調査・報告   畜産の情報 2017年10月号


ゆとりある繁殖経営を実現する地域の肉用牛ヘルパー組合の取り組み
〜最近の肉用子牛価格をめぐる情勢を交えて〜

畜産経営対策部 肉用子牛課



【要約】

 出荷頭数の減少などから上昇を続けてきた肉用子牛の取引価格は、最近の枝肉価格の低下の影響もあり、弱含みに転じているものの、いまだ高水準である。
 本稿では、当機構が公表している「肉用子牛取引情報」などから、近年の肉用子牛の飼養動向と取引価格を概観する。また、高齢化が進んでいる肉用牛繁殖経営の持続を図るため、毎月決まった日に休むことが目的の定休型ヘルパーに取り組み、ゆとりある経営を実現している大分県竹田市および長崎県平戸市の2つの肉用牛ヘルパー組合の事例を紹介する。

1 はじめに

最近の肉用子牛の取引価格は全ての品種において、最高値(黒毛和種では平成28年12月の85万円)より下がっているものの、いまだ高い水準で推移している。黒毛和種では、繁殖経営において高齢化などによる離農が進み、繁殖基盤が急激に弱体化し、取引頭数が減少する一方で、枝肉価格の上昇に伴い肥育生産者の導入意欲が向上していたことが、高値の主な要因となっていた。

繁殖基盤のぜいじゃく化に対して、農林水産省は、平成22年7月に定めた「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」において、支援組織による技術・経営能力の向上として、高齢化が進んでいる肉用牛繁殖経営などの生産者を支援するため、肉用牛ヘルパー、コントラクター、TMRセンターなどの支援組織の育成や、公共牧場の機能強化をさらに進めるべきであるとして、これらの組織へ支援を行ってきた。また、平成27年度からは、農業競争力強化プログラムに基づき肉用牛生産基盤強化を図るため、畜産クラスター事業などを活用したキャトルステーションの整備を推進しており、当機構においても、優良な繁殖雌牛の増頭や導入に対する奨励金の交付などの事業を展開している。

これらの対策に基づいた関係者の取り組みが功を奏し、農林水産省の「畜産統計」によると、近年、減少傾向で推移していた肉用種子取り用めす牛の飼養頭数は、平成28年から2年連続で、前年を上回って推移している。

本稿では、「畜産統計」および当機構が公表している「肉用子牛取引情報」から、近年の肉用子牛の飼養動向を概観する。また、繁殖基盤を維持するために定休型ヘルパーに取り組み、生産者がゆとりある経営を実現している大分県竹田市および長崎県平戸市の2つの肉用牛ヘルパー組合の事例を紹介する。

2 最近の繁殖農家の動向

畜産統計によると、肉用種子取り用めす牛の飼養頭数(各年2月)は、平成28年に6年ぶりに増加し、58万9100頭(前年比1.6%増)となったが、29年においても前年より増加し、59万7300頭(1.4%増)と2年連続の増加となった。

また、繁殖が可能な2歳以上の肉用種子取り用めす牛の飼養頭数においても、22年の58万8400頭をピークに減少していたが、28年には増加に転じ51万500頭(1.1%増)となり、29年においても前年より増加し51万900頭(同0.1%増)と2年連続の増加となった(図1)。

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繁殖雌牛の飼養頭数が大きく減少してきた背景には、高齢化などによる離農が進み、繁殖基盤が縮小してきたことに加え、22年4月の口蹄疫発生、23年3月の東日本大震災および同年8月の大規模畜産業者の経営破綻もあった。しかし、その後の子牛価格の上昇や繁殖雌牛の増頭対策など各種補助事業展開により、繁殖雌牛の導入が促進されたため増加に転じたと考えられる。

また、肉用種子取り用めす牛の飼養戸数は、15年以降、一貫して減少しており、29年は前年比2.9%減の4万3000戸となった(図2)。

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飼養頭数規模別に見ると全体の約7割を占める「1〜9頭」の小規模経営は、29年には同4.3%減の2万8800戸まで減少した。

