調査・報告 専門調査   畜産の情報 2017年11月号


耕畜連携による水田飼料作物の生産・利用方式
〜酪農経営における飼料用米・稲WCS利用〜

秋田県立大学 生物資源科学部 教授 鵜川 洋樹



【要約】

 耕種経営グループと畜産経営グループがそれぞれ設立した法人(組織)間の耕畜連携により、酪農経営(千葉県いすみ市の(有)高秀牧場など)が地域の水田で生産された飼料用米などの飼料作物を安定的な飼料基盤として取り入れている事例の仕組みと生産力効果を分析した。水田飼料作物は、酪農経営における給与飼料の過半を賄うなど生産力と収益性に大きく貢献し、都府県酪農の生産基盤強化に寄与することができる。また、経営グループ間による耕畜連携は、取引の安定化や拡大、低コスト化を可能にする。

1 はじめに

わが国の大家畜生産では、生乳生産量や肉用子牛生産頭数の減少対策として、生産基盤の拡充が喫緊の課題になっている。中でも生乳生産量は2008年から乳価が上昇基調に転じているにもかかわらず減少傾向が続いてきた(図1)。生乳生産量の変動はコストや収益性に規定され、生乳生産では都府県の減少を北海道の増加が補うように推移してきた。その結果、全国生産量の減少幅は緩和されてきたが、2004年以降、北海道の増加も頭打ちになり、全国生産量は急速に減少し始めた。配合飼料価格高騰を背景に、2008年から乳価が上昇し始めたが、生乳生産量の減少傾向は2016年まで続いている。乳価上昇が生乳生産量の増加に直結しないのは、酪農の生産構造が固定的だからであり、その基底を成すのが飼料基盤である。牛舎施設や乳用牛は資金があれば一定期間で調達可能であるが、自給飼料基盤は資金だけでは整備できないことが固定的な生産構造に結びついている。加えて、自給飼料基盤はコストや収益性との相関が大きいことから、飼料基盤を伴わない生乳生産量の拡大は収益性の低下をもたらすからである。また、近年の肉用牛価格の高騰が酪農生産における交雑種やET和子牛生産の拡大をもたらし、生乳生産の回復を遅らせている。2015年の乳用牛への黒毛和種の交配率は北海道21%、都府県52%と高く、都府県では生乳生産が肉用牛生産の中に取り込まれているような構造になっている。

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従って、酪農経営における生産基盤としては、飼料基盤の拡充が重要であり、それはこの間、生乳生産量を大きく減少させてきた都府県酪農にとって大きな意義がある。都府県酪農は一般に購入飼料依存型といわれるが、飼料基盤の違いによって次のように区分できる。一つは都府県酪農経営の多数を占める水田酪農である。かつては稲わら、現在はトウモロコシや牧草、飼料用稲などの転作作物、河川敷草地を飼料基盤とする。稲作との複合経営を出自とし、飼料基盤がぜいじゃくなことから、少頭数飼養が多く残っている。二つ目は戦後開拓地に集団的に展開する畑地型酪農である。面積規模の大きいトウモロコシや牧草を飼料基盤とし、飼養頭数規模は比較的大きい。三つ目はエコフィード酪農である。かつては「かす酪」と呼ばれ、都市近郊地帯に立地し、食品かすを生利用していたが、縮小傾向である。現在では大量取引を前提とする大規模なエコフィード工場が設立され、メガファームの飼料基盤となっている事例もみられる。大きな食品工場から大量に排出される食品かすをまとめて利用することが取引条件になり、遠距離輸送で複数の食品かすを利用することから、この点についての地域性は希薄である。

