海外情報  畜産の情報 2018年8月号


中国の酪農・乳業政策と成果

中国農業大学経済管理学院 王越、劉玉梅


【要約】

 酪農・乳業は、中国の農業・食品産業の重要な位置をしめている。中国政府は、改革開放以来、特に2008年の「メラミン混入事件」以降、さまざまな施策を講じてきた。今後、酪農・乳業をさらに発展させるためには、牛乳乳製品の安全性を確保するとともに、消費者の信頼を取り戻すことが肝要である。

1 はじめに

酪農・乳業は、改革開放がなされてから、もっとも急速に発展した重要産業のひとつである。酪農・乳業の安定した成長は、産業構造の最適化、酪農従事者の所得向上、国民の健康増進などの点できわめて重要である。『全国乳業発展計画(2016-2020)』は、酪農・乳業が農業・食品産業の重要な位置をしめていること、国民の健康を増進するうえで欠かせないこと、安全性が注目されていること、農業の近代化を象徴する産業であること、また第一次、第二次、第三次産業の調和のとれた戦略的産業であることを明確に述べている。

しかし、中国で酪農・乳業関連法規が整備されはじめたのは比較的おそく、1958年の『乳製品品質基準検査方法』(軽工業部食品工業局)が最初である。これは、牛乳乳製品の品質検査の重要な基準であった(施婧楠、2016)。1978年に改革開放がはじまると、酪農・乳業の急速な発展にあわせて、政府は、一連の政策法規や管理方法を定めた。1984年に中国経済委員会から公布された『1991年〜2000年の全国食品産業発展要綱』では、酪農・乳業の主な発展方向や重点課題がはじめてあきらかにされた。

牛乳乳製品の衛生管理や安全確保は、1983年に衛生部から公布された『混合殺菌牛乳の暫定衛生基準・衛生管理方法』によって重視されるようになった。しかしながら、中国で牛乳乳製品の安全に関する規制が正式に導入されるのは2003年を待たなければならない。すなわち、『牛乳乳製品管理方法』、『牛乳乳製品の良好な生産管理規範』などである。2008年に発生した 「メラミン混入事件」は、酪農・乳業界に非常に大きな衝撃をあたえ、国産牛乳乳製品に対する国民の信頼は大きく揺らいだ。同年、国務院と衛生部が『牛乳乳製品安全管理条例』(注1)、『酪農・乳業整備・振興計画』など、マイルストーンとなる一連の政策法規を打ち出し、酪農・乳業に対する厳しい指導がなされた。その後、2008年から2018年までの間、政府は、一貫して酪農・乳業を重視し、政策法規や基準を次々と打ち出した。さらに、2016年からは、酪農を含む農業生産構造改革がはじまった。

こうした政策や政府の補助によって、中国の酪農・乳業は飛躍的な発展をとげた。2016年には乳類総生産量は3712万トン(注2となり、世界の総生産量の4.7%(注3)をしめた。また、牛乳乳製品(注4)総消費量は3205万トン、生乳換算で4993万トン、そのうち国内生産は3712万トン、輸入が1281万トンであった。消費量は世界第3位で(注5)、牛乳乳製品の一大消費大国となった。

本稿では、近年の酪農・乳業関連の政策法規を整理したうえで(注6)、中国の特徴を踏まえ、生乳生産段階、集乳・輸送段階、牛乳乳製品加工段階、販売・消費段階、食品安全の5つの面から、酪農・乳業にかかる施策と成果を整理・分析して、酪農・乳業政策の課題をさぐり、改善策を示す。

なお、本稿中の為替レートは、1元=17.29円(2018年5月末日TTS相場)を用いた。

(注1)中国の国務院が定める条例は、日本の政令に相当する。

(注2)データ出所:『中国統計年鑑(2017)』。乳類とは牛、水牛、羊、ヤク、ラクダ、ロバの乳の合計。

(注3)2017年乳業はレベルアップ・転換期に-大渝ネット-騰訊ネット http://cq.qq.com/a/20170629/013065.htm

(注4)乳製品には、液体乳、粉ミルク、練乳、乳脂肪、チーズ、ミルクアイス並びにその他の乳製品が含まれる。

(注5)2017年乳業はレベルアップ・転換期に-大渝ネット-騰訊ネット http://cq.qq.com/a/20170629/013065.htm

(注6)本論が言及する政策法規、基準の出典は、国家農業部、財政部、衛生部、国務院、食品薬品監督管理総局、品質監督検査検疫総局などの政府や中国乳業協会のウェブサイトである。

