特集:収益力の強化に向けて 畜産の情報 2018年2月号
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 教授 横溝 功
【要約】
兵庫県の畜産において、養豚が占めるウエートは決して大きくはない。その中で、エコフィードを用いて、霜降り肉を目指して生産された「ひょうご雪姫ポーク」の出荷量は1割にも満たないものの、販売店や飲食店での取り扱いだけでなく、地元の幼稚園や保育園などでも利用され固定客を獲得している。まさしく「ひょうご雪姫ポーク」を軸とした、生産から消費までをつなぐ、地産地消のフードシステムを紹介する。
1 はじめに |
わが国の養豚経営において、全算入生産費に占める飼料費の割合は、6割強を占め、そのほとんどを流通飼料に依存している。すなわち、輸入トウモロコシに依存した畜産部門でもある。輸入トウモロコシの全てを代替する国産の飼料を見い出すことは難しいが、その一部を代替することは、大切なことである。社会的には、食料自給率の向上につながり、外貨の流出を防ぎ、付加価値を国内にとどめることになる。その代替品目として、エコフィードが注目されてきた。しかし、エコフィードの確保には、ロジスティクスの問題、安全・安心の問題、経済性の問題を内包している。
そこで、本稿では、エコフィードを活用し、なおかつブランド化に取り組んでいる「ひょうご雪姫ポーク」を取り上げ、そこから得られる教訓や課題を明らかにすることを目的とする。
2 「ひょうご雪姫ポーク」のブランド化と兵庫県内での位置付け |
「ひょうご雪姫ポーク」の歴史は、表1の通りである。2001年度に、兵庫県立農林水産技術総合センターでエコフィードの開発・利用について検討されたのが契機である。2005年度に、パンくず・麺くずを利用することで、霜降り豚肉の生産技術が開発される。2007年度に「兵庫県霜降り豚肉生産協議会」が設立され、養豚経営4戸が参画する。同年度に、後述のエコフィード循環事業協同組合が設立される。2010年度に、「ひょうご雪姫ポーク」が商標登録され、前述の協議会の名称も、「ひょうご雪姫ポークブランド推進協議会」に変更される。それ以降、出荷頭数と販売店舗数を拡大させ、2016年には4400頭、28店舗になっている。ただし、2012年以降の出荷頭数は現状維持の状況にある。なお、現在(2017年)のメンバーは、3戸である。
さて、兵庫県の養豚経営の戸数は、2016年に29戸である。従って、当時4戸の養豚経営が「ひょうご雪姫ポーク」に参加していたので、戸数割合は約13.8%ということになる。
2014年における兵庫県の農業産出額(1491億円)の中で、畜産のウエートは36.4%(542億円)である。野菜が27.8%(414億円)と続き、米が3位で26.9%(401億円)である。畜産の中で、鶏が約半分(274億円)を占め、神戸ビーフや但馬牛で有名な肉用牛が24.4%(132億円)である。豚は、3.3%(18億円)にとどまっている。周知の通り、関西は牛肉文化圏で、養豚のウエートは低くなる。
「ひょうご雪姫ポーク」は、2014年度に4400頭の出荷であったが、後述のように肉豚1頭の枝肉販売価格を3万7000円(74キログラム×1キログラム当たり500円)とすると、約1億6000万円の売上高になる。兵庫県の豚全体の中では、約9%を占めることになる。
以上のように、兵庫県の畜産の中で、養豚はマイナーな存在で、その中でも、「ひょうご雪姫ポーク」のウエートは大きくない。しかし、「ひょうご雪姫ポーク」は、「ひょうご農林水産ビジョン2025」において、施策項目の「6 畜産物のブランド力と生産力の強化」と「16 消費者の信頼の確保と県産県消の推進」にまさしく合致するものである。さらには、エコフィードの活用という資源循環型の畜産モデルでもある。
そこで、本稿では、2016年度「ひょうご雪姫ポーク」出荷頭数4400頭のうち、3600頭を出荷している協和資糧株式会社上月ファーム(以下「上月ファーム」という)を取り上げ、その経営の実態に迫ることを目的とする。また、「ひょうご雪姫ポーク」を扱っている代表的な食肉小売店の神戸甲南サカヱ屋(以下「サカヱ屋」という)を取り上げ、そのマーケティングの実態に迫る。そして、ブランド化やエコフィードを進める上での教訓や課題を明らかにする。最後に、補論として、エコフィード循環事業協同組合について述べる。
