海外情報  畜産の情報 2018年6月号


インドネシアのブロイラー産業の動向
〜日本への輸出の可能性〜

調査情報部 青沼 悠平、伊佐 雅裕(現農林水産省食料産業局産業連携課ファンド室長)


【要約】

インドネシアの鶏肉生産は、経済発展に伴う内需の拡大や人口増加を受けて配合飼料生産を出自とするインテグレーターを中心に拡大している。一方で、毎年の高病原性鳥インフルエンザ(AI)発生や伝統市場などに流通する鶏肉の衛生面など課題は多い。しかし、配合飼料の5割を占めるトウモロコシの自給や豊富な労働力などブロイラー産業の発展の諸条件はそろっており、2018年には日本への鶏肉調製品も再開され、今後の海外展開が注目される。

1 はじめに

インドネシアの人口は、直近5年間(2013〜17年)に毎年335万人程度増加し、2017年には2億6200万人となり、今後も増加が見込まれている。2010〜17年の各年の経済成長率は4.7〜6.3%と、経済は堅調に成長しており、国民の所得水準は向上している。家きん肉および牛肉は、国民の約9割がイスラム教徒である同国において宗教上のが少なく、中でも家きん肉は、牛肉と比べて安価に購入できることなどから広く国民に食されており、最も消費されている食肉となっている(図1)。このため、家きん肉の大勢を占めるブロイラーの生産量に加えて配合飼料生産量も増加しており、ブロイラーや飼料産業の今後の発展に期待した外資の進出が相次いでいる。

092a

日本への鶏肉輸出は、2004年に高病原性鳥インフルエンザ(AI)が発生して以降、10年近く禁止されていたが、2014年に鶏肉調製品に限り輸出禁止が解禁された。解禁後もこれまで日本への輸出実績はなかったが、2018年内にチキンナゲットが初めて輸出される予定となっており、今後の日本への輸出動向が注目される。

人口増加と可処分所得の向上といった、一般的に食肉消費の増加につながるとされる要因が顕著となっている同国において、鶏肉需要増を支える生産体制の状況と日本向け輸出の見通しを明らかにすることを目的として、2018年2月に実施した現地調査を踏まえて、インドネシアのブロイラー産業の現状と今後の見通しについて報告する。

なお、本稿中の為替レートは、1インドネシアルピア(ルピア)=0.009円(4月末日の参考相場:1インドネシアルピア=0.0091円)を使用した。

2 家きん肉の生産概況

(1)ブロイラーの位置づけ

2017年の家きん肉生産量を見ると、ほぼ全てが鶏肉で、ブロイラーが80%、地鶏(在来種)が13%となっている(図2)。同年のブロイラー、地鶏の年間生産羽数は、表1のとおりである。家きん肉の大勢を占めるブロイラーの生産量は、人口増加や国民所得の向上などを受け、増加傾向で推移している。現地専門家によると、1997年のアジア通貨危機以降、政府が、ブロイラーを産業化するため外資の積極的な受け入れを始めた。そして、タイの飼料・食肉加工大手チャロン・ポカパン(CP)の系列企業であるチャロン・ポカパン・インドネシア(CPI)が、ブロイラーの種鶏を導入して、生産を開始したことが契機となり、産業として定着したとしている。ブロイラーの生産は、全人口の約60%が暮らすジャワ地域で盛んで、西ジャワ州、東ジャワ州、中部ジャワ州で全国の生産羽数の6割以上を占めている(図3)。また、配合飼料工場と種鶏場もジャワ地域に集中している。

093a

093b

094a

なお、同国でブロイラーとは、コッブ系、ロス系、インディアンリバー系などの外国鶏を指す。これに対し、地鶏とは、在来種の鶏であり、総称してアヤムカンプン(ayam kampung)と呼ばれる。これらは全国各地で飼養されており、農家の裏庭で飼養されていることが多い。

