調査・報告 畜産の情報 2018年4月号
札幌事務所 所長 平石 康久
【要約】
JAサロマは、生産者グループと連携して、乳牛哺育育成センター、TMRセンター、コントラクター事業を運営し、地域一体で生産者の労働力不足の解消に取り組み、生乳生産基盤の維持・拡大に努めている。
1 はじめに |
北海道常呂郡佐呂間町は、オホーツク管内のほぼ中央部に位置し、東西に細く開けた丘陵地帯で、北はサロマ湖に面している(図1)。南から北へ傾斜した丘陵地帯であり、中央を流れる佐呂間別川はサロマ湖に注ぎ、流域は肥沃な土壌が広がっている。日照時間は長く、夏は冷涼だが冬は冷え込み、昼夜の気温差の大きい内陸性気候である(図2)。
平成27年度における農業産出額(推計)の内訳を見ると、同町の生乳生産が37億9000万円と全体の過半を占めており、酪農が盛んな地域である(図3)。
平成28年の農用地の利用状況についても、牧草地が44%、デントコーンが26%を占めるなど、多くが飼料向けとなっている。
一方、生産者の戸数は7年の238戸から27年には91戸となり、6割強減少した(表1)。1戸当たりの飼養頭数は同期間に51頭から84頭へ拡大しているものの、町内の飼養頭数は1万2161頭から7667頭に減少している。
28年6月に策定された佐呂間町酪農・肉用牛生産近代化計画によると、10年後には68戸にまで減少する恐れがあるとしており、限られた数の生産者によって生乳生産を維持していくことが、喫緊の課題となっている。
2 地域酪農の支援に向けた取り組み |
佐呂間町の基幹産業は酪農であるが、高齢化などによる生産者の離農により、生産者戸数の減少が続いている。これを1戸当たり飼養頭数の増加および1頭当たりの乳量の増加によって、地域での生乳生産量を維持してきたところであるが、近年では生産現場での労働力不足により、1戸当たり飼養頭数を増加させることも難しくなっており、生乳生産量は減少傾向にある(図4)。
このため、佐呂間町を管内とする佐呂間町農業協同組合(以下「JAサロマ」という)は、生乳生産の維持・拡大を図るために、新規就農者の誘致に加え、外部委託により搾乳以外の作業を可能な限り削減し、生産者1人当たりの飼養頭数の増加や1頭当たりの生乳生産量の増加を図る必要があると考え、生産者と連携して、畜産クラスター事業などを活用したTMRセンターの設立およびコントラクター事業の導入、乳牛哺育育成センターの設立などによる地域一体となった支援づくりを進めている(図5)。
ア 概要
同センターは、平成18年に400頭を収容できる規模で設立された(表2)。その後、規模拡大を行う生産者による利用拡大が見込まれたことから畜産クラスター事業を活用し、27年12月に収容能力を640頭に拡張し、哺乳ロボットなどを導入した。土地(一部を除く)施設はJAサロマが所有し、運営主体もJAサロマである。
育成牛の管理を同センターに委託することによって搾乳作業に専念でき、規模拡大が行いやすくなること、育成牛の受胎率が向上すること、後継牛を計画的に確保できることが期待されている。
イ 運営状況
同センターは生後4日目から受入れ、受胎後に生産者へ牛が戻されるおよそ16カ月齢までの間、哺育・育成を行う。利用者に対して、受け入れに当たっては、分娩後にへその消毒を行うことや、初乳を十分与えることを条件としている。預託料金は1日1頭当たり600円であり、これによってセンターの運営費用が賄われている。同料金には預託期間中の飼料代や予防接種代などは含まれているが、疾病による治療費、人工授精経費などは別途負担となる。
受け入れた牛は、最初にビタミン剤を投与され、2カ月齢くらいまでは哺育舎での飼養が行われる。その後は初期育成舎から中後期育成舎と移っていく(図6)。
疾病予防としては、ワクチン接種のほか、夏期には月に1〜2度の石灰乳塗布や逆性石けんによる消毒、冬期には週1度風邪予防のため二酸化塩素の煙霧消毒を行っている。
