海外情報 畜産の情報 2018年6月号
財団法人台湾中央畜産会 副執行長 王旭昌
台湾では、近年、牛肉の消費量が拡大しているが、消費の約95%は輸入である。台湾の消費者は和牛肉のおいしさを知っており、輸入が再開されて以来、高級レストランで提供されはじめている。和牛肉の消費をさらに拡大するためには、カッティング技術や調理方法の普及を通じて家庭での消費を促すことが重要である。
1 はじめに |
台湾の面積は、約362万ヘクタールと九州と同程度であり、山地や丘陵地が3分の2以上を占め、耕地は約79万ヘクタールである。台湾産農畜産物は主に国内向けで、飼料となる穀物や牧草の多くを輸入に依存している。飼料費が非常に高く、牛を放牧する十分な草地もないため、畜産には不利な環境である。
2017年9月18日、台湾政府は「日本牛肉及びその製品の輸入規程」を公表し、日本からの牛肉輸入を再開した。これを受け、「日本畜産物輸出促進協議会」が同年10月17日と12月12日の二度にわたり、台湾の圓山飯店で和牛肉の販売促進イベントを行った。すると、台湾では和牛ブームが起こり、2017年9月から2018年2月末までの間の和牛肉の輸入量は、326トンに達し、和牛肉の人気の高さと需要の大きさが明らかになった。
台湾の農村では、長い間、牛は、畑の耕作や運搬に使う役畜であり、パートナーとして暮らしてきた。このため、年配者の中には、牛に特別な感情を持ち、牛肉を食べない人が多い。年配の農業者には、老牛を養老センター(注)と呼ばれる施設に送って余生を送らせる人もいる。一方、若い人の間には、こうした感情を持つ人はいない。ハンバーガーやステーキといった洋食の普及により、牛肉は、若い世代にとって一般的な食材となっており、年々消費量が増加している。しかしながら、豚肉や鶏肉に比べると牛肉の消費量は少ない。2016年の1人当たりの平均消費量は、豚肉の35.7キログラム、鶏肉の34.6キログラムに対し、牛肉はわずか5.7キログラムであった。
なお、本稿中の為替レートは、1台湾ドル=3.69円とする。
注:老齢の牛を飼養する施設。寄付金によって運営されているところが多いと言われる。
2 台湾の肉牛産業 |
2017年末時点での台湾の牛・水牛の飼養頭数は14万7152頭である。内訳は、ホルスタインが13万413頭、黄牛および交雑牛が1万4682頭、水牛が2057頭である。牛・水牛の飼養頭数は、1990年以来、13万〜17万頭の間で推移している(図1)。ホルスタインは1990年の9万798頭から2017年には13万413頭に大幅に増加した。一方、黄牛および交雑牛は4万1564頭から1万4682頭に減少し、水牛も2万1876頭から2057頭まで激減した結果、全体として減少している。台湾では、肉牛の供給を酪農に依存しており、肉牛産業が発展しているとは言いがたい。そして、酪農もまた小さな台湾の消費市場の中で限られた発展しかできていないと言える。
2017年の牛・水牛の飼養頭数の内訳を見ると、肉用の牛・水牛は、3万4431頭と牛・水牛全体の23%を占めている(図2)。このうち、乳雄牛は1万9037頭で全体の12.9%、黄牛および交雑牛は1万3533頭で全体の9.2%、水牛は1861頭で全体の1.3%を占めている。このように、台湾の肉牛の過半は、酪農由来の乳雄牛や乳廃用牛(注1)である。
台湾省政府農林庁が1981年に作成した「台湾畜産獣医事業」によると、牛・水牛の飼養頭数が最も多かったのは、1959年である。合計頭数は41万8165頭で、水牛が32万6587頭、黄牛および交雑牛などが9万1578頭であった。その後、経済発展により、農業中心から工業中心の社会になり、役用の水牛が大幅に減ったため、1970年には、牛・水牛が27万7449頭(黄牛および交雑牛など:8万8579頭、水牛:18万8870頭)まで減少した。その後、1972年に台湾では乳牛専業エリアと肉牛専業エリアが制定された。当時、乳牛はわずかに1万604頭しかおらず、年間生乳生産量は2万2932トンにすぎなかった。これが2017年になると、経産牛が6万523頭となり、年間生乳生産量は約40万トンへ拡大した。一方で、牛肉は、1975年には2万8126トンも輸入され、価格の下げ圧力によって、生産コストの高い多くの農家が廃業した。その後は、専業の肉牛農家はわずかに残るのみで、肉用牛のほとんどは、乳去勢牛(注2)である。乳去勢牛の飼育期間は2年間で、売却価格が不安定であることから、一般の農家で肉牛肥育に参入しようとするものはいなかった。
