海外情報  畜産の情報 2017年10月号


インド酪農の概要と世界の牛乳乳製品需給に与える影響

調査情報部 三原 亙、竹谷 亮佑、小林 誠


【要約】

 インドは世界最大の生乳生産・消費国であり、現在は自給自足しているものの、潜在的に国際市場に与え得る影響力は大きい。
 年間1億5550万トン(日本の約20倍)の生乳生産を担うのは、1〜2頭の搾乳牛を飼う零細農家である。主に在来品種の牛や水牛が飼われており、稲わらなどの副産物や野草が多く 与えられているため、生産性は高くない。
 当面は飼養管理の改善や泌乳能力の改良によって、生産拡大を続けると見られるが、増加する需要に応じて生産を拡大し続けられるか不透明であり、今後も注視する必要がある。

1 はじめに

インドは、29の州と7つの連邦直轄地から構成される連邦共和制国家である。首都のニューデリーは連邦直轄地の1つであるデリー首都圏の中にある(図1)。

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インドのGDPは2兆1162億ドル(2015年)と世界第7位である一方、GDPに占める農業の割合が15%とGDP上位10カ国の中で最も高い。また、就業者に占める農業就業者の割合が51%と極めて高く、農業が重要な産業となっている。

人口は13億900万人(2015年)と中国に次いで多く、国連の人口予測によれば、2030年ごろまで年率0.8~0.9%の高い増加率を維持するとみられており、これに伴って経済規模も拡大を続けると考えられる。

人口の80%がヒンズー教、14%がイスラム教で、残りはキリスト教、シーク教、仏教などである。ヒンズー教では、牛が神聖視されていることに加え、牛乳乳製品が菜食主義者(人口の29%)の重要なたんぱく源となっているなど、酪農と宗教は深い関わりを持っている。

今後、インドが自国の需要を賄うために牛乳乳製品や家畜の飼料を輸入すれば、これらの国際需給に大きな影響を与える懸念がある。

このため、今回のレポートでは、インドにおける生乳生産、流通、消費の実態を調べ、今後、牛乳乳製品の国際需給に影響を与える可能性があるのか分析した。

レポートの作成に当たり、デリー首都圏、ハリヤナ州、ウッタルプラデシュ州、グジャラート州、マハラシュトラ州を訪問し、酪農・乳業の実態調査を行った。インドが独立する際の経緯などから親日感情の強い国であり、調査出張時(2017年7月)にも、多くのインド人が日本に好意を持っていることを伝えてきた。仏教徒は人口の1%にも満たないが、ヒンズー教徒の中には仏教をヒンズー教の一派として捉える人もいるようであり、これも親日感情に影響していると考えられる。

ハリヤナ州とウッタルプラデシュ州は酪農が盛んであり、隣接するデリー首都圏に生乳を供給している。グジャラート州は、インドの酪農協同組合の発祥の地であり、集乳のほぼすべてを酪農協が担っている。加えて同州には、酪農協を広めるための政府機関であるインド酪農開発委員会(NDDB、以下「開発委員会」という)の本部が置かれている。マハラシュトラ州は、インド経済の中心であるムンバイ市のある州で、酪農協よりも民間乳業メーカーのシェアが高いことが特徴である。

なお、本稿中の為替レートは、1ルピー=1.89円、1米ドル=111円 (2017年8月末日TTS相場)を使用した。

2 インド酪農の概要

(1)酪農の経済的位置付けと特徴

利益の合計である付加価値額を見ると、畜産業は農林水産業の4分の1を占めている。また、販売額の合計である生産額を見ると、酪農は畜産業の3分の2を占めている。このことから、インドにおいて酪農が重要な産業であることが分かる(表1)。

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酪農の状況を諸外国と比較すると、国土面積や生乳生産量はEUに近いのに対し、1戸当たりの経産牛飼養頭数や1頭当たり年間平均乳量が極めて少なく、また乳製品の輸出入が少ないことが特徴である(表2)。これは、多くの農家が農作物生産を主業とし酪農を副業とする複合経営であることに起因している。複合経営では、麦わらなどの副産物を家畜に餌として与えることで飼料費を低く抑えられることに加え、農作物の不作時でも得られる生乳販売代金は貴重な収入源になっている。

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(2)家畜の飼養状況

インドでは、牛が1億9090万頭、水牛が1億1087万頭飼養されている。このほか羊が6507万頭、山羊が1億3517万頭飼養されているが、羊と山羊の乳はほとんどが自家消費されている(表3)。

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宗教的な理由ではないが、イスラム教徒以外のインド人もあまり豚肉を食べないため、インドの豚の飼養頭数は極めて少ない。

(3)酪農政策

1947年の独立以来、国の目指すべき姿などを示す5カ年計画が定期的に策定されており、酪農関連政策についてもこの中に記述がある。最新の第12次5カ年計画では、品種改良、飼料供給・家畜衛生サービスの改善、在来遺伝資源の保全などが掲げられている。

酪農政策は主に開発委員会によって作られており、農業農家福祉省は予算獲得や他分野との連携の役割を果たしている。開発委員会は酪農協を通じて零細農家の所得拡大を目指しており、このため、実質的に政策はこれらの層を対象に実施されている。

