調査・報告   畜産の情報 2018年8月号


飼料米給与採卵鶏へのホヤ殻の飼料添加給与による卵黄色改善効果

東北大学大学院農学研究科 家畜生産機能開発学寄附講座 教授 鈴木 啓一



【要約】

 産業廃棄物として廃棄処理されているホヤ殻の乾燥粉末を、飼料米給与採卵鶏に添加給与することによる卵黄色の改善効果を調査した。アスタキサンチンを含むホヤ殻A区とプラズマローゲン抽出後のアスタキサンチンを含まないホヤ殻B区にそれぞれ18羽ずつ割り当て、飼料米を60%含む飼料に3%(A区)と4%(B区)のホヤ殻を添加して給与した。アスタキサンチンを含むホヤ殻の給与により卵黄色の改善と腸内菌叢そうの乳酸菌などが増加する効果が得られ、未利用資源としての有効性が確認できた。

1 はじめに

宮城県は海産動物のホヤ(Halocynthia roretzi)の養殖水揚げ量が平成22年には8663トンと全国の約8割を占めていた。23年の東日本震災による施設被害のためホヤの養殖生産量は激減したが、近年は1万トンを超えるまで回復してきている。震災前は隣国の韓国への輸出量が生産量の約6割程度を占めていたが、放射線の風評により韓国への輸出は中止されたため、一部は焼却処分されている。また、一般に販売されているホヤの外嚢(殻)は産業廃棄物として処理されている。石巻管内でホヤの中間卸売業を営んでいる約10社ではホヤ殻を裁断した後、産業廃棄物処理業者に依頼し最終的には堆肥として処理されていると聞く。このための費用は年間数千万円であり、宮城県内全体ではさらに多くの処理費用を負担しているのが現状である。

わが国では食料自給率・食料自給力の維持向上を図るため、飼料用米などの戦略作物の生産拡大が推進され、飼料用米の生産が増加してきている。すでに牛、豚、鶏の飼料として利用されてきており、玄米は輸入トウモロコシと同等の栄養価を持ち、牛肉、豚肉では筋肉中に含まれる脂肪酸のオレイン酸の割合をトウモロコシよりも高める効果なども実証されている1)。しかし、採卵鶏へ給与した場合、トウモロコシ主体の飼料と比べ卵黄色が淡くなる。そのため改善策としてパプリカ抽出液などが飼料に添加給与されている。

ホヤ殻は、動物性粗繊維、タンパク質がそれぞれ約30%、37%と多く、また、ヨウ素(100グラム当たり115ミリグラム)やカロテノイドが含まれている(鈴木ら、未発表)。本研究では、ホヤ殻の乾燥粉末を飼料米主体の採卵鶏の飼料に添加給与することで、成分として含まれているカロテノイドやヨウ素などによる卵黄色の改善効果を検証することを目的とした。これまで産業廃棄物として処分されていたホヤ殻を採卵鶏に添加給与することで採卵鶏の卵黄色の改善が可能となれば、震災復興を目指す宮城県のホヤ生産者と販売業者に対する支援となること、食料自給率の向上を目指す養鶏生産者にとっては飼料米給与による卵黄色の改善効果が期待されるなど研究成果の社会的な貢献は大きいと考える。

2 材料と方法

本試験は東京農業大学の動物実験に関する規定に基づき同大学厚木キャンパスの同大学農学部畜産学科中小家畜舎で行った。また、使用した採卵鶏は、コマーシャルレイヤーであるボリスブラウンであり、124日齢で36羽導入し、試験区と対照区にそれぞれ18羽ずつ振り分けた。126日齢から予備飼育を行い、223日齢からホヤ殻飼料を給与し、252日齢までの30日間採卵した。

本試験では、ホヤ殻に含まれる成分の何が卵黄色を改善するのかを明らかにするため、あらかじめホヤ殻に含まれる成分を調査した。ところでホヤには人の認知症の予防・改善効果があると考えられているプラズマローゲンが含まれており2)、ホヤからプラズマローゲンを抽出した残渣物が出る。そこで、プラズマローゲン抽出後のホヤ殻も入手し、卵黄改善効果があるかどうかを確認する必要があった。そのため、化学成分の分析と同時に、卵黄色改善効果が期待される物質であるカロテノイド成分も分析した。プラズマローゲンを抽出したホヤ殻Bと未抽出のホヤ殻Aを乾燥粉砕したものを写真1に示した。ホヤ殻A、ホヤ殻Bは、いずれも宮城県内の加工業者から集めた物を裁断して天日乾燥した後、5ミリメートル程度の大きさに切断したものである。プラズマローゲンを抽出したホヤ殻Bは未抽出のホヤ殻Aと比べ外観に赤色が認められなかった。化学成分の分析の結果、プラズマローゲン抽出後のホヤ殻Bと比較し、未抽出ホヤ殻Aには、総キサントフィル、アスタキサンチンがそれぞれ100グラム当たり71.50ミリグラム、同10.1ミリグラム含まれており、ホヤ殻Bの100グラム当たり2.86ミリグラム、同0.09ミリグラムよりかなり多く含まれていることが明らかとなった(表1)。

