海外情報 畜産の情報 2017年7月号
中国で家きん肉は、伝統的に盛んに消費されている食肉であり、他の食肉に比べて安価なこともあり、景気の影響を受けにくい安定した需要のある食材である。鶏肉が過半を占める一方、アヒル、ガチョウなどの水きん類やその他の食鳥肉に対する需要も多いことが特徴的である。
同国における鶏肉生産は、垂直統合型の大規模生産が増加しつつある一方、鳥インフルエンザ(AI)をはじめとする伝染性疾病の頻発により、冷蔵・冷凍鶏肉の輸出は限定的であるが、日本には加熱済み鶏肉調製品を多く輸出し、従来より、タイとそのシェアを2分するなど日本の需給上不可欠な存在となっている。また、一部の卵製品も一定の対日輸出があり、その動向は注目に値する。
本稿では、垂直統合型経営など大規模経営の生産動向や対外貿易動向などを中心に、中国の家きん生産の変化、鶏肉や卵の消費、貿易動向や今後の見通しについて、2017年3月に実施した現地調査などに基づき報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1元=17円(2017年5月31日TTS相場:16.58円)、1米ドル=112円(同111.96円)、1ユーロ=125円(同125.45円)を使用した。
中国家きん産業は、鶏(肉用鶏、採卵鶏)だけでなく、多様な家きんが飼養されている点が特徴的である。また、肉用鶏は、輸入品種を白羽肉鶏、在来種を黄羽肉鶏と呼び、大きく2種類に区別・識別されている(表1)。
家きんの年間生産羽数は、白羽肉鶏が約50億羽、黄羽肉鶏が約40億羽、採卵鶏が約13億羽、アヒルが30億羽強、ガチョウが約5億羽となっており、鶏が過半を占めるものの、アヒルなどの比率も高い。また、2015年の家きん肉生産量を見ると、鶏肉がおよそ6割、次いで水きん類(37%)、ハト(1%)となっている(図1)。なお、同年の家きん卵生産量は、2157万トンとなっている。
白羽肉鶏というのは、アーバーエーカー系、ロス系、コッブ系、ハバード系などの外来のブロイラーを指す。これに対し、黄羽肉鶏は、三黄(サンファン)系と呼ばれる100以上の中国の地方品種肉用鶏の総称で、そのほか「土鶏」とも呼称される地鶏が存在する。白羽系は出荷までの所要日数が40日前後で、2.2〜2.6キログラムに成長するのに対し、三黄系や土鶏系は60日から150日で1.7〜1.9キログラムと飼養効率が悪い。飼料要求率(feed conversion ratio)〔注〕は、白羽系が1.75、黄羽系が2.5前後とも言われている。
(注)飼料要求率=鶏群の飼料消費量/鶏群の体重
白羽系は、1980年代に、中国の社会・経済改革と軌を一にして、日本の鶏肉需要に対応するための輸出仕向け用として導入され、発展した経緯がある。それ以前は、外来種を用いるという概念はなかった。その後、1989年に外食チェーンKFCの中国1号店が北京に開店するなど、国内の鶏肉需要も高まっていった。2004年1月27日以降、AIの発生により、日本への鶏肉輸出が停止した。そのため、2003年以前は、主に日本向けに50万トンの鶏肉を輸出していたが、2004年以降は、加熱調製品の輸出に切り替え、年間輸出量は15〜20万トンになった。その後、食品安全性に対する日本の消費者の信用を失う事件(冷凍ギョウザ事件や賞味期限切れ鶏肉調製品の事件)が発生し、白羽鶏肉関連業界全体が影響を受けるに及んだ。
一方、同国では水きん類の生産も盛んであり、生産シェアが大きいのはアヒルで、ガチョウは比較的小さい。アヒルとガチョウをあわせた水きん類の飼養羽数は、全世界の8割を占めるとも言われており、また、中国で飼養されるガチョウの品種は主要なもので30種もあるとされる。水きんの飼養は、特定の地域(浙江省を中心に安徽省、江蘇省、海南省など)に集中しているが、鶏に比べ生産性が低いこと、環境規制の強化により水面上での飼養が禁止されるなど、近年、経営を取り巻く環境が悪化している。