2 酪農・乳業政策と成果

近年、中国の生乳価格は不安定であるが、これは、各段階における問題が集中的に表れた結果であるといえる。以下に各段階の主な問題点をあげる。生乳生産段階では、農家が組織化されていないこと、飼養管理技術がおくれていること、乳牛の遺伝的能力が低いこと、飼料の品質や量が不十分であることなどがあげられる。また、集乳・輸送段階では、衛生管理水準があまり高くないこと、検査・監督の手順が標準化されていないことが問題であり、加工段階では、市場の秩序が乱れていることや酪農家と乳業メーカーの利益が相反しているといった問題がある。販売・消費段階では、中国の消費者は、国産品をあまり信頼していないことや、乳製品そのものになじみがないことが問題である。このほか、品質を保証するしくみが整っていないことも重要な問題である。こうした問題を解決すべく、中国政府はそれぞれの段階に対して多様な施策を展開し、少しずつ政策体系を構築しつつある。

(1)生乳生産段階

生乳生産は、酪農・乳業の健全な発展の基礎となるものである。中国では、産業の上流にあたる生乳生産が比較的よわいことが、牛乳乳製品市場の価格変動を引き起こしているとみなされることが多い。実際、政府によって近年打ち出された施策の多くは、生乳生産段階に集中している。施策の変遷をみると、従来の量を求めるものから、近年は品質を重視する方向にゆるやかに変化している。

ア 酪農に適した地域の発展を促し、集約化が進んだ

2003年、農業部が中心となって、『酪農重点地域発展計画(2003-2007年)』が定められ、北京市、天津市、上海市、河北省、山西省、内モンゴル自治区、黒龍江省の7つの地域が酪農重点省(自治区、市)とされた。農業部はひきつづき2008年に、『全国酪農重点地域配置計画(2008-2015年)』を公布し、(1)北京市、上海市、天津市の郊外地域、(2)東北の黒龍江省、遼寧省、内モンゴル自治区、(3)華北の河北省、山西省、河南省、山東省、(4)西北の新疆ウイグル自治区、陝西省、寧夏回族自治区のあわせて13の省(自治区、市)の313の県(注7)を酪農重点地域と定め、これらの地域を重点的に振興した。

この政策はすばらしい成果をあげ、酪農の集約化が大いにすすんだ。乳類の生産量をみると、2002年から2007年まで急速に増加したあと、2008年以降は横ばいで推移している(図1)。生乳生産量は、この13の省(自治区、市)では2002年の1033万トン(注8)から、2016年には3129万トンと3倍に増えた。全国にしめる割合をみると、2002年には79.5%であったが、2007年には88.0%となっている。しかし、その後2008年から2016年まで、この割合は変動しながら低下し、2016年には86.9%となった。低下した原因としては、これらの地域で小規模酪農家が離農したことにくわえ、他の地域(四川省、江蘇省、雲南省、吉林省など)で生産が急増したことがあげられる。2016年、内モンゴル自治区、黒龍江省、河北省の生乳生産量はそれぞれ734万トン、546万トン、441万トンで、省(自治区、市)別の上位3省(自治区)となった(図2参照)。

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(注7)中国の政府は、おおむね中央政府、省(自治区、市)級政府、地級政府、県級政府、郷級政府の5段階構造である。

(注8)この部分に関する全国及び各省(自治区、市)の生乳生産量データは、『中国統計年鑑(2003-2017)』による。比率はその数字から計算したものである。

以上から分かるとおり、これらの政策は、実施された当初は重点地域の生産量を増加させるうえで比較的大きな役割をはたしたが、その後、しだいに効果が薄れていったようである。

