話 題 畜産の情報 2017年10月号

国産濃厚飼料の可能性を探る

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門
飼料作物研究領域 栽培技術ユニット 菅野 勉


1 はじめに

現在、わが国の飼料自給率は可消化養分総量(TDN)ベースで28%と近年、微増傾向ではあるものの、いまだに低い水準にあり、特に需要量の約8割を占める濃厚飼料の自給率は14%と極めて低い。このため、ここ10年の間に発生した国際的な穀物価格の乱高下により、わが国の畜産経営が大きく影響を受けたことは記憶に新しい。こうした状況を背景とし、近年、北海道を中心に、これまで輸入に頼ってきた濃厚飼料原料であるトウモロコシを自給しようとする取り組みが開始されている。主に、十勝および網走地域の畑作地帯においては雌穂(イアコーン)サイレージの生産が、また、道央水田地帯においてはトウモロコシ子実の生産が行われるようになってきており、さらに、本州以南においてもトウモロコシを活用した濃厚飼料を生産しようとする事例が散見されるようになってきている。こうしたことから、本稿ではトウモロコシを活用した国産濃厚飼料の生産の概要と今後の課題について述べる。

2 イアコーンサイレージ

イアコーンサイレージは飼料用トウモロコシの黄熟後期から完熟期に雌穂(子実・芯)を収穫、細断して調製したサイレージである。従来の全植物体を収穫・細断するホールクロップサイレージのTDN含量が65%前後であるのに対して、イアコーンサイレージのTDN含量は75〜85%であり、牛用の濃厚飼料として利用できる。2008年にイアコーンサイレージ用のトウモロコシ栽培が開始され、現在ではその栽培面積が約250ヘクタールにまで拡大している(大下2017)。

農研機構北海道農業研究センターからイアコーンサイレージ生産・利用マニュアル(第2版)(青木2017)が公表されており、北海道では乾物重量換算で10アール当たり800〜1200キログラムのイアコーンの収量が期待できる。自走式ハーベスタに雌穂収穫専用のアタッチメントであるスナッパヘッドを装着して収穫するが、サイレージ調製については、細断型ロールべーラといった従来の機械体系での作業が可能である。こうしたホールクロップとほぼ同様な機械体系で1時間当たり1.2〜1.5ヘクタールと、ホールクロップの場合と同等以上の作業能率での収穫調製が可能である。また、イアコーンサイレージの生産コストとしては、道北のTMRセンターおよび畑作経営(作業委託)の場合の実績値として10アール当たり約3万6000円〜4万4000円、TDN1キログラム当たり50〜51円と、低コストでの生産が可能なことが実証されている。

また、イアコーンは北海道における持続的な畑輪作体系を構築する上でも重要な作物と考えられている。北海道の畑輪作では、一般に、ばれいしょ、秋まき小麦、てん菜、大豆という輪作体系が望ましいとされているものの、規模拡大が進むと、作業時間の少ない小麦の作付けが増え、輪作体系を維持できない点が問題として指摘されていた。このような場合、作業時間の少ないイアコーンを輪作体系に導入することで、小麦の作付過剰を防ぎつつ、所得の最大化が可能になることが明らかとなっている(山田2015)。このほか、イアコーン残さのすき込みによる畑作土壌の物理性の改善効果や、畑作経営と畜産経営の耕畜連携が図られることなどもイアコーンの生産・利用のメリットとして挙げられる。

3 トウモロコシ子実

トウモロコシ子実の生産・利用については、子実サイレージとして収穫調製する場合と乾燥子実として収穫調製する場合があるが、ともに完熟期のトウモロコシ子実を濃厚飼料として利用する。収穫期はイアコーンサイレージの場合よりも遅く、子実水分30%以下となる時期が収穫適期となる。子実サイレージについては、子実のみをサイレージ調製する場合(ハイモイスチャシェルドコーン)と子実と若干の芯をサイレージ調製する場合(コーンコブミックス)がある。得られる飼料のTDN含量および給与対象は、ハイモイスチャシェルドコーンおよび乾燥子実はTDN含量が90〜94%で、牛、豚および鶏に利用可能である。コーンコブミックスはTDN含量が85〜90%で、牛および豚に利用可能である。現在、北海道(約180ヘクタール)を中心とし、全国の約240ヘクタールにおいて子実生産用のトウモロコシが栽培されている(昆2017)。