ブロイラーは、出荷までの所要日数30日程度、出荷体重1.45キログラム程度と、日本の49日齢程度と比べてかなり早く出荷される。この理由としては、インドネシアの消費者は1羽丸ごと食さないと満足しないので伝統的に丸鶏を消費する傾向が強く、また、小さい方が調味料がよくなじむといったことが挙げられる。実際に、今回訪問した一般市民が日用品などを購入する伝統市場や量販店などで販売されている鶏肉の多くは丸鶏で販売されており、いかに多くの消費者が丸鶏を好んで食しているかをうかがい知ることができた(写真1、2)。

094b

(2)ブロイラーの生産構造

ブロイラー農家の多くは、飼料や種鶏、薬品、畜産資材などを総合的に手掛けるインテグレーターとの間で契約を結んでいる。インテグレーターが独自に設計した飼料、同者から供給される初生ひなを用い、決められた飼養管理、衛生管理の下で生産し、インテグレーターに出荷する。インドネシア農業省(以下「農業省」という)によると、ブロイラー生産羽数に占める経営形態別の割合は、インテグレーターの自社農場が1割、インテグレーターの契約農家が7割、インテグレーターと契約していない独立農家が2割としている。インテグレーターの自社農場の割合が低いのは、投資の抑制と、疾病発生時のリスク低減が理由とされている。

農家がインテグレーターと契約を結ぶには、一定条件を満たす必要があり、例えば、CPIでは、最低2万羽を飼養できる土地と鶏舎(11×120メートル)の保有の他にきれいな水と電力を十分に確保できることが条件となる。契約農家は、初期投資はかかるものの、販売先が確保されることから、バイヤーやコレクターと呼ばれる流通業者に安く買い叩かれることがなく、また、万一にAIなどの疾病による損失が発生してもインテグレーターがその損失分を負担するため、経営は比較的安定する。

大手インテグレーターは、契約農家に対し、自社の技術指導員が生産資材などの供給、技術指導、鶏舎の修理などを行っている。鶏舎の修理は、社会貢献の一環として独立農家にも行うことがある。

独立農家は、5000〜2万羽規模の飼養施設しか有していない小規模農家が多く、インテグレーターやポートリーショップと呼ばれる小売店から生産資材、初生ひななどを購入し、一定期間肥育した後、伝統市場などに出荷している。

養鶏農家協会(GOPAN)(注)によると、これらの農家の多くは資金力に乏しいため、十分な衛生管理を行えず、経営規模拡大も難しい状況という。中には、大手インテグレーターの従業員が独立してブロイラー経営を開始した事例もあるが、その数は少ない。

(注):低所得層の小規模養鶏農家の経営改善のために組織された協会で、政府に対し、ブロイラー販売価格下落時の支援、鶏舎設備の投資への支援や技術支援などの要請を行う。また、大手インテグレーターなどに対しても鶏肉の独占供給に反対する目的で抗議デモを行う。現在の会員数は17万人。

(3)ブロイラーの収益性

粗収益は、5000羽当たり1億7595万ルピア(約158万円)となっており、ほぼ全てがブロイラーの売却益となっている(表2)。

096a

生産費については、飼料費が6割弱、初生ひな購入費が2割強と、この二つの費用で約8割を占めている。配合飼料原料の半分をトウモロコシが占めるが、後述する政府による国内トウモロコシ農家の保護政策により、飼料会社のトウモロコシ調達価格は上昇している。

利益については、5000羽当たり4854万ルピア(約44万円)となっている。ブロイラー事業は、初期投資が必要であるが、肉用牛経営などと比べて出荷サイクルが短く、飼養が容易なため新規参入者も多い。実際に、ブロイラー農家の7割弱は、経営開始から5年以内の者である(図4)。経営規模の拡大について、農業省のアンケートによると、全体の6割弱は追加投資をしないと回答しており、その理由としては「追加投資に興味がない」が最も多かった。一方、追加投資に積極的で、銀行などの金融機関や個人から融資を受けて経営規模の拡大を図っている者もいる。