2012年、開発委員会は世界銀行の支援を受けて生乳生産の拡大を目指す国家酪農計画(NDP)を公表した。同計画は、世界銀行、インド政府、開発委員会がそれぞれ158億ルピー(299億円)、18億ルピー(34億円)、20億ルピー(38億円)を拠出し、生乳生産量の9割を占める18州を対象に、家畜の遺伝的能力の向上や栄養状態の改善、村落段階での集乳システムの改善などを図るとしている(表4)。

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また、農業農家福祉省は、酪農協と乳業メーカーの生乳取扱シェアを現在の2割から2022年までに5割に引き上げることで、農家からの生乳買い取り価格を向上させ、農家の所得を倍増することを目指している。なお、同省畜水産酪農部の年間予算額は2016年で160億ルピー(302億円)である。

(4)対外貿易、経済連携、輸入関税

インドは乳製品の純輸出国であるが、輸出額は1.3億ドル(144億円、2016年)と、生乳生産額844億ドル(9兆3714億円、2014年)の0.2%であり極めて少ない。2016年の輸出はバターと粉乳が78%を占める。なお、2010年と2011年は雨期の降水量が少なく、飼料不足によって生乳生産が需要を下回ると見込まれたため、粉乳の輸入が大幅に増え、輸入超過となった(図2)。

日本には2016年にチーズを15万ドル(1600万円)輸出している。乳業メーカーのプラブハット社によると、パニール(フレッシュチーズ、写真21)が多いとのことである。

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3 生乳生産

生乳生産量は1982年の4000万トン弱から2015年には1億5000万トン強まで一貫して増加している(図3)。

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牛の飼養頭数は1982年以降1億9000万頭前後でほとんど変化していない一方、水牛は1982年の7000万頭から2012年には1億頭強に増加している。

生乳生産量の増加は、主に1頭当たり乳量の改善と水牛の頭数増加によるものと考えられる。

(1)酪農の地域的分布

図1のとおり、酪農は北部と西部で盛んであり、上位10州は生乳生産の8割を占めるとともに、水牛の乳の割合が高い。この10州では酪農が重要な産業であるため、高価格で売れる水牛の乳の生産を意欲的に増やしたと推察される。また、牛乳・水牛乳が貴重なたんぱく源となる菜食主義者はこれら酪農の盛んな州に多く、宗教と酪農の深い関わりがうかがえる(表5、6)。

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一方、東部と南部は生乳生産量が少ない。菜食主義者が少なく、水牛の乳の生産も少ない。

(2)生乳生産の季節変動

インドでは6〜9月が雨期で降水量が多いため、最も暑くなるのは雨期に入る前の4〜5月頃である(図4)。夏は、北西部では4〜7月、他の地域では3〜6月とされている。

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比較的冷涼な北部の州でも夏には高温となり、生乳生産量や乳成分が相当程度の影響を受けると考えられる。今回訪れた2つの農家(後述)では、外来種との交雑種を飼養していたが、夏期は冬期に比べて3割程度生産量が減少するとのことであった。現地調査時の気温は35℃程度であり、大型扇風機や水の噴霧などの暑熱対策がなされていても一目で分かるほど呼吸が荒い牛が多く、相当のストレスを受けているように見えた。なお、在来種は暑さに対する耐性が高いため季節変動はより小さいと思われる。

また、飼料の大半が農作物の生産に伴って生じるほ場残渣と青刈り飼料であるため、これらが得られない時期には飼料の給与量が減少し、それに伴って生産量も減少すると考えられる。

(3)飼養されている牛と水牛の品種

ヒンズー教において、牛は神聖な動物であるため、水牛と明確に区別されている。

ア 牛

2013年に農業農家福祉省が行った家畜の品種別飼養頭数に関する調査では、在来種が8割、外来種が2割を占める(表7)。

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同調査では、まず、在来種と外来種に分類し、完全に品種の特徴と一致する在来牛を在来種(純粋種)とし、品種の特徴の50%以上が当てはまる牛をその品種の交雑種として判断している。なお、外来種と在来種の交雑種は交雑割合にかかわらず外来種(交雑種)に分類されている。また、いずれの品種の特徴とも50%以上一致しない牛は「不明」に分類されており、これが6割を占める。

在来種は背中にコブをもつゼブー系であり、37種確認されている。このうち乳用種とされる主な品種は、サヒワール種、ギル種(写真1)、ラティ種、レッド・シンディー種である。品種の分布は地域によって大きく異なり、インドの多様な気候に応じて品種が選択されている。例えば、飼養頭数が4番目に多いカンクレー種(写真2)は乾燥気候に適していると言われる。

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外来種はホルスタイン種とジャージー種であり、交雑種が95%を占める。

ホルスタイン種は適した環境下では乳量が多いが、体格が大きく暑さに弱い。ホルスタイン種の飼養適温は4〜24度だが、生乳生産量が最も多いウッタルプラデシュ州では、4〜10月の各月の平均気温が25度を上回り、5月には最高気温が40度程度となる。このため、在来種と交雑させることで生産効率の改善が試みられている。在来種と外来種の理想的な交雑割合についての研究では、それぞれの品種の割合が50%となることが好ましいとされている。

