調査・報告 専門調査  畜産の情報 2017年3月号


鶏卵の製品差別化と有利販売の確立へ向けて
〜宮城県白石市 竹鶏たけとりファーム〜

宮城大学 食産業学部 教授 川村 保



【要約】

 「物価の優等生」と呼ばれる鶏卵であるが、その背景には大規模化する生産構造やスーパーなどの量販店がマーケットリーダーとなっている市場構造という採卵養鶏業の厳しい競争がある。宮城県白石市の有限会社竹鶏ファームは、地元の竹を原料として自社の炭窯で竹炭を製造し、その竹炭を飼料に添加したり、養鶏で使用する水の浄化に竹炭を使用することによって製品差別化を実現し、さらに直接販売を中心とすることによって価格決定力を持ち続けてきた。アニマルウェルフェアに配慮した鶏舎、ネットワークづくり、クラウドファンディングなどの同社の取り組みにも触れながら、採卵養鶏のマーケティング戦略について検討してみたい。

1 はじめに

鶏卵は昭和40年代ごろから「物価の優等生」として言及される食品である。供給の過剰傾向が強まれば市場価格が低迷するという需要と供給の原理は農産物については特に顕著に見られ、長期的には生産者の再編が生じて生産構造が変化していくのであるが、採卵養鶏においては世の中がインフレ傾向であった時から鶏卵だけは価格が上がらずに安定して推移してきた。それを可能にしたのは生産構造が大幅に変化し、庭先で小規模な養鶏を行っていた農家が淘汰され、存続している生産者は大規模経営という状況へと生産構造が大幅に変革していったからである。また、食品小売業もスーパーなどの量販店がマーケットリーダーとして存在感を強める中で、採卵養鶏業の競争は続いている。

本レポートでは、宮城県白石市で採卵養鶏を営む有限会社竹鶏ファーム(以下「竹鶏ファーム」という)に注目し、激しい競争が続く採卵養鶏の業界の中で同社がいかにして製品の差別化を実現し、価格決定力を自らのものとしているのかについて検討してみたい(注1)(図)。

(注1) 本レポートで紹介する竹鶏ファームの取り組みは、極めてユニークなものである。「差別化よりも独自化」という表現をしている記事[3]もあるが、ここでは経済学や経営学の用語として定着している製品差別化という表現を採用している。

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2 竹鶏ファームの概要

(1)経営の発展経過

竹鶏ファームの採卵養鶏のスタートは、昭和30年代にさかのぼる。当時、現在は会長を務める志村幸一氏(代表取締役である志村浩幸氏の父親)とその先代の富治氏は、家業である製材業を営んでいた。葉タバコの生産もしており、その意味では農業と無縁ではなかったが、元々、農家ではなかったという言い方の方が適切である。富治氏と幸一氏の時代には、製材業のかたわら、鶏を飼い卵を生産し自らが販売していた。養鶏に力を入れるようになったのは40年ごろからである。基本法農政などの政策にも後押しされて、40年に志村養鶏場として経営を開始し、その後、現在の代表取締役の浩幸氏が就農した57年ごろには8000羽から2万2000羽くらいまで規模を拡大した。

その後、規模拡大をするにつれて直面したのが鶏ふん処理の問題であった。志村養鶏場では機械を使った切り返しにより乾燥処理していたが、臭気などの面で環境問題が心配されるようになってきた。養鶏経営の大規模化に伴い鶏ふんの臭気と処理の問題が発生するのはよく見られるパターンであるが、志村養鶏場では解決法として他では見られないような方法に取り組んだ。平成6年に竹炭を利用した処理方法を導入したのである。竹炭は、自らが製造し、飼料に混ぜ込んで給餌しているが、後述するように結果として臭気対策のみならずブランド戦略の展開にも貢献している。竹鶏ファームのネーミングは竹炭の利用にちなんだものであり、7年にはこのブランド名を商標登録している。そして12年には有限会社竹鶏ファームを設立し、14年には全国農業コンクール優秀賞を受賞、15年には宮城県農業コンクール農業賞を受賞している。