家きん全体で見ると、家きん肉生産は、北京市や天津市など大都市の市場へのアクセスの良い山東省、遼寧省、江蘇省、河北省などで、家きん卵生産は、河南省、山東省、河北省などで盛んに行われている(図2)。
また、種きん場の分布を見ると、おおむね大生産地に隣接して立地しているケースが多いことがわかる(表2)。これは、ひなの流通面では、長時間の輸送に適さないという距離的制約(およそ移動時間10〜15時間以内が目安とされる)や、系列のコマーシャル鶏農場へ供給する際の効率の問題による。なお、肉用鶏においては、最近、GGP(原原種)代の種鶏輸入が開始され、国内の供給体制が強化されつつある。これは、世界的に頻発するAIなどの伝染性疾病の発生によって、動物検疫措置として種鶏の輸入が停止されることに伴う生産減のリスクをヘッジするための措置と思われるが、一般には、GP(原種)代からしか導入できないというのが普通である。一方、採卵鶏の場合は肉用鶏と異なり、種鶏の導入は今のところGP代からとなっている。米国ハイライン社と提携している現地種鶏企業担当者によると、GGP代の種鶏輸入について希望はあるものの、供給側の了解が得られないという。なお、検疫施設数の問題から、政府の方針で輸入はGGPやGP代など上位の種鶏が優先され、採卵用、肉用ともにPS(種鶏)代の輸入は許可されていないとのことである。
2014年の養鶏の飼養規模別分布を見ると、肉用鶏、採卵鶏ともに98%以上が飼養羽数2000羽未満の零細農家となっているが、これは数羽単位で飼養する農村部の庭先養鶏が多数計上されているためであり、大規模養鶏場は大きく増加している(表3)。特に、肉用鶏農場では、100万羽以上の農場が、2005年から2014年の間に約7倍の564戸へ増加しており、大規模化の進展がうかがえる。採卵鶏農場は、肉用鶏に比べると大規模階層はまだ少ないが、年々その数は増加している。
企業化された養鶏の現状としては、例えば、日本の農林水産省から輸出認定を受けた鶏肉調製品工場は現在35か所あり、政府は、インテグレーターをはじめとする大規模経営を積極的に育成する方針を打ち出している。中国畜牧業協会禽業分会(以下「畜牧協会」という)の資料によると、主な企業の概要と最近の動向は、以下の通りである(表4)。
<事例紹介1:タイの大手インテグレーターCPの中国展開>
CP(チャロン・ポカパン:タイを本拠とする企業)グループは、中国に進出してから30数年になり、元々5社のインテグレーターで構成されていたが、2015年末に新たに企業4社(吉林省、黒竜江省、山東省青島市など)をM&Aで取得し、合計9社となっている。今回の調査で、グループ会社の一つである北京大発正大有限公司を取材する機会を得たので、その内容を紹介する。
<企業概要>
中国のCPグループは、2017年末までに処理羽数10億羽に達する見込みであり、今後5年以内にグループ全体で中国全体のブロイラー生産の半分弱となる年間処理羽数20億羽を目指している。
現在、中国の鶏肉生産基盤は北部に集中しており、全国展開を行っている養鶏企業は、現在、同社のみとのことである。
<資本構成・経営戦略>
政府や国営企業とのジョイントベンチャー(JV)で中国市場へ参入した。JV相手の首農(国営企業系)の資本シェアは当初50%であったが、現在は13%に下がっており、徐々にCP側の資本割合を増加させつつ、主導権を拡大している。
また、グループ全体の資源統合にも取り組んでおり、従来は、工場ごとに経営判断を行っていたが、現在は、青島に国際貿易部を設立し、中国全社の対外貿易を統括する体制を構築している。
元々は飼料の加工・販売が主であったが、飼料部門は業界全体が頭打ちで伸び悩み状態にあるため、主要業務を食品にシフトさせ、飼料、種鶏、生産、飲食店経営や加工食品販売までのインテグレーション体制を整備している。
