調査・報告 学術調査  畜産の情報 2017年9月号


ソフトグレインサイレージの利用実態と今後の可能性
〜大家畜生産地域の事例をもとに〜

東京農業大学 教授 堀田 和彦



【要約】

 本稿ではソフトグレインサイレージ(以下「SGS」という)の利用実態と今後の可能性を明らかにするため、まずはじめに、各都道府県の畜産課にアンケートを実施し、SGSの利用実態、現状の課題などを明らかにした。次に全国で実施されているSGSを利用した大家畜生産の先進事例(実証試験地を含む)への調査を実施し、SGSにおける利用実態、現状の課題を整理し、今後のSGS普及・拡大の方策を検討した。

1 はじめに

飼料米を利用した国産飼料生産は盛んになってきているが、大家畜における飼料米の利用は全国的に依然として少ない。その理由は飼料米を用いた餌の利便性の悪さ、コスト高などが大きな理由であると考えられる。飼料米を活用したSGSは稲作生産における乾燥調製が必要なく、また、簡易な施設での飼料化が可能で低コストでの生産が可能と言われている。しかも、大家畜への飼料適性も良好である。本研究の目的は大家畜生産地域におけるSGSの活用・普及の条件を明らかにすることにある。

本稿ではまずはじめに、各都道府県の畜産課にアンケートを実施し、SGSの利用実態、現状の課題などを明らかにする。次に全国で実施されているSGSを利用した大家畜生産の先進事例(実証試験地を含む)への調査を実施し、SGSにおける利用実態、現状の課題を整理し今後のSGS普及・拡大の方策を明らかにする。なお、本研究においては各都道府県へのアンケート実施後、和牛繁殖経営における先進事例をピックアップし、調査を実施する予定であったが、SGSを利用した和牛繁殖経営地域は数が限られており、逆に和牛繁殖経営だけでなく大家畜生産に広く利用されていることが明らかになったため、和牛繁殖経営に限定せず、広く大家畜生産におけるSGSの利用実態を調査し、その問題点、今後の課題を検討することとした。

2 全国におけるSGSの利用実態調査(畜産課へのアンケートから)

本稿では全国におけるSGSの利用実態を明らかにするために、各都道府県の畜産課にSGSの利用実態に関するアンケートを実施した。アンケートは2016年7月に実施、47都道府県中、33の都道府県から回答が得られた。(回収率は70%)

アンケートにおいては、飼料米、SGSの生産実態、SGSとしての飼料化の現状・問題点、およびSGS拡大のために望まれる支援方策などについて質問を実施した。

まずはじめに、SGSの生産実態に入る前に、転作作物としての飼料米について整理しておく必要がある。主食用のコメ生産とは異なる転作作物としてのコメ生産、特に家畜用のコメ生産は一般的に飼料稲と呼ばれているが、その内実は主に3つに分けられる。1つ目が小家畜用の飼料米生産、2つ目が大家畜用の飼料稲を用いた稲ホールクロップサイレージ(以下「稲WCS」という)、そして3つ目に大家畜用のSGS向け飼料米の生産が挙げられる。一部には小家畜同様、大家畜に飼料米を粉砕し、直接給与する事例などもあるが、その割合は少ない。SGSはこのようにすでにある程度技術的な普及を見せている稲WCSや小家畜用の飼料米生産の後から普及を試みているものであり、そのような状況を踏まえ、アンケート結果を注視する必要がある。また、SGSそのものが広く実証試験段階を終え、現場に普及している地域から、まだ試験場、普及所などでの実証実験段階の地域も存在する。

その中で、SGS用の飼料米の生産実態を聞いたところ、今のところ現場に広く普及している都道府県は少ないのが現状であった。SGS用の飼料米生産が比較的盛んなのは山形県、青森県、秋田県、北海道、静岡県、熊本県などである。これらの地域ではSGS用の飼料米生産面積が10〜100ha以上となっている。しかし、その他の都府県におけるSGS用の飼料米は、生産してはいるものの、その面積は5ha未満と小規模である。面積の多い県ではすでに実証試験段階を終え、現場にSGSがある程度定着していることが示唆される結果となっている。ただし、このように現状、生産面積の少ない地域においても、今後、SGSの利用増加を期待している地域は多い。図1は今後のSGSの増減予測の結果である。この図を見ると、約4割の地域で今後SGSの利用は増加するものと予想している。これらの増加予測を行っている地域において、今後の増加予測割合を見ると、80〜100%が約7%、100〜150%が約33%、200%以上も約17%となっており、今後SGSの利活用が広がる可能性は十分あることが確認できる(図2)。