竹鶏ファームの特徴は竹炭の利用だけではない。物価の優等生と言われることの裏返しとして、採卵養鶏経営の問題として生産者側が価格決定の場面で力不足であることが多いが、竹鶏ファームでは養鶏を始めた当初から価格決定力を自らの側に持てるようなマーケティング戦略をとっている。この点も大きな特徴である。

竹鶏ファームは現在では約3万5000羽を飼養し、鶏卵の生産と販売の他に、シャモの飼育とその鶏肉の販売、自社の卵を原料とした自社および他社の加工品の販売などを行っている。売上高で見ると約7〜8割が(卵加工品を除いた)卵の販売によるものであるという。

竹鶏ファームの企業形態は有限会社であり、家族経営の性格が強い。現在は、代表取締役の浩幸氏、その長男であり専務取締役であるたつ氏、次男であり常務取締役であるりゅう氏の3人が経営のかじ取りをする下で、生産部、製造部(GPセンター)、総務経理部、営業部の4部からなる組織で総勢21名の役員および社員(平成28年9月現在)が事業を行っている。一般には家族経営については経営資源の制約があることや経営管理が甘くなりがちであるなどの問題点が指摘されることが多いが、竹鶏ファームは家族経営でありながら、しっかりとした経営理念と戦略をもった中堅の採卵養鶏経営として活躍している(注2)

(注2) 竹鶏ファームでは「竹鶏ファーム5つのこだわり」として、「美味へのこだわり。品質(安全)へのこだわり。健康へのこだわり。サービスへのこだわり。笑顔へのこだわり。」の5点を挙げている。経営にとってのミッションステートメントの役割を担っている言葉である。竹鶏ファームパンフレット[1]参照。

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3 竹炭の利用

竹鶏ファームは、竹炭を利用することで自らの差別化を実現し、価格決定力を持てるようなポジションを実現している。竹炭の利用のきっかけは、それまで機械による切り返しにより鶏ふん処理をしてきたのが臭気の面で環境問題として見られるようになったことが挙げられる。初めて竹炭の情報を得たのは、「名古屋市で竹炭を利用している人がいる」という飼料会社から入ってきた話であった。その情報に注目した現社長が現地を視察してから自分の経営でもやってみようと判断したという。

竹炭の入手方法は当初は購入であったが当時1キログラム当たり2000円前後と高価であり、竹鶏ファームのある白石市の周辺には竹林も多いので、70〜80代の先輩たちに教えを乞いながら平成6年に自社専用の炭窯を作り、自ら竹炭の製造にも取り組んで、今日に至っている。

竹炭の利用方法は、当初は飼料に竹炭を混合して給与する方法だけであった。最初は2鶏舎のみで実施し、対照区と試験区を比較し効果があることを確認してから全鶏舎に拡大していったとのことである。現在では飼料に混合する以外にも、竹炭を通すことで養鶏場で使用する水の浄化にも利用している。

竹炭利用の効果としては、

(1) 養鶏場周辺での臭気が軽減できたこと

(2) 卵の品質が向上できたこと

(3) 環境問題への取り組みによるイメージアップ

などが挙げられる。

(2)の卵の品質向上は、具体的には卵の生臭みがなくなるという評価があるとのことで、継続して購入していた固定客からは卵が変わったと言われたそうである。生臭みがないことは特に子供の消費においては重要な要素であり、プロの料理人からも素材として高く評価され、差別化の要因として効いていると思われる。

また、竹炭の製造の際には副産物として竹酢液が生成される。この竹酢液には殺菌効果などがあり、竹鶏ファームでは竹酢液を薄めて消毒液として利用している。例えば、GPセンターで卵の水洗い後に竹酢液を用いて洗浄し、安全性の向上につなげている。この竹酢液の利用も環境への配慮や安全性という面で経営に貢献している。

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4 有利販売とマーケティング戦略

(1)直接販売

竹鶏ファームのマーケティングの特徴の1つは、価格決定力を自らの側でしっかりと持つということである。このことは養鶏経営の開始期から今日まで続いており、経営の根幹となっているように見受けられる。製材業を家業としていたころから白石市内や近隣の小売商店および飲食店へ自らが直接、卵を卸していたという。当時、製材業で一日働いて200円の収入であったが、それに比べると卵を直接売って歩く方がお金になるという状況であり、卵の相場に合わせた価格で売っていくことで極端な値崩れに直面することもなく、安定した販売ができたとのことである。

