需給動向 海外

◆アルゼンチン◆

2016年の生乳生産は1割減


主産地で洪水により生乳生産減

米国農務省海外調査局(USDA/FAS)によると、2016年のアルゼンチンの生乳生産量は、前年比10.0%減の1040万トンとなった。同年上半期は、エルニーニョ現象に伴う多雨の影響で主要酪農生産地域(コルドバ州、サンタフェ州、エントレリオス州)の生産コストが上昇したほか、乳製品の国際相場が低迷して乳価が低水準となった結果、一定数の酪農家が廃業した。8月以降、気候は平年並みに落ち着いたものの、大半の酪農家は厳しい経営状況が続いているとされる。このため、2016年は、同国酪農業界において、直近20年で最も厳しい年の一つであったと総括されており、かなりの程度(約1割)の減産を記録した。

乳製品輸出量は前年比9.5%減

アルゼンチン国家統計局(INDEC)によると、2016年の乳製品の輸出量は生乳の減産により減少した(表8)。最大輸出品目である全粉乳は、国際乳製品相場が芳しくなかったことに加え、2015年まで最大輸出先であったベネズエラ向けが同国の政情不安で購買力が低下したことで減少したため大幅に落ち込んだ。一方、チーズやホエイについては、隣国ブラジル向けが同国の干ばつによる影響で増加した。このことから、輸出需要を鑑みて、各社がプロダクトミックスを最適化したことが伺える。

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2017年の生乳生産は微増見込み

USDA/FASが2016年11月に発表した「GAIN Report」によると、2017年のアルゼンチンの生乳生産量は、天候が平年並みであったとしても、前年の経営難により1〜4月の生産が落ち込むと予測されているため、前年比2.0%増の1060万5000トンにとどまると見込まれている(図26)。

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同国は、2015年12月の政権交代以降、農業部門の輸出規制を順次削減・撤廃し、乳製品輸出の足かせとなっていた輸出登録制度(ROE BLANCO(注))も2016年3月30日に撤廃した。これにより、同国の酪農業はポテンシャルを発揮出来るようになると見込まれていたが、現時点で酪農家は、年率30%とされるインフレや天候不順により資金繰りに苦しんでおり、増産に向けた体制が整っていない。また、2017年中にエルニーニョ現象が発生する可能性もあるとされ、天候への不安も残されている。

(注) 輸出登録制度(ROE BLANCO)は、フェルナンデス前政権時代の2007年に導入され、輸出数量、輸出先などの事前登録を義務付けたもの。政府が国内需給の逼迫を招かないよう、実質的に輸出を規制していた。

こうした厳しい状況ではあるものの、2016年後半以降、全粉乳など国際乳製品相場が上昇する中、生産者乳価も引き上げられており、酪農現場では収益性の改善に期待が集まっている。国内乳業メーカー最大手のLa Serenisima社(Mastelloneグループ)は、将来的な生乳増産を見越して、全粉乳とホエイの製造工場を5000万米ドル(56億5000万円)を投じて建設中であり、2017年中の操業開始見込みとなっている。

(調査情報部 米元 健太)


				

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