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そこで、本試験では、ホヤ殻Aとホヤ殻Bをそれぞれ飼料添加給与し、これらの成分以外の何らかの物質が卵黄色改善の効果があるかどうかを確認することとした。なお、ホヤ殻の化学成分である総キサントフィルとアスタキサンチン濃度の分析は一般財団法人日本食品分析センターに依頼した。

ホヤ殻A添加区とホヤ殻B添加区には主原料としてモミ米を60%とし、大豆かすの配合も同じ割合とした。ホヤ殻A添加区とホヤ殻B添加区にはそれぞれ3%、4%のホヤ殻粉末を添加給与した。給与した飼料構成を表2に示した。

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調査項目は、30日の試験期間の産卵成績(卵重、日平均産卵個数、平均産卵数)と、産卵した卵質(卵重、卵白高、卵黄色、HU、卵殻強度、卵殻厚)である。卵質の判定はNABEL社の卵質測定装置DET6000により判定した。卵黄色については、卵黄色を15段階に分けた色として設定されている「ロッシュヨークカラーファン」(写真2)が一般的に用いられており、これを用いて判定した。また、卵黄に含まれるヨード、アスタキサンチン濃度の測定は一般財団法人日本食品分析センターに分析を依頼した。

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試験の最終段階で採糞し、糞の菌叢解析を行った。菌叢の解析は、T-RFLP法により行った。糞便からゲノムDNAを抽出し、プライマーによりPCR増幅後、制限酵素(MSPI)で切断し、3130型DNAシークエンサーによって泳動して切断したフラグメントを分離し、その後、フラグメント解析して図にまとめた。特定の制限酵素で切って、もし菌特異的な配列を持てば、そのサイトで切れるので独特のフラグメントピークパターン(OTU)が検出できる。総ピーク面積を100として、各ピーク面積の割合を示した。

3 結 果

(1)産卵成績

産卵成績を表3に示した。飼料給与量は両区で差が認められなかった。一個当たりの卵重も差が認められなかったが、一日当たりの卵重量、卵個数はホヤ殻A区がホヤ殻B区より有意に高い値を示した。

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表4にはホヤ殻A区とホヤ殻B区の卵質の成績を示した。卵重、卵白高、鶏卵の鮮度を表す指標の一つであるハウユニット(HU)、卵殻強度、卵殻厚について区間差は認められなかった。しかし、卵黄色については、ホヤ殻A区がホヤ殻B区より有意に高い値を示した。両区の卵を写真3に示した。ホヤ殻B区と比べ明らかに卵黄色が改善されていることがわかる。

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表5には、卵黄5個分のヨウ素とアスタキサンチン含量を示した。ヨウ素については、ホヤ殻A区の100グラム当たり128マイクログラムがホヤ殻B区の同91マイクログラムより高い値を示したが、反復した測定をしていないため統計的有意差は明らかでない。また、アスタキサンチン含量はホヤ殻B区では検出されず、ホヤ殻A区では同0.04〜0.05ミリグラム含まれ、ホヤ殻B区では検出しなかったことから、ホヤ殻のアスタキサンチンが卵黄色の改善に寄与していることが示唆された。

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(2)糞菌叢の比較

ホヤ殻A区とホヤ殻B区から採材した3羽ずつの糞をまとめて菌叢を解析した結果を図に示した。この図からホヤ殻A区とホヤ殻B区の菌叢が明らかに異なることがわかる。図は下の部分ほど割合の高い菌の属を示してある。特に、ホヤ殻B区は Ignatzschineria(ガンマプロテオバクテリア綱に含まれる属の一つ)、Ruminococcus(草食動物の胃などに存在するルミノコッカス属)などがホヤ殻A区と比べ割合が高いこと、割合は低いが多くの菌が存在しているホヤ殻A区では Lactobacillus(乳酸菌を含むラクトバチルス属)Erysipelothrix(豚丹毒菌を含む属)Enterococcus(腸中菌に含まれる属)Aeriscardovia、BigifonsvyrtiummなどがB区と比べ割合が増えており、菌の種類が減少していることが明らかとなった。

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4 考 察

本研究では、ホヤ殻のキサントフィル量とアスタキサンチンのみしか測定しなかったが、一般のホヤ殻Aには、プラズマローゲンを抽出した後のホヤ殻Bと比べ、25倍と112倍のキサントフィルとアスタキサンチンが含まれていることが確認できた。そして、ホヤ殻Aを給与した採卵鶏の卵黄部分にはアスタキサンチンが含まれているが、ホヤ殻Bではほとんど検出できなかったことから、ホヤ殻Aのアスタキサンチンが卵黄部分に移行した可能性が高い。