なお、「ひょうご雪姫ポーク」の定義は、以下の通りである。
1 生産者は、ひょうご雪姫ポークブランド推進協議会の会員である。
2 品種は三元交配種、二元交配種またはハイブリッド豚とする。
3 兵庫県内で生まれた子豚を県内で肥育し、県内の食肉処理場でと畜処理した豚肉であること。
4 肥育期はエコフィードを利用し、その内出荷前50日以上は麦由来のでん粉質飼料(パンくず、麺くずなど)を風乾物重量で40%以上配合した飼料を給与している。
3 上月ファームの展開 |
長田産業株式会社(以下「長田産業」という)は、8つのグループの会社から成る。協和資糧株式会社(以下「協和資糧」という)は、そのグループ会社の1つであり、養豚部門として上月ファームを持つ。協和資糧の代表取締役は長田泰則氏で、長田産業の取締役でもある。
なお、長田産業の会長は泰則氏の兄の博氏であり、代表取締役は従兄弟の伊知朗氏である。長田産業は、でん粉やグルテンの製造会社であるが、そこで派生する「ふすま」を有効利用するために、養豚事業を開始した。いわゆる、垂直的統合(注)ということになる。
協和資糧のホームページにもあるように、養豚事業を開始するに当たり、1987年6月に岐阜県の養豚農場へ従業員2名を研修へ出向させた。農地の確保については、幸いなことに、現在の畜舎の敷地(1ヘクタール)がまとまって売りに出ていたので苦労はしなかった。
1988年9月に、種雌豚200頭の繁殖肥育一貫経営をスタートさせる。スタート時は、泰則氏の叔父が代表取締役であった。養豚に関しては、経営者もスタッフも素人であり、試行錯誤が続き、赤字の状態であった。肉豚の出荷には8カ月を要した。そして、20年前に、泰則氏が引き継ぐことになる。
なお、上月ファームは、兵庫県では、2番目に大きな規模の養豚経営である。
注:垂直的統合とは、川上にある企業が川下に参入したり、川下にある企業が川上に参入したりすることを意味する。前者は「前方統合」、後者は「後方統合」と呼ばれる。本事例は「前方統合」になる。
上月ファームの労働力については表2の通りである。
泰則氏は、工学部の出身で、新潟県で石油の掘削の仕事を経た後、長田産業に就職し、15年間工務の作業に当たってきた。それ故、養豚の経験は全く無かったことになる。ただし、工務の作業で、上月ファームをたびたび訪問しており、養豚経営に触れる機会があったことは大きい。現在、週に2日、主にハードの修理作業に当たっている。ハード面の修理を外注すると、交通費だけで、数万円を要し、かなりのコストになるので、泰則氏が自ら修理することが多い。
泰則氏が引き継いだ時には、養豚経営は赤字状態で、しかも場長が不在の状態であった。そこで、得意先の飼料会社を通じて、現在の場長を紹介してもらった。
常時雇用は、場長以外では、3名である。従業員Aは、肥育部門を担当し、15年間勤務している。おが粉肥育豚舎における敷料の交換、リキッドフィーディング・自家配の製造調製を行っている。
従業員Bは、繁殖部門を担当している。北海道出身で、鳥取県の大規模な養豚経営に勤務していたが、定年退職後に、上月ファームに勤務することになった。
従業員Cは、上月ファームの勤務年数は5年と新しいが、主として離乳豚舎、肥育豚舎での飼養管理、導入豚の飼養管理と幅広い作業を分担している。
「ひょうご雪姫ポーク」の歴史は、前述の通りである。「ひょうご雪姫ポークブランド推進協議会」のメンバーは、2017年現在3戸である。
前述のように、上月ファームは、1998年の稼働時点から長田産業で派生する「ふすま」の有効利用を行っていたことから、エコフィードの歴史は長いといえる。
しかし、「ふすま」だけに依存した養豚経営は、赤字の状態であった。泰則氏が後継してからは、飼料に関してさまざまな工夫を行っている。15年程前に、パンくずの利用を開始する。その後、麺くずを利用し、コスト削減により赤字経営からの脱却を図る。さらに、チーズやヨーグルト、ホエイを用いるようになり、飼料コストを大幅に下げることができた。出荷日齢も2カ月短縮できたのである。