当初から直接販売という形態をとっていたことは価格決定という視点で見ると興味深い。通常の農畜産物の販売ではどうしても大量の流通経路に載せる方向での展開が図られがちである。竹鶏ファームは元々が農家ではなかったために、かえって大量流通の方向を選択しなかったと想像されるが、結果的に、通常の展開方向には動かなかったことが幸いしている。当時から農産物でも生産者が自分で価格をつけられるべきと考えていたというのは先見の明があると言えよう。

現在は、主な販売先は個人経営のスーパーやオーナーシェフの経営する飲食店などへの卸が中心となっており、その他に県内外の個人客や、遠隔地の個人経営の小売店・飲食店が直接販売の対象となっている。流通や物流の仕組みとしては、白石市や柴田郡、あるいは仙台市、塩釜市、松島町あたりまでであれば主に自社便での配達となり、遠隔地の顧客への配送は宅配業者を利用している。また、個人客の中には竹鶏ファームの中にある直売所まで直接出向いてきて買っていく人も多いという。これらの顧客はいわば顔の見える関係者であり、量販店ルートの先にある終わりなき値下げ競争の世界とは一線を画すものである。

また、竹鶏ファームは特徴のある経営であることからテレビや雑誌で取り上げられることも多く、その度にスーパーなどの量販店からバイヤーが大挙して訪れるが、彼らが一様に言うのは「○○トン仕入れるから、値段は××円にしてくれ」とのことである。これに乗ってしまうと結局は価格決定力を失うことになる。地元の宮城県を代表する小売業の某社は、製品を仕入れさせてもらうことだけを話して価格のことは言わなかったそうだが、生産者の立場からすれば価格競争に巻き込まれない取引先があることの意味は大きい。

(2)多様なレベルでの製品差別化

製品差別化は有利な販売のためには必要不可欠なものである。製品差別化が行われる局面はさまざまである。製品の成分や機能そのものの差別化の他にも、製造方法やプロセスの差別化、宣伝広報などのプロモーションによる差別化もある。もちろん、これらの多くの局面で差別化を行えればそれだけ優位性を発揮できるが、それは容易なことではない。竹鶏ファームの場合、これらの複数の局面で製品差別化を実現していることは特徴的である。

まず、製品そのものの差別化についてであるが、竹炭を飼料に添加することで卵の生臭みが消えたという評価がある。これは成分分析によっても一般の卵よりも脂質が少なくたんぱく質が多いという結果を得ており、コクがあり味わいは濃厚であるが脂質が少なくヘルシーな卵であることを示している(注3)(表)。

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製品の製造方法やプロセスについても明確な差別化が行われている。まず、竹炭を飼料に添加するほか、竹酢液を消毒に利用する、水を竹炭で浄化して利用するなどの、一般の養鶏場では行われていないプロセスを内包している。平成10年には、採卵鶏用の飲料水および混合飼料について特許を取得している。特許は製造プロセスの差別化として非常に強力な手段であることは言うまでもない。また、後述するようにアニマルウェルフェアへの配慮も行っている点も同様に注目される(注4)

プロモーションにおける差別化については、竹鶏ファームという企業名の命名と、それを利用してのイメージ作りが最大の効果を上げている。言うまでもなく、竹鶏ファームの名前は竹炭の利用という同社の特徴をアピールしているが、そのアピールが竹取物語という日本人であれば誰でも知っている親しみのもてる昔話を連想させる名前でもあることは、消費者へ良質のイメージを与えることにつながっている。製品差別化の内容を企業名やブランド名に反映させることにより、一貫性のある企業イメージを消費者に発信するということは一見簡単そうであるが実際にはなかなかできないことである。