「10〜49頭」では、22年以降減少し、27年以降わずかに増加に転じたが、29年は同0.1%減の1万2370戸となった。

「50頭以上」では、26年に同17.5%増の1911戸となり、その後、減少していたが、29年は同2.6%増の1865戸となっている。

3 肉用子牛取引データによる動向分析

(1)全国の動向

当機構では、市場で取引されている肉用子牛の取引データを集計し、ホームページなどで「肉用子牛取引情報」(以下「取引情報」という)として公表している。

なお、取引情報で集計対象としているのは、市場で取引されたもののうち、体重100キログラム以上340キログラム以下、日齢100日以上399日以下の肉用子牛である。

子取り用めす牛の飼養頭数が平成22年をピークに減少する中、黒毛和種子牛の取引頭数(雌雄合計、以下同じ)は、22年度は口蹄疫発生のため減少した。23年度は回復したものの、25年度以降減少し、28年度は前年度比4.0%減の30万9802頭と、取引情報の収集を開始した平成2年度以降、最も少ない頭数となっている(図3)。なお、28年以降、畜産統計の肉用種子取り用めす牛の飼養頭数は増加していることから、今後、取引頭数も増加に転ずるものとみられる。

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また、黒毛和種子牛の取引価格(1頭当たり、雌雄平均、以下同じ)は、取引頭数の減少と枝肉価格の上昇の影響を受け、28年度には同18.6%高の81万5309円と、取引情報の収集を開始した平成2年度以降、最も高い価格となった。29年度に入ると、黒毛和種子牛の取引価格は弱含みに転じ、7月は74万8891円まで低下している。

枝肉価格は、東京食肉市場における和牛去勢A-4の推移を見ると、23年度を底に上昇を続けており、28年度では同5.8%高の1キログラム当たり2587円と高水準にある。29年度に入っても、同2500円前後の価格を付けているものの前年度を下回って推移しており、7月は同2436円(前年同月比4.9%安)となっている(図4)。

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28年度における黒毛和種以外の肉用子牛の取引価格は、乳用種(ホルスタイン種)が同5.0%安の20万9901円、交雑種(肉専用種と乳用種の交雑の品種をいう)が同6.5%高の40万9673円となるなど、乳用種は前年度を下回ったものの、交雑種は最も高い価格となった。

(2)主要な家畜市場の動向

ア 北海道ホクレン十勝地区家畜市場

平成28年度の黒毛和種子牛の取引頭数は全国1位であるが、前年度比8.9%減の1万5099頭と2年連続で減少した(図5)。

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28年11月に、取引状況について同市場に聞き取りしたところ、「生産者の離農に伴い取引頭数は減少している。取引価格は、枝肉価格の高騰、新規購買者の増加および既存購買者の規模拡大などによる需要の増加などから上昇している。増頭に取り組む場合、牛舎を建て、繁殖雌牛を導入し、そこから子牛を生産するまでに3年は必要となる。したがって、増頭に取り組みやすいのは中小規模経営よりも資金力の高い大規模経営だろう」と、子牛価格上昇が必ずしも増頭にはつながらないとしていた。

29年4月から6月の取引頭数はおおむね横ばいであり、平均取引価格は、最高値(85万562円)を付けた28年11月以降、低下傾向(28年11月から29年6月までの低下率8.9%)にある。

イ 北海道ホクレン南北海道家畜市場

28年度黒毛和種子牛の取引頭数は全国2位であるが、前年度比8.4%減の1万3351頭と25年度以降減少傾向で推移している(図6)。

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28年11月に、取引状況について同市場に聞き取りしたところ、「子牛価格高騰を受けて、受精卵移植による和牛生産に取り組む酪農家が増えているようだ。生後の事故などについて、乳用種よりも注意する必要があるが、もともと哺育技術があることから取り組みやすいのだろう。しかしながら、生産者の離農による減少分を補えるかは不透明であることから、取引頭数はしばらく横ばいで推移するのではないか」とのことであった。