現在、1カ月当たりのエコフィード乾物利用量では、(1)エコフィード循環事業協同組合の製品1トン(2)自己調達のエコフィードを25トン用いている。(1)については、後述するが、単価は1キログラム当たり25円である。(2)については、平均単価は1キログラム当たり10数円である(表3参照、写真1、2)。
上月ファームの肉豚は、西宮市食肉センターに出荷され、その帰り便を利用して、(2)のエコフィードを持ち帰ることになる。
サカヱ屋の紹介で、高級菓子やパン製造・販売の老舗であるK社の廃棄用食パンを活用することになる。それまでは、K社では、月に4トン程度の廃棄用食パンが発生し、その処理コストに1年当たり100万円以上も支払っていた。
そこで、乾燥装置をK社へ持ち込み、リサイクルすることを考えた。長田産業グループ内の当装置を使い、1カ月当たり1万数千円で貸与する形になっている。それは、廃棄用食パンなどの利用代金と大体イコールなので相殺される形になる。
このような経営努力が、表3のエコフィードの平均単価1キログラム当たり10数円に結実しているのである。
上月ファームでは、敷料におが粉を活用している。おが粉は、1カ月当たり30立方メートルを用いている。おが粉代は、1立方メートル当たり2500円なので、1カ月当たり8万円程度のコストということになる。
おが粉以外に、戻し堆肥を敷料としている。2002年9月に完成した岡田式豚糞発酵乾燥プラントで、良質の完熟堆肥を製造し、これを戻し堆肥として敷料に活用することによって、おが粉の投入量を削減させている。戻し堆肥としての利用以外は、地域の耕種農家に無償で譲渡している。また、業者が、堆肥を取りに来て、牛ふんと混合して販売している(写真3、4、5)。
このように、上月ファームでは、地域の耕種農家や畜産経営のニーズに合った良質の堆肥を無償で提供していることが分かる。
なお、分娩舎などからの排せつ物は、脱水機で固液分離させ、固体は堆肥化し、液体は浄化槽で活性汚泥法により浄化させている。このように、環境に配慮した対応がなされているのである。
上月ファームの経営実績を一覧にしたものが、表4である。比較のために、経営診断事例のデータも挙げている。これは、注にもあるように、先進事例のデータである。経営の概要では、両者はほぼ似た規模であることが分かる。労働力は、上月ファームが4人(0.5人+3.5人)であるのに対して、先進事例は6.7人(4.2人+2.5人)と少ない人数で経営管理を行っていることが分かる。
収益性は、上月ファームが2016年度であるのに対して、先進事例のデータは2009年度時点なので、単純に比較はできない。図1からも分かるように、2009年度は豚価がかなり低かったのである。
生産性は、繁殖部門では、先進事例とほぼ同じ水準であることが分かる。肥育部門では、先進事例以上の成果を上げていることが分かる。肥育豚事故率で、両者に大きな格差が生じている。これは、先進事例が2009年度のデータであるため、当時の豚繁殖・呼吸障害症候群(porcine reproductive and respiratory syndrome: PRRS)とブタサーコウイルス関連疾病(porcine circovirus associated diseases: PCVAD)などが影響し、事故率が大きくなったものと思われる。肥育豚1頭当たり平均価格や枝肉1キログラム当たり平均価格は、上月ファームが先進事例を上回っているが、前述のように、2009年度と2016年度における豚価水準の違いを考慮する必要がある。
さて、上月ファームでは、エコフィードで厚脂にならないように、ハイブリッドの種雌豚(LW)などを導入している。このような工夫が、生産における好成績につながっている。いずれにしても、上月ファームは高い技術水準にあることが分かる。なお、2016年度の上月ファームの事業活動を要約したものが表5である。
4 神戸甲南サカヱ屋の展開 |
サカヱ屋は、昭和38年10月に設立している。神戸市東灘区甲南町の商店街に立地する。経営形態は、個人経営であり、家族労働力と従業員を合わせると12人を擁する。そのうち、女性は6人と、女性が活躍している職場でもある。現代表者は、海ア孝一氏であり、二代目になる。