以前は、ブロイラーのインテグレーターとして川上の原料を重視してきたが、今後は、食品の生産・加工・販売など、経営資源を川下に集約させる戦略としている。最近では、香港企業のロータスグループに34億元(612億円)を投資し、同グループ傘下の工場でギョウザやシュウマイなどの加工食品を製造し、日本へも輸出する計画などがある。
国内の飼料製造に関しては、もともと参入ハードルが低く業界全体で生産過剰が深刻な問題となっており、現在は、従来あった中小企業が次々に淘汰されて集約化しつつある。以前は、大人数を雇用して飼料の販売・輸出を競争してきたが、全体的にビジネスが難しくなってきており、これからは、安全な飼料を自社供給することに注力する。グループのモットーとして、自社生産品のみを生産に使用することとしており、自家配合し安全性の確保された飼料を使った養鶏業の展開は、業界のスタンダードとなりつつあるとの自負もある。タイの本社でも、飼料生産と養鶏を組み合わせて食品の品質と安全を確保するモデルを実施している。
今後の経営戦略においては、中国における「チキン王」と「卵王」も目指しており、具体的には、北京の平谷に採卵養鶏場を設立し、300万羽の採卵鶏を飼育している。今後、5年以内に全国に20〜30カ所の採卵養鶏場を整備する予定で、鶏卵生産量の拡大を図る。
また、現在の豚肉生産は、洛陽の1工場のみで、中国3位であるが、「豚肉王」も目指す。
そのほか、農畜産業とは少し離れるが、レストラン、スーパー(CPフレッシュマーケット)の展開を予定しており、川上から川下までのビジネスを展開していく。
<製品展開>
中国国内市場を事業の中核と位置づけ、国内向けと輸出向けを調整しながら全体戦略を実施していく。日本には10年前から加工品を輸出しているが、当時は、輸出が主で国内向けは限定的であったため、生産工場は、規模、基準ともに輸出向けに整備されたものであり、その後の国内需要の高まりとともに国内市場への供給が増加している。
輸出市場としては、日本のほか、韓国、中東、マレーシア、香港などが多い。北京工場では、輸出は日本向けのみを取り扱っている。
調製品は、国内向けが9割、輸出向けが1割であり、輸出向けの中では日本向けが8割以上である。日本向け輸出の7割がコンビニエンスストア(CVS)向けである。中東向けには冷凍鶏肉も輸出している。EUへの輸出についても現在検討中としている。
輸出、国内向け合わせて、業界全体のシェアは、鶏肉が95%、調製品が5%であり、国内市場は冷蔵・冷凍鶏肉が中心である。
調製品の国内における主な仕向け先は、CVSやスーパーなどの小売店、学校などの公共組織向けである。加工品の国内流通チャンネルは現在、日本に状況が近づきつつある。北京など大都市の外食産業は、人件費が高く収益性が低いので、調理済みで固定費が削減できる調製品が必要とされる。
日本向け調製品の旗艦商品は、タイCPからは揚げ物、中国CPからは串刺しなど高度に加工した焼き鳥や蒸し物などで、CVS向けが中心である。例えば、最近では日本のCVS向けの焼き鳥製品(80グラム)をCPの中国5工場で連携して生産した。系列工場数が多いので、同じ品質で大量に生産することが可能である。対日輸出における他社との競争は激しくなっているが、対日輸出に取り組むことで製品のクオリティが上がり、他国向け、国内向けにも良い影響を与えている。
CVS向けの新製品では、今までは主に日本側がレシピを作ったが、近年は中国側からの商品提案も増えている。
<生産資材の海外原料調達状況>
種鶏生産に関しては、北京市内に家きん育種会社を有するほか、近年、湖北省のタイソン系育種会社を買収。この2社で、中国国内の肉用鶏の種鶏のシェアの40〜50%を占める。品種は、コッブとアーバーエーカーが中心で、GP代種鶏を輸入して増殖し、余剰分は他社へも供給している。ただし、米国に続いて、代替輸入先となったスペインでもAIが発生し輸入禁止になったことから、今後、中国国内の種鶏需要を満たせるかは不透明である。