このように、都府県酪農には飼料基盤に基づく一定の地域性があり、中でも都府県における生乳生産量の動向は水田酪農の衰退によっておおむね特徴付けられる。飼料基盤が脆弱で規模拡大の展望が描きづらい水田地帯などで、一定の農業所得が見込めないため酪農生産から撤退すること自体は合理的な経営行動といえる。わが国の酪農はこうした生き残り競争を経て、「優等生」と呼ばれる農業構造を実現してきたのである。しかし、このような傾向が続けば、都府県の酪農生産は縮小し続け、そのことが生き残った酪農経営のリスクになる恐れもある。例えば、酪農経営が希薄になった地域では乳業工場の再編などにより出荷先の遠距離化を余儀なくされた事例もみられる。従って、都府県酪農にとって、耕畜連携への取組強化などを通じて、水田酪農の縮小傾向に歯止めをかけることが重要な課題である。

一方、わが国の水田農業は構造変革が間近に迫っている。コメ生産数量目標の配分が廃止される2018年以降、主食用米生産をめぐる経営環境は大きく変わると考えられるが、コメの生産調整の必要性は年々大きくなっている。そのとき本作化した飼料用米や稲WCSを安定的な飼料基盤として取り込めるかどうかが、水田酪農の今後を大きく左右すると考えられる。

以下では、耕種経営グループと畜産経営グループがそれぞれ設立した法人(組織)間の耕畜連携の下で、酪農経営が地域の水田で生産された飼料用米などの飼料作物を安定的な飼料基盤として取り入れている事例を紹介し、その仕組みと生産力効果を分析する。

2 稲WCSの生産・流通・利用システム

ここで事例とする千葉県いすみ市における耕畜連携の取り組みでは、水田(転作田)で生産された飼料作物(稲WCS、飼料用米、イタリアンライグラス、稲わら)が酪農経営で利用されているが、その経路(生産・流通・利用システム)は飼料作物の種類によって異なっている。

はじめに、稲WCSの生産・流通・利用システムについてみると、図2のようなフローに整理できる。生産から順にたどると、後述の(農)TMTなど上総中川地区の耕種経営(28戸)が個別にWCS用稲(計75ヘクタール)を栽培し、これを上総中川地区飼料作物生産組合が収穫し、ロールベール(ラップ済み)に調製する。この生産組合は耕種経営2法人が設立した任意組織で、収穫・調製は耕種経営からの受託作業として行っている。このロールベールを5戸の酪農経営が設立した有限会社アイデナエンタープライズが購入し、酪農経営まで運搬して、販売している。酪農経営は稲WCSを給与するだけである。

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このように稲WCSの生産・流通・利用システムは4つの主体間の取引として実施されている。取引別にみると、耕種経営と上総中川地区飼料作物生産組合との取引は収穫・調製作業の受委託であり、作業料金を収穫物であるWCS用稲で決済する仕組みになっている。この他に耕種経営では転作に関わる交付金が得られる。上総中川地区飼料作物生産組合と(有)アイデナエンタープライズとの取引は稲WCSの販売であり、販売価格(圃場渡し)は1キログラム当たり8円で、1ロール(270キログラム)では2200円である。ただし、この取引では、(有)アイデナエンタープライズから上総中川地区飼料作物生産組合に収穫調製で使用する資材(フィルム、ネット、乳酸菌)が提供され、同じく耕種経営に堆肥(10アール当たり3トン、6000円)が還元されている。また、(有)アイデナエンタープライズは稲WCSを購入するだけではなく、自らも10ヘクタール分の収穫・調製作業を受託し、合計85ヘクタール分の稲WCSを調達している。稲WCSの利用契約は耕種経営と(有)アイデナエンタープライズが結んでいる。(有)アイデナエンタープライズと酪農経営との取引も稲WCSの販売であり、販売価格(庭先渡し)は1キログラム当たり15円である。稲WCSの販売先は(有)高秀牧場など計8戸の酪農経営であり、うち3戸は(有)アイデナエンタープライズの構成員外になるが、販売価格は同じである。

