話 題 畜産の情報 2017年7月号

乳製品の動物検疫について

農林水産省 消費・安全局 動物衛生課 国際衛生対策室 室長 伊藤 和夫


1 はじめに

国境を越えた人・モノの移動がますます活発化する中で、いかに円滑な輸出入手続を実施するかが貿易上重要である。そのため、家畜の伝染性疾病の世界的な拡散を防止し、国内での発生・まん延を予防するためには、国内の防疫措置に加えて、空海港における「動物検疫」が重要である。

農林水産省動物検疫所では、現在、わが国が輸出入する以下の物品について、「動物検疫」を行っている。

1.牛、豚、めん羊、山羊、馬、家きんなどの動物

2.牛、豚、めん羊、山羊、馬、家きんなどに由来する肉・臓器(ハム、ソーセージ、ベーコン含む)、骨、皮、毛、羽、生乳、ふん、尿などの畜産物

3.穀物のわら、飼料用の乾草(輸入のみ)

動物検疫には、動物や畜産物を介して、家畜の伝染性疾病が輸入国に侵入しないようにするための「輸入検疫」と、輸出国から家畜の伝染性疾病を持ち出さないようにするための「輸出検疫」とがある。これらは、輸出国と輸入国の検疫協議の結果に基づき、輸出国の政府機関が、輸出される動物や畜産物が家畜の伝染性疾病を広げるおそれがないものであることを確認し、その旨を記載した検査証明書を発行し、輸入国の政府機関がその検査証明書を確認するとともに動物や畜産物を検査することによって行われる(図1)。

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わが国は、これまで、「生乳」以外の乳製品を動物検疫の対象としていなかったが、わが国畜産物の輸出に必要な検疫協議を進めていくために、国際基準や諸外国と同等の水準の動物検疫体制を築くことが求められている。このため、平成29年11月1日から、「生乳」以外の乳製品も動物検疫の対象に加えることとした。これにより、同日以降、対象となる乳製品をわが国に輸入する場合には、輸出国の政府機関が発行する検査証明書を取得し、動物検疫所の輸入検疫を受けることが必要となる。また、同時に、対象となる乳製品をわが国から輸出する場合にも、輸入国(仕向先国)側が日本の動物検疫所発行の輸出検疫証明書の添付を必要としているか否かにかかわらず、動物検疫所の輸出検疫を受けることが必要となる。

ここでは、平成29年11月1日から開始される乳製品の動物検疫について紹介したい。

2 背景および経緯

現在、わが国は、「農林水産業の輸出力強化戦略」に基づき、国を挙げて、わが国の農畜産物の輸出促進に取り組んでいるところである。畜産物の輸出促進に取り組む際、主なハードルとして挙げられるものの一つに「検疫」があり、相手国との中長期的な協議を行うため、戦略的な検疫協議の実施が輸出促進の重要な鍵を握ることとなる。この輸出検疫協議においては、相手国から、わが国の国内での家畜防疫体制や水際での動物検疫体制が厳しく評価されることとなる。そのため、わが国では、国際基準や諸外国と同等の水準の検疫体制を築いておく必要がある。なお、国際基準(動物衛生に関する国際基準は、OIE(国際獣疫事務局)が規定した動物衛生規約(OIEコード)により規定されている)においては、乳製品の輸入に際し、口蹄疫などを対象として輸入条件を課し輸出国政府機関発行の検査証明書を求めるべき旨の規定が設けられている。また、欧米諸国など乳製品の主要輸出国においては、すでに諸外国から自国に輸入される乳製品を対象として動物検疫が実施されている。

また一方で、近年、経済連携協定にかかる協議が活発化し、また、アジアにおける乳業の発展が見られる中、今後、口蹄疫非清浄地域を含む多様な国・地域で生産された乳製品のわが国への輸出量が増加することが見込まれ、それに伴い、わが国への口蹄疫などの侵入リスクが一層高まることが予想される。

こうした状況を踏まえ、農林水産省消費・安全局動物衛生課では、乳製品の輸入を介した口蹄疫の侵入リスクについて評価を行い、乳製品を動物検疫の対象にすることとした。

3 乳製品の動物検疫について

(1)新たに動物検疫の対象となる乳製品の範囲

今回、これまでも動物検疫対象であった生乳に加え、乳、脱脂乳、クリーム、バター、チーズ、れん乳、粉乳、乳を主要原料とするものが動物検疫の対象に追加されることとなる。具体的には、表1のとおり、HSコード(税番)に該当する品目が対象に追加されることとなる。

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なお、上記の品目であっても、個人で消費する目的で携帯品として輸出入されるものについては、今回対象とはならない。

(2)動物検疫所における輸入検疫

3(1)の乳製品を輸入する場合には、図2のとおりの手続が必要となる。

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【輸出国政府機関発行の検査証明書・家畜衛生条件】

輸出国政府機関が発行する検査証明書に記載されるべき事項は、「家畜衛生条件」によって規定される。家畜衛生条件は、動物衛生課が各国との協議を経て設定されることとなる。

乳製品の家畜衛生条件は、わが国が「生乳・非加熱乳製品の対日輸出を認める国」(リスト国)用と「生乳・非加熱乳製品の対日輸出を認めない国」(リスト国以外の国)用とで二種類設定されている。二種類の条件の大きな違いは、加熱処理などの「口蹄疫ウイルス不活化処理」(表2)が必須か否かという点である。「リスト国以外の国」から日本向けに乳製品を輸出する場合には、口蹄疫ウイルス不活化処理工程を経ることが必須となる。

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なお、WTO/SPS協定においては、各国の貿易に大きな影響を及ぼす可能性がある措置についてはその内容を諸外国に事前に知らせなければならないこととされていることから、家畜衛生条件案を本年2月にSPS通報により各国に提示したところであり、各国からのコメントを踏まえて確定版を作成し、本年5月1日付けで再度SPS通報(図3のQRコード参照)により各国に周知したところである。

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また、家畜衛生条件の確定版および検査証明書の様式は、動物検疫所のウェブサイトでも公表している。(http://www.maff.go.jp/aqs/topix/dairy_products.html

【輸入できる港・空港】

動物検疫の対象物品は、家畜伝染病予防法に基づき、同法施行規則で指定された港・空港(以下「指定港」という)に輸入しなければならないこととされている。乳製品の指定港は、図4のとおりである。

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(3)動物検疫所における輸出検疫

3(1)の乳製品を輸出する場合には、輸入国(仕向先国)側が日本の動物検疫所発行の輸出検疫証明書の添付を必要としているか否かにかかわらず、図5のとおりの手続が必要となる。また、輸出検疫証明書の交付を受けなければ通関できない。

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なお、輸出に当たっては、動物検疫所への輸出検査申請に先立って、まず輸入国側の受入条件を確認する必要があるが、輸入国側の条件を満たしていない場合、輸入国側で荷が止まってしまう可能性があることから、注意が必要である。

4  おわりに

本制度の円滑な導入と的確な実施に向け、今後も、各国との条件協議に取り組むとともに、動物検疫所各所における説明会の開催、動物検疫所のウェブサイト(http://www.maff.go.jp/aqs/topix/dairy_products.html)などでの案内など、本制度の周知のための取り組みを引き続き行っていくこととしている。


(プロフィール)

昭和63年4月農林水産省入省、平成27年4月から現職

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