳・乳製品は、カミチクグループのオリジナルブランドとして有利販売される。このような乳肉一貫体制も、子牛生産費の節減など、畜産物生産のコストダウンに寄与していることは明らかである。

(5)地域資源循環の核となるTMRセンターの取り組み 

2009年、金峰農場敷地内に、TMRセンターが設立されている(写真5)。稼働時間は7時30分から17時であり、従業員10名が飼料製造に携わっている。TMR発酵飼料の製造量は平均1日当たり80トンであり、脱水ケーキの発生が多い9〜12月は1日当たり100トンの製造量である。

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当センターは、地域資源を活用した飼料生産拠点として機能している。この取り組みは休耕地活用や農家への堆肥還元につながり、地域資源循環の核となる機能を果たすことで「環境保全型畜産」を実現させている(図2)。

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同センターは九州一円の約800戸の農家から稲WCS、飼料用米、稲わら、麦わら、イタリアンライグラスおよび野草を、南九州の食品企業から食品副産物(焼酎かす、でん粉かす、パイナップルかす、醤油かす、ビールかす、おからなど)を調達している。稲WCSや飼料用米は、熊本県と大分県から調達している(写真6)。これらの粗飼料や飼料用米の鹿児島県内での加工・利用は運賃がかかるので、大分県でTMRセンターを設立することでコスト削減を図る考えもあるが、今後は米作の盛んな鹿児島県伊佐市からの調達を増加させる意向である。飼料用米は、玄米の状態でフレコンバックにより大分県内から調達・運搬しており、品質が良好に保たれる期間(収穫後の翌年1月から5月まで)内に使い切るようにしている。飼料用米の安定調達のためにも、このような耕種農家との連携の継続は重要である。醤油かすやビールかすは、問屋を通じて調達している。これらを原料に、育成用・和牛繁殖用・肥育前期用・肥育後期用・乳用牛用の5種のTMR発酵飼料を製造している。

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9月から12月にかけては地元の薩摩酒造の焼酎かすが大量に発生しており、2016年10月現在、脱水ケーキ(水分80%)を1日当たり約30トン搬入している(写真7)。1月以降においては、熊本県人吉市の球磨焼酎の濃縮液(50%水分)を1キログラム当たり5円から6円で調達している。運搬はタンクローリーで行っており、1カ月当たり3〜4回調達する。

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焼酎かすは、稲WCSや稲わらなど繊維部分と一緒にラップに巻いて1カ月以上長期保管し乳酸発酵させたあと、牛に給与する。発酵の際、年間を通じて品質が変わらないよう留意している。

同センターで生産したTMR発酵飼料を九州内の畜産農家に供給することで、彼らの飼料費も約3割節減される。すでに何戸もの繁殖農家、肥育農家が黒字に転換させている。このように、TMR発酵飼料は畜産農家にも販売しているが、自社での利用がほとんどである(写真8)。

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4 (株)ビースマイルプロジェクトによる6次化ビジネスの拡大

(1)(株)ビースマイルプロジェクトの概要

本稿が焦点を当てる(株)ビースマイルプロジェクト(Be Smile Project;以下「BSP」という)は2016年4月、南九州の農業や畜産の再生・強化を目指し、前述の錦江ファーム(1次産業事業者)、地場大手企業(パートナー企業)、A−FIVEおよびサブファンドによる出資を受けて設立された企業(6次化事業体)である。設立の背景には、地域農業においては、雇用の受け皿としての企業の役割がきわめて重要であり、地方創生は農業で可能であるとする上村氏の強い思いがある。後述するが、海外展開することで南九州発のブランドとして世界に打って出たいという熱い思いもあり、さらに、それを成功モデルとして全国に普及させたいと考えている。BSPの概要を図3に示す。

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BSPは、飼料生産からもと牛生産・肥育・食肉加工販売・外食・輸出までの一貫したバリューチェーンの構築を目的とした6次化事業体であり、そのスキームは「いかにコストのかからない仕組みで牛肉を生産するか」という点に重点を置き、以下の3つの事業を柱に展開される。

ア 外食事業

出口戦略であり、カミチクグループの外食展開のノウハウやパートナー企業との連携により、飲食店の出店を拡大させる。

イ 食肉加工事業

輸出を視野に食肉センターの新設を計画し、世界市場に向けた牛肉の供給を目指す。

ウ TMRセンター事業

地域の耕種農家などと連携したTMRセンター事業を立ち上げることで、国内農産物を利用した安価で安心な飼料を供給する。これにより、耕作放棄地の解消、地域農業の再生を目指す。

(2)BSP立案の背景

当該プロジェクト立案の背景は以下のとおりである。

ア 国内の畜牛経営は、もと牛や海外産飼料の輸入価格高騰により、肥育農家の経営負担が大きくなってきており、繁殖農家においても、高齢化に伴い、後継者不足を抱えて廃業する事業者が散見されることである。

イ 上記の課題を解決するために、新設する6次化事業体で外食事業を行うことにより、農畜産物の出口を確保し、生産者が安心して生産に集中できる体制を構築することである。