3 稲WCSの生産・流通・利用の経済主体

ここで、稲WCSの生産・流通・利用システムにおける4つの営農主体の経営概況についてみる。

はじめに、稲WCSを栽培する耕種経営を代表する事例として、農事組合法人ティエムティ(以下「(農)TMT」という)を取り上げる。この経営は2015年に設立された農事組合法人で4名の理事で構成されているが、常勤は代表1名のみで、代表の積田さんが実質的な経営者である(表1)。従業員は4〜5名となり定年退職者が中心である。地域の水田は自ら声をかけなくても集まってくる状況で規模拡大が続いていることから、若い正社員を雇用したいと考えているが、見つからないことが最大のネックになっている。

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2016年の経営耕地面積は45ヘクタール(水田)、全圃場で二毛作が行われ、その作付構成は「稲WCS−イタリアンライグラス」1.9ヘクタール、「飼料用米−イタリアンライグラス」43.1ヘクタールである。借地を含めて主食用米を栽培することは可能であるが、100%転作しているのは交付金を前提にすれば経済性が高いからである。2016年の10アール当たり交付金は11万6000円(稲WCS8万円、二毛作1万5000円、耕畜連携1万3000円、県・市の加算金8000円)であった。2017年の経営耕地面積は60ヘクタールに増加し、すべて単作で「飼料用米」55ヘクタール、「主食用米」5ヘクタールになった。単作になったのは、人手不足のため、イタリアンライグラスを作付けると田植えが遅れてしまうことから冬作を取りやめたのである。主食用米は地主への借地料を現物で支払うために栽培している。借地料は10アール当たりコシヒカリ1俵である。また、稲WCSは地域レベルの供給量が過大になり、余っていることから減らしてほしいとの要望があり、すべて飼料用米に転換している。経営としては収穫・調製作業を委託できる稲WCSを栽培したいと考えている。なお、稲の栽培はすべて移植方式で、稲WCSの品種は「ゆめあおば」(2016年)、飼料用米の品種は「タカナリ」(2016年)、「オオナリ」(2017年)である。

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次に、耕種経営が設立した任意組織である上総中川地区飼料作物生産組合である。この生産組合の構成員は(農)TMTの積田代表と地域の集落営農組織である八乙女営農組合の二者であり、稲WCSの収穫・調製作業のみを行う作業受託組織である(表2)。補助事業を利用して導入した稲WCS用の専用機などを装備しているが、専属の従業員はいない。稲WCSの収穫・調製作業は7月下旬から8月下旬に行われ、二者の構成員がそれぞれ雇った労働力で作業を行う。稲WCSの売上高(2016年1400万円)から機械の整備費と燃料費(計300万円)を差し引いた残額を二者に分配し、そこから雇用労賃を賄う方式になっている。

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つづいて、酪農経営が設立した(有)アイデナエンタープライズである。この法人は2008年に飼料価格が高騰したときに自給飼料の必要性を認識した酪農経営の仲間5戸で設立した有限会社で、さまざまなアイデアを出し合いながら、飼料や堆肥、野菜などの生産・販売に取り組んでいる(表3)。これらの事業の中では稲WCSや飼料用米など飼料の販売額が4000万円と大きな比重を占めている。既述のように、稲WCSに関しては、収穫から販売までを行っている。(有)アイデナエンタープライズは牧草生産のための機械一式と堆肥製造のための施設を所有し、これらの作業は構成員が中心になって行っている。

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最後に、稲WCSを利用する酪農経営を代表する事例として(有)高秀牧場を取り上げる。この牧場の代表である高橋さんは(有)アイデナエンタープライズの代表でもあり、(農)TMTの理事でもある。従って、高橋代表はこの地域で生産される稲WCSなど飼料の生産・流通・利用のシステムを構想した中核的な人物といえる。