(注3) 竹鶏たまごの成分分析を行った株式会社味香り戦略研究所の分析結果によると、「竹鶏たまごと他社鶏卵の味の比較において、コクの先味と旨味の余韻で有意な差が確認された。他社鶏卵と比較すると、卵黄のみの場合は竹鶏たまごはコクの先味と旨味の余韻が高く、全卵の場合はコクの先味が高い。」との分析結果である。竹鶏ファームパンフレット[1]。

(注4) 鶏卵鶏用の飲料水および混合飼料についての特許を取得。特許2866360号。

(3)加工品および取扱商品の幅

生産物が卵である採卵養鶏経営は、製品の幅という点では制約があると言える。企業経営にとってはある程度の製品の幅を持つことにより経営安定化を図るのが望ましいが、卵ではそれが難しい。竹鶏ファームでは、温泉卵(竹鶏のおんたま)と燻製卵(竹鶏のくんたま)の2種類の加工品も生産している。これらは卵の形が見える状態の加工品であり、卵に特化した経営としての存在感を示している。それ以外にも卵の形は見えないものの卵を原材料として使われているマヨネーズやたまごみそ、鶏肉を原料としている旨辛とりにくみそなどの加工品も販売している。また、平飼い地鶏のシャモの肉を使ったハム・ソーセージの販売も行っている。

ただし、竹鶏ファームでは加工品はすべてを自社生産しているのではなく委託生産に依っている部分もある。竹鶏のおんたまは自社の敷地内にスチーム・コンベクション・オーブンを導入し、自社生産しているが、竹鶏のくんたまは委託生産している。自社生産は差別化には有利に働くが、それだけ人員の配置や資本投下も必要となる。経営資源に十分な余裕のない地方の独立系の養鶏業者の経営方針としては、自社生産と委託生産を組み合わせるというのは適切な判断であろう。また、自社が生産に関わっているのではないが、自社の卵を原料として生産されたプリンなどの加工食品も自社の販売のラインに組み込んでいることも注目に値する。さらには、地元の食材を使った食品なども取り扱っている。これらも製品の幅を広げ、有利販売につなげる効果があると思われる。

(4)販売ルート・チャネル

ここまで見てきたように、竹鶏ファームでは価格決定力を維持するために直接販売に力を入れてきたし、また製品差別化を行うとともに製品の幅が狭くならないようなマーケティングを行ってきた。直接販売にこだわっているという点に竹鶏ファームの経営上のポイントとなる成功要因があるように思われる。

竹鶏ファームの販売チャネルは、主要なものは3つある。

第1は、自社の車による業者向けの直接販売(配達)であり、卵の販売量の30〜40%を占めている。

第2は、本社の敷地内にある直営店や宅配便を用いたものなどの消費者への直接販売であり、15〜20%を占める。

第3が問屋への卸売で30〜40%を占める。

第1の直接販売はB to Bの取引であるが、会社としては今後は第2の消費者向けB to Cの取引に力を入れるとのことである。

現時点で経営にとって特徴的なものは、第1の自社での直接販売である。会社のある白石市から仙台市までは車で約1時間の距離であるが、同社は仙台市を越えて塩釜市や松島町まで自社の車の配送を行っている。配達先は飲食店、外食産業、量販店などの小売店、ホテル、菓子店などであり、取引量の多いホテルなどでは週5〜6回、それ以外のところでは週1〜3回程度配送している。聞き取り調査の中では配達という言葉で語られ、その時は気がつかなかったが配達という言葉には注文された商品を届けることだけではなく、商品の受け渡し時点で実需者と卵の生産者が顔を合わせる機会があるというイメージが伴う。代表取締役と常務取締役は、取引先との共栄共存という言葉も使っていたが、取引先に良い製品を届けそれを使ってもらうことで取引先の経営に貢献するとともに、取引先が竹鶏ファームの製品を使って成功してもらうことで竹鶏ファームの名前を一層広げてもらうというWin-Winの関係ができてくること、そして取引先と自社の両方にとって望ましい取引関係を構築できることが期待されるし、また実際に行われている。

