調査・報告 専門調査   畜産の情報 2017年11月号


食肉および食肉加工品流通における食品企業型SPAの
持続可能性とフードロスに関する研究

東京農工大学大学院 農学研究院 教授 野見山 敏雄
東京農工大学大学院 農学研究院 教授  佐藤   幹
山口大学大学院 創成科学研究科 准教授 種市  豊
愛知工業大学 経営学部 教授  小林 富雄



【要約】

 本研究では、食品企業型SPAを実践する(株)エー・ピーカンパニーと(株)秋川牧園を対象にして、SPAの長短所、食品ロス、衛生管理などの問題視角から、SPAの持続可能性について分析を行った。その結果、次のことが明らかになった。第一は、2つの企業はともに飼育のこだわりを積極的に開示し、処理過程では衛生管理だけでなく高品質な食材を自社生産・販売している。このことにより、売り切れ時の機会ロスよりも売れ残りに伴う廃棄コストが相対的に高く見積もられている。第二は、(株)エー・ピーカンパニーでは解体した肉を衛生的に優れた方式で加工し、農場から高値で生体を買い取ることができている。第三は、(株)秋川牧園の場合、消費者が畜産物に対する安全、安心、高品質の対価として小売価格を受容しており、飼料費が高騰しても経営上大きな問題はない。

1 研究の目的と方法

(1)目的

SPAとはSpecialty store retailer of Private label Apparelの略で製造小売ともいう。企画から製造、小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデルを指す。食品企業でも従来の産直とは異なるSPAを実践している事例が増えている。だが、これまで食品企業型SPAに着目した研究はほとんどない。

そこで本研究では、川下と川上のそれぞれ代表的なSPA型食品企業の分析を行う。まず、川下主導型SPAの事例として外食企業の(株)エー・ピーカンパニーおよびその取引農場と関連会社を対象とする。次に川上主導型SPAの事例として、(株)秋川牧園を対象とする。秋川牧園は生協や量販店への出荷以外にeコマースを積極的に行っている先進事例である。これらの実証的研究によって食品企業型SPAの成立条件と持続可能性を明らかにする。

さらに、食品企業型SPAは食品の在庫を自前で管理する必要があるが、部位別アンバランスやマルチチャネルの需給調整をどうマネジメントすれば食品ロスが減るのか、さらに衛生管理のあり方についても明らかにしたい。

なお、本研究ではSPAのApparelの語句をAgricultureに読み替えてSPAという用語を使用する。また、6次産業化との異同について述べておきたい。6次産業化は東京大学名誉教授の今村奈良臣氏が造語した言葉であり、農林漁業者(1次産業)が、農産物などの生産物のもともと持っている価値をさらに高め、農林漁業者の所得を向上していくことである。価値を高める方法として、農畜産物・水産物の生産だけでなく、食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組み、それによって農林水産業を活性化させようというものである。

つまり、6次産業化の原点は1次産業にあり、2次産業や3次産業ではない。また、本研究で対象とする食品企業型は上場企業であり、農畜産物の製造、加工、外食、小売を一貫的に行うところに特徴がある。

さらに、食品企業型SPAが畜産インテグレーションと異なるのは、飼料生産まで統合できておらず、秋川牧園は飼料米生産を行っているが、外国産飼料に大部分を依存している食品企業である。

(2)方法

調査手法は企業調査と関連企業の聞き取り調査により、可能な限り実態を明らかにする。エー・ピーカンパニーの調査は本社(東京都港区芝大門)および宮崎県西都市の直営養鶏場、関連子会社・(株)地頭鶏ランド日南の西都加工センターを含めた企業活動についてヒアリングを行う。秋川牧園の調査は山口市にある本社と関連農場および加工工場に出向き、社長および担当者への聞き取り調査を行う。

(野見山 敏雄)