<品質管理>
原料鶏肉は、自社養鶏場産を基本としているが、契約農場産を使用する場合には、次の5原則を統一基準としている。
@素ひなは自社供給したものを使用すること。
A飼料も自社供給したものを使用すること。
Bワクチンも自社供給したものを使用すること。
C生産された製品(ブロイラー、鶏卵)は市場価格より高く設定した価格でグループ内で全量買い取ること。
D営農技術を自社提供していること。
近年、政府の呼びかけにより、トレーサビリティの取り組みに参加している。このため、コード番号を政府の提供するシステムのサイトに入力すると、生産農場、加工場、加工プロセスが分かるようになっている。
<事例紹介2:パック卵の全国普及を図る北京コ青源農業科技股有限公司>
<企業の概要>
政府職員であった創業者が2000年に設立した鶏卵生産企業である。創業当初から一貫して、先進各国のように大規模生産したパック包装による衛生的な鶏卵の普及に取り組んでいる。
創業当初からパック包装の鶏卵を、香港、上海、東北各省など全国で販売している。すべての卵は自社直営生産であり、飼料、採卵鶏も自社供給である。食品安全性を高めるため、すべての鶏卵を洗浄し販売している。
現在、採卵鶏の飼養羽数は1000万羽であり、2019年までに4500万羽に増やす予定としている。自社養鶏場は7カ所(華南省、山東省、湖北省、内蒙古自治区、陝西省、四川省、北京市)あり、20カ所ほどが建設中で、2019年までに27〜28カ所にする予定とのことである。
また、貧しい県や村に養鶏場を建設して貧困削減を目指す「金鶏」プロジェクトを実施している。地方政府のほか中央政府や国営銀行がハードの建設費を負担して整備し、建設後の運営一式が当社に委ねられる官民連携事業である。
<事業展開>
鶏卵とその関連産業で統合的に事業を展開
@採卵鶏の種鶏の飼育:安徽省に種鶏会社を所有。
A採卵養鶏(卵生産)
Bエネルギー生産:鶏ふん処理専門の子会社を所有。
C食品加工業:廃鶏の販売など。販売先の企業は、鶏ガラスープの原料として利用。「徳州」(山東省の地名)ブランドの廃鶏加工食品を生産(鳥を丸鶏のままスープに入れて蒸した加工品を常温保存可能なパック詰めにして販売)。
E飼料の配合・生産
<資本構成>
大陸の企業が大半の株を有し、香港企業が一部の株を所有する。種鶏を提供するハイライン社とは、販売契約のみ。
<製品展開>
当初は、日本のように、栄養添加や産地の差別化などにより付加価値を高めた商品の開発・販売も試みたが、製品の宣伝・広告に関する規制が緩やかで、多くの企業が過大な性能をうたう中、ブランドの信頼構築という点で失敗を経験した。
冷蔵殻付き卵は香港向けのみに輸出している。また、輸出用の粉卵加工場を建設し、2017年の操業開始に向け、現在試験生産を実施している。輸出ターゲットは、需要が高く、製品の衛生規格、輸入規制が比較的緩い中東(ドバイ、サウジアラビアなど)で、空輸を検討している。
<品質管理>
自社一貫調達が原則であり、GP代の種鶏を輸入した後、飼料の配合から鶏卵の生産、鶏ふんの処理、廃鶏の販売まで一貫している。
鶏卵品質保持期間を自社基準で冬場で45日、夏場で30日と規定しているが、鮮度を重視しており、生産された鶏卵は当日にパック詰めされ、近隣の小売店店頭には翌日には並んでいる。
リードタイムの観点では、スーパーなどの大型店舗では受け取り基準を設けており、品質保持期限の3分の1を過ぎたものは受け取ってもらえない。従って、小売店への納入は10〜15日が限度となるが、実際は長くても1週間以内で納入している。例えば、海運による香港への冷蔵輸送の場合、天津港までが1日、天津から香港までの海運が3日まで、その後、通関して小売店に並ぶまで約7日までである。