12カ月齢ごろに人工授精を開始するが、発情発見システムと職員による観察によって授精適期を見極め、農業共済組合の人工授精師によって、最も適切な時期に授精を行うことが可能となっている。性判別精液の利用は4割程度である。
人工授精後60日たって妊娠鑑定を行った上で生産者に預託された牛を返却している。
ウ これまでの実績
同センターを利用する生産者はおおむね20〜25戸で推移しているが、預託頭数については、平成20年度以降収容能力に近い300頭を超え400頭近く、拡張後の28年度以降も計画通り順調な預託頭数となっており、ニーズの大きさが見て取れる(図7)。
また、同センターの初回受胎率は21年度以降、6割半ば〜7割強で推移し、北海道の平均である約55%に比べると、良好な成績で推移している。JAサロマは、牛の脚に発信装置を付け、運動量を測定し、データ化する発情発見システムの活用と職員による授精適期の見極め、人工授精師による適切な時期での種付けによってこの成績が達成されているものと考えている。
ア 概要
同センターは、平成24年からTMR飼料の供給を開始した。所有者は哺育育成センター同様、JAサロマであるが、運営主体は管内の生産者から構成されるTMRセンター利用組合である。利用組合の構成員は平成29年6月時点で32戸、飼養頭数は2510頭(うち搾乳牛頭数は1740頭)であり、管内の生産者の4割近くがTMRセンターを利用している(表4)。
生産者から粗飼料の生産・収穫・貯蔵・調製などの作業を受託し、大型機械による作業の効率化によって、生産者の労働軽減、保有機械台数の削減、飼料(配合飼料やアルファルファ)・肥料などの一括購入による経費の削減といった効果を目指している。
また、同センターが提供する質の良い飼料による生乳生産量の増加も期待されている。
イ 運営状況
利用組合の構成員は圃場管理作業(作付け、収穫計画の策定)などを行うが、収穫はJAサロマのコントラクター事業を利用している。利用組合はTMR部、粗飼料部、農地部に分かれており、構成員がそれぞれの仕事を分担するようになっている(図8)。
同センターで利用する牧草・デントコーンは、構成員が供給している。ミキサーで混合したTMR飼料は、ビニール袋に圧縮梱包し、町内を2地区に分け、地元運送業者に委託して隔日で各地区の生産者まで配送している。TMRメニューは搾乳牛用乳量35キログラム設定飼料、搾乳牛用乳量30キログラム設定飼料、乾乳牛・成牛用飼料の3種類を用意している。
平成28年度(28年2月1日〜29年1月31日)には、3万4850トンのTMR飼料を製造した。
同センターの運営コストについては、粗飼料生産費、TMRセンター運営費、配合飼料費に分けられ、平成28年度の実績では35キログラム設定の飼料について、1キログラム当たり19.1円であった。(粗飼料費7.3円(38%)、配合飼料費8.2円(43%)、センター運営費が3.6円(19%))であった。
ウ これまでの実績
設立当初の構成員は機械の更新時期を迎えた生産者が中心であった。24年度以降は、一定期間後に離農を希望する構成員がいた一方、規模拡大を図る構成員の新規加入があり、おおむね横ばいで推移している(表5)。
構成員の1頭当たりの平均乳量は増加しており、TMRセンターによる良質な飼料が、増加に貢献しているものと見られる。天候不順であった28年度もほとんど落ちていない。自作地の牧草の作柄が良くなくても、TMRセンターによるリスクヘッジが可能となっている。
さらに機械の更新のために資金を借り入れる必要がないことから、生産コストの削減につながっている。
ア 概要
同事業は平成10年に開始した。これは酪農の経営規模が拡大するにつれ、生産者個人では自給飼料生産が困難となる中、既存の農機利用組合では、離農が進み、残された生産者への作業の集中が見られたことから、コントラクター事業が立ち上げられたものである。機械は生産者による協議会が国の補助事業を利用して導入し、事業の運営はJAサロマが事務局として受け持っている。