096b

なお、地鶏は、生産量が少なく希少性があることやブロイラーに比べて肉質が優れていることから、高価で取引されており売却益は高くなる。

(4)家きん類のAI対策

インドネシアでは、家きんのAIの感染が、2004〜17年まで継続して毎年確認されている。2005年には、人への感染事例も発生し、大きな社会問題となった。

この事態を重く見た当時の政府は、ワクチン接種を含めた感染拡大の防止を図るとともに、日本、オランダなどからの支援を受け国立家畜疾病診断センターを設立し、病原体のモニタリングと診断を開始した。国を挙げてAIの封じ込めに注力した結果、2007年以降発生件数は減少傾向にあり、2017年の発生は127戸、2万4510羽となっている(図5)。家きんのAIによるへい死数は、アヒル、ブロイラーの順に多くなっている。AIの発生は1〜4月の雨季に多く、農業省衛生課の担当官は、高温多湿によるストレスや洪水による汚染物質のまん延を理由として挙げている。

097a

農業省衛生課は、家きんの飼養農場を4区分し、バイオセキュリティ対策の水準を定めている(表3)。セクター1または2の分類は、インテグレーターの種鶏場、直営生産農場や契約生産農場。セクター3は独立農家。セクター4は地鶏および水きん類農家。セクター4の農家は、地鶏やアヒルなどを放し飼いで飼養しており、バイオセキュリティに対する農家の意識は極めて低い。農業省衛生課は、セクター3の農家に対し、モデル農場を活用してバイオセキュリティの重要性を指導している(写真3)。

097b

098a

具体的には、外部区域、移行区域、養鶏区域の3区域に分け、外部区域から移行区域に入る際は、受付、靴の履き替え、人および車両の噴霧消毒を、移行区域から養鶏区域に入る際は、シャワー入浴、服と靴の履き替え、噴霧消毒を行い、病原体を養鶏区域に持ち込まないよう指導している。バイオセキュリティの強化は、衛生管理の水準を向上させることから、薬剤量の削減も期待でき、1羽当たり1200ルピア(約11円)のコスト削減効果が期待できるとしている。

また、同課は、疾病の侵入リスクの低減や早期発見のため、コンパートメントも認定している。コンパートメント化とは、ひなの供給、肥育、輸送、食鳥処理などの一連の生産工程において、バイオセキュリティ、モニタリング、通報、トレーサビリティなどの管理措置を高レベルで行うことにより、万一に疾病が発生しても清浄区画と発生区画を明確に識別できるよう施設などを区画分けすることである。2017年にセクター1または2に分類されている118カ所の農場が同認定を取得している。

コラム ハラル認証制度の変更

インドネシアの人口の約9割は、イスラム教徒と言われている。イスラム教徒が食する食材や料理は、イスラム法上で許されるものを意味する「ハラル」でなければならない。

インドネシアにおけるハラル認証においては、宗教機関であるインドネシアウラマー評議会(MUI)が検査機関を設立し、認証と保証を行っている。ハラル認証は任意規格ではあるが、食肉に関してはイスラム法にのっとって処理を行い、ハラル認証を取得しなければならない。同法にのっとって処理されていない食肉は、許されないもの「ハラム」として禁じられているためである。

2014年には「ハラル製品保証法」が制定され、宗教省内にハラル製品保証実施機関(BPJPH)が設立されることが決定され、これまでMUIが行っていた認証の権限は、行政に移管されることになった。同法は、5年間の準備期間を経て2019年に施行される。これまで任意であったハラル認証ラベルの貼付けが、原則として義務付けられ、食肉はもとより、食肉以外の食品、飲料、化粧品、医薬品などに幅広く適用されることになる。