「北海道では、酪農家の受精卵移植による和牛生産の拡大や交雑種による借り腹による和牛生産が増加傾向にあるものの、乳用種雌牛の頭数も減少していることから、酪農家は後継牛確保を選択する必要もある」と市場はていた。

29年4月から6月の取引頭数はおおむね横ばいであり、平均取引価格は、最高値(85万7297円)を付けた28年12月以降、低下傾向(28年12月から29年6月までの低下率9.8%)にある。

ウ 宮崎県地域家畜市場

28年度の黒毛和種子牛の取引頭数は4年ぶりに減少し、前年度比0.4%減の6349頭であった(図7)。なお、口蹄疫発生前の21年度の同頭数は9234頭である。

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28年11月に、取引状況について同市場に聞き取りしたところ、「繁殖雌牛頭数は、22年度の口蹄疫発生の影響により1万4000頭から1350頭まで減少した後、現在1万頭となった。この間の高齢化による離農などの影響を考えると、繁殖雌牛頭数は回復したといっていい状況である。これに伴い、取引頭数も回復傾向であるものの、29年度以降は離農の増加に伴い減少していくだろう」と、今後の取引頭数の減少を懸念していた。

また、口蹄疫発生から7年が経過し、当時導入した繁殖雌牛が更新時期を迎えている。子牛価格が高騰している状況で、繁殖雌牛の更新をしながら、規模拡大を図るのは相当な資金が必要である。市場としては「導入の際に1頭当たり3万円補助しているものの規模拡大は難しい」と見ていた。

29年4月から6月の取引頭数はおおむね横ばいであり、平均取引価格は、29年4月に最高値(87万3616円)を付けたが、6月には約5%低下した。

エ 沖縄県八重山家畜市場

28年度の黒毛和種子牛の取引頭数は、前年度比0.9%減の8017頭であった(図8)。

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28年12月に、取引状況について関係者に聞き取りしたところ、「繁殖農家においては、小規模経営では後継者不足により離農する傾向が見られるが、中規模から大規模経営では後継者がいる場合が多く、経営が維持されている。このため、飼養戸数は減少しているものの、飼養頭数の減少には歯止めがかかっており、今後、増加に転じることも考えられる」と増頭に期待を寄せていた。

また、経産牛のセリでは、妊娠牛も多く見られた。これは、繁殖雌牛の更新を考えている生産者が、生まれてくる子牛の代金を含めた高値取引を見込んで、妊娠させてから出荷しているもの。これを元手に高値でも血統の良い牛の導入が可能となり、更新が進むとみられ、関係者は今後の安定的な子牛生産を期待していた。

29年4月から6月の取引頭数は増加傾向(前年同期比17.6%増)にあり、平均取引価格は、最高値(77万8513円)を付けた28年12月以降、低下傾向(28年12月から29年6月までの低下率10.5%)にある。

なお、全国の28年度の黒毛和種子牛の取引頭数は、前年度比4%減の30万9802頭であった。市場別にみると、前橋家畜市場(同12.6%増)や鳥取中央家畜市場(同5.5%増)では前年度を上回っており、これらについては機会を見てレポートしたい。

4 肉用子牛生産者補給金の交付状況

肉用子牛生産者補給金制度(以下「子牛制度」という)とは、肉用子牛生産の安定を図るために、肉用子牛価格が低落した場合に肉用子牛生産者補給金(以下「補給金」という)を交付する制度で、肉用子牛の生産者のセーフティネットとしての役割を担っている。補給金は、四半期ごとに農林水産大臣が告示する平均売買価格が保証基準価格(農林水産大臣が毎年度決定)を下回った場合に、その期間中に販売または自家保留した肉用子牛を対象に交付される(図9)。