トウモロコシの子実収量としては、空知地域における生産農家の平均収量(2008〜2013年平均)として10アール当たり746キログラムというデータが(尾崎2015)、また、北海道総合研究機構(以下、道総研)中央農業試験場の栽培試験結果に基づく想定収量として同1099キログラムというデータが得られている。

収穫は普通コンバイン(輸入機種)あるいは汎用コンバイン(国産)で収穫する。普通コンバインの場合は、イアコーンサイレージの場合と同じく、スナッパヘッドを装着して収穫することが望ましいが(写真1)、小麦用などのヘッドをそのまま用いることも可能である(写真2)。また、国産の汎用コンバインについては、トウモロコシ収穫用のアクセサリーキット(ヘッドデバイダなど)を組み合わせることでトウモロコシ子実の収穫が可能になる(写真3)。収穫された子実については、子実サイレージの場合には、収穫したハイモイスチャシェルドコーンあるいはコーンコブミックスを破砕機によって破砕し、フレコンバックにより梱包・密封、保存し、家畜に給与される。また、乾燥子実の場合は、コンバインで収穫された子実を、汎用穀物乾燥機で水分25%前後から15%以下に乾燥させて保存し、家畜への給与の直前に破砕する体系となる。

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トウモロコシ子実生産の経済性については、道総研中央農業試験場の富沢(2016)の報告があり、大豆、秋小麦にトウモロコシ(子実生産)を導入した輪作時の10アール当たりの農業粗収益は大豆11万8000円、秋小麦11万5000円、トウモロコシは6万4000円であり、トウモロコシ子実生産の単位面積当たりの収益は他作物と比較して高くはない。しかし、トウモロコシは他作物に比較して省力的に栽培することが可能であり、著者らの試算では、トウモロコシ子実生産の労働時間1時間当たり所得は小麦や大豆よりも高いと考えられる(表)。

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また、トウモロコシは、道央水田地帯における小麦や豆類の連作障害を回避するための新たな輪作作物として重要と考えられており、トウモロコシを水田輪作に組み入れることで、土壌の物理性が改善され、後作の小麦の収量が増加することなどが明らかにされている。

4  今後の課題

これまで述べてきたように、トウモロコシを活用した国産濃厚飼料の生産・利用にはさまざまなメリットがあるものの、その生産・利用技術はわが国ではまだ新しい技術であり、今後、解決すべき課題も多い。まず、トウモロコシの雌穂(子実)収量の確保が重要となる。これまでの研究などにより、比較的高い収量が得られることが明らかとなっているものの、気象条件や水田での湿害などにより収量が低下すれば当然ながら生産コストが上昇する。低コストでの濃厚飼料生産を行うためには、トウモロコシの安定多収栽培が重要となる。また、これまでのホールクロップサイレージと比較し、収穫時期が遅くなるため、赤かび病に対する注意がこれまで以上に重要になる。雌穂(子実)の収穫適期に達したら早期に収穫することが重要である。また、現在、農林水産省の委託プロジェクト研究「栄養収量の高い国産飼料の低コスト生産・利用技術の開発」において、赤かび病への抵抗性が高く、かび毒が蓄積しにくいトウモロコシ品種の選定が行われている。国産濃厚飼料の利用上の課題としては、国産濃厚飼料を輸入トウモロコシに代替しても家畜生産性に問題がないかという点についての確認が必要であり、現在、委託プロジェクト研究において、その確認が進められている。さらに、国産濃厚飼料を非遺伝子組み換え飼料として利用し、畜産物の付加価値を高めていくという戦略についても今後、検討していくべきと考えられる。

最後に、本稿の作成にあたり多くの情報をご提供いただいた農研機構北海道農業研究センター酪農研究領域長大下友子氏、同センター自給飼料生産・利用グループ長青木康浩氏、農研機構畜産研究部門上級研究員恒川磯雄氏、道総研中央農業試験場作物開発部主査富沢ゆい子氏、株式会社農業技術通信社代表取締役昆吉則氏をはじめとする方々に御礼申し上げます。


(プロフィール)

昭和62年3月  北海道大学農学部農学科卒業

      4月  農林水産省草地試験場採用

平成13年10月 東北農業研究センター 畜産草地部放牧管理研究室 主任研究員

15年 4月   農林水産省農林水産技術会議事務局地域研究課 研究調査官

17年 4月   農研機構 畜産草地研究所 飼料生産管理部 栽培生理研究室長

18年 4月   農研機構 畜産草地研究所 飼料作生産性向上研究チーム長

23年 4月   農研機構 畜産草地研究所 飼料作物研究領域 上席研究員

28年 4月   現職


				

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