イ 酪農の大規模化が進展

中小の酪農家の経営環境は、高い生産コストなどにより悪化し続けており、結果として、大規模経営が増えつつある。2007年に出された『酪農・乳業の持続的で健全な発展の促進に関する国務院の意見』は、大規模飼養地区などを発展させることにより、大規模化、集約化、標準化をいそぐべきであると指摘した。その後、2008年から、国家発展改革委員会が、飼養頭数200〜499頭、500〜999頭、1000頭以上の3つの規模別に国家予算による補助金を支給している。飼養頭数が200〜499頭の飼養地区に対する国の補助金は、1飼養地区あたり平均50万元(865万円)、飼養頭数が500〜999頭で平均100万元(1729万円)、飼養頭数が1000頭以上で平均150万元(2594万円)である。補助金は主に、飼養地区の水路や給電設備、排せつ物処理、防疫設備、搾乳施設、飼料畑、飼料貯蔵施設などの整備に使われている。

このしくみが始まってから、小規模経営の割合は低下し、500頭以上の経営の割合が大幅に上昇した(表1)。大規模経営(乳牛を100頭以上飼養する経営)が飼養頭数にしめる割合は、2008年の20%から、2016年には52%に達した(図3)。中央政府による酪農計画では、「第13次5カ年計画」(注9)の計画期間(2016〜2020年)中には、この割合を70%(注10)まで引き上げるとしている。大規模化の進展にともない、機械化もすすんでいる。実際、中国の大規模酪農経営では、すべての農場で機械搾乳が行われており、80%以上でTMRのミキサーが導入されている(孫彦琴等、2017)。

(注9)「第13次5カ年計画」とは、中華人民共和国の国民経済と社会発展の第13次5カ年計画のこと。以下同様。

(注10)中国の乳牛飼育の大規模化は後半段階に-中国の乳牛飼育業界の発展の現状と展望-搜狐ネット
http://www.sohu.com/a/145208904_479748

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ウ 乳牛の品種改良が加速

中国は、品種改良で酪農先進国からおくれをとっている。農業部と財務部は、畜産業の発展をうながし、乳牛の品種改良をすすめるため、2005年に、乳牛の品種改良補助金の試験プロジェクトをはじめた。これは、河北省、内モンゴル自治区、黒龍江省、山西省の4省(自治区)を対象に、『乳牛品質改良補助金試験プロジェクト資金管理暫定方法』にしたがって、優秀な種雄牛の凍結精液を使って品種改良をする農家に対して補助金を支給するというものである。

このプロジェクトは、補助金の支給対象地域を徐々に拡げながら、10年以上にわたって実施され、乳量増大などに貢献している。改良された品種は成長がはやく、乳量は大幅に増えている。この補助金を受けた凍結精液で生まれた牛の1頭あたり年間乳量は、最大で2500キログラム増加した(李競前等、2013)。1頭あたり乳量を比べると、2015年は、2009年より、全国で20%、内モンゴル自治区で17%、黒龍江省で37%、河北省で16%、山西省で30%増加した(表2)。体細胞数(注11)の全国平均は43%減少し、生乳の品質は向上している。

(注11)中国では一般に、体細胞数が500千個/mlを超えると問題があるとされている(中国乳業協会)。

(注12)農業部:中国の乳牛大規模飼育の割合が昨年初めて50%超に-央広ネット
http://china.cnr.cn/gdgg/20170221/t20170221_523613564.shtml

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エ アルファルファの生産振興

中国の酪農は、良質な飼料の不足に悩まされている。アルファルファは酪農発展の根幹であり、生乳生産を確保するうえで極めて重要である(楊春、王明利,2011)。農業部と財政部は、2012年から「酪農振興のためのアルファルファ発展行動」により、生乳の品質向上を通じて牛乳乳製品の品質向上をはかってきた。2012年から2015年までの間に、中国政府は、良質アルファルファを効率よく生産する50万ムー(3万3350ヘクタール)の生産地造成のために5.25億元(90億7725万円)の特別資金を支出した。このうち3億元(51億8700万円)は、生産性の高い良質アルファルファ畑の造成に、2億元(34億5800万円)はアルファルファの収穫梱包機械などに、2500万元(4億3225万円)は品種改良に使われた。対象地域は、主にアルファルファの生産に適した地域と酪農重点地域で、西北、東北、華北地域に重点がおかれた。補助対象は、農民飼料専業生産合作社(注13)、飼料生産加工企業、酪農企業などである(王鋒、2012)。このプロジェクトにより、良質アルファルファの供給量が大幅に増えた。2015年、良質アルファルファの供給総量は300万トンであったが、そのうち輸入品は120万トン、国産品は180万トンであった。国産の良質アルファルファ生産量は2010年比で8.2倍となり、輸入比率は大幅に下がった。2020年には良質アルファルファの生産量が全国で360万トンに達するものと予想される(『全国アルファルファ産業発展計画(2016-2020年)』)。