(有)高秀牧場は「農業公社牧場設置事業」(1977〜84年)で造成された農地に1983年に入植した畑地型酪農であり、小高い丘陵地に立地し、周辺には同時期に入植した酪農経営が3戸営農している。(有)高秀牧場の経営概況は、経営耕地面積が15ヘクタール(畑地)、すべて所有地である(表4)。作付面積は「トウモロコシ−イタリアンライグラス」13ヘクタール、野菜(食用菜の花)2ヘクタールである。乳用牛飼養頭数は経産牛が90頭、育成牛が40頭で年間生乳生産量は900トン、個体乳量は1万キログラムになる。労働力は家族3名、正社員6名、パート社員4名と多い。これは6次産業化として、チーズやジェラートなど加工事業に取り組んでいるからである。労働力のうち主として加工事業に従事しているのは、家族1名、正社員2名、パート社員4名であり、酪農の労働力は家族2名と正社員4名ということになる。加工事業を行うチーズ工房の設立は2011年、ミルク工房は2016年で、生産された生乳のうち自家利用されるのは年間18トン程度になる。なお、野菜の栽培は冬期の雇用労働力対策として導入されている。

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また、(有)高秀牧場は酪農教育ファームにも取り組み、年間訪問者数は300〜400名である。なお、酪農部門の従業員4名はいずれも非農家出身の若者(21〜38歳)で、「いずれは独立して経営主になる」という高橋さんの方針に賛同して、全国から集まっている。その中の1名は2018年2月からの就農(千葉県内の肉用牛経営)が内定しているように、(有)高秀牧場では担い手の育成機能も果たしている。

(有)高秀牧場における2016年の飼料調達量を見ると、自給飼料であるトウモロコシサイレージ300トン、イタリアンライグラスサイレージ182.5トン(後述するように、(有)アイデナエンタープライズから購入するイタリアンライグラスサイレージ70トンを含む)、稲WCS594トン、稲わら72トン、飼料用米3.6トン、その他の購入飼料が配合飼料126トン、ビールかす219トンなどとなっている(表5)。このように、自給および地元産の飼料の割合(原物)が高いことが特徴で、粗飼料は100%、濃厚飼料も飼料用米やかす類などで50%と高く、飼料全体では75%になる。なお、2016年のトウモロコシサイレージは天候条件が悪く生産量が少なかったが、通常年の調達量は600トンである。

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4 飼料用米の生産・流通・利用システム

次に、(有)アイデナエンタープライズが購入している飼料用米の生産・流通・利用システムのフローは図3−1のように整理できる。水田作経営(11戸、30ヘクタール)は個別に生産・調製した飼料用米(玄米)180トンを、(有)アイデナエンタープライズに1キログラム当たり20円で販売し、この他に転作に関わる交付金を得ることができる。(有)アイデナエンタープライズは同額で酪農経営に販売し、(有)高秀牧場では105トンを購入、利用している。(有)アイデナエンタープライズは飼料用米の販売ではマージンを取っていない。なお、(有)アイデナエンタープライズの買取価格は2013年までは1キログラム当たり30円であったが、飼料用米生産に関する交付金が数量払いで増額されたことから、同20円に減額している。

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わが国全体の飼料用米の流通では地域外への販売が多数を占める。(農)TMTで生産された飼料用米(玄米)は地元の飼料商店に1キログラム当たり15円で販売している(図3−2)。(農)TMTも以前は(有)アイデナエンタープライズに販売していたが、買取価格が高く他の耕種経営からの要望が多くなったことから、買取枠を譲った経緯がある。地域の農地を集積する経営としての対応である。なお、飼料商店の買取価格も値下がり傾向であり、2015年は同20円であった。ただし、この場合でも、JAへの販売価格同8円(2016年)を上回る水準になっている。飼料用米価格の買取価格は流通経路の長さに反比例して低下せざるを得ない。地元利用の(有)アイデナエンタープライズが最も高く、次いで地元の飼料商店、全国プール計算のJAが最も低くなり、地元利用を基本とする耕畜連携の有利性が表れている。