各種認証への取り組みとして、GAPと緑色食品は認証済みであるが、採卵鶏では有機認証の取得が困難であり取り組んでいない。
環境対策として鶏ふん処理の専用子会社を設け、生産した有機肥料を飼料原料となるトウモロコシを栽培する契約農家に供給している。(例:北京市延慶地区)
改正食品安全法への対応として、トレーサビリティに関しては、自社製品(鶏卵)に数字とアルファベットで構成されるシリアルナンバーを印字し、ウェブサイト上の検索画面に入力すると、生産場所、日付が表示されるサービスを行っている。
政府は2015年、肉用鶏とその種鶏の生産振興策として、地域ごとに模範となる農場を指定し、これら指定農場を核として肉用鶏における効率的養鶏システムを普及するために、国の中核的養鶏場リスト(15カ所)と優良肉用鶏種繁殖基地リスト(15カ所)を公表している(表5および表6)。いずれも広東省の施設が多く指定されている。
家きん関連の代表的な業界団体としては、前述の畜牧協会があり、農業部の指導と助言を受けて活動している。畜牧協会は2001年12月に家きん関連の3つの協会が統合され設立された。主な活動は、産業の健全な発展、業界内の連絡・協力体制の構築、関係者間の橋渡しなどとなっている。業務の内容は、家きんの種類によって異なっており、近年、組織の機能強化のため、家きんの種類ごとの分科会が設立され業務の細分化が進められており、現在6分科会(白羽肉鶏、黄羽肉鶏、卵用鶏、水きん、鳩、特殊家きん)が活動している。
白羽肉鶏の分科会は2014年1月、供給力を一定に保ちつつ、需要とのバランスを保つことを主な目的として設立された。具体的な活動としては、消費者の需要喚起や政府とのコミュニケーションなどを行っている。
畜牧協会および各分科会の会員には個人もなることができるが、基本的に企業会員が多い。会員数は個人法人合わせ400以上とのことである。なお、政府からは、協会が提供するサービスを購入するという形で資金を受け取っている。
2015年の食肉生産量に占める家きん肉の割合は22%であり、同国で最もポピュラーな豚肉(同65%)に次ぐ安定した需要がある。種類別生産量の構成比は2000年から2015年にかけて大きな変化はないが、経済発展による生活水準の向上などに伴い食肉全体の生産量は同期間に42%増加している(図3)。
一方、消費量に関する米国農務省(USDA)の分析資料を見ると、肉用鶏の2016年の消費量は、調理用換算で1234万トンとされている。輸入量は増加傾向で推移しているが、2016年で消費量の約3.5%の43万トンにとどまっている(表7)。
直近の生産量と消費量はともに減少傾向で推移しており、この要因としては、AIの頻発により防疫措置として大量淘汰や生体市場の封鎖を行った影響が大きい。白羽鶏肉では、市場への供給量が減少して、主要な市場である学校などの公共施設や工場の食堂、ファストフード店における供給量が減少した。黄羽鶏肉では、生体市場での販売機会が減少し、処理場を通じた流通チェーンが整備され、徐々に移行しつつある。
また、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の中でもH7N9タイプがまん延しており、2017年1〜5月のH7N9の人への感染数は601例、うち死亡者数は248例とされており、各地方政府は産業の保護と公衆衛生の確保のため、全域で生体家きん市場の閉鎖を相次いで実施した。
家きん業界にとって現在の最も大きな課題は、HPAIのコントロールであるとされ、政府(農業部)と業界団体、企業の連携による生産、加工、取引など産業チェーン全体の品質管理向上が目標に掲げられている。