今回の調査において、量販店やコンビニエンスストアで販売されている鶏肉製品にはハラル認証ラベルの貼付けは確認できなかった。おそらく、国内で流通する国産食肉に対しては、MUIの認証施設で適切に加工処理されているという前提があるため、消費者は、それほど認証ラベルの貼付けの有無を気にしていないと思われた。一方で、外資系レストランなどは、消費者に対する信頼醸成を図るため、看板やメニューなどにハラル認証マークを表示してアピールを行っていた(コラム写真1)。一方、中華系などイスラム教徒以外の住民もいるため、量販店では豚肉も販売されているが、豚肉売場は隔離されて目立たない場所にあった(コラム写真2)。

099a

3 インテグレーターの概要

インドネシアの主なインテグレーターとしては、CPI、ジャプファ・コンフィード・インドネシア(JAPFA)、MALINDOなどが挙げられる。これら企業の出自は配合飼料生産であり、各社の公表資料と2016年の全国の配合飼料生産量から推測すると、CPIとJAPFAの2社で全体の6割程度の配合飼料を生産している。インテグレーター各社は、原種鶏(GPS)場、種鶏(PS)場、食鳥処理場、鶏肉加工場などへの投資を積極的に行い事業規模の拡大を図っており、ブロイラー産業の発展を支えている。

農業省の資料によると、現時点の全国のブロイラーの種鶏場数は、原種鶏場が7州14農場、種鶏場が23州64農場(採卵鶏含む)。原種鶏場を保有するインテグレーターは限られており、他のインテグレーターはPSを購入している。

表4は、今回の現地調査で上記3社に対して聞き取りを行った結果をまとめたものである。また、その中からJAPFAを事例として報告する。

100a

(1)JAPFAの概要

JAPFAは、シンガポールに拠点を置くジャプファグループのグループ会社で、1971年に設立され、インドネシアにおいて飼料、養鶏、鶏肉加工、水産、肉用牛などの事業を展開している(表4)。配合飼料工場は、インドネシアに16カ所あり、生産能力は年間500万トンとなっている。また、ジャプファグループは、インドネシアのほか、ミャンマー、ベトナム、中国などにもグループ会社があり、近々バングラデッシュにおいて飼料会社を設立する予定である。

(2)直営ブロイラー農場(バンテン州)

JAPFAの直営農場で、ジャカルタ市に一番近いバンテン州にある農場を訪問した。1ヘクタールの敷地内に4棟の鶏舎があり、最大飼養羽数9000羽の鶏舎(7メートル×70メートル)が3棟(写真4)、同2万9000羽の2階建て鶏舎(7.5メートル×120メートル)が1棟で、最大5万6000羽を飼養できる。従業員は、全11名で、農場管理者は、敷地内の住居で家族と暮らしている。

101a

出荷の際は、人手が足りないため、近隣住民を一時的に雇用している。出荷日齢は27〜30日、出荷体重は1.4〜2.3キログラム。生産羽数の半分は、後述するバンデン州タンゲラン県にある関連会社のSO GOOD社に出荷し、残りは流通業者に販売している。

一見すると木造建築の古めかしい鶏舎のように見えたが、前所有者から購入した際に野鳥や害獣対策のためウインドレス鶏舎に改築したり、同国の熱帯性気候による暑熱ストレスを軽減させるためのさまざまな対策がとられていた。具体的には、気化熱を利用した冷却パッドから入気した空気を妻側に設置した換気扇で吸引することで、鶏体に直接風を当てて体感温度を下げているほか、室温を下げるため細霧器を利用している(写真5)。

101b

本社の社員が2カ月に1回各農場を調査し、成績の良い農場には賞与が与えられるなど、職員の意欲を高め、飼育管理水準の高位平準化を図っていた。

(3)SO GOOD社:CIKUPA食鳥処理兼鶏肉加工場

SO GOOD社は、ジャプファグループのグループ会社で、生鮮肉や加工品を「SO GOOD」のブランドで販売している(表4)。販売先は、国内のコンビニエンスストア、量販店、外食チェーンなどとなっている。2015年に日本の農林水産省から家きん肉などの日本向け輸出用加熱処理施設の認定を受けているが、これまでのところ輸出実績はない。CIKUPA工場長は、AI発生以前に日本企業向けに生鮮鶏肉を輸出していた実績を生かし、現在、取り引きに向けて日本企業にチキンナゲットのサンプル品を提供したとしている。