従って、ホヤ殻を給与することで、飼料米給与により淡い卵黄色が改善された原因はホヤ殻に含まれるキサントフィル類のアスタキサンチンの効果と思われる。ホヤ殻の総キサントフィル量は100グラム当たり71.5ミリグラム、アスタキサンチンは同10.1ミリグラムだった(表1)。カンタキサンチン、フコキサンチンなども卵黄色を改善したとも考えられるが分析はできなかった。卵黄の黄色化の原因がアスタキサンチンによると考えると、飼料へのホヤ殻添加量は3%、1日約130グラム程度の飼料摂取量だったので、摂取したホヤ殻Aは1日当たり約4グラムであり、摂取アスタキサンチン量は1日当たり0.4ミリグラムとなる。ホヤ殻を摂取した鶏の卵黄中のアスタキサンチン量は100グラム当たり0.05ミリグラム程度だったので卵黄への移行率は12.5%となる(表5)。岡田3)はアスタキサンチンで卵黄色の色揚げを行う場合の飼料中濃度は、飼料の主原料であるトウモロコシに由来するキサントフィル次第だが、2〜6ppm(同0.2〜0.6ミリグラム)程度でRCF=12〜14の卵黄が得られ、卵黄への移行率をおおむね15%程度であるとしている。本試験の結果では12.5%の移行率だが、この程度で卵黄色の改善を果たすことができることが明らかとなった。なお、アスタキサンチン以外のキサントフィル成分として含まれると予想されるカンタキサンチン、フコキサンチンよる卵黄色改善効果も期待できると思われるが、今後の課題である。

ホヤ殻Aを給与した採卵鶏の卵黄にはアスタキサンチンが含まれており、鶏卵自体の抗酸化機能と同時に、アスタキサンチン入り鶏卵をヒトが食することで卵に移行したアスタキサンチンを摂取することができるので鶏卵の販売価値を高く設定できることが期待できる。なお、ホヤの中身成分の分析も行ったが、アスタキサンチン濃度は同0.39ミリグラムであり、殻に含まれる含量(同10.10ミリグラム)の4%程度と少ないことがわかり、ホヤの中身を摂取することでヒトがアスタキサンチンを摂取することは期待できないことも明らかとなった。

本試験では、数羽の糞を採材して菌叢解析を行った結果、アスタキサンチンを含むホヤ殻Aを添加した場合、糞中のLactobacillus、Erysipelothrix、Enterococcus、Aeriscardovia、Bigifonsvyrtiummなどの割合が増えると同時に、菌の種類が減少した。例数が少なく再現性を確認する必要があるが、ホヤ殻を飼料添加することで明らかに腸内の菌叢を変えることが可能であることが示唆された。これらの菌の増加が鶏の生体内でどのような影響をもたらしているのかについては、さらに例数を増やすと同時に、今後、菌叢の変化に伴う免疫能力や血中、臓器の抗酸化機能などを確認することでホヤ殻のさらなる機能を確認する必要があろう。

以上の結果から、従来、産業廃棄物として有料で廃棄処理されていたホヤ殻にアスタキサンチンが含まれ、これが飼料米給与採卵鶏の卵黄色を改善する効果のあること、腸内菌叢の乳酸菌割合を増加させるなどの効果のあることが明らかとなった。現在、飼料米給与の採卵鶏への卵黄色改善のため赤いパプリカから抽出した物を飼料に添加しているといわれている。赤パプリカにもキサントフィル類が含まれており、これにより卵黄色の改善がもたらされていると考えられるが、産業廃棄物として有料で処理されている未利用資源としてのホヤ殻を有効利用することで卵黄色の改善されることが明らかとなった。ホヤ殻を飼料添加物として周年で利用するためには、含水率が85%もあるホヤ殻を乾燥粉砕して貯蔵する必要がある。養殖生産量の1万トンから発生するホヤ殻が1000トンだと想定すると、乾物重量は100トン程度となる。事業化のためには、乾燥粉砕のためのコストとホヤ殻販売金額とのバランスが重要となるため、乾燥などが可能な既存の施設を利用した方法が検討されるべきと思われる。

【参考文献】

1)農林水産省ホームページ、飼料米の利用・需要拡大に向けた取り組み事例(平成28年4月、http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/attach/pdf/index-47.pdf

2)Shinji Yamashita・ Susumu Kanno ・ Ayako Honjo ・ Yurika Otoki ・ Kiyotaka Nakagawa ・ Mikio Kinoshita ・ Teruo Miyazawa、Analysis of Plasmalogen Species in Foodstuffs、Lipids (2016) 51:199-210 DOI 10.1007/s11745-015-4112-y.

3)岡田 徹、第3章アスタキサンチンの効果、3.8畜水産分野での利用、p107-117、矢澤一良編著、アスタキサンチンの科学、成山堂書店、平成21年.

【謝辞】

本試験の飼養試験は東京農業大学畜産学科教授信岡誠治博士、糞の菌叢解析は宮城大学食産業学部教授須田義人博士の協力により行われた。両教授に深甚の謝意を表す。また、ホヤ殻の乾燥粉砕について協力いただいた有限会社クリーン北上、ナーリン株式会社に謝意を表する。


				

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