046a

046b

このような状況の中、飼料米の現状の課題を示したのが表1である。表を見ると、転作用途が明確で飼料米を増加する余地が少ないと回答した割合(「非常にそう思う」「ややそう思う」の割合)が約7割、「利用する畜産農家が見当たらない」でも約7割、「主食用のコメを作りたい農家が多い」と回答した割合も約8割に達していることが明らかになった。前述したように飼料米のSGSとしての利用技術が後発の技術である点、SGSに対する畜産農家の認知、飼料の転換のための技術情報が一般化していない点、コメ生産を家畜用ではなく、主食用として生産したい農家が多い点などが多くの都道府県で課題となっていることが明らかとなった。

046c

また、表2にはSGSの現状・問題点を示している。SGSの普及・拡大において、SGS飼料米への現行反当たり8万円という高額の助成金に対して畜産農家がその継続性を不安視しSGSに踏み切れない、また今のところ飼料米の生産が少ないため、畜産農家がSGSに変更できないなどの回答が多くみられた。SGSの利用拡大にはSGSを利用する畜産農家やSGSの原料である飼料米を生産する稲作農家の双方が理解・連携し合い、「飼料米を生産、SGSへ変換し、大家畜生産農家に利用してもらう」仕組み作りが重要であるが、現状では地域内に連携ができておらず、相互信頼の段階ではない状況が示唆される。

047a

さらにSGS拡大のための必要な施策としては、SGSの生産施設、受託組織の形成促進、耕畜連携、SGS運営主体との連携強化、また県境を越えたネットワークの促進、SGSを給与した畜産物に対する消費者への認知の促進などに多くの回答が得られた。現行、畜産農家と稲作農家の連携が進んでおらず、それらの連携促進や県境を越えた広い連携の必要性、最終生産物におけるコメを給与した畜産物に対する消費者評価を高め、SGS利用の需要源そのものを掘り起こすことによるSGS利活用の拡大の必要性を多くの都道府県のSGS担当者が感じていることを示しているといえよう(表3)。

047b

3 先進事例にみるSGSの利用実態、今後の課題

このような全国におけるSGSの利用実態を踏まえ、本節では全国に点在する先進事例を調査し、その現状の課題、問題点などを整理した。本節で紹介する事例は、山形県真室川町、秋田県由利本荘市、茨城県大子町、大分県中津町、福岡県糸島市である。5事例の中で茨城県大子町は県の試験場と農家による実証実験中の事例である。

表4は各SGS製造地域ごとの特徴・課題を整理したものである。これらの事例は前節のアンケートの中で、各県の畜産課から紹介いただいた先進地域などを踏まえ、選出を行った。まずはじめに、飼料米の作付け面積は実証実験中の茨城県大子町を除き、15〜72haと小面積ではあるが、ある程度まとまった面積を生産していることが明らかになった。SGSの製造主体は農協が1事例、農家(法人経営を含む)が3事例、稲作の作業受託組織が1事例である。稲作農家と畜産農家が連携し、SGSの生産・流通システムをどう構築するかが、SGSの利活用にとって極めて重要な課題であるのは言うまでもない。先進事例を見ると、両農業経営の間に立ち、農協などの第三者機関がSGSの安定供給を行っている事例は山形県真室川町(農協)と大分県中津市(作業受託組織)の2事例であり、他の3事例はSGSの有効性に気付き畜産農家が主体的にSGSの製造に関わっている。次にSGSの原料となる飼料米の買取価格は0〜8円、SGSの販売単価は23〜40円となっている。飼料米の買取はどの地域も飼料米生産に関わる助成金が稲作農家に支払われるため、稲作農家はおおむね飼料米という転作作物の生産によって十分な収益を得られており、低価格での購入が成り立っている。しかし、SGSの販売価格には若干の差があり、これらの差は飼料米の保管代金(秋田県由利本荘市)や地域内の単収の低さ、生産面積の少なさなど(茨城県大子町)が影響しているものと思われる。SGS製造後の保管場所は各製造主体の施設や敷地内がほとんどである。飼料米の粉砕機は地域ごとに異なり、当初山形県真室川町で紹介されたプレスパンダー(もみ殻粉砕機)を用いているのは秋田県由利本荘市のみで、他の地域はそれぞれ独自の粉砕機を用いていた。これはプレスパンダー利用の可否やSGSを与える対象家畜の違い、SGSの導入時期と飼料米粉砕に関わる機械開発の時期が影響を与えていた。大分県中津町では酪農経営を対象に低コスト飼料生産のためにSGSの導入が検討されており、和牛繁殖、肥育経営から、より微細に粉砕した飼料米のSGSでなければ地域内の酪農家に受け入れられないという理由で、機械メーカーとの試行錯誤から独自の粉砕機械を導入していた。SGSの対象家畜は和牛繁殖牛が2事例、和牛肥育牛が2事例、乳用牛が1事例となっている。