また、生産量の減少要因としては、世界各国でのAIの頻発により、発生国からの種鶏輸入が停止され、増羽が困難になっていることも挙げられる。特に、同国は、白羽鶏肉導入初期から、種鶏供給を米国に大きく依存してきたため、米国からの種鶏輸入が停止された2015年以降、フランス、スペイン、ポーランド、NZへ調達先をシフトさせたが、その後、フランスに次いで、直近ではスペイン(2017年2月)もAI発生により輸入が停止され、現在は白羽肉鶏、輸入採卵鶏の増羽が難しい状況である。
小売される卵の多くは洗卵されていない。これは、従来、地鶏の卵が好まれてきた中で、羽やふんが付着していると、「地鶏の新鮮な卵に違いない」などと誤って認識されてきたことが背景にあるとのことである。
また現在、パック詰め卵は3%未満で、大部分はバラ売りされている。ただし、北京市内では、消費者の衛生意識が高いので、10〜15%がパック詰めの形態で流通しているとされる。
鶏卵産業は、競争の激しい業界で、生産者価格の周期的変動が激しい。採卵鶏飼養業者は平均規模が5400羽と小さく、大部分を占める小規模飼養業者は、市場価格に敏感に反応して、価格が上がれば飼い、下がれば飼わないという行動を取るため、およそ18カ月サイクルで上昇〜回復、次の18カ月で下降〜回復し、36カ月で1サイクルを形成する。近年は、インテグレーターの参入などによる平均飼養規模の拡大とともに、1サイクルが48カ月に伸びてきている。
調製品を含めた肉、卵などの家きん製品で、近年一定の輸入実績があるものは、冷凍鶏肉である。鶏肉調製品(関税番号1602.32)は、2006年前後に米国、フィリピンなどからわずかな量(1000トン程度)が輸入されたが、近年は、2016年に韓国から170トン輸入されただけで、ほとんど実績がない。鳥卵(関税番号0407)についても、かつてはベトナム、米国、欧州(フランス、オランダなど)、台湾などからわずかに輸入されたこともあるが、現在はほとんど実績がない。
冷凍鶏肉の輸入実績は、かつては大部分が米国産であったが、同国でのAIの発生により、2016年に実績がなくなり、代わってブラジルを中心とした南米諸国産が急増している。
2016年の冷凍鶏肉輸入実績(56万7925トン)に占める割合は、ブラジル産が86%(48万7157トン)、アルゼンチン産が9%(5万417トン)と2カ国で95%を占めるほか、近年、チリやポーランドも増加している(図4)。
現地関係者の中には、ブラジルからの合法・非合法による輸入急増の影響が大きく、国産鶏肉の伸び悩みにつながっているとの声もある。また、日本の調達サイドから、ブラジル産原料を使って加熱調製品を製造するよう持ちかけられることもあるという。
前述の通り米国からの鶏肉輸入はAIの発生により停止しているが、これとは別に、WTO協定に基づき米国産鶏肉などに対する反ダンピング税および補助金相殺関税が課されており、将来的に米国産鶏肉などの輸入が再開されたとしても、これらの関税が対象品目・企業に対し課せられることとなる。
(参考:「米国産品への貿易救済措置、鶏肉とDDGSに適用(中国)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_001698.html)
また、2017年7月1日以降、従来鶏肉などに課せられていた輸入増値税(付加価値税の一種)が一部変更される。家きん関連では、育種改良用種鶏、家きん肉、鳥卵などで現行税率の13%が11%に引き下げられる。しかし、現行税率17%の家きん肉調製品などでは変更はない。
(参考:「農産品等に適用される増値税が減税へ(中国)」https://www.alic.go.jp/chosa-cu/joho01b_000018.html)
現在、家きん製品の輸出では鶏肉調製品が主であり、AIの発生による動物衛生条件などの問題から、家きん肉の輸出は限定的となっている。また、家きん卵とその調製品の輸出の大部分は香港向けである。こうした家きん製品の輸出は、家きんの伝染性疾病や食品安全上の問題が発生する度に影響を受け、数量は大きく変動してきた。