2017年末時点で、肉牛農家は819戸、飼養頭数は3万4431頭である。このうち、100頭以上飼養する農家84戸で、飼養頭数の約6割にあたる2万613頭を飼養している。
注1:搾乳し終えた乳雌牛を1〜2カ月肥育したもの。
注2:一般に、肥育農家が乳雄子牛を購入し、去勢して2年間肥育する。
3 肉牛の流通・販売 |
台湾では、牛は、伝統的に「牛墟」と呼ばれる市場で売買されていた。近年は、役牛や肉用牛が減ったため「牛墟」も徐々にすたれ、買付人が農家を訪れて買い取り、と畜場に送るのが一般的になった。と畜場には、政府から派遣された獣医師が常駐して、と畜検査を行うことで、衛生的かつ安全であることを保証している。台湾には、肉豚のせり市場は21カ所あるが、肉牛のせり市場はない。これは、肉牛の取引数量が少なく、まとめて取引を行うことができないためである。
2016年のと畜頭数は、3万4076頭であり、2000年の2万4505頭と比較すると9569頭増加した(39%増)。牛肉生産量は、部分肉ベースで6818トンであり、2000年の4901トンと比較すると1917トン増加し(39%増)。1人当たりの年間牛肉消費量は5.7キログラムで、2000年の3.3キログラムから2.4キログラム増加した(71%増)(図3)。こうした数値から見ると、台湾の牛肉消費量は極めて少なく、年間のと畜頭数も牛肉生産量もわずかに増えているにすぎず、近年の牛肉消費量の増加は、主に、輸入牛肉の増加によるものである。
「牛墟」で取引されていた時代は、役用牛が中心であり、1961〜1971年頃には、1頭当たり7000〜8000台湾ドル(2万5830円〜2万9520円)であった。1972年の肉牛取引価格は、生体1キログラム当たり約60台湾ドル(221円)であったが、これが1973年に1キログラム当たり70台湾ドル(258円)に上昇した。ところが、1977年に海外産牛肉が大量に輸入されると、肉牛取引価格は1キログラム当たり20〜30台湾ドル(74円〜111円)下落した。これを原因として、肉牛専業エリアの農家が廃業し、台湾における肉牛産業は衰退した。2000年には、肉用の水牛は1キログラム当たり74台湾ドル(273円)、黄牛は73台湾ドル(269円)、乳廃用牛は66台湾ドル(244円)であった。近年は、牛肉消費の増加とともに、肉牛価格も安定的に上昇してきている。2010年以降、2018年までの肉牛価格は主に、乳去勢牛、乳廃用牛を指標としていた。2018年には、生体の乳雄去勢牛、乳廃用牛の価格はいずれも、142台湾ドル/キログラム(524円)で、2010年の102台湾ドル/キログラム(376円)、97台湾ドル/キログラム(358円)と比較して、それぞれ40台湾ドル(148円、39.2%)、45台湾ドル(166円、46.4%)上昇した。乳雄子牛もまた値上がり幅が大きく、2010年に1頭当たり2000台湾ドル(7380円)であったものが、2018年には6000台湾ドル(2万2140円)前後となった(図4)。
4 輸入牛肉 |
台湾では、1966年にすでに2.3トンの牛肉が輸入された記録がある。当時の生産量は、5454トンで、自給率は99.95%であった。その後、1975年には、輸入が2万8126トン、国内生産が4294トンとなり、自給率は13.24%に低下した。同時に、国内の肉牛価格が暴落し、農家が肉牛を一斉に売却したため、と畜頭数は、1976年には6万1377頭、1977年には8万7579頭、1978年には5万8423頭となった。これは台湾の肉牛史において、記録的な頭数である。これを受け、政府が輸入牛肉への課税と、肉牛生産に対する価格差補てん策を講じたことから、輸入牛肉は一時的に減り、1978年には自給率が52.45%まで回復し、輸入牛肉に対する課税は1979年に停止された。しかし、その後、肉牛産業が立ち直ることはなく、牛肉の自給率は下降の一途をたどった。