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補給金は、肉用子牛価格の上昇を受け平成25年度第2四半期以降、29年度第1四半期まで16期連続で全品種交付されていない。また、子牛制度を補完し、対象肉用子牛(黒毛和種、褐毛和種、その他の肉専用種)の平均売買価格が発動基準を下回った場合に、差額の4分の3を支援交付金として交付する肉用牛繁殖経営支援事業があるが、これも26年度第3四半期以降、29年度第1四半期まで11期連続で全品種交付されていない。

5 肉用牛ヘルパーの概要

(1)肉用牛ヘルパー

肉用牛経営におけるヘルパーの制度は、生産者の高齢化などによる生産基盤のぜいじゃく化に対処するため、平成10年度に当機構が、肉用牛ヘルパー組合への支援の補助事業を開始したことにより、本格的に取り組みが開始された。

一般的な肉用牛ヘルパーにおけるヘルパー活動は、組合員間の互助活動を基本とし、専従のヘルパー要員を置き、組織的に活動する酪農ヘルパー制度とは異なっている。

肉用牛ヘルパーの主な作業内容は、冠婚葬祭や傷病時の飼養管理、市場出荷・引出、家畜運搬代行、削蹄などである。組合員が定期的に休みを取ることを目的とした、定休型ヘルパーを実施している肉用牛ヘルパー組合は全国的には少数である(表)。

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6 定休型肉用牛ヘルパーの活用事例

(1)大分県竹田市のじゅう地域肉用牛ヘルパー組合

ア 大分県竹田市の概要

久住地域肉用牛ヘルパー組合(以下「久住ヘルパー組合」という)は、大分県の南西部の竹田市にある。竹田市は周囲をじゅう連山、阿蘇外輪山、祖母山麓などの山々に囲まれた地にあり、冬季は冷え込みが厳しいが、夏季は比較的涼しい山地型気候である。隣接する豊後大野市と共にほう地区と呼ばれている。

山々に囲まれているため水と緑が豊かであることから、主な産業は農畜産業と観光業で、肉用子牛は県内最大の産地である。

イ 久住ヘルパー組合の設立

久住ヘルパー組合は、定休型ヘルパーに特化して平成21年5月に組合員14名、ヘルパー要員1名で設立された。

久住ヘルパー組合設立前にも、削蹄や市場出荷・引出などを実施するヘルパー組合は存在していたが、生産者の飼養管理に対応したヘルパー組合は久住地域になかった。酪農では搾乳主体のヘルパー組合が確立しており、肉用牛繁殖経営においても生産者の個別の要望に応じたヘルパー組合の立ち上げが必要であるとの考えから、ゆとりある経営を確立し、後継者の確保や規模拡大を図ることで安定的な肉用牛経営を実現することを目的に設立に至った。

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設立に当たっては、酪農ヘルパーや肉用牛定休型ヘルパーの先進事例であった鹿児島県曽於市および熊本県菊池地域の肉用牛ヘルパー組合に研修に行くなどしている。

そして、設立当初は竹田市の久住地域のみで活動していたが、現在では活動地域は竹田市全域に広がり、組合員58名、ヘルパー要員6名の規模となっている。

久住ヘルパー組合の特徴は、ヘルパー作業を飼養管理に特化していることである。飼料の給与、畜舎の清掃、牛の観察のみを行い、労働災害を防止する観点から機械を使用した飼料生産などの作業は行わない。

また、設立当初は、ヘルパー要員への苦情が多かったり、過大な作業のノルマを課すといった事例があり、ヘルパー要員が特定の組合員への出役をためらい、ヘルパーの活動が萎縮してしまうような状況があった。このため、ヘルパー要員のことを第一に考え、相手を尊重して対応することが重要であるとして、ヘルパー要員にはノルマを課さないように組合員や新たに組合に加入する生産者に対して指導を行い、組合の活動の質の維持にも努めている。