049a

この表を見ると、和牛肥育経営がSGSを製造している2事例(秋田県由利本荘市、福岡県糸島市)はどちらも大規模経営で高騰している餌価格を少しでも低下するために自ら飼料米粉砕機などを導入し施設整備を行い、積極的にSGS生産に乗り出している。両事例とも地域内の主要な担い手として稲の収穫作業や稲WCSの生産などにも関わってきており、それらの一連の経緯の中から飼料米のSGSとしての利用の仕組みを構築しており、さらに大型機械や人員の確保などにも精通している。

実証試験中の茨城県大子町は典型的な中山間地のコメと繁殖を主体とする家族経営が中心の地域であり、比較的大規模な繁殖農家は稲作の収穫作業なども担う地域の中心的担い手となっている。そのため、稲作の収穫作業とSGSの製造時期が重なり、十分な労働力を確保できずSGSの製造が容易ではないなどの課題もみられた。今後は高齢化した繁殖農家の種付けをサポートするキャトルブリーディングステーションを立ち上げ、作業の集中・効率化を高めるとともにそれら組織によるSGS生産の本格化も検討していた。

このように、SGSを域内で上手に生産・流通させるためには、前述したように稲作、畜産の両農家が連携し、SGSを生産・流通するシステムを構築するシステム作りが極めて重要となる。肥育経営が主体となってSGSを生産している福岡県糸島市の場合も、いずれは地域内の作業受託組織など第三者にSGS生産を任せ、低コストのSGS飼料を購入し、肥育経営に専念したいとの希望を述べている。

このような状況の中、山形県真室川町や大分県中津市は地域内の生産者や農協、普及所など関係機関が、将来の地域農業の持続的発展の視点から、協議を行い稲作、畜産両農家にとって最善のSGS生産・流通システムを構築しているといえよう。大分県中津町は畜産クラスター協議会を立ち上げ、域内の作業受託、たい肥センターを営んでいる農業公社にSGS生産・流通の役割を付与している。このことによって、域内の酪農家はSGSの生産に携わることなく、良質で低コストのSGSを購入することができ、稲作農家もこれまでと同様、収穫作業を公社に委託し、助成金を受け取り、収益性の高い転作生産を実施している。また、農業公社は株式会社化を進め、SGS生産・流通システムを取り込むことによって、収益が確保できる部門を一つ増やす構造になっており、従業員の増員も行い、広くSGSの製造販売を手掛けることができる状態となっている。製造したSGSは域内の酪農家を中心に供給する仕組みとなっているが、今後、稲作農家の高齢化がより一層進むことは明白である。増加する稲作作業受託、転作作物による飼料米生産が拡大し、SGSの供給が酪農家の需要をオーバーしても、株式会社化している公社であれば中津市内外の和牛繁殖農家や肥育農家、酪農家にもSGSを販売することは可能であり、この点は農業公社の従業員に大きなモチベーションを与えている。