2000年から2017年までの間、牛肉輸入量は年々増加し、2017年には11万4987トンとなり、2000年に比べて5万4125トン増加した(88%増)(図5)。特に、米国からの輸入が最も多く、4万5378トンと、2000年に比べて3万2843トン増加している(262%増)。米国からの輸入は、牛海綿状脳症(BSE)の影響で2004年に減少したことを除けば、最も急速に増加しており、2015年には豪州を上回り最多となっている。豪州からの輸入量は、3万1726トンで、2000年に比べて4132トン増加し(14%増)、ニュージーランドからの輸入量は2万513トンで、2000年に比べて6061トン増加した(41%増)。このほか、パラグアイから6918トン、カナダから3730トン、ニカラグアから3370トン、パナマから1776トン輸入している。台湾産の牛肉も4900トンから6800トンに増えたものの、輸入量が増えているため自給率は依然として低く、6.56%から5.01%に下がった。自給率は今後も4%から5%程度の水準にとどまるものと予測されている。
2017年9月から2018年2月までのわずか6カ月で、日本から326トンの和牛肉が輸入された(図6)。年間では700トン前後に達するものと思われる。毎年13万トンを輸入する台湾にとって、700トンはわずかな量だが、日本の和牛の輸入価格は、1キログラム当たり60米ドル以上と、平均輸入単価の同8米ドルに比べて極めて高い。2017年12月の日本からの輸入量は102トンで、輸入量の0.99%にすぎないが、輸入額では7.61%を占める。2018年2月に日本から輸入された和牛肉は68トンで、輸入量では0.88%であったが、輸入額では7.04%を占めた。
5 牛肉消費 |
牛肉消費について述べるには、まず生産の状況に触れる必要がある。つまり、供給源によって、品質や価格、消費方法が異なるため、「品種」(breed)、「品質」(quality)、「ブランド」(brand)から牛肉の消費について述べてみる。
まず品種については、長年、役畜として、台湾黄牛(Taiwan Yellow Cattle)と台湾水牛(Taiwan buffalo、写真1)が飼われていた。その後、1962年から1969年に、肉牛生産を発展させるため、サンタ・ガートルディス(Santa Gertrudis)が米国から輸入され、盛んに台湾黄牛と交配された。1969年以降は、アバディーン・アンガス(Angus)、ブラーマン(Brahman)、シャロレー(Charolais)、ヘレフォード(Hereford)、ショートホーン(Shorthorn)などの品種が台湾黄牛と交配された。ここ数年では、豪州から輸入したアンガスで肉牛の肉質の改善を図っている。現在飼育されている肉牛は、ホルスタインの去勢牛が中心で、その他は交雑牛である(写真2)。台湾最南端にある墾丁では、大量の肉用の交雑牛が放牧されている(写真3)。
牛肉の品質は、飼養管理に大きな影響を受ける。役畜として飼われていた時代には、草地に連れて行って食べさせるか、野草を刈り取ってきて与えていた。その後、肉牛産業が発展していった時代には、畜産試験所の墾丁牧場では放牧していたが、農家は放牧するだけの草地がないため、刈り取ってきた野草やサトウキビの葉を与えたりしていた。最近になって、比較的大きな肉牛農場では、豆殻などの副産物やチカラシバ、青刈りトウモロコシを与えるようになってきた。これらから分かるとおり、台湾の肉牛は、安価で繊維質の多い飼料を与えられている。また、台湾では、牛肉の部位に関する規格は定められているものの、肉質に関する格付制度がないため、取引価格は、生体重によって決められている。