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ウ 行政、農協と連携したヘルパー組合

久住ヘルパー組合は、事務局を行政(竹田市)と農協(大分県農業協同組合)の共同機関である竹田市畜産センター(以下「畜産センター」という)に置き、組合の事務を農協職員が務めるなど、行政および農協と連携して組合の運営を行っている。

畜産センターは、畜産指導体制を強化し、地域の畜産の振興を図るため、旧久住町が昭和57年に農協と共同で設立した機関であり、旧久住町が竹田市と合併した平成17年に市が継承した。畜産センターには、竹田市農政課畜産振興室および大分県農協豊肥事業本部畜産課が事務所を構えており、畜産センターの事務局長は畜産振興室長が兼任するなどして、市と農協で施策の調整と統一を図り、竹田市の畜産業の推進振興を図っている。

エ ヘルパー要員確保の取り組み

久住ヘルパー組合のヘルパー要員は、組合員の増加に伴い、設立時の1名から現在では6名まで増加している。

このうち3名は、地域おこし協力隊(注1の隊員である。その他の3名は、ハローワークなどで公募して採用しており、畜産の作業経験のある者は1名だけで2名は未経験者である。

地域おこし協力隊の隊員は、採用後2カ月間、先輩ヘルパーと一緒に活動し、飼養管理に必要な作業内容を習得している。また、地域おこし協力隊の隊員以外のヘルパー要員は採用後、熊本県菊池市の旭志村ヘルパー組合で研修を行う

(注1)地域おこし協力隊は、人口減少や高齢化などの進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に受け入れ、都市地域から過疎地域などに生活拠点を移した者を、地方公共団体が地域おこし協力隊員として地域協力活動を行うことを委嘱する総務省の制度で、隊員は、一定期間(1年以上3年以下)地域に居住して、地域おこしの支援や農林水産業への従事などの地域協力活動を行いながらその地域への定住・定着を図る取り組みである。取り組みを行う自治体には隊員1人につき最大400万円を上限に財政支援があり、竹田市では平成22年に制度を活用し始め、延べ40名以上が隊員となっている。

久住ヘルパー組合が地域おこし協力隊を活用するようになったのは平成27年度であるが、その背景には畜産センターの存在がある。畜産センターは、同組合の課題を把握し、各種補助事業に関する情報などを提供することができたので、地域おこし協力隊の活用に至った。

竹田市が採用した地域おこし協力隊員は、飲食業、システムエンジニア、酪農ヘルパーとさまざまな経歴の持ち主である。ヘルパー要員のうち、飲食業から転進した齋藤氏と酪農ヘルパーから転進した川崎氏の2名は、ヘルパー要員の仕事を通じて新規就農を希望するようになり、現在、竹田市内での新規就農に向けて準備中である。隊員の新規就農に向けては、久住ヘルパー組合、畜産センターがサポートしている。

オ ヘルパーの利用

ヘルパーの利用料金は、経営の規模別に分かれている。小規模(20頭以下)が1日当たり6750円、中規模(21〜40頭)が同7875円、大規模(41頭以上)が同9000円となっており、この他に1戸当たり5000円の年会費も徴収している。

ヘルパーの利用回数は月1〜3日で、利用日の要望は年1回聞き取りを行い、要望日以外の利用については事務局が適宜割り振りを行っている。事務局は、ヘルパー要員の割り振りをするに当たり、経営規模が均等に配置されるように、組合員を4つのグループに分け、6名のヘルパー要員がローテーションで全グループを回るようにしている。

これは、組合員、ヘルパー要員の双方の公平性を担保するためのものであり、組合員はヘルパー要員を指名することはできず、ヘルパー要員には作業負担や作業料金が均等に与えられる。