工場から200キロメートル圏内の西ジャワ州の契約農家から1日当たり2万5000~3万羽のブロイラーを集荷し、食鳥処理場で処理した後、生鮮鶏肉または併設の加工場で加工処理して販売している。集荷から生鮮鶏肉生産までの工程は図6のとおりである。内臓、頭、足などの副産物は、流通業者を介して伝統市場などで販売され、羽は、副産物業者がフェザーミールに加工して飼料原料にしている。

102a

CIKUPA工場は、日本から輸出施設の認定を受けた施設だけあって、HACCPに基づき化学薬品による汚染、異物混入の監視および記録をしたり、加工場に入る際の消毒、作業服への着替えはもちろんのこと、45分ごとに清掃するなど衛生管理に細心の注意を払っていた。

4 飼料をめぐる動向

(1)配合飼料の生産動向

鶏肉需要の増加を受け、養鶏用配合飼料の生産量は年々増加している。2016年の配合飼料生産量は1722万トン(前年比8.3%増)で、畜種別にみると、養鶏用が全体の9割以上を占め、ブロイラー用は全体の46%を占めている(図7、8)。養豚用配合飼料の生産量は、イスラム教徒にとって禁忌とされる豚の飼育が少ないため少ない。肉用牛用の生産量は、フィードロット形態の企業や農家は存在するが、多くの農家は粗飼料主体であるため、限定的である。2018年の調査時点では、全国に97の配合飼料工場があり、そのうち82工場がインドネシア飼料協会(以下「飼料協会」という)に加盟している。ブロイラー用を製造している工場は全て加盟しており、未加盟の工場は水産飼料を製造している。

103a

インドネシアの飼料産業は好況であるため、外資は積極的な投資を行っている。韓国の飼料と食肉加工大手のハリム社は2017年、約59億円を投じてインドネシアの配合飼料工場(年間処理能力50万トン)と種鶏場を買収し、同国での飼料生産を開始している。また、中国の大手飼料会社の新希望集団は、2018年の5月までに、西ジャワ州で新たな配合飼料工場の操業を開始する予定である。

(2)配合飼料の原料

飼料協会によると、一般的なブロイラー用配合飼料の原料割合は、トウモロコシ50%、大豆油かす15%、米ぬか15%、牛肉骨粉5%、魚粉5%、その他(ビタミンやミネラルなどを含む。)が10%としている(図9)。主原料のトウモロコシの割合は日本とほぼ同じだが、大豆油かすの割合はやや低く、米ぬか、牛肉骨粉、魚粉の割合が高いことが特徴的である。主原料のトウモロコシは、ほぼ全量を国産で賄っている(図10)。大豆油かすの輸入量は、配合飼料生産量の増加に比例する形で増加している。2017年の輸入量は433万トンとなり、ほぼ全量をアルゼンチン、ブラジルの両国から輸入している。米ぬかについては、世界有数の米生産国であり精米工場で発生するものを使用している。魚粉についても、漁業が発展しているため国内で比較的安価に調達しやすい。

103b

104a

(3)トウモロコシをめぐる動向

トウモロコシは、全国各地で生産されているが、配合飼料工場が密集している東ジャワ州と中部ジャワ州で特に生産量が多い(表5)。生産量は近年増加しており、2017年は2795万トン(前年比18.6%増)となった。トウモロコシの収穫期は、地域によって異なるが、一般的には8〜10月の乾季と2〜4月の雨季の年2回となっている(図11)。

105a

2014年に就任したジョコ・ウィドド大統領は、前政権の政策を継承し、5つの戦略作物(米、トウモロコシ、大豆、砂糖、牛肉)について、国内での十分な生産により食料自給の達成を図るとしている。また、同大統領は、経済成長による恩恵が、一部の富裕層だけでなく、貧困にあえぐ資金力のない農家にも行きわたるよう、地域格差の是正と農家所得の向上に取り組むことを公約に盛り込んでいる。