2 (株)エー・ピーカンパニーにおけるSPAの取り組みと課題

(1)企業概要

(株)エー・ピーカンパニー(以下、APカンパニー)は、2001年10月に設立され、2012年9月東証1部に上場した。飲食店および食品販売店の経営、フランチャイズチェーン店の加盟店募集および加盟店指導、養鶏場の運営、漁業(定置網など)、農業(青果物など)、食鳥の処理、加工および販売、食品の加工、流通、輸出入などを幅広く行う食品企業である。店舗は直営152店、ライセンス51店であり、従業員として正社員709名、 パート・アルバイト1620名(1日8時間換算)が勤務している。売上(2012年、連結会計)は210億円で、近年急速に売上高を拡大している。

APカンパニーの特徴は、第一次産業(農業、漁業など)の活性化および高品質で低価格な商品とサービスの提供を目的として、農漁業生産者と直接提携しながら、食品の生産から販売までを統合的に手掛ける「生販直結モデル」を展開していることである。

(2)地鶏の生産・加工・販売

APカンパニーは年間、みやざき地頭鶏(以下、「地頭鶏」という)30万羽、黒さつま鶏7万羽、新得地鶏3万羽、合計40万羽を生産している。自社のふ化場が宮崎、鹿児島、北海道にそれぞれ1カ所ずつ、直営の養鶏場が宮崎に2カ所、鹿児島に1カ所、北海道に1カ所ある。そして、契約農場が宮崎に20カ所、鹿児島に3カ所、北海道に4カ所ある。

また、自社の食鳥処理・加工場が宮崎に3カ所、鹿児島に1カ所ある。鶏は約120〜150日間飼育され、出荷率は8〜9割だという。処理加工した鶏肉の1割程度は、APカンパニー以外にも販売されているが、ほとんどは居酒屋チェーンを展開している「塚田農場」に供給されている。

APカンパニーは、地鶏の特徴を活かしてブランドストーリーをつくり、塚田農場で提供している。店内装飾やメニューに「生販直結モデル」を顧客に伝えるとともに地鶏が生産され、店で提供されるまでの過程を説明し、店員が地鶏の使用価値を顧客と共有化することで、顧客と店舗・店員との関係性を深めて再来店率を高めようとしているのである。

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(3)小括

「生販直結モデル」は養鶏場だけでなく、地鶏のひなセンターや、鶏肉の処理・加工センターなどの生産拠点を現地に設立し、生産体制を一元化して管理するトレーサビリティを実現している。そのことにより、相対的に安価で美味しい地鶏の生産を拡大し、消費の拡大にもつながっている。

筆者が調査した宮崎県西都市の直営養鶏場の雇用は1名だが、鶏肉処理加工場は40〜60名が働いていた。APカンパニーの地鶏はブロイラーと異なり食肉加工の機械化が難しく、人手に頼らざるを得ない。結果的に当該地域に雇用が創出され、賃金が支払われる。

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また、宮崎や鹿児島で生産される農産物や加工品(焼酎、薩摩揚げなど)を含む地域フードビジネスを一体的に振興する経済モデルとして「生販直結型モデル」は優れている。また、地鶏を全量買い取ることで契約農家の安定収入にもつながり、地域での新規就農者の増加や農家の後継者創出など、副次的効果も現れている。

参考文献

1.星野妙子編『ラテンアメリカの養鶏インテグレーション』調査研究報告書 アジア経済研究所、p.3、2008年

2.エー・ピーカンパニー、「地鶏のビジネスモデル」エー・ピーカンパニー・ホームページhttp://www.apcompany.jp/business/chicken.php 

3.木立真直「食品小売業の変化と生鮮調達戦略の方向性―生鮮PB・地産地消・「生鮮SPA」の意味を考える」農業と経済、第78巻 第13号、p.17-27、2012年

4.小林富雄『食品ロスの経済学』農林統計出版、2015年

(野見山 敏雄)

3 川上主導型SPAの研究〜(株)秋川牧園〜

(1)(株)秋川牧園の設立の経緯

(株)秋川牧園(以下、秋川牧園)は、山口県山口市仁保に本社を有し、鶏肉・鶏卵をメインに牛肉、牛乳、ヨーグルトなど多様な農畜産物を製造販売する法人である。近年は、秋川牧園独自の方法で栽培されている野菜(登録農家のみ)の生産も実施している。当該法人は、「無投薬飼育、残留農薬への挑戦」(注1)をモットーとしており、高度な生産技術とそれに伴い、徐々に消費者の信用を確立してきた。その設立は、1972年に卵を生産する法人として創業し、1997年に農業法人としてはじめて東京証券取引所JASDAQに株式公開をした。