イ 水牛

インドで飼養されている水牛は13種あり、ムラー種が半数近くを占め、すべてが在来種である(表8)。乳用には、東南アジアで多く飼養されている湖沼型に比べて体格が大きい河川型が用いられている。水牛の乳は乳脂肪分が7%以上と牛の乳よりも高いことが特徴である。

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なお、飼養頭数上位5品種の中で最も乳量の多いジャフラバティ種は繁殖能力が低いことから、ムラー種の方が経済効率が高いと言われている。

ウ 牛と水牛の飼養目的

雄は牛、水牛ともに主に役用に飼われている。雄と雌の頭数を比べると、在来種ではほぼ同じであるのに対し、外来種と水牛では雄の頭数が大幅に少ない。これは、外来種と水牛の雄は成畜になる前に処分されているためと考えられる(表9)。

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現地調査では、老齢などにより乳が出なくなった雌牛はと畜せずに飼い続けるか放すか牛を保護する施設に預けるとの話を聞いた。このため、生乳生産に供していない雌牛が多くいることが予想されたが、表9を見ると成畜雌牛に占める生乳生産用の牛の割合は牛と水牛で同程度であり証言と一致しない。

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コラム:牛・水牛のと畜

現地報道によると、2015年8月時点で21の州で雌の乳牛(Cow)のと畜が禁止されており、禁止されていないのは、南部のケララ州と東部のメガラヤ、ミゾラム州など8州に限られている。なお、雌の乳牛のと畜が禁止されている州の中にも雄牛や病気の牛のと畜が許可されている州もある。最も刑罰の厳しいグジャラート州では、牛の違法と畜に対する刑罰は最高懲役14年であり、夜間の牛や牛肉の運搬には10〜50万円の罰金が科されている。

一方で、ほとんどの州で水牛のと畜は認められていることから、世界最大の水牛肉輸出国となっている。なお、ヒンズー教徒は牛だけでなく水牛もと畜したがらないため、と畜場では主にイスラム教徒が働いている。

また、近年、と畜するために牛を運搬するイスラム教徒が過激なヒンズー教徒から襲撃される事件が起きている。

モディ首相率いる与党は、今年5月、家畜市場でと畜目的で牛および水牛の取引を行うことを禁止する法令を制定したことから、と畜場やその関連産業の従事者から大きな反発が起き、7月には最高裁が同法令を差し止めた。

年間のと畜頭数は、2014年に牛が313万頭、水牛が1119万頭となっており、飼養頭数と比べて極めて少ない。ただし、テランガナ州では年間500万頭の牛が違法にと畜されているとの報道もある。と畜頭数を州別に見ると、牛、水牛ともに上位5州で8割程度のシェアを占めている(コラム表1、表2)。

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なお、農家や政府関係者に聞き取ったところ、雄子牛は将来役畜として使うために育てるか、自力で野草を採食できる月齢まで飼って放すとのことであった。

なお、インドは口蹄疫の発生国であり、2015年には年間105件、2868頭の感染が確認され、口蹄疫による経済的損失は年間約2000億ルピー(3780億円)と見積もられている。政府では、2002年から「口蹄疫コントロールプログラム (FMD-CP)」により、ワクチンの接種を行ってきている。

開発委員会や生産者の話によると、ヒンズー教徒は牛を殺さないことから、口蹄疫かん牛が見つかった場合は隔離飼育するとのことであった。

(4)生乳生産者の姿

約1億3800万戸の農家のうち、酪農を営んでいるのは8000万戸程度と言われている。酪農家は、(1)複合農家(2)零細専業農家(3)大規模専業経営の3類型に分けられる。

乳牛飼養頭数規模の分布に関する統計がないため、詳細は不明であるが、政府関係者の話では、ほぼすべてが零細規模(牛および水牛5頭以下)とのことである。保有農地規模別の統計を見ると、農地保有面積の増加に従って牛や水牛の頭数も増加する傾向にあるが、面積の増加率と比べると極めて緩やかである(表10)。

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1戸当たりの飼養頭数が少ないことに加え、役畜や種雄として雄の牛や水牛を飼っているため、搾乳牛頭数はさらに少なく、平均で1頭程度である(表11)。このため、多くの農家は自給目的で牛を飼っていると考えられる。マハラシュトラ州で訪問した農家では、主な収入源は畑作物と果物の販売であり、4頭飼っている牛のうち搾乳している牛は1頭しかおらず、生乳はすべて家族で消費するとのことであった。

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ア 複合農家

複合農家は、主に米や麦などの農産物の販売によって収入を得ており、副業として牛や水牛を飼っている。酪農は、ほ場残渣を使って安価に生乳生産ができる上に、特に乾燥地域では、生乳は干ばつ時でも得られる収入源として重要視されている。これらの農家では収入に占める酪農の割合は20〜50%程度と言われている。農産物は地域によって多様であるため、ほ場残渣もさまざまなものがある(表12)。表10の小規模と準中規模を比べると、農地面積が倍増しても牛や水牛の飼養頭数は2割程度しか増えていないことから、多くの農家が酪農を副業として捉えていることが裏付けられる。