ヘルパー要員の1日の作業時間は、小規模で6時間、中規模で7時間、大規模で8時間となっている(休憩時間を含む)。

カ 定休型ヘルパー利用の効果

(ア)久住ヘルパー組合の設立の先頭に立った現組合長の植木氏は、組合運営で重要なことは、「ヘルパー要員と組合員の奥様方など女性を大事にすること」という。

組合の継続的な運営のためにはヘルパー要員のことを第一に考えて接することが大事であるとし、その結果、組合員との良好な関係から前述のヘルパー要員の2名は竹田市内で新規就農の意向を示している。

また、農家の女性は、飼養管理をしなくても家事などで休みがないことから、組合の女性だけの研修旅行も実施し、交流を図っている。その結果、牛の飼養管理に関する情報交換が増え、奥様が牛の飼養管理に熱心に取り組むようになっている。

(イ)植木組合長と共に組合の設立に尽力した渡辺氏は、「牛の飼養管理が日常生活の弊害となってはいけない」という。

ヘルパー組合設立以前は、日中に外出しなければならない日は午前3時か4時に起きて作業を行うか、近隣の知り合いに頼むなどしていた。しかしながら、飼養頭数が30頭を超えてくると作業量が大きくなるため頼みづらくなり、搾乳作業を行う酪農ヘルパーのようなヘルパー組合が、肉用牛でもあれば良いと思っていた。

現在、ヘルパー利用日は月3日で、その日は他の仕事をするか、完全に休養している。牛の飼養管理を日常生活に支障をきたさないためにも、ヘルパーの利用に当たっては全ての作業を自身で行おうとするのではなく、人に任せるという意識が必要と考えている。

ヘルパー組合設立時、ヘルパー利用日は月1日程度でよいと思っていたが、現在ではできるなら週1日ヘルパーを利用したいと思うようになっている。

(ウ)設立時からの組合員である浅倉さんは、「ヘルパー利用日の朝は気分が楽である」という。

浅倉さんは、当初、ヘルパーの利用に抵抗があり、ヘルパーの作業ぶりが分かるように一緒に作業を行ったり、近くで他の作業をしていたが、今では、ヘルパーの利用に抵抗もなくなり、完全に休養している。ヘルパー利用日は、牛舎に出かけることはなく、ヘルパー要員には作業指示書でお願いする作業内容を記載している。作業指示書は、誰が見ても分かるように奥様に添削してもらいながら作成している。

以前は、家族と出かけるときは自分用に1台、家族用に1台の車2台で出かけ、自分だけ先に帰り、牛の飼養管理を行っていたが、ヘルパーの利用により1台の車で家族と出かけることができるようになったとのことだ。


【まとめ】

久住ヘルパー組合は、肉用牛経営の年中無休の解消によるゆとりある、かつ安定的な経営の実現を目的とし、これらを実現することにより後継者の確保と規模拡大を図ろうとしている。

現在のヘルパーの利用日は月1〜3日となっている。設立当初、組合員の多くはヘルパー利用日を月1日くらいでよいとしていたが、現在では週1日はヘルパーを利用したいとする組合員が多くなっている。植木組合長は、定休型ヘルパーの利用のメリットは、安心して外出ができるなど心身のリフレッシュとしている。この結果、時間と精神的な余裕ができ、ゆとりある経営を実現している。

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また、組合活動やヘルパーの利用により、組合員相互の連携や情報交換が増加し、その結果生産性が向上するなど個々の経営力の向上も効果として出ている。久住ヘルパー組合では、設立から現在まで、離農した組合員はおらず、組合員数は増加している。また、飼養頭数規模を縮小する組合員もほとんどいない。

これらの効果などから、定休型ヘルパーは繁殖経営の持続に資するものと考えられ、久住ヘルパー組合の活動は、新たにヘルパー組合の設立を考えている者や既存のヘルパー組合には、優良事例として参考になるものである。