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5 稲わらの生産・流通・利用システム

(農)TMTでは43.9ヘクタールの飼料用米圃場で稲わらを収集・ラップして、(有)アイデナエンタープライズに1キログラム当たり8円で販売し、この他に耕畜連携に関する交付金を得ている(図4)。なお、この取引でも、(有)アイデナエンタープライズから(農)TMTに稲わら収集で使用する資材(フィルム、ネット、乳酸菌)が提供されている。2016年は台風被害で稲が倒伏したため収集量は600ロールと少なかったが、2015年は1200ロールの実績であった。(有)アイデナエンタープライズは酪農経営に同15円で販売し、このうち(有)高秀牧場では400ロールを購入、利用している。また、(有)アイデナエンタープライズでは自ら稲わらの収集も行っているが、最近2年間は天候条件が悪く収集できていない。

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6 イタリアンライグラスの生産・流通・利用システム

(有)アイデナエンタープライズは水田作経営の転作田(冬作)でイタリアンライグラスのロールベールサイレージを収穫・調製している(図5)。播種と施肥までは耕種経営が個別に行い、収穫以降の作業を(有)アイデナエンタープライズが行っている。耕種経営は種子と肥料の費用を負担し、収穫以降の作業料金を現物で決済する方式である。転作に関わる二毛作の交付金は耕種経営の収入になる。2016年産の播種面積は140ヘクタールであったが、天候条件が悪く、収穫できたのは70ヘクタールであった。(有)アイデナエンタープライズはイタリアンライグラスサイレージを酪農経営に1キログラム当たり15円で販売し、このうち(有)高秀牧場では70トンを購入、利用している。

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7 経営グループ間の耕畜連携のメリット

これまでみてきたように、上総中川地区では水田(転作田)が高度に利用され、1つの水田から飼料用米(あるいは稲WCS)、稲わら、イタリアンライグラスという3つの飼料が生産され、それらが地元の酪農経営に利用されている。こうした水田飼料作物の生産と利用を媒介しているのが、耕種経営グループと畜産経営グループのそれぞれが設立した法人(組織)である。耕種経営と畜産経営が個別に連携するのではなく、グループ間で連携することにより、次のようなメリットが考えられる。

(1)取引の安定化と拡大

耕種経営における作付構成や酪農経営における飼料給与メニューは固定的ではなく、経営者の判断により絶えず見直されるものであり、個別経営間の耕畜連携では取引量の不安定性が拭えない。グループ間の連携では、飼料の生産量や給与量の変動をグループ内で緩和することができ、取引の安定につながる。酪農経営にとっては耕畜連携協定に関わる事務の簡素化になる。また、法人や組織は新たな構成員を加えることができることから、既存の構成員の退出への対応や新たな構成員の参画により耕畜連携の取引を拡大することができる。

(2)季節的に集中する作業への対応

飼料の収穫・調製作業は適期が限られ、短期間に集中的な労働力が必要とされ、個別経営では作業面積の制約が大きいが、グループとしての対応であれば、労働力の調達は比較的行いやすく、作業能率を高め、作業面積が拡大できる。

(3)助成事業の利用

これまでの農業機械などの助成事業では共同利用が基本とされてきたことから、グループ対応は助成事業の対象になりやすく、少ない自己負担で機械や施設を整備することができる。このことから、上記(2)とあわせて、低コスト化につながる。

(4)グループ内の情報共有

共同作業や協業組織のメリットである、グループ内における技術の高位平準化や営農情報の共有・高度化などが期待され、耕種経営や酪農経営それぞれの本体の経営発展につながる。

(5)堆肥還元による循環型農業の構築

(有)アイデナエンタープライズが製造した堆肥を稲WCS生産圃場に還元することにより、耕種経営は化学肥料を節減することができ、酪農経営はふん尿処理の制約から解放され頭数規模拡大が可能になる。堆肥還元による循環型農業の構築は、地域における耕畜連携の関係性を強化するものであり、耕種経営と酪農経営の両者を構成員とする地域農業全体の発展につながる。