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イ 零細専業農家

零細専業農家は、農作物を栽培する農地を持たず、購入飼料や公共牧野からの青刈り牧草の給与、または放し飼いによって牛や水牛を飼っている。放し飼いでは、街中も含めて自由に歩き回らせており、搾乳の時間になると家に帰ってくるとのことであった。今回訪れた地域の中では、特にグジャラート州で多くの放し飼いを見た。特に、片側2車線で交通量の多い道路の中央分離帯で野草を食べる牛や、渋滞している交差点の中央で4〜5頭で立っている牛が印象的だった。地元の人の話では、これらの牛や水牛には飼われているものと飼われていないものがいるとのことであった。

ウ 大規模専業経営

上記2つのグループに属さない大規模な経営も存在するが、全体像は不明であり、典型的な大規模経営がどのようなものなのかは判断できない。なお、政府の統計によると、酪農協に出荷する生産者(組合員)と民間乳業メーカーに出荷する生産者の数が3:1である一方、出荷量は1:1であるため、民間乳業メーカーに出荷する大規模な生産者が多いと考えられる。

ここでは、今回の現地調査で訪れた2つの事例を紹介する。また、これらの事例とは別にグジャラート州では宗教施設と一体となった大規模な酪農場が多く見られた。そういった施設では、豊富な草地資源で多くの牛を飼っており、多額の寄付金によって成り立っているとのことであった。

大規模専業経営の事例(1):オーレチェ農場(ウッタルプラデシュ州 ブランズハハー県)

2014年に創業した。当初10頭から経営を開始し、現在は成雌牛160頭を飼養している。1日当たり1200(夏期)〜1800(冬期)リットルの生乳を生産している。搾乳はバケットミルカーで行っている。経営者は不動産業を本業とする2人(兄弟)である。従業員は、マネージャーが1人、獣医師が1人、作業員が8人の合計10人である。牛はホルスタイン種とサヒワール種の交雑種である。

生乳は自社で高温短時間殺菌(HTST、72℃以上で15秒以上の殺菌)してパウチに詰め、販売している(写真10)。ウェブサイトで申し込んできたデリー首都圏の消費者に1日2回宅配している。契約は月決めである。配達は、車でデリー首都圏の拠点まで運び、25台のバイクに乗せ替えて各家に届ける。牛乳は「Prue Cow Milk」(水牛乳を含まないという意味)と「オーガニック」を売りにオリジナルブランド「O’leche」(lecheはスペイン語で牛乳の意味)で1リットル63ルピー(119円)で販売している。他社の通常製品35ルピー(66円)程度に比べると割高である。需要の高まる夏期に乳量が大きく減少することが一番の課題と考えているとのことであった。

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飼料は20ヘクタールの借地でトウモロコシを作付けし、サイレージを生産しているほか、購入した麦わらや濃厚飼料、周辺の野草を与えている。飼料費は1リットル当たり24ルピー(45円)程度である。

技術指導は従業員の獣医師と飼料購入先(チャロン・ポカパン・フーズ)から受けている。将来的には搾乳牛を500〜700頭まで拡大したいと考えているとのことであった。

大規模専業経営の事例(2):ビンサール農場(ハリヤナ州、ソニパット市)

2012年に創業した。50頭の育成牛の導入から経営を開始し、現在は搾乳牛100頭を飼養している。1日1700リットルの生乳を生産しており、搾乳は20頭並列対尻式のミルキングパーラーで行っている。経営者は4人の元IT技術者である。従業員は、マネージャーが1人、獣医師が1人、牛の管理が8人、牧草の青刈り・飼料生産が10人、牛乳の瓶詰めが6人、牛乳瓶の洗浄が6人、庶務が4人である。

周辺の3つの農場からも生乳を集め、自社生産分と一緒にして1日当たり4300リットルを高温短時間殺菌(HTST)して瓶に詰め、100人の配達人を使って、契約している消費者に宅配している。

安全と「Pure Milk」(異物が混入していないとの意味)を売りに1リットル当たり65ルピー(123円)で販売している。消費者に直接売ることで、反応を見ることができるのが大きな利点と考えている。また、地元の小学校に毎日無料で牛乳を届けている。

飼料は8ヘクタールの農地でトウモロコシやソルガム、パールミレットを作付けしているほか、近隣の農家と契約を結び、生産されたトウモロコシを購入している。農家には地域の一般的な農作物である水稲を作付た場合よりももうかる価格で買い取っている。

ニュージーランドのフォンテラ酪農協の元理事に技術指導を受け、ニュージーランドでの現地研修も受けている。

需要はあると感じているが、生産が追いついていない。2019年には搾乳牛を280頭まで増やし、1日当たり6000リットルの生産を目指している。自社がロールモデルとなって、地域の零細規模の農家を啓発することを目指しており、敷地内に研修生の宿泊施設も設置している。

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(5)牛の飼養管理

開発委員会では、牛・水牛の飼養管理情報のデータベースを整備・運営しており、農家への指導などに役立てている。データベースには経産牛800万頭(国内の経産牛飼養頭数の6%)が登録されており、住所、耳標番号、飼料構成、繁殖状況、ワクチン接種履歴、疾病情報、乳量についての情報が、飼料設計の指導や人工授精、治療などの度に入力される。飼料設計では、過剰な栄養分と不足する栄養分を特定し、飼料の構成割合を変えるよう指導することで、飼料費を増やさずに乳量を改善できるとのことであった。