この政策の一貫として、2016年3月に施行された商業大臣規程(NO.20/M-DAG/PER/3/2016)において、外国産トウモロコシ(HSコード:1005.90.90.00)の輸入制限が開始された。農業省から買付指示のあった食糧調達庁(BULOG)のみが飼料向けトウモロコシを輸入できるとされており、政府は民間企業の輸入を実質的に禁止した。同庁は、米、トウモロコシなどの輸入管理を行う権限を有しており、2016〜17年に輸入された飼料用トウモロコシは、穀物飼料が不足する小規模農家に供給された。また、同庁は、トウモロコシの最低保障価格を定める権限も有しており、トウモロコシの農家販売価格が下落した場合、同庁が最低保障価格で買い上げることより農家の経営が守られる仕組みとなっている。同庁は、輸入制限の開始とともに同価格を1キログラム当たり3150ルピア(約28円)に引き上げた。飼料協会によると、最低保障価格は飼料会社にも適用されるため、飼料会社は、国産トウモロコシを同価格以上で購入しなければならない。

さらに、農業省は、トウモロコシ農家への支援策として、肥料や種子を製造する業者に補助金を交付し、肥料や種子の小売価格を引き下げる措置などを講じている。この他、同省は、新たにトウモロコシの生産を開始する者やキャッサバなど他品目から転作する者に対し、肥料や種子を無償で給付している。こうした政府の種々の取り組みや飼料会社の需要増から、新たに作付けを開始する者や他品目からの転作者が増加しており、主産地のジャワ地域以外のトウモロコシ生産量は増加している(表5)。

(4)トウモロコシの輸入制限の影響

トウモロコシの農家販売価格は右肩上がりで推移している一方、輸入価格は2012年以降下落している(図12)。
 農家販売価格は2014年に輸入価格を上回り、2016年には、政府が講じた輸入制限などの影響により前年に比べ1キログラム当たり550ルピア(約5円)も上昇した。他方、輸入価格は継続して下落したため、両者の価格差は同約1500ルピア(約14円)と大きく開いている。飼料協会によると、2018年2月現在、飼料会社は国産トウモロコシを1キログラム当たり3800〜4150ルピア(約34〜37円)程度で購入している。

106a

飼料業界は、政府の突然の方針変更に戸惑い、年間を通じて配合飼料を安定して供給できるか危惧しており、中小規模の飼料会社の経営を圧迫する要因の一つとしている。実際に、トウモロコシの代替原料として小麦に切り替えて対応する企業も増えてきており、米国農務省(USDA)では、2017年3月~18年2月の年間のインドネシアの小麦輸入量を1250万トンと見通し、世界最大の小麦輸入国になるとしている。

しかしながら、CPIの担当者は、同社の国産トウモロコシの調達には、バイイング・パワーが働くことや、委託契約を締結した集荷業者が農家を管理指導し同社の需要量を満たせるようにしているため、輸入制限の影響は同社ではさほど出ていないとしている。