(注13)農民専業合作社法では、農民専業合作社とは「同じ農作物または農業サービスを提供する者や利用する者が自ら組織し、民主的な管理を行う互助性経済組織」と定義されている。

(2)集乳・輸送段階

集乳・輸送段階では、永年にわたり、集乳時の乳代金支払いがルール化されておらず不透明なことや、乳価が不安定であること、政府の監督にかなりの抜け道があることが問題とされてきた。2008年に生乳に「メラミン」が混入された問題も、規制のすき間に生じたものであった(靳明、陳雯,2018)。牛乳乳製品の安全にかかわる事件の再発を防ぐため、政府は、集乳・輸送段階に対して、一連の規制を設けた。

ア 集乳・輸送段階における取引管理の強化

2008年10月、農業部と国家工商行政管理総局は、生乳取引の参考として、『生乳購入販売契約見本』を発行し、生乳の取引数量、品質、価格とその算出方法、違約責任を明確に示すこととした。同年、農業部はさらに、『生乳生産購入管理方法』を公布して、生乳生産や集乳、輸送、監督・検査に関するルールを整備した。2010年には国務院が『牛乳乳製品の安全業務のさらなる強化に関する通達』を出し、畜産獣医主管部門に対して、搾乳ステーション(注14)や輸送車両に対する許可管理を強め、業者の適格性などを厳しく審査するよう求めた。その後、許可された施設などが適切に管理されていないケースが発覚したことから、農業部は、2017年に『搾乳ステーション・輸送車両に対する規制業務のさらなる強化に関する通達』を出し、許可取得後も監督することとした。また、インターネットを使って効率的に監督するため、各地方に対して「全国搾乳ステーション・輸送車両監督システム」を運用するよう求めた。

全国各地で搾乳ステーションが厳しく監督されるようになったことにより、搾乳ステーションは、2008年の2万3000カ所から2016年には6130カ所に減り(注15)、搾乳ステーションの設備や検査水準、作業従事者の資質などが大きく改善し、さらに、すべての生乳が許可を受けた専用車両によって運ばれるようになった。

(注14)共同の搾乳所。搾乳設備を持たない零細農家が乳牛を連れてきて搾乳する。個人や企業によって運営されており、乳業メーカーとしては、零細農家から個別に生乳を買い集めるよりも、搾乳ステーションからまとめて買い取る方が効率的かつ衛生的というメリットがある。

(注15)市場の新しいすう勢の把握 乳製品企業には加工技術の向上が必須-中国食品機械設備ネット
http://www.sohu.com/a/152981528_233104

イ 違法行為を厳しく処罰

農業部は2011年、『乳畜の飼養と生乳の購入・輸送段階の違法行為の厳重処罰に関する規程』を公布し、違法行為を厳しく罰すると明確に定めた。生乳購入者(集乳事業者)が食用でない化学物質を添加した場合は、生乳や関連施設、当該生乳による所得を没収するとともに、違法生乳の価格の30倍の罰金を科すことが定められた。同年、農業部は続けて、『生乳生産購入記録・乳価検査制度』、『生乳の安全を確保する別地抜取検査制度(注16)』、『搾乳ステーションの安全「ブラックリスト」制度(試行)』などを発表した、これらによって酪農、集乳・輸送段階の違法行為に対して法に基づいて厳しく処罰するとともに、全国規模で信用情報の構築を進めた。農業部はこのほか、2009年に全国生乳品質モニタリング計画により、搾乳ステーションと輸送車両を重点的にモニタリングすることとした。2016年には、のべ生乳サンプル2万6000検体、搾乳ステーション1万1000カ所(回)、輸送車両8200台(回)を検査した。生乳の抜き取り検査の合格率は99.8%(注17)に達しており、牛乳乳製品の安全は、効果的に確保されている。