台湾産の牛肉には、特別な品質がないため、肉質やおいしいさを訴求したブランドはない。ブランド化している牛肉は、安全性に加え、CAS認証(注)や生産販売履歴認証を得ることで安心を強調している。また、台湾産牛肉は、と畜後すぐに肉屋に持ち込まれた新鮮な肉であるという点がセールスポイントとなっている(写真4)。牛肉は、玉ねぎやピーマン、青菜、キノコなどと炒めて調理することが一般的である。また、台南市内では、あっさり味の牛肉スープが有名で、朝食の定番である(写真5)。最近は、比較的大きな牛肉専門店もでき、さまざまな部位の台湾産牛肉が売られるようになった。これにより、あっさり味の牛肉麺や新鮮な牛肉の鍋物などさまざまな牛肉料理が開発されている。そこで強調されているのは、新鮮さによるおいしさである(写真6)。
注:台湾政府による農林水産品の認証制度(Certified Agricultural Standards)。農林水産品が台湾で生産されたもので、品質や包装、表示、衛生水準について、関係法令などの基準を満たしていることを認証する制度。
台湾の牛肉自給率は4.9%(2016年)で、年間約6800トンの牛肉が生産され、約13万トンの牛肉が輸入されている。台湾産と海外産は目的によって使い分けられている。例えば、新鮮な牛肉であっさり味のスープが食べたければ台湾産牛肉が選ばれ、牛肉麺、ステーキ、牛肉鍋、牛肉の焼肉などには輸入牛肉が選ばれる。スーパーマーケットや外食で口にするのは、ほとんどが輸入牛肉である。また、2017年の輸入先国別の単価を見ると、米国産は9.4米ドル/キログラム、豪州産は6.6米ドル/キログラム、ニュージーランド産は5.8米ドル/キログラムであり、市場での販売価格の設定は輸入価格と一致している。日本産和牛肉の輸入単価は62.4米ドル/キログラムである。総合すると、新鮮なあっさりしたスープで牛肉を楽しむときは台湾産牛肉、大きなステーキを思い切り食べたいときは米国産や豪州産、細やかでおいしいごちそうを味わいたいときには和牛となる。
6 和牛肉が台湾の消費市場に与える影響 |
日本からの牛肉輸入は、台湾の牛肉消費のトレンドに合致した格好のタイミングで再開された。台湾では、伝統的に黄牛、水牛を食べ、とにかく肉であればよかった時代から、酪農の発展により、副産物である乳雄牛などが食べられる時代を経て、近年は、比較的肉質の高いアンガス種など高品質な牛肉への需要が高まっている。こうした中で、日本から和牛肉の輸入が再開されたことでブームが起こり、わずか6カ月の間に、326トンが輸入された。毎年多くの台湾人が日本観光に訪れているため、和牛肉のきめ細やかさ、上質さをよく知っており、たまに味わうごちそうだと認識している。台湾の消費者は、和牛肉に対して強い関心を持っており、高級レストランでは、次々と和牛肉の料理が打ち出されている。日本畜産物輸出促進協議会によると、年間1000トンを輸出すれば、台湾は日本にとって第3位の輸出相手になるという。筆者は以前、日本に対して「台湾では1人当たり年間約5キログラムの牛肉を食べているが、台湾人全員が和牛肉を100グラム食べれば、台湾向け和牛肉輸出量は2300トンになる」と言ったことがある。この目標を達成するためには、台湾の消費者を理解し、日本の食文化を普及させることと併せて、格付けや、カッティング技術、売り場での見せ方、調理方法、食べ方を広める必要がある。また、高級レストランでの消費ばかりでなく、家庭での消費を促すことも必要だ。次に、特に重要な点について意見を述べる。
1. 枝肉格付:台湾の消費者は「A5」が最高級の和牛肉を指すことは知っていても、「A」と「5」の意味は知らない。台湾に格付けを行う協会を設立して、和牛肉の等級の検証をしてはどうかという意見があるが、それは不可能だと筆者は思う。しかしながら、台湾の畜産業者や消費者にとって、日本食肉格付協会(JMGA)の格付制度、牛肉の優劣の判別は、学ぶべき制度である。日本の牛肉の格付けでは、歩留でA、B、Cのランクを決め、枝肉の半身の第6、7肋間を切り開いて、肉質(脂肪交雑)と肉・脂肪の色で1〜5のランクを決める。最高がA5、最低はC1である。第6、7肋間の肉ではない場合、または別の部位の牛肉である場合、肉の色や肉質、歩留を判断するのは難しい。
