話 題 畜産の情報 2018年7月号

アニマルウェルフェアに配慮した
家畜の飼養管理について

農林水産省 生産局 畜産振興課 課長補佐
(個体識別システム活用班担当)江上 智一


1 はじめに

欧州においては、1960 年代、密飼いなどの近代的な畜産のあり方についてその問題が提起され、英国で提唱された「5つの自由」を中心にアニマルウェルフェア(Animal Welfare、 以下「AW」という)の概念が普及し、現在では、EU指令としてAWに基づく飼養管理の方法が規定され、各国はEU指令に基づき、法律・規則等をそれぞれに定めています。また、米国、カナダ、豪州などでは、一部の州において州法で規定した取り組みを行っていたり、生産者団体や関係者が独自にガイドラインを設定するなど、それぞれがAWの向上に取り組んでいます。

このように、AWをめぐる国際情勢は、国によってさまざまであり、今後とも、わが国の重要な産業となっている畜産を安定的に発展させるためには、このような国際情勢の変化も踏まえ、わが国の情勢に応じた対応をしていくことが重要です。

2 アニマルウェルフェアとは

AWについては、世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関である国際獣疫事務局(OIE)のコード(規約)において、「動物が生活及び死亡する環境に関連する身体的及び心理的状態」(仮訳)と定義されています。

家畜がそのような状態にあるためには、家畜の快適性に配慮した飼養管理を行うことにより、ストレスや疾病を減らすことが重要ですが、このことは、畜産物の生産性や安全の向上にもつながることから、農林水産省としては、従来からAWの考え方を踏まえた家畜の飼養管理の普及に努めてきたところです(図1)。

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3 OIEコードの検討プロセスについて

OIEコード案は、アドホックグループによってコード素案が作成され、コード委員会で検討の上、加盟国に対し、コード委員会の報告書という形で示されます。

OIE加盟国は、OIEが定める期日までにコード案への修正コメントなどを提出することができます。わが国においては、学識経験者、生産者団体、消費者団体などがメンバーとなったOIE連絡協議会においてコード案について議論が行われ、意見を聴取するとともに、有識者からデータなどの提供を受けて検討し、修正コメントを提出しています。

加盟国から提出された修正コメントは、コード委員会などで検討の上、OIEより修正案が示されることになります(図2)。このようなコード案作成の手続きを経て、総会で加盟国の採択に付されることとなります。(日本から提出されたコメント等:http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie.htmlを参照)

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4 AWの考え方を踏まえた家畜の飼養管理方法の普及

わが国におけるアニマルウェルフェアの取り組みは、公益社団法人畜産技術協会(以下「畜産技術協会」という)において、学識経験者、生産者、獣医師、消費者などからなる検討会を設置して、平成21年から畜種ごとの「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」(肉用牛、乳用牛、ブロイラー、採卵鶏、豚、馬)を作成し、普及を図っています。(図3〜4)。

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なお、AWへの対応とは、必ずしも最新の施設や設備を導入することを生産者に求めるものではなく、家畜の快適性に配慮した飼養管理をそれぞれの生産者が考慮し、実行することです。このうち最も重視されるべきは、日々の家畜の観察や記録,家畜の丁寧な取り扱い、良質な飼料や水の給与などの適正な飼養管理によって家畜が健康な状態であることとされています。このような考え方は、OIEコードにおいてもリソースやシステムベースではなく、動物ベースでのAWが重視されていることと共通しています(飼養管理指針の概要等:http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-23.pdfを参照、

AW全般:http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.htmlを参照)。

農林水産省では、このような各畜種の「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」(飼養管理指針)の策定、OIEコードの策定・改訂を踏まえた飼養管理指針の見直し、飼養管理指針の周知のための生産者や流通業界、消費者などへの普及のためのセミナーの開催などの支援をしているところです。

5 飼養管理指針に基づく飼養管理の実施状況と改善に向けた取り組み

(1) チェックリストの作成・配布について

わが国の農家段階のAWの実施状況は、平成26年度に畜産技術協会を通じ、各畜種における飼養実態調査を実施しました。その結果は、実際の給餌や給水、毎日の観察などの基本的な項目は、ほぼ全ての生産者でおおむね適切に行われていました。しかし、飼養管理指針そのものを知らない生産者の方々もおり、飼養管理指針で推奨している方法とは異なる飼養管理を実施していることも散見される状況がありました。

このため、生産現場への飼養管理指針の周知を徹底し、適切な飼養管理が行われるよう、一昨年9月に飼養管理指針のチェックリストを作成し、配布したところです。

今年度も、生産者へのAWの理解醸成を促進するため、関係者と連携しつつ、AWに関する正しい知識の情報発信を進めることとし、畜産関係団体や都道府県を通じた、当該チェックリストを活用した生産者による自己点検の実施を推進しています(図5)。

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(2) AWに配慮した取り組みの改善について

畜産技術協会が同チェックリストを活用して生産者による自己点検の実施状況を取りまとめたところですが、引き続き改善が必要な項目も一部見られました。このため農林水産省は、「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」(畜産振興課長通知)を昨年11月に発出し、環境省とも連携して都道府県による管理者および畜産関係者への周知を依頼することにより、農家段階での取り組みの改善を推進しています。

(3) 今後のAWの推進について

AWは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「2020オリパラ東京大会」という)の畜産物の調達基準の要件になっています。農林水産省では2020オリパラ東京大会に必要な食材提供に向け、また、国産畜産物の輸出促進のために、日本版畜産GAPなどの認証取得やGAP取得チャレンジシステムによるGAPの取り組みを加速化させることとしています。これらGAPの取り組みにはAWの項目が必須とされていることから、結果的にAWの取り組みが促される形となっています。

農林水産省では、このような取り組みを通じて、AWに配慮した取り組みを行う農家を拡大していくこととしています。
(畜産GAPの概要:http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/attach/pdf/chikusan_gap-10.pdfを参照、畜産GAP全般:http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/chikusan_gap.htmlを参照)

(プロフィール)

平成7年 農林水産省入省

平成27年 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターに出向

平成29年 現職



				

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