(2)秋川牧園の生産の特徴とポリシー

秋川牧園は、地元の生産者と連携しながら、安心・安全な農産物の製造を目指している。肥育飼料は、全て遺伝子組み換えをしていないトウモロコシなどの飼料を使用している。秋川牧園のポリシーは、生産者間と行った全量製品買い取り・全量原料供給の取引連動型取引による分別管理を主とした混在の排除である(注2)。また、無投薬飼育であることから、抗生物質・抗菌剤を全期間使用していない。

鶏肉の生産は、山口県のみならず福岡県・大分県・熊本県などの法人にも委託されている(図2)。生産方法は、秋川牧園の生産方法に基づき標準化されたものとなっている。このことから、秋川牧園の生産物は、肉・卵のみならず飼料までトレーサビリティそのものが確立されており、消費者の求める基準で生産・出荷・販売を行う、産地主導型の生産法人である。

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(3)流通経路と自社製品の製造と開発

秋川牧園は、40年ほど前から産直を行っている。その流通経路は、自社で行っている直販事業のほかに、西日本および首都圏の生協をメインに出荷している。自社の直販事業は山口県内のほかにインターネットによる販売もあり、全国各地から購入が可能である。直販と生協の割合は生協84に対し、直販16である。

産直の輸送方法をみてみると、山口県内の場合は、工場から直接秋川牧園のトラックで配送される。直販事業は、社内に直販部を設け、顧客とインターネットやカタログショップなどを通じて販売を行っている。また「直宅農園」と呼ばれる会員制の個人宅配の制度に入会することにより送料も安価になることから、全国各地に秋川牧園独自の顧客を有している。

当社製品は、食肉や鶏卵のほかに唐揚げやチキンナゲットなどの冷凍食品もある。製造工場は、本社近隣の自社工場のほかに子会社である(株)チキン食品で行っている。加工品の製造は少量高品質にこだわり、かつ可能な限り手作りにこだわった方法を採用している。

(4)小括

秋川牧園は、地域ならびに地域の農業へ活力を与える法人である。消費者の求める安全・安心の品質を担保し、消費者ニーズを全て満たそうとすると、高級路線になりがちであるが、秋川牧園で実施されている食品企業型SPAは、飼料米の生産から始まり、さまざまな農産品でより多くの消費者に高い品質と価格面において満足できる商品を供給できる仕組みになっている。

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注1 秋川牧園、安全安心への挑戦

(https://www.akikawabokuen.com/safety/zanryu.html

 2 浅川芳裕「農業経営者レポ第二回 株式会社秋川牧園代表・秋川実」
     『農業経営者』2004年7月号、pp. 24〜29。

(種市 豊)

4 食品企業型SPAにおけるフードロスマネジメントの実態
  〜マーケティング論からみた養鶏ビジネスのケーススタディ〜

(1)畜産業におけるフードロスの特徴

食品企業型SPAの特徴は、必要な部位だけを仕入れて販売する一般の流通業とは異なり、生産物である1頭(羽)を全て売りさばく必要が生ずる。そのため、「部位別需給調整」という青果物などよりもはるかに複雑な在庫マネジメントや販売戦略を迫られる。鶏肉の場合、主なものでも手羽、むね肉、もも肉、ささみ、かわ、すなぎも(筋胃)などの部位があり、それぞれ食感や味が異なる。また、売れるからといって特定部位の取扱量を増やすことは、相対的に余剰となる部位がフードロスとなる。このように複雑な部位別の需給調整をしながらフードロスを減らし高価格で販売するため、「情緒的」なブランディングを含む食品企業型SPAモデルが成功要因の一つとなる可能性がある。

(2)ケーススタディ

(1)APカンパニー

APカンパニーの食品企業型SPAは、肉付きや歩留りを考慮せずに生体をキログラム当たり600円という固定観念で購入しており、契約農家側でも安定経営しやすいビジネス環境を提供しているといえる。