2. カッティング技術と見せ方:日本が宣伝のために台湾を訪問する時には、高級レストランやホテルを対象に、おいしそうに調理した牛肉を提供している。しかし、筆者は日本の担当者に対して、消費量を増やすためにはスーパーマーケットでの販売が重要だと言ったことがある。また、現在、主に枝肉で台湾に販売しているため、さまざまな部位を消費者に買ってもらうためには、カッティング技術と美しい見せ方が必要だ。日本畜産物輸出促進協議会は、台湾に専門の料理人を連れてきて、カッティング技術と見せ方を披露した。料理人が現場で切り分けた牛肉はどれも同じ厚さで、見事な包丁さばきだった。台湾に必要なのは、専門の包丁だけではなく、専門的な技術である。スーパーに並べられた和牛肉に消費者が手を伸ばすためには、専門的な技術で切り分けてある必要がある。日本畜産物輸出促進協議会も、台湾のシェフやレストラン関係者を日本に招へいし、カッティング技術を学ばせることに同意している。学びたい者が多ければ、講師を派遣してもらって台湾で行ってもよいという。
3. 調理方法:筆者は、日本からいつも、和牛肉は中国料理の食材として使えるだろうか、と聞かれる。つまり、「Made from Japan」である。日本の関係者もまた、多くの用途を通じて和牛の需要を拡大したいと考えているのだ。「中国料理の食材に使えるか」と聞かれた場合、私はいつも個人的な経験から「中国料理には向かない」と答えている。というのも、中国式に炒めたり煮たりしたのでは、脂が染み出してしまい、ぱさぱさとした食感になり、本来の風味が失われてしまうからだ。私たちは、鉄板焼きや焼き肉、しゃぶしゃぶといった日本式の料理法を好む。全国農業協同組合連合会(JA全農)は直営で和牛焼肉店を出店しているが、とてもよい「Made by Japan」方式だと思う。和牛肉が将来スーパーマーケットで販売されれば、消費者は和牛の風味を生かせる調理方法を学ぶことになるだろう。
7 和牛の飼育管理を学ぶ |
日本食肉格付協会(JMGA)の資料によると、和牛の肉質等級は多くの場合3〜5等級であるが、乳牛は1、2等級だという。また、交雑牛は2〜4等級である。交雑牛とは乳牛と和牛の交雑種だが、筆者は以前、日本がどうして交雑牛を生産するのか理解できず、(独)農畜産業振興機構に尋ねたことがある。説明によると、初めて出産する時の雌牛は、まだ成長途中であるため小柄だが、乳用種の子牛が体重50キログラム程度と大きいため、難産になりやすい。そこで、未経産牛の種付けには和牛の精液を使うことで、小柄な交雑種の子牛が生まれ、難産を避けることができる。生まれた子牛は肉用として肥育され、母牛は分娩したことで搾乳できるようになる。和牛は特殊な品種であり、飼育方法も特別で、経済価値が高く、台湾の畜産業が学ぶ価値がある。現在は、台湾に和牛品種はないが、将来の台湾には、農業経済専門家である李登輝前総統が育成中の和牛品種「源興牛」(機構注)があり、同等の風味と味を提供してくれるのではないかと期待できる。
機構注:現地報道によると、日本統治時代に日本から持ち込まれた和牛の子孫だとされる。
8 むすび |
台湾の肉牛産業は、1977年の価格暴落以来、一貫して発展できずにおり、酪農副産物である乳雄牛や乳廃用牛によって支えられて、なんとか食料自給率5%前後を維持している。近年、ある程度の規模の肉牛農場が見られるようになってきたが、数は少なく、取引制度も整っていない。一方、若い世代は牛肉の消費に前向きであるため、台湾の牛肉消費や肉牛産業には、まだまだ発展の余地がある。2017年に解禁された日本の和牛は、台湾の高級牛肉市場の一翼を担っている。和牛の影響で台湾の消費者も徐々に牛肉の品質に目を向けるようになり、格付けやカッティングなどに関する知識や技術についても知る機会が増えつつある。今後、台湾の肉牛産業や牛肉消費は、高品質、高価格の方向へと発展していくに違いない。