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(2)長崎県平戸市の生月いきつき和牛ヘルパー組合

ア 平戸市生月町の概要

長崎県生月和牛ヘルパー組合(以下「生月ヘルパー組合」という)は、長崎県平戸市の北西に位置する生月島の生月町にある。町の人口は約6000人。東シナ海を臨む島の西側は風が強く、断崖が随所にあり、生活の拠点は島の東側に集中している。また、生月大橋などによって九州本島とはつながっており、主な産業は東シナ海での巻網漁業と農畜産業である。男性は巻網漁業に従事し、高齢者や女性が農業を営むことが多いため少頭数飼いが多い。

イ 久住ヘルパー組合を参考にした定休型ヘルパー組合の設立

生月ヘルパー組合は、定休型ヘルパーを実施するため平成26年12月に組合員12名、ヘルパー要員2名で設立された(現在の組合員数とヘルパー要員数は発足時と同じである)。生月ヘルパー組合は、久住ヘルパー組合の組織運営を参考にしており、ヘルパーの作業内容は飼養管理に特化している。ヘルパー組合の事務局は、ながさき西海農協生月支店に置いており、事務局員は農協のパート職員が務めている。

定休型肉用牛ヘルパー組合は、組合長の山本氏が農協に勤めていたときから考えていたもの。ヘルパー組合設立以前は、長崎県の事業でながさき農援隊(注2)という定期的に農作業支援を行う定休型ヘルパーに似た制度があったが、制度が終了したこと、自分たちで利用料金を支払ってもヘルパーの支援があると飼養管理が助かるという思いがあった。このことから、有志とともに久住ヘルパー組合に視察に行き、ゆとりある経営を実現するため、設立を決断した。

生月ヘルパー組合の組合員の平均年齢は65歳で最高齢は83歳、最年少50歳となっている。飼養頭数規模は10〜58頭となっており、組合員の総飼養頭数は、生月町の飼養頭数の7〜8割を占めている。

(注2)ながさき農援隊は、長崎県からの委託を受け、認定農業者に対し農作業の支援を行う制度。農業者の負担はなく、平成21年度から23年度の3年間にわたり月2回作業の手伝いを実施した。

山本組合長は、組合の運営方針として奥様方が牛飼いをしていてよかったと思えるような組合運営を心がけている。組合の会合、懇親会は夫婦で参加することや奥様方対象の研修旅行なども企画している。また、子牛の購買者との交流も積極的に行い、年1回、大口の購買者を組合員とともに訪問し、情報交換を行っている。

また、山本組合長は、久住ヘルパー組合を視察した縁から、植木組合長に生月ヘルパー組合の研修会の講師を依頼するなど親交を深めている。この交流の中で、山本組合長は、久住ヘルパー組合の事例を参考に、組合活動の継続を図ろうとしている。

ウ ヘルパー要員確保の取り組み

生月ヘルパー組合の2名のヘルパー要員は、それぞれ月12〜15日程度出役している。2名とも町出身で、設立時に採用された。いずれも畜産と畑作を営んでおり、自身の農作業を考慮すると現在の出役日数は妥当だという。

生月ヘルパー組合では、継続的な組合運営のため、今後はヘルパー要員の確保にTターンやUターン者の雇用を考えているとのことで、平戸市と協力していく予定である。

また、久住ヘルパー組合と同様、地域おこし協力隊の活用も検討しており、市や県の指導の下、そのための勉強を行っている。

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エ ヘルパーの利用

ヘルパーの利用料金は、現在は飼養頭数の規模に関係なく、1日当たり7350円としている。このうち350円は、ヘルパー組合運営のための経費としている。また、半年分を前払いとして徴収し、1戸当たり1万円の年会費と併せてヘルパー要員の給与など組合運営の財源としている。なお、ヘルパー利用料金については、近く飼養頭数規模別に改める予定である。