8 耕畜連携による水田飼料作物の生産力

飼料作物は中間生産物であることから、その生産力は畜産物の生産量で評価されることになる。ただし、生産されるためには一定の収益性が必要であり、それは畜産物の収益性として評価される。しかし、耕畜連携では飼料の生産者と利用者が異なる経営であることから、それぞれの経営で収益性が確保されなければならない。

酪農経営における水田飼料作物の生産力を(有)高秀牧場の給与メニューから検討する。牧場全体の飼料調達量については既述のとおりであるが、搾乳牛の給与メニューをみても自給飼料や地元産飼料が多いことが分かる(表6)。粗飼料のうちトウモロコシサイレージとイタリアンライグラスサイレージの一部は自給飼料、残りのイタリアンライグラスサイレージと稲WCSは(有)アイデナエンタープライズから購入したもので地元産である。濃厚飼料では飼料用米が地元産、配合飼料とサプリメントは飼料会社からの購入である。かす類はすべて地元産である。これらの給与飼料をTDNに換算すると、自給を含む地域内生産飼料が給与飼料全体に占める割合は53.7%と高く、これが水田飼料作物の給与割合になる。このように給与飼料の過半を水田飼料作物に依存しながらも、個体乳量1万キログラムを実現していることが水田飼料作物の生産力を示すものといえる。なお、地域内生産飼料にかす類を加えると給与割合は82.2%にもなる。

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次に、酪農経営における収益性として、飼料の調達価格(費用)をみると、粗飼料は1キログラム当たり10円あるいは15円である(表6)。これを流通乾草1キログラム当たり63円と比較するために乾物換算すると、ヘイキューブの74円に対し稲WCSは50円と低い。同様に濃厚飼料は配合飼料の1キログラム当たり43円に対し飼料用米は20円と低い。これらの飼料費節減額を試算すると、搾乳牛1頭1日当たり890円になり、同1年当たりでは32万5000円になる。このように水田飼料作物は流通飼料に比べて調達コストが低く、酪農経営の収益性を高めていることが分かる。

※農林水産省「畜産物生産費統計」牛乳生産費 流通飼料及び牧草の使用数量と価額(搾乳牛通年換算1頭当たり)一都府県 まめ科・ヘイキューブを基に算出。

最後に、耕種経営における水田飼料作物の収益性は交付金に大きく規定されている。それは上総中川地区においても同じであり、中でも稲わら利用やイタリアンライグラス(冬作)生産は交付金によるインセンティブが大きい。耕種経営における作付構成は労働力に規定されながら、交付金を含む収益性に敏感に反応する。この点において、地元利用を基本とする耕畜連携により飼料用米の買取価格が高く設定されていることは収益性を高めている。一方、(農)TMTの事例にみられるように、労働力不足が水田の高度利用を妨げている。この点から、水田飼料作物の中で耕種経営にとって省力的な稲WCSの地域内利用量を拡大することが今後の課題といえる。このことは飼料用米についても同じであり、地域内利用量の増加は耕種経営における収益性の増加につながるからである。他方、地域内需要の拡大が見込めない場合は、九州や東北地域でみられるような、稲WCSの広域流通も考えられる。

9 おわりに

これまでみてきたように、水田飼料作物は、耕種経営において交付金に依存しながらも、酪農経営の生産力と収益性に大きく貢献することができ、都府県酪農の生産基盤強化に寄与することができるものである。そのための方策の一つである、耕種経営と酪農経営のそれぞれのグループ間による耕畜連携は、取引の安定化や拡大、低コスト化を可能にする。また、肉用牛に比べて遅れている酪農経営における飼料用米や稲WCSの利用拡大が大きな課題であり、グループ間連携はその契機と成り得るものである。


				

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