一部の民間乳業メーカーも生産者に飼養管理技術の指導を行っているが、大半の生産者は技術指導を受けていないため、技術指導の普及が課題となっている。

また、開発委員会では、各地域で与えられている典型的なほ場残渣や青刈り飼料を分析し、地域ごとに不足しがちなミネラル分を特定し、これを強化した配合飼料の販売を推奨している。

人工授精の普及率は26%で、このうち65%が政府によって行われている。開発委員会によると、人工授精の普及していない村落は近くに政府の出先機関がないため、政府職員がアクセスできないことが課題とのことであった。なお、酪農協が最も成功していると言われるグジャラート州では、2016年現在、1万8549ある村落農協のうち1万2892農協(70%)で人工授精が行われているとされる。

(6)飼料生産

2003年時点での飼料の資源量に関する試算によると、ほとんど濃厚飼料用の穀物は作られていないことが分かる。また、ほ場残渣や野草の青刈りが相当程度利用されていることが特徴的である。なお、トウモロコシなどの穀物は9割以上が食料に向けられているため、家畜用は限られている(表13)。

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飼料用作物として栽培されているのは、主にエン麦、ソルガム、アルファルファ、トウモロコシ、パールミレット、バーシームクローバーである。

このほか、インド草地飼料研究所によって生産された種子を見ると、ササゲ、蝶豆、フェスク、グアール、ギニアグラス、バッファローグラス、セタリア、シグナルグラス、パスパルム、ライグラス、シロクローバー、フィンガーミレットなどがある。

飼料作物作付地と牧草地の面積を地域別に見ると、酪農の盛んなラジャスタン州、マハラシュトラ州、グジャラート州など、北部や西部の州に豊富である。なお、生乳生産量が最も多いウッタルプラデシュ州は第7位であり飼料原料を外部調達している可能性がある(表14)。

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インド草地飼料研究所によると、2010年の飼料供給は、家畜への理想的な飼料給与量から算出した需要量と比べ、ほ場残渣で11%、青刈で36%不足しており、1頭当たり乳量などの生産性に大きな影響を与えていると見られる。同研究所は、今後も家畜の飼養頭数は伸び続けるため、当面飼料不足の状態が続くと見通している(表15)。

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農業農家福祉省やグジャラート州政府、開発委員会の担当者によると、今後引き続き拡大する生乳需要に見合った生産拡大を実現するためには、1頭当たりの生産性向上が欠かせないとのことであった。生産性の向上には家畜の栄養状態の改善が不可欠であり、このためには飼料の生産性の向上が重要な課題である。ある担当者は、インドは2011年ごろに飼料不足により酪農業が危機にひんすると諸外国から指摘されていたが、現実には順調に生乳生産が増加しているため、当面は飼料生産は拡大し続けるだろうと述べていた。

現地調査では、野草や公共牧野の飼料資源に頼っている状況が見られ、これらの生産性を改善することで飼料生産を拡大する余地は大きい感じた。

(7)家畜排せつ物の利用

農業農家福祉省によると、牛と水牛のふんの3分の1は、かまど等で使う燃料として、残りは肥料として使われている。

燃料に使うふんはせんべい状にして天日で乾燥し、貯蔵される。貯蔵方法は、調査で訪れたウッタルプラデッシュ州とマハラシュトラ州では、野積みにした上でワラをかけて雨水から守る方法や、倉庫の中に積み上げる方法、麻袋に詰めて軒先に積む方法などさまざまなものが見られた(写真14、15、16)。

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なお、環境省によると、インドでは粗放的な酪農が大宗を占めることから、家畜排せつ物の廃棄に関する環境規制は必要ないとのことであった。

(8)生乳生産費

生産費に関する国の統計は公表されていない。2011年にグジャラート州の酪農協の組合員を対象に行われた調査によると、飼料費が7〜8割を占め、牛が水牛よりも収益性が高いとの結果だが、いずれも生産費が収益を上回っている(表16)。ただし、この調査における水牛の乳量は、国の平均とされている年間1878キログラムを大きく下回っている点に留意が必要である。なお、政府の報告書では生産費の6〜7割が飼料費と言及されていることから、この事例は飼料費が高い可能性がある。

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また、2009年から2010年にラジャスタン州で飼養頭数20頭以上の農家5戸を対象に行われた調査によると、いずれの農家も利益を出している。1リットル当たりの利益を品種別に見ると、ホルスタイン種が最も高く、続いてジャージー種、水牛、在来牛の順であった(表17)。

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4 生乳流通

インド政府や酪農関係者の間では、生乳流通について議論する際、酪農協同組合と民間乳業メーカーが集乳・処理・流通するルートを「組織セクター」(Organized Sector)と呼び、零細卸売業者により流通するルートを「非組織セクター」(Unorganized Sector)と呼んでいる。また、零細卸売業者はミルクマンと呼ばれている。

インドの生乳流通は、8割が自家消費や近隣住民への直接販売、ミルクマンを介した流通に仕向けられることが大きな特徴となっている(図5)。

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ミルクマンは、過剰供給となる冬期に買い取りを拒否したり、価格を大幅に引き下げたりする例があるため、政府は、年間を通して一定価格で買い入れを行う組織セクターへの出荷を奨励しており、2022年に組織セクターの流通シェアを50%とする目標を立てている(2016年の実績は21%)。