ヘルパーの利用回数は、月2、3日で、ヘルパー利用日の要望は年1回聞き取りを行い、要望日以外の利用日はヘルパー組合事務局が割り振りを行っている。

オ 定休型ヘルパー利用の効果

(ア)繁殖経営を始めて10年ほどになる元大工の村田氏は、「ヘルパー組合設立以前は年中休みがなかったため、気持ちのゆとりがなかった」という。

ながさき農援隊の利用経験があったため、他人が作業を行うことに抵抗はなく、ヘルパー利用日はヘルパー要員に気遣いさせないように牛の世話はせずに、イノシシなどの害獣駆除を行ったり、休養に充てている。

また、定休型ヘルパーの利用により、奥様の誕生祝いに旅行に行くことができるようになり、気持ちにゆとりができた。

村田氏は、今後も繁殖経営を続けていくのに定休型ヘルパーは必要であるとのことで、繁殖雌牛は現在約20頭であるが、30頭まで増頭することを検討しており、増頭した後はヘルパー利用日数も増やしたいという意向もある。

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(イ)サラリーマンからUターンして繁殖経営を始めて19年ほどになる田中氏は、「定休型ヘルパーの利用により、休養する時間が取れ、普段できなかった事務などができるようになった」という。

村田氏と同じくながさき農援隊の利用経験があったため、他人が作業を行うことに抵抗はなかったとのことで、ヘルパーを利用することにより気持ちにゆとりができたので順調に経営することができるようになり、また、3人の子どものために使う時間も増えた。

田中氏は今後、増頭を考えていないとのことだが、粗飼料をほぼ自給できる現在の繁殖雌牛30頭規模を維持しつつ、定休型ヘルパーを活用しながら繁殖経営を続けていく意向である。

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【まとめ】

生月ヘルパー組合は、久住ヘルパー組合を手本に組合を設立し、現在のヘルパー利用日は月2〜3日である。組合員は、ヘルパー利用日は、休養や家族との時間に当てており、山本組合長が思い描いたゆとりある経営を実現している。

久住ヘルパー組合と比べると規模は小さいが、定休型ヘルパーは組合員にはなくてはならないものになっているようで、増頭の意向を示している組合員もいる。組合員はまだ12名と少ないが、この3年間で離農をした組合員はいない。

山本組合長は、ヘルパー組合の今後の展望として、組合員を増やし、高齢化による離農を防ぎたいとも語っていた。設立時、タイミングが良くヘルパー要員が見つかったが、今後の組合の拡大にはヘルパー要員の増員が必要不可欠である。生月ヘルパー組合の今後のヘルパー要員の増員や組合規模の拡大の方策は、他のヘルパー組合のモデルケースと成り得ると期待している。

なお、長崎県では生月ヘルパー組合以外にも島嶼部の五島市や佐世保市松浦地区などで定休型肉用牛ヘルパー組合が設立されており、定休型ヘルパーの普及が少しずつ図られている。

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7 おわりに

現在、肉用牛生産のスタートに位置する繁殖農家は、高齢化や後継者不足などに直面している。全国的な生産基盤の弱体化が懸念される中、昨年、ようやく繁殖雌牛の飼養頭数が6年ぶりに増加に転じたが、この動きを維持し、確実なものとすることが重要である。

繁殖経営に限らず、農業全体で離農者の増加は深刻な問題である。今回紹介した肉用牛ヘルパー組合の組合員は、定休型ヘルパーの利用により繁殖経営に定休日が生まれ、精神的なゆとりが生まれている。この精神的なゆとりが、増頭や経営の持続につながるとみられている。

また、定休型ヘルパーの安定的な活動やヘルパー利用の増加に対応するためには、ヘルパー要員の確保や増員および行政の協力が必要である。今回紹介したヘルパー組合では、組合長のリーダーシップの下、行政・農協と協力することで組合の安定的な運営を図っている。今後、各地で定休型ヘルパーの取り組みが広まり、生産基盤が維持・強化されることを期待したい。


				

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