人材の確保に関して、当経営は、女性や留学生を積極的に採用し、手に職が就くように、育成していく方針である。なお、2018年2月に、福利厚生を充実させるために、法人化を目指している(写真6)。
事業は、牛肉、豚肉および鶏肉の食肉小売業と精肉加工・卸売業である。商品のラインナップは、表6の通りである。海ア氏が、兵庫県産にこだわっていることが分かる。
海ア氏が、「ひょうご雪姫ポーク」に力を入れるようになったのは、実際に食してみて、その味を評価したからである。サカヱ屋のホームページによると、以下の通りである。
「当社がお取引をさせて頂いている上月ファームさんは、『ひょうご雪姫ポーク』の生産者の中では最も大きな規模を誇っています。同ファームでは、豚が出荷される50日前からエコフィードのエサに切り替え『最後の仕上げ』を行います。これによって豚肉にサシ(脂)が入り、肉質が柔らかい霜降りになっていきます。」
この内容から、生産者である上月ファームとの密接な信頼関係が構築されていることが分かる。「ひょうご雪姫ポーク」に関して、サカヱ屋では、月に20頭から25頭分の部分肉を、食肉問屋からフルセットで購入している。8月、12月は購入量が1.5倍になる。
なお、牛肉、豚肉および鶏肉の売上高割合に関しては、6:3:1とのことであった。牛肉の平均単価が、豚肉や鶏肉のそれよりも高いことと、関西という食文化が反映している。ただ、牛肉の平均単価は、豚肉の約2倍であるので、数量割合では、豚肉は牛肉に匹敵するものと推察される。
「ひょうご雪姫ポーク」の販売では、幼稚園・保育園などが50%、レストランなどの外食が30%、店舗での小売りが20%であり、B to Bのウエートが大きいことが分かる。現在、取引している幼稚園・保育園などは50カ所以上になり、外食は300カ所以上になる。そして、園児に、「ひょうご雪姫ポーク」を食べてもらうために、ヒレやロースの価格を上げて、モモやウデの価格を下げるなどの工夫をしている。主として、モモやウデを保育園へ納入している。限られた予算の幼稚園・保育園などのニーズに応えたものである。
サカヱ屋では、営業用の車3台を所有し、ササミ1本の注文でも配達するとしている。また、海ア氏のポリシーとして、取引金額100万円の顧客1軒ではなく、取引金額1万円の顧客100軒とのつながりを重視している。まさしく、大手とは異なる地域密着型の戦略であり、地域に貢献していることになる。この背景には、海ア氏が阪神・淡路大震災を経験したことが大きい。地産地消の重要性を肌で感じたのである(写真7)。
さらに、小売店舗の近くに、部分肉を精肉にスライスする工房を持つが、2015年に、兵庫県版HACCPを取得している。安全・安心の取り組みを、具体的な形にしたことになる。なお、この取得には2年間を要している(写真8)。
「ひょうご雪姫ポーク」を食べておいしいと評価する相手と、持続的なつながりの構築を、サカヱ屋は目指している。
前述のように、海ア氏が、K社と上月ファームを、食品残さでマッチングさせたのである。それは、単なる未利用資源の循環だけではなく、「ひょうご雪姫ポーク」のストーリーの構築にもつながっている。
2012年には、「ひょうご雪姫ポーク」が大手ビール会社のプレゼントキャンペーンで兵庫県代表に選ばれ、全体で5位、豚肉では1位の応募数を獲得している。この応募契機も、海ア氏のヒューマン・ネットワークが貢献している。
そして、「ひょうご雪姫ポーク」の母豚をミンチにできないか、但馬牛と「ひょうご雪姫ポーク」を原料としたハンバーグができないかなど、新機軸に向けて、海ア氏は、新たな構想を練っている。
このような魅力的な取り組みが、「ひょうご雪姫ポーク」を軸とした、生産から消費までをつなぐ、地産地消のフードシステムになっているのである。
5 エコフィード循環事業協同組合の現状と課題 |
「ひょうご雪姫ポーク」の養豚経営へのエコフィードの供給主体として、エコフィード循環事業協同組合(以下「当事業協同組合」という)が立ち上げられた。表7は、当事業協同組合の業務略歴をまとめたものである。