なお、一般に牛の乳と水牛の乳は混ぜて集められているが、特定の需要がある場合には別々に流通する場合もある。例えば、水牛の乳は脂肪分が高いため、飲用乳として好む人がいる一方、宗教的な理由や低カロリーなどの理由からか牛の乳を好む人もいる。

政府の統計によると、集乳過程で生乳を冷却する施設の容量は1日当たり7万8000トン(2015年)であり、農家から出荷される生乳(23万5000トン)の約3分の2が冷却されることなく流通しているとみられる。

(1)自家消費

飼養頭数規模が極めて小さい農家が多く、生乳は1戸1日当たり5キログラム程度しか生産されないため、自家消費の割合が3割程度と高い。

(2)近隣住民への販売

多くの農家は伝統的に近隣住民に生乳を販売していると言われているが、詳細な実態は不明である。

(3)ミルクマン

農村を回って生乳を買い付け、常温のまま牛乳缶に入れ、バイクを使って都市部に運び、販売している。

国際協力機構(JICA)が行ったウッタルプラデシュ州の調査では、農家は特定のミルクマンと長年付き合っており、生乳の成分分析をせずに重量に基づいて取引をしている。また、生乳に水を混ぜて増量していないことを示すためにミルクマンの目の前で搾乳を行っている。

(4)酪農協同組合

生産者によって組織される酪農協同組合(酪農協)が全国にあり、集乳、自社工場での処理・加工、販売が行われている(図6、7)。酪農協は全国段階、州段階、県段階、村落段階(単位農協)がある。一般に、州段階、県段階、村段階の3段階構造で、表18のような役割分担をする方式は、当該方式の発祥の地であるグジャラート州アナンド市にちなんで、アナンド式と呼ばれる。

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2016年時点で全国に村落農協が約171万組織あり、組合員は1584万人である。政府は2023年までに村落農協を329万組織、組合員を2080万人まで増やすことを目標に掲げている。酪農協の売り上げは急速に増加しており、例えば、グジャラート州酪農協連合会は2012年から2016年の間に売り上げが倍増している。

酪農協のシェアは地域によって大きく異なり、グジャラート州ではほぼ100%である一方で、ムンバイ市のあるマハラシュトラ州では、40%程度である。民間乳業メーカーの話によると、地域によるシェアの違いは文化の違いが原因ではないかとのことであった。酪農協は1人1票の決定権を持つため、自律的に村落内で意見をまとめなければ意思決定できない。地域によっては意見がまとまらず酪農協を組織できないため、乳業メーカーの職員が各農家を回って説得し、集乳を行うとのことであった。

開発委員会によると、酪農協の生乳冷却施設や乳業工場は、過去に補助金を使って整備したものが大半であり、その多くが更新時期を迎えているが、自主財源では更新できないことが課題となっているとの話であった。

(5)民間乳業メーカー

民間乳業メーカーの売り上げも酪農協と同様に急速に拡大している。例えば、最大手の民間乳業メーカーであるクワリティ社の販売額は2011年から2015年の間に倍増している。表19に、主な酪農協と民間乳業メーカーの概要を示した。

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民間乳業メーカーの集乳の仕組みは基本的には酪農協と同様だが、他の民間乳業メーカーや酪農協、集乳専門の業者(ミルクマンとは異なる)から生乳を買うケースもある。

インドでは、アイスクリームなどの乳製品やロングライフ牛乳、「Pure Cow Milk」(水牛乳を含まないという意味)、オーガニック牛乳など、一般的な飲用乳(高温短時間殺菌(HTST、p127参照)のもの)以外の牛乳乳製品を「付加価値商品(Value Added Products)」と呼んでおり、各社ともこの付加価値商品の販売拡大を目指している。

販売拡大に向けて一番の課題は生乳の確保とのことであった。零細農家が散在しているため、流通網の構築に大きな投資を要するほか、農家数が多くかつそのほとんどが副業的であることから品質の管理も難しいと考えられる。

2015年時点で、民間乳業メーカーの集乳所は143万カ所、出荷する農家は502万戸である。政府は2023年には集乳所を470万カ所、農家を1644万戸まで増やす目標を掲げている。

5 牛乳乳製品の消費

牛乳乳製品の消費量に関する統計はないが、輸出入はわずかであるため、おおむね生乳ベースでの生産量である1億5550万トンが消費されていると考えられる。インド政府も、生産量を人口で除した数値を「牛乳消費可能量」として1人当たり消費量の代わりに用いている。

米国農務省の分析によると、生乳の半分が飲用乳、残りが乳製品、さらにその半分がギー(バターオイル、写真19)に仕向けられている。また、酪農協は生乳の75%(2015年)を飲用乳として販売しているため、乳製品は主に民間乳業メーカーによって製造・販売されている(図8)。

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ヒンズー教徒にとって、牛乳乳製品は宗教による制約のない重要なたんぱく源である。インド独自の乳製品の種類の多さから、牛乳乳製品を消費する歴史が相当長いことがうかがえる。

牛乳乳製品への支出額は、都市部と農村部ともに、家計の総支出額が増えるにつれて増加する傾向がある。特に農村部の支出額が平均以下の層では、支出額の増加につれて牛乳乳製品への支出が占める割合が顕著に上昇していることから、インド人にとって牛乳乳製品がいかに大切な食品であるかが分かる(表20)。また、このことから、経済発展によって所得が増加すれば、特に農村部で生乳需要が大きく増大すると考えられる。