(注16)抜取検査を行う検査官が単一の地域を担当しつづけると、検査対象の関係者と共謀して不正を行うおそれがある。このため、定期的に別の地域の担当官が抜取検査を行うこととされている。

(注17)中国乳業の見事な変身:向上を続ける品質 民族ブランドが世界へ-新華ネット
http://www.xinhuanet.com/politics/2017-09/24/c_1121713891.htm

(3)牛乳乳製品加工段階

中国では、牛乳乳製品の加工段階に対する政策が、2003年以降に集中的に打ち出されている。当初は、その多くが基準の制定や技術開発、生産振興に重きをおいていたが、「メラミン混入事件」によって、酪農の無秩序な発展による過剰生産や生乳の奪い合いが明らかになったことを機に、2008年以降は、この問題を解決するため、乳業メーカーに対する大規模な改善・整理や厳しい取り締りが行われた。

ア 業界の参入基準のひきあげにより、産業構造が最適化

加工段階を厳しく監督するため、工業・情報化部は2008年10月18日、国家品質監督監査検疫総局、工商総局と共同で、『乳業界の整理・規範化業務プラン』をうちだし、半年間にわたり、全国の乳業メーカーの整理をすすめた。具体的には、産業政策や業界の参入条件にあわず、改善期限内に条件を満たすことができない乳業メーカーに対し、法に基づいて工場閉鎖を求めた。2009年、工業・情報化部は、『乳業産業政策』を改訂して公布し、『乳業参入条件』をその中に組み入れて、闇雲な投資や過剰な建設の防止を図った。2014年には、工業・情報化部を含む4つの部や委員会が『育児用粉乳メーカーの合併再編推進プラン』を公布し、一定の条件にあうメーカーに対し、さらに競争力を高めるため、合併や事業譲渡、共同再編、株式取得・移管などさまざまな方法で合併再編をうながした。こうした一連の政策により、高品質な製品を作れない多くの乳業メーカーが淘汰された。これにより、2016年の乳業メーカー数は、2009年の803社から627社へと明らかに減った(図4参照)。乳業メーカーの数が減った一方で、売上と利益の総額はいずれも安定して増え、売上の総額は3504億元(2016年、6兆582億円)、利益の総額は260億元(同、4494億円)となり、それぞれ2009年に比べ、116%増、149%増となった。

(注18)中国の一定規模以上の乳製品加工企業の年間売上総額が3500億人民元を突破-新華ネット
http://www.xinhuanet.com/2017-07/29/c_1121399944.htm

(注19)2017年1月中国乳業生産月報-搜狐財経-搜狐ネット
http://www.sohu.com/a/127113418_470064

(注20)2017年12月の全国の乳製品生産量は254.5万トン-中国産業情報研究ネット
http://www.china1baogao.com/data/20180124/8423955.html

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また、牛乳乳製品の生産量は比較的安定しており、2014年に減少したほかは、増加傾向を保っている(表3)。2017年の牛乳乳製品の生産量は2935万トンに達し、2009年比で52%増加した。

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イ 科学的な基準により、牛乳乳製品の生産を標準化

乳業メーカーの生産に関する基準として、2010年に『牛乳乳製品の生産規範』が公布された。そこでは、原料の工場への受け入れ、製品の生産、輸送、貯蔵など、それぞれの段階で汚染を防ぐことの重要性が強調された。同年、衛生部が『生乳』(GB19301-2010)をはじめとする牛乳乳製品の安全に関するあらたな国家基準を66件定め、これまでの基準における矛盾や重複、非科学的な指標設定などの問題を解消して、牛乳乳製品の安全にかかる統一的な国家基準体系をつくりあげた。2010年以降も牛乳乳製品の安全関係で74件の国家基準がつぎつぎと公布された。内訳は、製品の基準が21件、生産規範の基準が3件、検査方法の基準が50件となっている。特に、育児用粉乳の基準は、コーデックス委員会やEUの関連基準を参考にしてつくられたもので、世界でも最も要求水準の高い基準のひとつとなっている(注21)。こうした法規や基準によって、企業活動がルール化され、乳業の健全で安定した発展がはかられている。