出荷後は、子会社の食鶏処理場にて全て手作業で丁寧な品質管理を行う。解体後は素早く部位別に加工・真空パック詰めされ、「皮」や「もも端材」、「ガラ」、「鶏脂」に至るまで捨てるところなくほとんどの部位が出荷されていく。部位別に真空パックされた正肉は直ちに急冷され、店舗で消費されるまで鮮度が維持される。

店舗からのオーダーに対しては物流センターの在庫品を翌日配送ができるため、過不足なく店舗在庫の管理が可能となっている。その結果、店舗でのロスはほとんどなく、数量限定品を除けば欠品もない。また、店舗のホールスタッフが主力商品の炭火焼を食べ残している顧客にはポン酢とネギなどを出して和えて、完食してもらうよう促す。さらに顧客が地鶏焼きを食べた後の鉄板に残った脂でチャーハンを作ってサービスするなど、食材を余すところなく楽しんでもらうという。このような接客を通じたロス削減の経営方針は、顧客満足度を高める方向でもうまく作用している。

(2)秋川牧園

秋川牧園では、若鶏(ブロイラーおよびはりま)を9生産者18農場で、銘柄鶏(赤系)を3生産者4農場で生産している。うち連結子会社を含む6農場が直営で、その生産シェアは約50%である。飼料価格は乱高下することもあるが、配合飼料価格安定基金の補塡金を使いながら販売先に対して販売価格を上げてリスクを吸収してもらう契約をしている。

出荷された鶏は、熊本県にある子会社潟`キン食品で処理される。ほとんどが機械化されているが、内臓の取り出しや手羽先の加工、もも肉の整形など細かい部分は手作業される。部位別に解体された後に出荷されるが、一部は冷凍保存して在庫調整をする。レバー以外の部位はスチールベルトフリーザーでバラ凍結することがあり、消費者が使いやすい商品開発も行っている。

その後、ミートセンターでパッキングされた後に冷食工場で加工品になり、生協、らでぃっしゅぼーや、大地を守る会などへ卸す。焼き鳥の加工品も製造しているが、カワとレバーは手差しをして丁寧な作業を売りにしている。

一部加工やパッキング後の最終製品の状態で冷凍保存され需給調整することもあるという。直売所も運営しており、そこでは規格外の卵や正肉、砂肝や手羽先、レバーなどを比較的安く販売している。

一般に生協産直などのカタログ販売は、店頭販売に比べ欠品対応が困難で、ロス覚悟で過剰在庫を持たざるを得ないことが多い。同社の自社製造製品のSKU(Stock-keepimg Unit、最小管理単位)は1000点と多いにもかかわらず、同社では20日分の冷凍在庫を持つことで管理している。自社通販ではカタログの内容変更が間近でも可能であり、企画変更も需給調整の手段として使われている。その結果、ロス率は1%程度と極めて低い。一部、欠品に対して寛容な取引先もあるといい、その背景には、こだわりの商品を生協などと共同で生産し、大切に扱う姿勢がある。

(3)小括

2つのケーススタディから次の共通点が見い出される。1つ目は、高品質な食材を自社生産し、それを低価格で販売するモデルであるため、売り切れ時の機会ロスよりも、売れ残りに伴う廃棄コストが相対的に高く見積もられることである。正確な原価は非公表だが、その結果として材料を手作業で大切に扱うことにつながっていることが示唆された。

2つ目は、もも肉など売れ筋商材についてはマーケットイン型で対応しながら機会ロスを減らしつつ、その他の部位についてはプロダクトアウト型(提案型)の商品開発や情報提供を積極的に展開し、安易に安売りせず通常価格で売り切っている点である。そこでは、飼育のこだわりを積極的に開示し、処理過程では衛生管理だけでなく生命に対する畏敬の念など情緒的な販売促進を行うという、食品企業型SPAのフードロスマネジメントの実態が抽出された。

参考文献

1. 日本食鳥協会ホームページ(http://www.j-chicken.jp/museum/arekore/02.html)

2. 独立行政法人農畜産業振興機構(ALIC)ホームページ
 (http://lin.alic.go.jp/alic/month/dome/2007/sep/chousa1.htm )