オペレーターはJAサロマの子会社であるガソリンスタンドや農機具整備工場、酪農ヘルパー利用組合からの職員で対応している(表6)。
イ 運営状況
コントラクターによる作業は牧草(1番草、2番草)およびデントコーンの収穫、収穫物の各生産者のサイレージまでの運搬・詰め込み作業である。JA正組合員であれば、誰でも利用が可能である。
利用料金については、利用する機械によって異なっているが、作業時間と作業面積に応じて課金される。機械のメンテナンスと減価償却費、人件費、運搬費などは利用料金で賄えるよう設定されている。
ウ これまでの実績
平成29年度は、管内の草地面積の55%を受託し、ほぼ全ての組合員が事業を利用している。また、自らの草地全てでなく、部分的に委託しているケースも多い。これは、コントラクターによる収穫では牧草が短く裁断されるため、長い牧草を確保したいというような生産者のこだわりや、圃場条件によっては大型機械が入れないところもあるためである。
ア 新規就農対策
JAサロマは新規就農対策にも力を入れている。
まず酪農をはじめとする農業に関心のある者や新規就農を希望する者は、JAサロマが用意した宿泊施設が安価で利用できる。利用期間は農業体験が1週間、農業実習が1カ月、アルバイトのような雇用が伴う場合が2年、新規就農希望者が3年間となっている。同宿泊施設には家具などが備え付けられており、着替えや身の回り品を持参するだけで生活ができるようになっている。
また、JAサロマは株式会社ドリームファームという受け皿会社を用意し、その会社が離農予定の生産者の下へ2年間新規就農希望者を派遣し、その間の給料を支給するような取り組みも行っている。
派遣された新規就農希望者が、その後生産者の経営を承継することとなった場合、買取価格の2割以内(最大1000万円)を町から助成を受け取ることができる。
イ その他
酪農ヘルパー利用組合による生産者のサポートのほか、国の事業を活用して、JAサロマが購入した初任牛を、酪農経営の後継者またはその後継者が属する酪農経営体に貸し付けする事業や、町営牧野で育成牛を受け入れ、放牧によって丈夫な足腰を作り生産者へ戻す支援なども行われている。
3 おわりに |
JAサロマを中心とした地域ぐるみの取り組みによって、同地域の酪農経営が支えられている。生産者は後継牛が生まれると、受胎するまで乳牛哺育育成センターに預託することができる。同センターでは良好な初回受胎率を実現している。
また、自給飼料の生産はコントラクターへ委託することで、所有機械が減ることによるコスト削減や、適期作業による牧草の品質向上が実現されている。
さらに、TMRセンターの利用によって、飼料の調製・配合の手間が省けるとともに、均質な飼料による1頭当たり乳量の増加も可能となった。
こういった取り組みを組み合わせることによって、家族2名で50頭飼育している生産者が、飼料の調製や育成、牧草の収穫を外部化することによって、新たな投資を行うことなく、60頭に増やすことが可能となっているとJAサロマは考えている。
JAサロマの取り組みは、投資をしてまで規模拡大することに抵抗がある生産者にとって、利用しやすい支援体制となっているものと思われる。また、労力不足などの生産者にとっても、現在の経営規模を維持することに役立っている。さらに、牛の飼育に専念できるようになったことで、後継牛として保留しない牛を外部に販売し、生産者の収入の増加にもつながっている。
今後ともこういった取り組みが、さらに充実することを期待してやまない。
最後に、今回の調査に当たり、格別のご協力をいただきましたJAサロマ畜産部渡部部長、同石川畜産販売課長、営農部水戸部長、同惣田農業振興課長をはじめ関係者のみなさまに感謝を申し上げます。