(注21)トピックh中国乳業の品質に関する10年間の発展成果報告-中国食品安全報
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1590035090188130293&wfr=spider&for=pc

(4)販売・消費段階

この段階では、非常に多くの消費者がかかわっている。2008年に起きた「メラミン混入事件」によって、消費者は国産品への信頼を失ったため、輸入量は年々増え、中国の酪農・乳業は深刻な危機を迎えた。これに対し政府は、消費促進対策によって消費者の信頼回復を図った。

ア 人口政策と社会の発展が牛乳乳製品市場にチャンスをもたらす

市場経済において、産業の急速な発展をささえるのは需要であり、中国の牛乳乳製品にはそれがある。「1人っ子政策」が2015年に終わり、2人目の出産を許可する政策(注22)がはじまったことは、牛乳乳製品市場、とりわけ育児用粉乳市場にとって、大きなチャンスとなるだろう。国民の1人当たりの所得水準が、2020年に2010年の2倍となることや、「第13次5カ年計画」期間中(2016〜2020年)に農村部から都市部に約1億人が移住すること、総人口が約6000万人増えることなどを考慮すると、全国の乳類需要量は2020年に5800万トン(年平均増加率3.1%(注23))と予想される。このほか、社会や経済の発展、都市化の進展にともなって人々の生活水準が向上すれば、牛乳乳製品消費は、さらに加速するだろう。

(注22)二人目の出産を許可する政策により、夫婦が2人目の子どもを持てるようになった。

(注23)農業部馬宝:乳業の供給側の構造改革はぜひとも必要-牛業界情報-中国畜牧ネット
http://www.chinafarming.com/nh/2017/1/13/201711314514822938.shtml

イ 理性的消費への誘導と消費者の権利保護により、好ましい消費環境を実現

販売・消費段階における国の政策は、理性的な消費への誘導と消費者の権利保護に重きをおいている。国家品質監督検査検疫総局と農業部は2007年、『液状乳の表示管理強化に関する通達』を公表し、乳業メーカーに対して、2008年1月1日から、低温殺菌牛乳と超高温殺菌牛乳にそれぞれ「鮮牛乳」、「純牛乳」などと表示するよう求めた。これは、液状乳の表示制度を整えることで、消費者の知る権利、選択する権利を守ることを目指した措置である。2008年の『乳業整理改善・振興計画』では、すみやかな情報の公表、消費者の権利の保護、乳製品にかんする知識の普及などにより、消費者の信用をとりもどすべきであると指摘された。また、2017年に農業部が出した『観光牧場の宣伝に関する通達』は、観光牧場という新しい方法で酪農・乳業をアピールし、国産牛乳乳製品の消費を促すことを狙ったものであった。さらに2018年、中国乳業協会は、「ネットデマによる酪農・乳業への嫌がらせ」について声明を出し、酪農・乳業に対するデマに対し、法的手段によって積極的に取り締まることを明らかにした。こうした一連の政策は、牛乳乳製品の消費をとりまく環境を整えるもので、消費者の信用回復にあるていど貢献している。

ウ 学校牛乳により青少年消費市場を開拓

2000年、農業部、教育部など7つの部・委員会・局が『児童生徒に牛乳を与える国家計画』を公布した。これは、小中学生に対して学校牛乳を提供することにより、子どもたちの身体の発達をうながし、好ましい食習慣を身につけることを目的としている。2011年秋には、農村の義務教育中の児童生徒を対象としとして、栄養改善計画が正式にはじまり、大中都市のみならず、多くの農村、特に貧困地域にまで拡大して実施されることとなった。この措置はすばらしい結果をあげた。登校日における全国の平均供給量は、2011年の840万人分(注24)から2013年には2164万人分となり、じつに158%増えた(図5)。ただし、2014年からは、学校給食のしくみが変わったことで供給量が減っている。この計画は、青少年の消費量を増やし、結果として牛乳乳製品市場の発展を後押ししている。