このように、地域内の農業の持続可能性を高める視点から耕畜連携の一方策としてSGSを位置付け、広く関係機関が集まり協議会を立ち上げ真剣に議論を行えば、SGSの生産・流通を誰が、どのような形で担うか、自ずと答えは出てくるのではないだろうか。その答えは地域ごとに一様ではないと思われるが、大分県中津市の取り組みはその一つのモデルケースになるものと思われる。

4 おわりに

本稿では全国におけるSGSの利用実態を明らかにするとともに、先進事例におけるSGSの利活用の実態を明らかにし、現状の課題、問題点を解明してきた。これらを踏まえ、SGSのより一層の普及拡大のための方策をここで検討してみたい。

まずはじめに、SGSの普及拡大の前提として、現行実施されている飼料米に対する転作助成金が持続的に維持される状況であることが望ましいのは言うまでもないことである。しかし、全国アンケートでも明らかなように、助成金の金額は反当り8万円と相対的に非常に高い水準にあり、そのことがこの助成金の継続・拡大を不安視させる要因となっているのも事実である。しかし、飼料米に対するこの助成金が前提となってSGSとしての利活用が広がりを見せている現状を踏まえれば、短期的にこの助成額を大きく変化させることなく、持続的に維持させることが重要といえよう。仮に大きく飼料米生産が拡大したとして、助成に必要な予算額が拡大し、助成を維持するのが厳しい状況となったとしても、将来の見通しが明確で農家がその変化にも対応可能な情報提供を行っていくことが肝要といえよう。先進地域にもしこの助成額が低下した場合はどのような変化が起きるか聞き取りしたところ、助成額の低下分をSGSの原料としての飼料米販売価格に上乗せすることになるだろうという話がほとんどであった。そうなれば、いずれ低価格でSGSを生産することも厳しい状況となり、SGSそのもののメリットが消滅することになりかねない。しかし、助成額の低下があらかじめ地域において予測可能であれば、県、あるいは市町村段階での補助額の拡大や、SGS販売価格を維持するためのより一層の生産・販売規模の拡大を早くから検討することも可能といえよう。

次に、SGSの安定供給には先進事例の取り組みにもみられるように、地域全体での耕畜連携促進のための協議会の立ち上げが極めて重要であった。大分県中津市における畜産クラスター協議会の役割を見れば明らかである。SGSの安定生産、安定供給の仕組みが中津市で出来上がった背景には、おそらく、地域内での農業における危機意識の強い共有とSGSに対する有効性に対する広い認知があったのではなかろうか。肥育農家がSGSを自ら生産供給している地域ではSGSそのものの有効性が地域の稲作農家や他の畜産農家にもまだ十分共有されておらず、域内の会議でSGS生産者(肥育経営者)自らそのことを広めなけれなならないと述べていた。多くの中山間地域が抱えている共通課題である高齢化などによる離農者、耕作放棄地の増加を地域全体の共通課題として深く認識し、それらを検討する協議会を立ち上げ、域内の稲作農家、畜産農家、SGSを供給するサポート組織全てがwin-winとなるような仕組みを積極的につくり上げることが肝要といえよう。モデルとなりうる先進事例を広くインターネットなどを活用して拡散するとともに、立ち上げた協議会全体で容易に先進地域に視察に行くなど、情報の共有を進めることも有効ではなかろうか。また、近年規制改革会議などからも指摘があるように、農家サポート組織としての農協などが提供する資材価格のより一層の効率化にもSGSの生産はマッチするものである。低コストの餌生産を農協自ら率先して行いうる技術体系の確立したSGSを広く農協改革の一環の中で進めていくことも重要であると思われる。

域内で生産したコメを原料として生産された牛肉は、輸出の拡大を目指す上でも大きなブランド価値の付与につながる可能性がある。餌としてのコメの多給によるオレイン酸含有量の増加は、味覚的にも日本独自の牛肉として高い評価を得られる可能性もある。積極的にコメを餌とした牛肉の科学的評価を進めるとともに、販売価格を高めるために、これまでのサシを基本とする評価基準に加え、新たな評価基準を設けることも考えられよう。これらの販売促進活動を通じてのコメ多給牛肉需要の拡大、それに伴うSGS生産のより一層の拡大を探ることも重要な普及・拡大のための方策となりうるであろう。


				

元のページに戻る