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5 アニマルウェルフェアへの配慮

畜産経営ではアニマルウェルフェア(以下「AW」という)への配慮が次第に強く求められるようになってきている。竹鶏ファームでは竹炭利用に見られるように循環型の畜産を志向し、大手の養鶏業者では採れないような対応をしてきた経緯があるが、理念を経営の中でいかにして実現していくかという点ではAWへの配慮という点にも通じるものがあるように思われる。竹鶏ファームでのAWの具体的な取り組みとしては、止まり木やネストエリアなどがついたAW対応のケージシステムを導入している。なお、このシステムはEUの基準に適合しているものである。導入したのは鶏舎2棟のみであり、まだ全ての鶏には対応できていない。

このシステムを導入した効果として、2点挙げられている。

第1は鶏の環境が良くなることによる産卵率が改善されるなどの効果と作業のしやすさという面での効果である。

第2は、取引先や顧客に共感してもらえることの効果である。平成28年の10月ごろからみやぎ生協との取引を開始しているが、生協組合員のように一般消費者に比べるとAWへの関心が高い顧客に共感を持ってもらえることはメリットである。特に、他の養鶏業者に比べて先進的に取り組んでいることにより他との差別化のみならず顧客との関係性を構築できることは、今後の経営発展にとっても重要な要素となるであろう。

一般にAWへの配慮を考える場合に問題視されるのは、飼養密度の低下による生産性や収益性への悪影響である。竹鶏ファームの場合には上記のようなメリットがあるが、それでも収益性への影響は否定できない。しかし、一般の経営と比べて竹鶏ファームでは自らが価格決定力を持っていることが影響を軽減している。つまり、価格決定力があり、しかも顧客との間で共感をベースとするような関係性を構築できているということは、AWの取り組みのコストアップ要因を若干なりとも価格に転嫁する可能性があるということを意味している。今後、AWへの取り組みがさらに進める上でこの要素は大きな意味を持つと思われる。

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6 ネットワークの力

(1)地元企業との関係構築

竹鶏ファームが顧客と良好な関係を作り、それを利用してさらに経営発展をしてきた経緯については、ここまでのところでも述べてきたところである。竹鶏ファームの商品としてパンフレットやHPに掲載されている商品の中には取引先が製造している加工食品や地域の特産品を使った商品なども含まれている。竹鶏ファームにとっては自社の卵を使った製品を製造委託に近いような形でラインアップできるメリットがあるし、取引先にとっても販路開拓につながるメリットがあり、Win-Winの関係となっていることは明らかである。

(2)宮城のこせがれネットワーク

竹鶏ファームの常務取締役である竜生氏は、大学卒業後、フードサービス業に従事した後に平成22年に実家である竹鶏ファームに戻り、養鶏業に従事している。実家に戻ったころに父親である浩幸氏との間で、「父は経営内部をしっかりと、自分は外とのつながりを」という役割分担を意識していたということである。宮城の農家のこせがれネットワークは竜生氏をはじめとする宮城県内の農家の後継ぎとなっている若い農業者を中心にスタートしたネットワークで、竜生氏はネットワークの創設期から代表を務めてきた。始まったころは農家の後継ぎの人たちが集まるような場は少なく、そのような場を求める生産者は多かったということで、自然にスタートして、次第に生産者、業者、学生などのつながりの場として発展し、定例会や交流会を行うなどして、相互に刺激をし合い、経営の発展や成長につながってきたという。そこでの付き合いから取引につながったり、あるいは取引先を紹介したりされたりということもあったり、また信頼する相談相手と出会うなどのこともあったということである。

(3)クラウドファンディング

竹鶏ファームでは平成28年9月にクラウドファンディングに取り組み、11月に成立させている。クラウドファンディングとは、新規事業を立ち上げようとする企業家や社会的に有意義なプロジェクトを実施しようとしているNPO法人などが資金調達をする際に、信用力などの面では銀行などの既存の金融機関からの融資を得ることが難しいので、インターネットを通じてその事業の内容に共感し理解してくれる不特定多数の出資者からの出資により資金調達を行う仕組みであり、日本でも近年注目を浴びているものである。事業やプロジェクトの内容と目標金額を提案し、ネット上で出資を募り、設定した期日までに出資額の総額が目標金額を超えると成立し、目標に満たない場合は不成立となり、出資した金額は返金されるというのが一般的な仕組みである。