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(注24)1人分の容量は地域によって異なるが、おおむね180mlまたは200ml、250mlである。

(注25)児童生徒に牛乳を飲ませる新しい時代の国家計画の普及-中国児童生徒に牛乳を飲ませる計画ネット
http://www.schoolmilk.gov.cn/s/jhgk/ssgk/17062221042706510480

(5)食品安全

生乳の安全確保は、酪農・乳業の発展を考えるうえで、もっとも重要である。

酪農・乳業は、1999年から2007年まで、驚異的なスピードで発展した。この結果、産業構造が不均衡となり(注26)(姚梅、2014)、2008年に「メラミン混入事件」が起きた。それまで、中国における牛乳乳製品の安全政策は、基準を定めることが中心であった。「メラミン混入事件」により政府は、酪農・乳業に対して、史上もっとも厳しい規制を設けることとなった。2008年、国務院が『牛乳乳製品安全規制管理条例』を公布し、酪農経営、集乳業者、乳業メーカー、小売業者に対して、それぞれが生産、集乳、輸送、販売する牛乳乳製品の安全に責任をもつよう求めた。また、国家食品薬品監督管理総局は、牛乳乳製品を安全性リスクの高い食品グループに分類し、国が特別に抜き取り検査を行うよう定めた。長年にわたる厳しい規制と乳業メーカーの努力により、中国の牛乳乳製品の安全性は向上しつづけている。2017年、牛乳乳製品の抜き取り検査合格率は99.2%となり、食品の中でもトップクラスの水準を保っている(図6)。

(注26)牛乳乳製品需要の急拡大によって、乳業メーカーが互いに生乳を奪い合い、集乳における秩序が混乱していたことをさす。

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消費者がもっとも関心を持ち、不安を感じている育児用粉乳の安全性を確保するため、政府は2010年から一連の対策をとってきた(表4)。このうち、2016年に国家食品薬品監督管理総局が公布した『育児用粉乳の配合登録管理方法』は、「史上もっとも厳格な粉ミルク政策」と称されている。この『管理方法』において、2018年1月1日から、配合レシピが登録されていない育児用粉乳は中国で販売してはならないとされている。2017年12月27日の時点で、国家食品薬品監督管理総局は330件の申請受理した。国内外の128の乳業メーカーの940の配合レシピが登録され、そのうち国内乳業メーカーは93社であり、許可を受けて登録された配合レシピの数は737であった。一方、国外乳業メーカーは35社、登録された配合レシピの数は203であった(注27)。この措置により、多くのブランドが入り乱れる状況が整理され、育児用粉乳販売市場が管理され、安全性がさらに高まった。近年、育児用粉乳の抜き取り検査での合格率は一貫して98%以上を保っており、2017年には99.5%となった。つまり、育児用粉乳の安全性は史上最高レベルに達しているといえる(図7)。

(注27)国内の育児用粉乳企業の配合登録達成率は85%に-新京報ネット
http://www.bjnews.com.cn/feature/2018/01/02/470855.html

(注28)2017年育児用粉乳の抜き取り検査合格率は99.5%に-央広ネット
http://china.cnr.cn/ygxw/20180202/t20180202_524122812.shtml

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3 結論

中国政府による政策は、酪農・乳業の発展に対して、大きな貢献をしている。政策には、奨励もあれば規制もあり、先進国の経験から学びつつ、中国の現状を踏まえたものとなっている。具体的にみると、生乳生産段階では、重点的な補助と近代化をすすめ、集乳・輸送段階では、標準化された管理を強め、加工段階では、業界の参入基準と生産基準をひきあげ、販売・消費段階では、刷新に重点をおき、消費者の権利を保護している。こうしたなかで、近年重視されているのが生産・加工の段階である。今は、上流・中流段階で生産力が強いため、いかにして需給のバランスをとるか、いかにして下流の消費者の信頼を得て消費を刺激するかが切実な問題となっている。この点については、表面的な問題にとらわれず、つねに根本的な課題の解決をはかり、持続的で健全な発展をうながす長期的に有効なしくみを模索することが大切である。上述の分析をとおして、本論では以下のとおり政策を提案する。