AIの発生により1997年から鶏肉輸出が減少し、代わって加熱調製品の輸出量が次第に増加した。その後2008年に発生した冷凍ギョウザ中毒事件の影響で日本への輸出量が一時的に大きく減少した後、ピークの2013年には22万6652トンを輸出したが、再び2014年の使用期限切れ鶏肉事件の影響で、ファストフード店やCVS向け需要が減少した(図5)。
2016年の国別輸出割合は、日本向けが79%(16万5420トン)、香港向けが11%(2万2872トン)となっている。2008年の輸出減少を受けて取り組んだオランダなどEU各国向け輸出も行われており、鶏肉大手各社は、EU諸国へのさらなる輸出拡大を目指し、製品規格をEU仕様に適合させるよう、生産管理を順次変更しつつある。
他方、日本の鶏肉調製品輸入動向についてみると、そのほとんどがタイと中国の2カ国から調達されており、2016年はタイ産が61%(25万5496トン)、中国産が39%(16万3373トン)を占めている。また、平均輸入価格は、両国の人件費の違いなどを反映して、タイ産が中国産より12%高い水準となっている(図6)。中国産は、食品安全面の問題などにより調達の不安定性が伴うものの、取引における意思決定の早さ、柔軟な対応、価格優位性などから、串ものなどの高度な調製品を中心とした引き合いが強い。また、リスク分散の観点からも、シェアの変動はあるにしても、今後とも両国を中心とした調製品の調達状況に大きな変化はないと考えられる。
なお、ブラジル産はリードタイムが長大なため製品開発の柔軟性が保てないことなどから、平均価格が中国産より32%安いにもかかわらず、わずか同0.4%の1879トンにとどまっており、こと調製品に関しては、部分的な調達があるにしても、需要が大幅に増加する可能性は低い。
畜牧協会の公表資料によると、鶏肉調製品の主要サプライヤーは表8の通りである。
従来は、外資が中国国内で家きん産業を行うにあたっては資本比率についての規制があったが、現在は、独立資本でも合弁事業でも参入は可能となったとされる。
チルドでの鶏肉の輸出実績はなく、輸出向け非加熱鶏肉は、現在冷凍もしくは加塩品のみである。冷凍鶏肉の輸出先はAI発生以前は日本が大半を占めていたが、2004年1月27日付けで日本が中国産鶏肉輸入を停止したのをはじめ、従来輸出実績のあった中東諸国、欧米諸国、東南アジア各国などが相次いで輸入を停止したため、それ以降は限定的な輸出量にとどまっている。
2016年は、香港向けが54%(6万790トン)、マレーシアが13%(1万4406トン)の他、周辺諸国向けに少量輸出されている。
なお、加塩鶏肉(HS0210.99)は香港向けに極めて少量輸出されている(2016年は合計284トン)(図7)。
殻付き鳥卵は、割れやすいなどの問題から貿易品として不向きであるため、貿易実績は限られた数量にとどまっているが、ピータンは中国料理用の食材として日本に輸出されている。
鳥卵(HS0407)の輸出量は、近年およそ10万トン弱で安定的に推移しており、2016年のシェアは香港向けが83%(8万1814トン)、マカオ向けが10%(9750トン)のほか、少量が米国、シンガポール、カナダなどへ輸出されている。日本向けは同0.5%(523トン)となっている(図8)。
ピータンを含む加工卵(HS0407.90-200)は、日本でもニッチな需要があるが、ほとんどが中国産と台湾産で、2016年の輸入量632トンのうち、中国産が78%、台湾産が22%となっている。中国産の価格は台湾産のほぼ半分である(図9)。
参考まで、畜牧協会の公表資料に紹介された卵調製品の主要サプライヤーには以下のような企業が挙げられている(表9)。
中国は2009年以降、2008年の冷凍ギョウザ中毒事件をきっかけとした日本からの鶏肉調製品の需要減を受けて、リスク分散と新規市場開拓のため、積極的にEU諸国への鶏肉調製品の売り込みを開始した。その一環として、EU市場で求められる製品規格へ適合させるためのインフラ構築に努めてきた。