3. 小林富雄(2015)「返品慣行下におけるフードロスの発生メカニズム−加工食品サプライチェーンにおける需給調整モデルの援用−」『流通』No.37、pp.55-70

4. 木立真直(2011)「食品小売市場の再編と小売主導型流通システム−PB商品供給をめぐる関係性を中心に−」『農業市場研究』20(3): 24-34

(小林 富雄)

5 食品企業型SPAにおける食肉の衛生管理と飼養管理

(1)生産農場が主導して形成したSPA〜秋川牧園の事例〜

秋川牧園の飼養管理の特徴は、徹底的な飼料による差別化を行っていることである。残留農薬ゼロを目標に、産地国を特定し、PHF(Post harvest free)の原料を使用し、さらには、遺伝子組み換えをしていない飼料作物を使用している。飼育は抗生物質を全く使用しない無薬飼育で、国産飼料米も25%程度使用し、肉骨粉は使用していない。飼料米はもみ米を使用し、専用品種と鶏ふん堆肥を用いた提携農家による栽培で1アール当たり75キログラム(2016年産、もみ米ベース)の高い収量を得ており、95ヘクタールで栽培している。自社農場ではない提携農場には、飼料とひなを提供して、農場で生産した鶏を秋川牧園が引き取る形式を取っている。

採卵鶏の飼育形態は2段開放鶏舎による飼育が基本であり、平飼いでも3000羽飼育している。品種としてはボリスブラウンやモミジが中心である。一方で、肉用鶏に飼育形態は一般的なブロイラー農場とは異なる特徴が存在する。肉用鶏は坪当たり35羽の飼育密度で飼育されており、50羽程度の坪羽数である一般的なブロイラーの飼育密度に比べ低い。さらには、60日以上飼育していることにも特徴がある。通常のブロイラー飼育農場では、42〜50日程度の飼育期間であるが、長く飼育することにより肉のうま味を強化しているものと推測される。敷料は戻し堆肥とチップを混合し、10センチメートル程度敷いている。暑熱対策は通風とミストにより行っている。

衛生管理は一般的な管理である。通常のワクチネーションプログラムに従ってワクチン接種を行っている。肉用鶏ではオールインオールアウト形式の90日で1回転させている。飼育管理には細心の注意を払い、無薬飼育であるにもかかわらず、大きな被害は出ていない。これは、飼育管理者の技術水準が高いことを示している。

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(2)販売や消費者が主導して形成したSPA〜APカンパニー〜

APカンパニーの生産農場は、宮崎県、鹿児島県、北海道新得町に存在し、合計で40万羽を生産している。肉用鶏の生産規模として考えると決して大きくはないが、地鶏の生産規模としては非常に大きい。主な生産銘柄は地頭鶏(地頭鶏♂×プリマスロック♀×九州ロード♀、宮崎県)、黒さつま鶏(薩摩鶏♂×黄斑プリマスロック♀、鹿児島県)、新得地鶏(軍鶏♂×ロードアイランドレッド♀×名古屋♂、北海道)で、いずれも遺伝的に均一なものではない。生体キログラム当たり600円程度で取引されており、通常のブロイラーが160円程度であるのに比べ、非常に高値で取引をされている。いずれも、種鶏から育成肥育の一貫で行っている。また、いずれの地鶏も、各県の行政や家畜保健所と強力な連携をしながら出荷数を増加させている。

飼養管理における特徴的な点はない。飼育マニュアルはあるが一般的な地鶏の飼育と大きな差はなく、それ以外は農場の独自性を尊重している。飼料は統一しており、特殊なものはほとんど使用していない。しかし、農場によってはアミノ酸やオレイン酸の添加やウェルフェア(エンリッチ資材)を試行しているところも存在する。種鶏とひなの管理に労力をかけており、育成を適切に行っている。餌付け30日、後期90日、仕上げそれ以降の3段階の飼料を用い、飼料中のME(metabolic energy、代謝エネルギー)を上げていく飼養スケジュールを採用している。ひなの価格はキログラム当たり2000円であり、1羽当たりに換算すると80円となり、最終の取引価格を考えると、ひなの価格は高くない。これが、小さい農場にとって導入しやすい要因になっているものと推測される。ひなはチックガードや専用の飼育スペースなどを用いて管理する(写真4)。餌付けが終わったのちに放牧し、徐々に面積を広くする。飼育密度は、80日齢において1平方メートル当たり10羽であり、一般的な地鶏の基準と同等であった。一方で、100日齢以降の飼育密度は1平方メートル当たり3羽で一般的な地鶏の基準より大幅に小さい。出荷は、1回につき300〜400羽程度の出荷を行っている。