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また、暑い時期に冷えた牛乳乳製品を多く消費する習慣があるため酪農協や民間乳業メーカーは、多くの地域で年間売り上げの約6割を夏(3〜6月)の4カ月間で販売するとされている。

(1)飲用乳の消費

飲用乳の販売形態には、(1)量り売り(2)パウチ入り(3)紙パック入りがある。規格については、表21に示した。

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量り売りはミルクマンによる販売のほか、村落酪農協の集乳所での直接販売に用いられている。

小売店で販売されている飲用乳は、高温短時間殺菌(HTST(注1))で殺菌されたパウチ入りのものが主流であり、乳業メーカーからの聞き取りでは、紙パックのシェアは1%に満たないとのことであった(写真17)。インドでは毎日牛乳を買って家庭で煮沸消毒し、その日の内に消費する習慣があることから、安価なパウチでの流通が合理的選択となっていると考えられる。パウチ入り牛乳の賞味期限は製造後48時間であった。

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日本で主流の超高温瞬間殺菌(UHT(注2))で殺菌された牛乳は、近年売り上げが伸びているものの、現状では、流通量の1%にも満たない。

また、牛乳にチョコレートやマンゴーなどの味をつけたフレーバーミルクが、子供の栄養補給用として多く売られている。

(注1) 高温短時間殺菌(HTST):72℃以上で15秒以上の殺菌。

(注2) 超高温瞬間殺菌(UHT):135℃以上で1秒以上の殺菌。

(2)乳製品の消費

インドには牛乳乳製品の長い歴史があり、独自の多様な乳製品を生産・消費している。伝統的に多くの乳製品が家庭で作られていたが、現在では乳業メーカーが製造・販売して消費されるものも多い(図9、表22)。

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(3)地域ごとの消費量の違い

州ごとの消費量に関する統計はないが、州の生乳生産量をその人口で割った1日1人当たり生産量(前述の「牛乳消費可能量」)は、上位3州(パンジャブ、ハリヤナ、ラジャスタン)がそれぞれ1032グラム、877グラム、704グラム、下位3州(ミゾラム、アッサム、ゴア)がそれぞれ57グラム、70グラム、74グラムと大きな差がある。

牛乳乳製品は鉄道や車で流通しているため、実際の消費量は上記ほど地域差が大きくないと推測されるが、統計がないため詳細な実態は不明である。

(4)小売の状況

インドでは、スーパーマーケットのほかに、集乳施設やワゴンカートでの販売、宅配、農家による近隣住民への直接販売が行われている。

それぞれの取引形態ごとの割合についての統計データはないが、現地調査を行ったグジャラート州アナンド市とマハラシュトラ州ムンバイ市のスーパーマーケットでは、日本よりも牛乳乳製品の売り場面積が小さいように感じた。1人1日当たりの牛乳乳製品の消費量が330グラム(注)と日本(250グラム)よりも多いことを考えると、スーパーマーケット以外の販売ルート(直営販売所、宅配など)が大きなシェアを持っていると推察される。

(注) 牛乳消費可能量。

スーパーマーケットでは、パウチ入りの飲用乳がプラスチックトレイに並べて売られていた(写真22)。また、乳酸発酵乳(ダヒ)やバターオイル(ギー)も少量のものはパウチで売られていた(写真23)。

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グジャラート州酪農協同組合連合会の販売ブランドであるアムール(Amul)は、全国300万軒の小売店で販売されており、アナンド市には直営店も複数あった(写真25、26)。また、民間乳業メーカー最大手のクワリティ社は4万5000軒の小売店で販売している。

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6 価  格

(1)生乳の農家庭先販売価格

生乳の農家庭先販売価格は生乳需給に基づいて、酪農協、民間乳業メーカー、ミルクマンがそれぞれ決めるが、農業農家福祉省やグジャラート州政府、開発委員会からの聞き取りでは、大半の地域では実質的に酪農協が価格を決めており、その他の者は酪農協の価格に追随しているとのことであった。酪農協や民間乳業メーカーは不需要期(冬場)でも価格を下げることはないとの話であった。一方、JICAの調査によると、ミルクマンは不需要期に価格を引き下げ、祭りの季節など需要の高い時には価格を引き上げている。

実際の取引時には、上述の価格を基準として、乳成分に応じた個々の生乳価格が算出される。このため、乳脂肪分が4%程度の牛の乳に比べ、乳脂肪分が7%程度の水牛の乳の方が価格が高い(表23)。乳成分を価格に反映する方法はさまざまだが、主に(1)乳脂肪分と無脂乳固形分を計測する方法(2)乳脂肪分のみ計測する方法の2種類がある。開発委員会は(1)を推奨しているが、多くの民間乳業メーカーは(2)を用いていると言われている。また、ミルクマンは長期的な取引による信頼関係に基づき、成分を計測せずに集乳していると言われている。

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(2)小売価格

小売価格は過去5年間は年平均数%程度で上昇し、2016年の平均価格は1リットル当たり37ルピー(70円)となっている。消費者物価指数を見ると、牛乳乳製品は総合指数よりもやや上昇幅が大きくなっている(表24)。