また一方で、WTOを通じた国際貿易約束に基づく輸出機会の獲得と拡大を求めて、紛争解決委員会にEUの鶏肉などに関する関税割当の運用を修正するよう提案している。具体的には、EUが鶏肉調製品などに対して譲許している関税割当は、供給国ごとに数量が規定されており、従来から輸出実績の多いタイとブラジルに傾斜的に枠数量が配分されているのは、差別的な量的制限であり国際約束(1994年GATT13条2項の前文および(d))違反にあたると主張し、中国枠の拡大を求めてきた。
中国からの提訴を受けて、EU側は、実績に応じた枠配分が関税割当運用の基本原則であると応じていた。
2015年7月20日に設置された当件に関する紛争解決小委員会は、2017年3月28日に最終報告書を関係国に回付し、同4月19日に同報告書は採択され、EUが国際約束に整合的な措置を取るよう勧告した。
これに対しEUは、同年5月16日に、国際約束に整合的な措置(関税割当の運用の適正化)を実施する意思はあるが、そのためには一定の準備期間が必要であると通報し、現在、勧告の実施のための妥当な期間の確定プロセスに入っている。
なお、EUは2007年と2012年の2回にわたり関税割当制度の見直しを行い、税率等の改定を実施した(表10)。
米中間の協議では、従来から中国側は、同国産鶏肉調製品の解禁が、米国産牛肉の解禁の前提条件として、両国の意見は対立していた。
米国商務省が2017年5月11日に公表した米中包括経済対話100日行動計画によると、同年7月16日を目途に、中国は、一定の前提条件※をクリアした場合、米国産牛肉の輸入を解禁するとともに、米国は、中国原産の加熱調理済み鶏肉調製品の輸入についての障害を解消するための規則を少なくとも同日までに公表するとした。牛肉については「一定の条件」に関する協議がどのようなスケジュールと内容で妥結するかが注目されるとともに、鶏肉調製品については、期限までに行動計画が達成されたとしても、その後も実務協議は継続する内容であり、実際に物流が再開されるまでのタイミングは現時点では不透明となっている。
米国側の報道の中には、中国は鶏肉調製品を本格的に米国に輸出したいのではなく、「米国へ輸出できるほどの高品質である」とのお墨付きが欲しいだけだ、とするコメントが見られるほか、今回の中国現地関係者に対する取材では、EUへの輸出拡大に向けた具体策は進んでいるが、米国市場への輸出について具体的関心を持っているという話は聞かれなかった。
※:100日行動計画の文書では、「国際的な食品安全及び動物衛生基準」および「1999年の農業協力合意」と整合的であることを求めている。
現地関係者によると、現在、中国の家きん産業の最大の問題はAIのコントロールと関連するさまざまな障害への対処と、食品安全上の問題であるとされる。前者は、生産から流通、消費だけでなく、公衆衛生上の問題も包含する大きな問題で、種鶏の輸入制限によって生産拡大が阻害されるとともに、市場の閉鎖による販売チャネルの減少は、国内消費にも負の影響を及ぼしている。
わが国の鶏肉調達の観点では、距離が近いこと、価格優位性が高いことなどから、今後も有力な供給元として存在感を持つと思われるが、食品安全に対する信頼を損なう事件が発生するたびに対応を余儀なくされ、調達量が大きく変動するという不安定性がつきまとう。
中国における鶏肉調製品の生産は、歴史的にわが国の消費ニーズをきっかけに発展したと言っても過言ではないが、最近の経済発展により国内需要が急速に増加しており、国内向けの比重がますます高まっていくと考えられる。
こうした中にあっても、安全で安心な製品を安定的に確保していくことが重要であることから、生産サイドと調達サイドの双方に継続的な努力と矜持が求められる。