畜産の情報 2018年4月号

2020年に向けた日本の食文化発信の取り組みについて
〜畜産物に着目して〜

内閣官房 東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局
参事官 勝野 美江


1 東京大会を通じた日本の食文化発信とは

「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(以下「基本方針」という)(1)(2015年11月27日閣議決定)では、大会を通じた日本の再生ということが位置付けられ、地域性豊かな和食など日本の魅力を世界に発信するとされ、日本全国みんなで盛り上げる大会にしていこうとしている。

日本の食文化発信に関しては、2016年5月に推進本部の下に「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における日本の食文化の発信に係る関係省庁等連絡会議」(以下「食文化発信関係省庁等連絡会議」という)(議長:東京オリンピック・パラリンピック担当大臣)を設置し、関係機関が連携した検討を行っている。世界の多くの方々が日本の食事に対し興味や関心を持っていて、日本の食事を食べるのを楽しみにしている(2)中で、東京大会が開催される2020年の訪日観光客の目標は4000万人とされ、これらの方々に日本の食文化を生かして、どういったおもてなしをしていけばよいかをオールジャパンで考えていく必要がある。

2 大会関係施設での飲食提供(3)

2016年のリオ大会の選手村のメインダイニングは、ジャンボ機5機分にも及ぶ広大なドーム式仮設テントで、オリンピック時には約5000席が設けられ食事が提供されていた(写真1)。24時間営業で、朝、昼、夕食、夜食がカフェテリア方式で提供され、開催国のブラジル料理の他、多国籍料理、ハラル・コーシャ、アジア料理、ピザ・パスタが提供されていた。東京2020組織委員会が過去大会の選手村のメニューからリストアップした食材リストによると、リオ大会では「鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、卵、ベーコン、ハム、ソーセージ、チーズ」が、ロンドン大会では「鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、鴨肉、鹿肉、卵、ベーコン、チーズ」が使われていたとされている。メニューをみると単に焼いただけとか蒸しただけといったシンプルな調理方法がとられ、あまり手の込んだ料理は少ないことがわかる。メインダイニングとは別にカジュアルダイニングが選手村内に設置され、バーベキューなどの料理が提供されていた。

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こうした大会関係施設に食材を提供する際の調達基準が2017年3月に策定されている。畜産物の調達基準に関しては、食品安全、環境保全、労働安全、アニマルウェルフェアを確保した生産方法によって作られたものを調達することが要件になっている。これを満たす方法として、JGAP、GLOBALG.A.P.の認証を受けて生産された畜産物を調達することとされている。また、「GAP取得チャレンジシステム」にのっとって生産され、第三者による確認がなされたものも調達可能となっている。なお、実際に食事を提供するのは東京2020組織委員会が委託する飲食提供事業者などとなり、食材も同事業者が調達することになる(飲食提供事業者は2018年度中に決定される予定)。

日本発の家畜・畜産物のGAP認証基準は2017年3月31日に策定されたばかりであるが、2018年2月1日時点で肉用牛5件、乳用牛2件、豚5件、採卵鶏1件の計13件が認証されている。GAP取得チャレンジシステムも肉用牛4件、乳用牛1件、豚1件、採卵鶏3と計9件となっている。東京大会に必要な量の国産畜産物が提供できるよう、もっと認証などが進むことを期待したい。北海道、岩手県、福島県、岐阜県、三重県、徳島県、宮崎県、鹿児島県などでは、東京大会に食材を提供しようとする体制整備がなされており、全国的にこうした取り組みが活発になることが期待される。東京2020組織委員会の入札手続きなどは「ビジネスチャンス・ナビ2020」のウェブサイト上で行うことになっており、東京2020組織委員会が行う飲食提供事業者の募集もこのサイトを通じて行われることになる。また、同ナビには、生産者なども登録でき、自らの生産品目や取得した認証などの情報を掲載することができるため、飲食提供事業者に見つけてもらえるよう認証取得した生産者などは、このサイトに登録することをお勧めする。

3 2020年に向けた食文化発信の発信

東京2020組織委員会の飲食提供基本戦略素案では、「食材や調理を工夫しながら大会各場面で提供し、日本食の特徴や魅力を知ってもらう」ことや「地域特産物の活用」がうたわれており、「被災地食材を活用したメニューを提供」し、「高品質の食材を生産できるまでに復興した被災地域の姿を発信」して「被災地食材の安全性の適切な情報発信」することとされている。こうした「大会の飲食提供を通じ」て「東京や日本全体で、食文化の多様性への配慮がより一層進むこと」が期待されている。まずは大会関係施設内での日本の食材の活用、日本の食文化発信ということをしっかり行っていけるように、先に述べたような調達基準をクリアした食材が拡大していくことが重要である。

一方で、そうした食材を活用する川下側の取り組みも重要である。2017年12月には、中央合同庁舎7号館の食堂では認証取得した食材ばかりを使ったSustainable Menu フェア(写真2)が、農林水産省ではGAP認証を取得した豚肉、野菜、米などを使った特別メニューフェア(写真3)がそれぞれ開催された。こうした取り組みが国や都道府県、企業の社員食堂などに広がっていくことが期待される。

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地方自治体でのホストタウン(4)交流の一環として、地元の食材を交流相手国・地域の選手や住民の方々に食べてもらうことが重要である(ホストタウンとは、東京大会の前後に大会参加国の選手(オリンピアン・パラリンピアンなど)・スタッフや、大会関係者と市民との交流などを行い、地域の活性化に生かしていこうとするもので、2018年2月時点で288の自治体が登録)。例えば、徳島県では2017年7月にドイツハンドボールブンデスリーガ―女子1部リーグのブクステフーデ SVの合宿を実施し、国際交流試合などを行った。歓迎会では、徳島県産の阿波尾鶏を使った料理などが提供された(写真4)。北海道士別市では2017年7〜8月に台湾師範大学のウエイトリフティングチームの合宿の受け入れを行った。歓迎会では、地元生産者が栽培したGAP認証を取得している野菜を使った料理が提供された。以上のように、ホストタウンでは、来日した選手などに地元の魅力を体験してもらい、地元の食材を使った料理を食べてもらう大きなチャンスがある。

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2020年に向けては、さまざまな国内外に日本の食の魅力を発信できる機会がある。こうしたチャンスをしっかりつかむためにも、認証取得や流通事業者などとの連携が重要である。東京大会を見据えた取り組みが、2020年以降のレガシーとなるよう、今後も各地の取り組みに期待したい。

(1) 内閣官房ウェブサイトより
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/pdf/kihonhousin_zenbun.pdf

(2) 観光庁「訪日外国人の消費動向」(平成27年年次報告書)より
http://www.mlit.go.jp/common/001173130.pdf

(3) 東京2020組織委員会公表資料より
https://tokyo2020.jp/jp/games/food/strategy/data/20170313-appendix.pdf

(4) 内閣官房ウェブサイトより
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/hosttown_suisin/


(プロフィール)

食育基本法制定時に農林水産省で食育を担当。食事バランスガイドの策定、教育ファームの立ち上げなどに携わる。

文部科学省科学技術政策研究所では「日米欧における健康栄養研究の位置付けの歴史的変遷に関する調査研究〜大学に着目して」などを共同執筆。その後、農林水産省で介護食品の普及、途上国の栄養改善の取り組みを民間事業者とともに取り組むプロジェクトなどに携わった後、和食室長を経て2016年6月から現職。博士(生涯発達科学)。


				

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