当事業協同組合の組合員は、金澤産業株式会社、株式会社バイオマス・グリーン、木村養豚所の三者である。金澤産業株式会社は、1999年度から中心となって、産学官連携で、エコフィードの技術開発を推進してきた。その結実が、当事業協同組合である。
乾燥エコフィードの製品として、エコフィードP(菓子パン粉)とエコフィードS(食品残さ)を製造し、生産者へ供給している。原料は、未利用食品であり、生ごみではない。未利用食品は、以下の通りである(写真9)。
(1)店頭販売期限切れ食品
(2)余剰食品
(3)調理残さ(切れ端)
(4)食品副産物
(5)流通期限切れ食品
また、製品の安全・安心を担保するために、2009年にトレーサビリティシステムを導入したり、2010年に未利用食品データベースを導入したりと、企業努力を行っている(写真10)。
経済的には、約2000トンの製品販売で、1キログラム当たり50円のコストになる。産廃収入などを考慮すると同35円の販売価格が損益分岐点になる。
図2のように、2012年度までは、製品販売量は順調に伸びてきて、それ以降は安定していた。しかし、2016年度に減少している。また、損益分岐点価格同35円での販売が難しく、前述のように、同25円で販売し、赤字に直面している。これは、飼料用米の伸びが大きく影響している。すなわち、同15円の飼料用米の供給が、乾燥エコフィードの需要を減少させ、製品価格引き下げの圧力になっているのである。
このことは、飼料用米とエコフィードの位置付けについて、今後どのように調整すればよいのかという重要な課題を、農業政策サイドに投げかけていることにもなる。
6 おわりに |
淡路和則氏によると、わが国のエコフィードは、その創成期には、配合飼料との比較で、いかに「畜産物の品質や生産効率を落とさずに食品残さを利用するか」を追い求めた時代であった。次の段階では、いかに「選ばれるもの」をつくるかがテーマになった。すなわち、食味が優れていたり、機能性を有していたり、差別化が図られるようになった。そして、第三段階では、エコフィード利用の畜産を核とした地域経済振興、エコフィードの製造から利用畜産物までを軸とした多様なサービス提供などを考えてアクションを起こすことになるとしている。
本稿で取り上げた「ひょうご雪姫ポーク」はまさしく第二段階から第三段階に移行しようとしている。上月ファームでは、サカヱ屋の働きかけで、K社との食品残さの取引が成立することになる。その際、食品残さの機能性を保持するために、乾燥装置の貸与が、上月ファームからK社に行われている。このような経営努力の積み重ねが、飼料コストの低減、肉豚の嗜好性の向上、健康で高品質な肉豚生産につながっていくのである。
兵庫県の畜産の中で、養豚のウエートは決して高くはなく、その中でも「ひょうご雪姫ポーク」の出荷量は1割も満たしていない。しかし、マーケティングでは、サカヱ屋の努力で、幼稚園や保育園などを中心に、外食で利用してもらい、小売りでは固定客も存在し、地産地消が成立している。
しかも、利用者のニーズが、サカヱ屋から養豚経営へフィードバックされることで、消費者ニーズに合った豚肉供給につながっており、マーケットインの体制になっているといえる。
まさしく「ひょうご雪姫ポーク」を軸とした、生産から消費までをつなぐ地産地消のフードシステムについて、今後のさらなるストーリーの展開から目を離すことができない。
【謝辞】
本稿を作成するに当たり、協和資糧株式会社 代表取締役 長田泰則様、エコフィード循環事業協同組合 理事長 金澤仁華様、同事務長 金澤孝様、神戸甲南サカヱ屋 二代目代表 海ア孝一様、兵庫県、公益社団法人兵庫県畜産協会から多大なご協力を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。
【引用文献】
[1]淡路和則「エコフィード利用畜産の多様性の表れ」『畜産コンサルタント』624、pp.56-61、2016.12
[2]神戸甲南サカヱ屋ホームページ(http://www.kobe-sakaeya.jp/)
[3]ひょうご雪姫ポークホームページ
(http://www.yukihimepork.com/yukihimepork/index.html)
[4]公益社団法人中央畜産会ホームページ(http://jlia.lin.gr.jp/k-data/)