竹鶏ファームでは、竹炭を生産してきた炭窯が老朽化し、また炭窯を作る技術を持った人が高齢化して技術の継承が難しくなっていることも考慮して、総額100万円のクラウドファンディングによる炭窯の改修を提案し、79人の参加者、総額113万5000円の出資を得てクラウドファンディングは成立している。竹鶏ファームがクラウドファンディングを行ったのは、こせがれネットワークでの知人からの紹介であったという。竹鶏ファームとしては、主目的の炭窯の改修だけではなく、新規の顧客の開拓や既存の顧客への働きかけの機会としての意味や世の中に認知してもらう機会としての意味も込めて、このプロジェクトを提案したとのことで、単純に商品を売り込むことだけではなく、自然への関心や伝統技術の継承などの人間的なものへの企業としての関心をも伝えたいという意図もあってのことのようである(注5)

単純なビジネス目的だけで提案実行されるプロジェクトであれば銀行などによるビジネスとしての金融での対応が適切であろうが、自然を相手とする農畜産業でしかも地域社会に根ざした形で事業を行っている地方の中堅の畜産業者にとっては、理念や波及効果の部分で一般の金融機関からの融資よりもクラウドファンディングがなじむ面もあるように思われる。竹鶏ファームの今回のクラウドファンディングは先駆的な取り組みとして注目される。

(注5) Ready forホームページ[5]を参照のこと。

7 今後の課題

厳しい市場環境を考えると、優良事例である竹鶏ファームでも将来的にはいくつか直面しそうな課題もある。聞き取り調査の中で筆者が人、立地、資金、リスク対応の4点について質問をしたところ、回答では人の問題とリスク対応の心配があるように思われた。

人に関わる問題としては、少子化で労働力人口が減少する中で新卒者を採用すること自体が難しくなってきているし、また採用できたとしても定着してくれるかどうかが分からなくなってきている問題に直面しはじめているようである。この問題は畜産業界のみに限ったことではないが、キツイという業界イメージのある畜産業界では特に厳しい問題になりそうである。採用と同時に人材教育をどのように進め、定着を図っていくかは今後の課題になりそうである。

立地については堆肥化の能力からみて現地での規模拡大はまだまだ可能であるとのことであったし、資金についても情報提供を小まめに行うことなどで金融機関とは良好な関係を維持できているとのことであった。

リスク対応については、鳥インフルエンザなどの外部要因によるリスクは現実のものとしてあるが、現在の立地条件では鶏舎の分散などは困難であり、加工品などによる多角化を進めることはできるが、大幅なリスク低減は難しい状況にあると思われる。

しかしながら、ここまで見てきたように竹鶏ファームはこれまで製品差別化を着実に行い、適切な販売戦略をとることにより、他の経営には追随できないような価格決定力を自らの側に維持する経営を進めてきている。取引先もネットワークの中に巻き込みながら、一層の経営を発展させていくことを期待したい。

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【謝辞】

本レポートの作成に当たって調査にご協力いただきました有限会社竹鶏ファームの代表取締役 志村浩幸氏、専務取締役 志村竜生氏に心から感謝申し上げます。なお、調査日は平成28年9月26日で、その時点での聞き取り内容に基づいてレポートを作成しております。

【参考文献】

[1] 「竹鶏ファーム」パンフレット。

[2] 「竹鶏ファーム ホームページ」(URL http://www.taketori-farm.co.jp/2016年12月20日アクセス)。

[3] 「インタビュー 日本で一番ありがとうの「わ」が生まれる養鶏場を目指して[差別化よりも独自化を](有)竹鶏ファーム常務取締役 志村竜生氏に聞く」『鶏卵肉情報』2016年5月25日、pp.8-11。

[4] 「宮城のこせがれネットワーク ホームページ」

   (URL http://www.miyagi-kosegare.net/ 2016年12月20日アクセス)。

[5] 「Ready for ホームページ」

   (URL https://readyfor.jp/projects/taketori-farm 2016年12月20日アクセス)。


				

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