畜産の情報 2018年2月号

収益力の決定要因

福島大学 農学系教育研究組織設置準備室 教授 生源寺 眞一


農業経済が専門分野の研究者として、畜産あるいはより広く農業の収益力の問題について、どんな貢献ができるだろうか。ささやかながら自身の歩みを振り返ってみると、大きく二つの領域に分けることができると思う。

一つは農業経営の実態を細部にわたって検証することである。例えば畜産のコストを詳細に国際比較するならば、収益力アップに向けた課題の発見にも結び付く。もう一つは収益力を形成する要因について、その作用を確認することである。分かりやすい例として、農産物貿易をめぐる国境措置の変更による国内価格への影響がある。もっとも、直接の影響の確認だけであれば、研究者が貢献できる場面はあまりない。けれども、価格の変化が消費者の購買行動に与えるインパクトを評価し、代替財の需要に対する間接的な効果を評価するといったあたりになると、経済学の専門的な枠組みが役に立つ。

第1の領域については、30年前に取り組んだ作業が思い出される。イギリス(イングランドとウェールズ)と北海道の酪農生産のコストを比較してみたところ、北海道はイギリスの2.30倍という結果が得られた。さらに、このコスト差を生産資材の価格要因と生産性格差の要因に分解してみたところ、前者が1.74倍、後者が1.32倍であった(1.74×1.32≒2.30)。畜産物生産費調査の費目ごとにコストと価格を比較したわけだが、両国の生産資材の価格について、資材の中身を可能な限りそろえて比較することに多大の時間と労力を注いだことを記憶している。

第2の領域については、配合飼料の市場の構造について調査を行った経験がある。こちらも20年以上前のことで、全国の地域ごとに配合飼料工場の生産量のシェアを確認し、工場を訪問してヒアリングも実施した。興味深かったのは養鶏部門である。配合飼料の市場はいわば寡占の構造にあるのだが、飼料の需要側の養鶏についても大規模な企業的経営のシェアが急速に高まっており、地域によっては双方寡占と言ってよい構造が形成されていたからである。このような市場の構造は配合飼料産業の価格決定にも影響を与える。商系の飼料会社が取引の相手を考慮して価格を柔軟に設定する戦略を取っていたことが、ことのほか印象的であった。配合飼料をめぐる市場の構造は飼料の価格形成に影響を与え、それが畜産の収益力を左右することにもなる。

研究者として貢献できる領域について区分を行ってみたわけだが、収益力の構成要素や形成要因を別の観点から整理することもできる。すなわち、一方に収益力のアップに向けて農業経営自身が取り組める領域があり、他方で農業経営としては与えられた条件として受け止めざるを得ない領域がある。イギリスと北海道の酪農のコスト比較について言うならば、生産資材の価格は農業経営にとって動かし難いところがある。これに対して生産性の向上に関しては、その時点で利用可能な技術や設備は外部条件として与えられているわけだが、それを適切に導入することができるか否かは、農業経営の判断に委ねられる。言うまでもなく、コスト削減につながる規模拡大も農業経営自身が決定すべき事柄である。

農業経営が選択可能な要素と農業経営の外部条件の要素に分けてみたわけだが、現実がそれほど単純でないことも事実である。養鶏部門と配合飼料産業のケースは、農業経営のあり方が生産資材の取引条件を左右し、それが農業経営の収益力にも影響を与える可能性を物語っている。もう一つ、個々の農業経営にとっては動かし難い条件であっても、複数の農業経営が結び付くことで取引条件の改善につながるケースもある。ケースもあるなどと述べたが、これは農業協同組合の基本的な使命にほかならない。周知の通り、近年の農協改革をめぐる議論の一つのポイントは、農協がこの意味での本来の機能を十分果たしているか否かにあった。

現代の農業経営のあり方そのものが多様化していることも、収益力の向上を構想する際の視野の広がりを要請している。その一つが農業経営の一部を外部化する動きにほかならない。酪農・畜産分野の典型的なかたちは、飼料の調達と調製をTMRセンターに委ねる取り組みである。すなわち、外部化された飼料の調達・調製について専門性と規模のメリットが発揮されることで、外部化した側の畜産経営の収益力もアップすることが期待されている。

もう一つは、生産物の加工や販売に農業経営のウイングを拡大する動きである。近年は酪農経営がヨーグルトやチーズなどの加工に取り組む例は少なくない。TMRセンターのケースが外部化であるのに対して、こちらは川下の食品産業の分野を内部化する動きであると言ってよい。価格の設定や製品の品質次第の面はあるが、これも加工部門の付加価値を得ることで収益力の強化に結び付く。

収益力を決定する要因について、いくつかの角度からピックアップしてみた。今回述べただけでも、多数の要因が収益力の形成に関与していることが分かる。具体的な取り組みはそれぞれのパーツの改善に向けられるが、多くの要因が複雑に関係しているだけに、そのパーツが全体の収益力形成の構図の中でどんなポジションにあるかを認識しておくことも大切だと思う。それが関係者の理解を深めることにも結び付く。


				

元のページに戻る