(1)消費を誘導する方法を刷新し、消費者の信用をすみやかに取り戻す

中国の酪農・乳業は、すでに飛躍的な発展をなしとげ、国内需要は拡大しつづけているが、国産牛乳乳製品に対する消費者の信頼は、依然としてきわめて低く、販売・消費段階での政策は相対的にすくない。また、既存の政策も販売・消費面で直接的な役割を十分はたしているとはいえない。市場を羅針盤として、消費者の心理とニーズを十分に把握したうえで生産することが必要であり、無計画な生産はさけるべきである。政府の立場からいえば、企業に対する監督に力を入れると同時に、ソーシャルメディアや最新の技術を活用し、PRやマーケティングの方法を刷新するべきであり、酪農・乳業の科学研究、教育、生産を組み合わせて、これまでの酪農・乳業の成果を周知し、消費者が国産品に回帰するよう少しずつ誘導するべきである。一方で、インターネットでの世論が牛乳乳製品の消費に与える悪影響も見過ごせない。デマを厳しく取り締まり、真実を明らかにするとともに、否定的な世論が形づくられる根本的な原因をふかく理解し、対処しなければならない。

(2)酪農・乳業の産業全般に対する規制にひきつづき取り組む

中国の酪農・乳業の水準はすでに大幅に向上しているが、依然として牛乳乳製品には安全上のリスクがある。このため、酪農・乳業の各段階に対する監督を緩めてはならず、重大な食品安全上の問題が起きないよう、断固とした対策をとらなければならない。具体的には、政策の改善策として、以下の3点を提案する。

第一に、これまでの政府による監督だけでなく、消費者、民間企業なども加えたニュージーランドの管理体制を参考にして(王敏等、2016)、数多くの消費者の監視の目を十分に発揮させ、すみやかに対応するしくみにすることが必要である。さらに、第三者機関を取り入れることで、モニタリング結果の信頼性や公平性を高めるべきだ。

第二に、酪農家は、依然として、他産業と比べると弱者であるものの、政府の補助だけに頼っていてはならない。近代的な酪農経営の育成をすすめ、需要に応じた生産をうながし、持続可能な発展をはかる必要がある。

第三に、中国は集乳と輸送の段階に対する規制をかなり遅くなってから重視することとなったが、この段階とほかの段階との連携をひきつづき強化し、生乳生産、集乳・輸送などさまざまな段階で流通を標準化する必要がある。それは、酪農経営、搾乳ステーション、企業などの各者の関係を整理する助けにもなり、酪農・乳業全般の発展を促すことにつながる。

 

【謝辞】

(独)農畜産業振興機構の協力と魏紫嫣氏の文献レビューやデータ収集、整理などでの貢献に対して感謝申し上げます。

 

【参考文献】

[1] 施婧楠、中国の消費者の食品安全に関する信用の研究─乳製品分野における調査研究より。吉林大学、2014.

[2] 李克前、李勝利、張万金。国の乳牛品種改良補助金政策が乳牛の成長及び生産性に与える影響。中国乳牛、2013(13):1-5.

[3] 孫彦琴、郭利亜、譚旭信、朱永、洪立波、張栓玲、白躍宇。サプライサイド構造改革の下における中国乳業発展の主な特徴、問題と対策の研究。中国草食動物科学、2017、37(06):60-63.

[4] 楊春、王明利。我が国のアルファルファの生産と乳業の発展-草食家畜の結合こそ発展推進のキーポイント。中国畜牧雑誌、2011、47(16):14-17+21.

[5] 王鋒。「酪農・乳業振興のためのアルファルファ発展行動」政策の解読。中国乳牛、2012(14):5-7.

[6] 靳明、陳雯。食品安全危機下における我が国の乳製品業界の制度の変遷と政策の特徴に関する分析。財経論叢、2018(03):105-113.

[7] 姚梅。我が国の乳業発展の政策ニーズ分析。中国乳牛、2014(22):49-55.

[8] 王敏、何忠偉、劉芳、陳吉銘、何向育。参考になるニュージーランド乳業発展の現状と経験。世界農業、2016(09):136-143.


				

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