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衛生管理は、自社の獣医による管理と県の家畜保健衛生所の基準を順守している。放牧地の土壌は天地返しの上、消石灰を使用し休養期間を設けている。放牧場は6分割し、イタリアンライグラスやソルゴーなどの牧草を植えて、1回休むスケジュールを取っている。鳥インフルエンザに関するリスクマネジメントを行い、農場のエリアは分散されており、生食文化に対応するため対応マニュアルを適切に作成している。ただし、放牧のため野鳥による鳥インフルエンザのリスクはある。食中毒として、サルモネラ(毎月検査)、カンピロバクター(食肉管理で対応)に対する注意を厳重に行っており、ワクチネーションプログラムは家畜保健衛生所の推奨する一般的なプログラムを用いている。

食鶏処理場では、出荷前12時間以上絶食を行ったものを、放血と畜する。放血は口内から頸動脈を手作業で切断する方法であり、特徴的であった。この手法により、首に傷をつけずに、きれいな水引と体を得ることができていた。食鶏処理場では、全て手作業で解体が行われ、40〜60名で運営していた。リスクを分散させるために、処理場は2か所存在し、一日当たり1000羽程度の処理能力を持つ。細菌汚染がないように、放血、解体、加工する場所が異なっており、これは食鶏処理場としては一般的な形態であった。

解体した肉は急冷後、熟成期間は特に設けずに保存中に熟成させる方法を取っている。この方法は衛生的に優れており、これが生食文化のある宮崎県などで、大きな問題が発生していない理由であると推測される。解体後、直ちに細かく部位別に分ける加工を行い、流通→倉庫→店舗へと輸送される。処理場で、直接店舗で使用できる形態へ加工している点が、川下主導型のSPAの特徴であろう。これらの加工した食肉が、店舗のメニューとして直接販売可能であることが、農場から高値で生体を買い取ることができる要因となっている。

(3)小括

両社ともに、消費者が商品の独自の品質と価値を認めて継続的に購入することにより、生産側も成り立つとの構造が認められた。特徴的な畜産物を生産することは比較的容易であるが、もっとも問題になる点は生産コストである。雇用などによる地域の活性化を推進する戦略により、競合他社とは一線を画した商品を提供することが可能となり、消費者にとって高品質の商品として認められ、生産コストの増加を補うばかりか、生産者の収益を増加させる構図が確認された。

(佐藤 幹)

6 結論

上記の調査結果から、次のような結論を導き出すことができる。

第一は、2つの企業は、飼育のこだわりを積極的に開示し、処理過程では衛生管理だけでなく「いのち」に対する畏敬の念など情緒的な販売促進を通じて、食品企業型SPAならではの販売方法を取っている。

第二は、APカンパニーの「生販直結モデル」は養鶏場だけでなく、地鶏のふ化場や、鶏肉の処理・加工センターなどの生産拠点を現地に設立し、生産体制を一元管理するトレーサビリティを実現している。これにより、相対的に安価で美味しい地鶏の生産を拡大し、消費の拡大にもつながっている。

第三は、食品企業型SPAは高品質な食材を自社生産し、それを低価格で販売するモデルであるため、売り切れ時の機会ロスよりも、売れ残りに伴う廃棄コストが相対的に高く見積もられることである。

以上、鶏肉を主体とした食品企業型SPAを分析したが、世界的に鳥インフルエンザが多発し、まん延する中で、養鶏産業においてはより厳格な防疫措置が求められるとともに鶏肉供給が停止することがないようにリスクマネジメントも必須のものになるであろう。

(野見山 敏雄)


				

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