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表23と表24を比較すると、農家庭先販売価格は消費者物価指数よりも大きく上昇しているため、グジャラート州酪農協に出荷している農家の収入は改善していると考えられる。

また、乳製品については、インドでは伝統的に家庭で作られてきたため、妥当な価格でないと判断された場合には、消費者が自身で乳製品を作ることから、売れなくなるという。

スーパーマーケットでの牛乳乳製品の価格を表25に示した。飲用乳やギーでは、水牛乳を使わない「100% Cow Milk」の製品も売られており、通常のものより若干高く売られていた。

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7 食品安全

報道によると、インド食品安全基準庁の調査では、調査対象の7割の生乳で異物の混入が認められている。混入していたのは、増量するための水や、乳成分を高く偽るための脱脂粉乳や尿素、ブドウ糖、保存性を改善するための中和剤、洗い残しの洗剤などであった。同調査では33の州・連邦直轄地から1791の検体が集められた。全く混入のなかった2つの州・連邦直轄地がある一方、ウエストベンガル州やビハール州など6つの州・連邦直轄地ではすべての検体で混入が認められた。また、混入が認められた検体のうち7割は量り売りされたものだった。

このことが大きく報道されたことから、酪農協や民間乳業メーカーは集乳の各段階で検査を行っていることを強調し、安全性を宣伝している。現地調査で話を聞いた際には、酪農協や民間乳業メーカーは、混入の多くが「非組織セクター」で起きていると説明していた。

また、インド食品安全庁によると同調査の詳細な結果は現在各州と調整中であり、年内には公表する見通しであるとのことであった。なお、カビ毒アフラトキシンや乳房炎治療に用いる抗生物質については、調査項目に入っていないため残留の実態は分からないとの話であった。

酪農協や民間乳業メーカーからの聞き取りでは、集乳所や冷却センター、工場受け入れ時に乳脂肪分や無脂乳固形分、細菌数の検査は行うが、抗生物質や体細胞数の検査は行わないとのことであった。また、ムンバイ市近郊に本社を置くプラブハット社は抗生物質検査に合格した生乳を農家から高く買い取り、「抗生物質フリー」の牛乳としてプレミアム価格で販売している。

8 おわりに

インドの生乳需要は、人口や所得の増加から、今後も引き続き増大を続けると見込まれる。

インドでは1頭当たりの乳量が他国よりもかなり低い水準にあり、稲わらや野草などの栄養価の低い飼料が多く給与されていることから、飼養管理の改善や泌乳能力の改良などにより、生乳生産を増やす余地は大きいと考えられる。生乳生産の増加に伴う飼料需要の増大に対しては、飼料の生産性を改善することで、当面対応することができると考えられる。

また、生乳の多くが地場で飲用乳として消費され、乳製品の大宗が伝統的な乳製品に加工して消費されていることから、仮に不足が生じても他国からの輸入によって需要が直接満たされるものではない。以上のような生産や消費の状況を踏まえれば、インドが今後短期的に乳製品の輸入を急増させることは考えがたい。

しかしながら、増大し続ける需要に応じてインドが自給飼料や生乳の生産を拡大を続けることができるのか不透明であり、動向を注視していく必要がある。

参考文献

・(独)国際協力機構(2016)「インド国革新的低温物流技術と酪農女性グループミルクレディ育成による集乳事業準備調査」

・総務省(2009)「インドの行政」(諸外国の行政等に関する調査研究 No.17)

・インド内務省「2011 Census」

・インド内務省「India Sample Registration System Baseline Survey 2014」

・インド計画委員会「Report of the Working Group on Animal Husbandry & Dairying 12th Five Year Plan (2012-2017)」

・インド計画委員会「Twelfth Five Year Plan」

・Amit Sahaほか(2004)「The Economics of Milk Production in Orissa, India, with Particular Enphasis of Small-Scale Producers」『PPLPI Working Paper No. 16』

・平林博(2017)『最後の超大国インド』日経BP社 pp285

・ヴェルガーゼ・クーリエン(1997)『インドの酪農開発』筑波書房 pp246

・久保田義喜(2001)『インド酪農開発論』筑波書房 pp319

・『The Indian Express』2015年10月8日「The states where cow slaughter is legal in India」<http://indianexpress.com/article/explained/explained-no-beef-nation/

 (2017年9月12日アクセス)

・『theSundaily』2017年8月27日「Indian villagers lynch two Muslims transporting cattle」

<http://www.thesundaily.my/news/2017/08/27/indian-villagers-lynch-two-muslims-transporting-cattle>(2017年9月12日アクセス)

・『The New York Times』2017年7月11日「India’s Supreme Court Suspends Ban on Sale of Cows for Slaughter」

<https://www.nytimes.com/2017/07/11/world/asia/india-cows-slaughter-beef-leather-hindu-supreme-court-ban.html>(2017年9月12日アクセス)

・Prabhat Dairy Limited 「Annual Report 2016-17」

・『The Times of India』2016年8月5日「Supreme Court favours life imprisonment for milk adulteration」

<https://www.google.co.jp/amp/m.timesofindia.com/india/Supreme-Court-favours-life-imprisonment-for-milk-adulteration/amp_articleshow/53560913.cms>

 (2017年9月12日アクセス)


				

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