ウ TMR飼料事業(コントラクター事業を含む)を立ち上げることで、国産農産物を利用した安価で安心な飼料供給を図りつつ、耕作放棄地の解消を目指すことである。

エ 縮小する国内需要への対応として、海外への販路拡大を目的に、輸出に必要な機能としての食肉加工事業を構想に含みつつ、和牛肉の輸出加速を検討していることである。

オ 生産の中核を担う(有)錦江ファームでは、和牛の増頭を図りながら、地域の肉牛生産者との連携を深め、廃業農家の受け皿となることを目指すことである。また、(株)伊佐牧場では、ホルスタインの増頭により受精卵移植などで、安価な和牛・交雑種のもと牛生産を拡大し、地域の連携肥育農家にもと牛を供給することで繁殖基盤強化を図ることである。

カ カミチクグループ自社の経営資源に加え、パートナー企業やA−FIVEのノウハウを得ながら、もと牛生産、飼料供給から肥育・加工販売・外食・輸出に至るまで、一貫したバリューチェーンを構築することにより、安心・安全・高付加価値の国産和牛などの製品づくりを確立し、持続・発展可能な企業規模での畜牛経営を、南九州を起点に全国および世界に向けて発信することである。

(3)BSPの重点事項

前述のように、和牛をはじめ国産牛肉を世界に向けて販売するため、食肉センターを建設する予定であり、BSPにおいて極めて重要な位置づけにある。

牛肉輸出は、わが国の畜産の今後の生き残りのためには欠かせないと上村氏は考えている。守るべきは弱体化している畜産農家であり、金融機関は畜産農家に貸し付けた資金が焦げ付くことを心配している面もあるが、政府系金融機関と連携し、そのような農家を守ることが重要な使命の1つであるとしている。

(4)海外での和牛肉の普及を視野に入れた外食事業の展開

2006年2月、カミチクグループは広尾に外食事業の第1号店舗を開店している。この背景には、東京都の一等地で鹿児島産和牛が通用するかを試したい思いがあった。2016年8月現在、飲食店は23店舗(東京8店、大阪13店、鹿児島2店)に拡大しており(写真9、写真10)、BSP発足以後、東京に2店、大阪に1店を新規に開店させている。今後3年以内に100店舗にまで外食事業を拡大する予定であり、現在ではM&Aについて相談の案件が1月当たり約3件はあるとのことである。

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また、カミチクグループでは海外から研修生を積極的に受け入れている。酪農部門においてベトナム人研修生6名(他に2名を正社員として雇用)、食肉処理ではインドネシア人研修生4名を受け入れている。また、近日、ベトナム、マレーシア、インドネシアに現地法人を設立する予定であり、そこで現地採用し、人材を日本に送り出すという構想を持っている。

海外には生産から食肉センターの基盤整備、流通、販売・外食に至るまで大きなチャンスがあると考えており、今後は、BSPによる6次化の拡大を政府の支援を受けながら海外で進める意向を持っている。とりわけ海外の外食事業においては、和牛肉の消費基盤がまだ弱い中で、まずは品種改良をはじめ大手商社などとも連携して牛肉文化の底上げを図る必要があると考えている。そのうえで、外食事業(特に「薩摩 牛の蔵」)を拡大展開させる構想を持っている。

(5)6次化ビジネスの核となる人材育成と有能な労働力の確保

言うまでもなく、社員教育は重要である。カミチクグループにおいては、上村氏自らが若手社員を対象に毎月、懇談会を行ったり、中堅社員には「継栄塾」と称した自己啓発の会合を持つなど人材育成にも積極的に投資している。社員に向け自らの思いを発信し、一緒に走るというスタイルをこれまで貫いてきた。また、その一方、組織の中核として期待する人材のヘッドハンティングも積極的に実施している。今後は、海外にBSPの子会社を設立するなど、現地の有能な労働力確保にも積極的に取り組む予定である。

5 おわりに

本稿では、鹿児島県のBSPを事例として、成長産業化ファンドを活用した大規模肉用牛経営の6次化ビジネスの実態を検討した。カミチクグループでは、かねてより、既存の6次化の枠組みを超えて飼料生産や精液自給に始まる肉用牛インテグレーションが進められてきた。それらを踏まえたうえで、カミチクグループの新たな動向として、食肉センターの建設により牛肉輸出の拡大を図り、海外においては和牛肉文化の普及を視野に入れた外食事業を展開させることで、6次化ビジネスのさらなる強化・拡充を図ろうとする構想を明らかにした。BSPにより、カミチクグループはさらなる進化・発展を遂げている。その本質は、飼料生産から商品の研究開発、輸出を含めた販売まですべて自社で完結させる究極の肉用牛インテグレーションの促進であり、輸入飼料価格や子牛価格など畜産をめぐる外部環境に他律的に規定されることのない経営体の構築である。

「南九州発のブランドとして世界に打って出たい。」この上村氏の思いに共鳴するような肉用牛経営が南九州のみならず全国各地に現れ、肉用牛6次化ビジネスの成功モデルとして、普及・展開することを期待したい。


【追記】

 本稿を草するに際し、調査にご協力頂いた株式会社カミチク代表取締役会長の上村昌志氏、有限会社錦江ファーム常務取締役の日明生氏、株式会社農林漁業成長産業化支援機構の関係者に大変お世話になりました。記して感謝の意を申し上げます。

【参考文献】

〔1〕甲斐諭「株式会社カミチクの畜産6次産業化の一環としての繁殖雌牛増頭戦略」日本食肉消費総合センター『国産牛肉が当面する課題と対応方向2016─和子牛増頭への取組みを中心に─』2017年3月

〔2〕福田晋「地域資源活用型TMRを利用した大規模肉用牛一貫経営の取り組み」農畜産業振興機構『畜産の情報』2014年2月号

〔3〕カミチクグループ資料


				

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