5 鶏肉の流通・販売および貿易動向

(1)流通、販売動向

鶏肉の一般的な流通構造は、今回の調査を基に整理すると図13のとおりになる。農業省の資料によると、ブロイラー生産羽数の15%がインテグレーターの保有する食鳥処理場で処理され、85%が流通業者を経由して、公共の食鳥処理場で処理されたり、生体のまま伝統市場などに流通している。流通業者は、インテグレーターや独立農家などからブロイラーを買い上げている。農業省のデータなどから推測すると、インテグレーターで生産されるブロイラーの約8割は伝統市場などに出荷されていることになり、消費者は量販店などの近代的な小売店より伝統市場で鶏肉を購入することが多いようである。東南アジア諸国では、消費者は、常温肉こそ新鮮であるという認識が伝統的に強く、冷蔵・冷凍品は新鮮ではないというイメージを持っているため、伝統市場の常温肉を好んで購入する傾向がある。伝統市場では、消費者が、ケージに入れられた鳥から好きなものを選び、その場で処理してもらうというスタイルも広く浸透している(写真6)。インテグレーターのサプライチェーン内で処理・加工された鶏肉は、同者が保有する保冷設備により、冷蔵・冷凍品として量販店やコンビニエンスストアなどに販売されており、衛生水準は他のものと比べて高い。農業省衛生課は、消費者に対し、年数回、食肉衛生に関する知識向上のための普及活動を行っており、保冷施設が完備されている近代的な小売店で食肉を購入するよう呼びかけている。

107a

107b

ブロイラー売買価格については、インテグレーターは価格交渉において流通業者に対し主導権を持っているが、独立農家などは生産規模が小さく交渉力が弱いため、流通業者の言い値で販売せざるを得ない。GOPANの担当者によると、独立農家のブロイラー1羽当たり出荷価格は1万8000ルピア(162円)とのことである。流通業者は、購入したブロイラーを伝統市場の出店者に生体で販売するか、伝統市場に併設する処理場または公営の食鳥処理場に持ち込み生鮮肉を小規模商店などに販売している。

(2)貿易動向

鶏肉生産量のほとんどは国内向けとなっており、海外への輸出はごくわずかである。日本向けについては、2004年のAI発生以降、輸出禁止となっているが、CPIを含む3企業の施設で製造する家きん肉などの加熱調製品の輸出が2014年に10年ぶりに認められた。現在、認定施設は5カ所まで増えたが、これまでのところ日本への輸出実績はない。輸出が進まない理由としては、CPIの担当者は、品質は問題ないが、競合するタイや中国産の鶏肉調製品の方が価格面で優位なためとしており、今後、国産トウモロコシの生産量が安定し、食糧調達庁による最低保障価格がなくなれば、生産コストが下がり価格競争力が高まってくるとしている。

ベルフーズ・インドネシア社は2018年3月23日、自社ホームページにて、インドネシアで初めてチキンナゲットを日本へ輸出すると発表した。同社CEOは、日本で市場調査を行い、日本人に受け入れられやすい製品を開発したことが今回の輸出につながったとし、日本人はもとより在日・訪日のイスラム教徒をターゲットとしていると述べている。また、インドネシアのエンガルティアスト貿易相は、「今回の輸出は、鶏肉調製品を国際市場へ展開するための良いスタートになる。厳格な品質基準で知られる日本へ輸出ができるのであれば、他国への輸出も容易になるだろう」と語っている。

今回調査したインテグレーター3社(CPI、JAPFA、MALINDO)ともに既に日本企業と交渉を進めており、対日輸出への関心が高いことがうかがい知れる。各社担当者のいずれも、自社サプライチェーン内では、コンパートメントに基づいた厳格な管理体制の下に高品質な製品を生産しており、価格面での交渉が上手くいけば、日本の品質基準に適合するものをすぐにでも輸出できるとしている。現在国内向けに供給しているブロイラーを輸出向けにシフトすることも可能で、また、インドネシアは若年層の人口が多く労働力を確保しやすいため、日本が求める規格にも対応できるとしている。

6 おわりに

インドネシアのブロイラー産業は、国内の鶏肉需要の増加を受け、飼料生産を出自とするインテグレーターを中心に拡大している。インテグレーターのサプライチェーン内では、コンパートメント主義に基づいた厳格な管理体制の下に高品質な鶏肉製品が生産され市場に供給されている。しかし、インテグレーターにより生産された鶏肉の多くは、流通業者を介して伝統市場に供給されている。伝統市場などに販売される鶏肉は常温で流通することが多く、必ずしも衛生的とは言えない。ただし、近年、日本企業と現地企業が協同で設立した伝統市場においては保冷施設が完備されていたり、消費者の食品衛生や品質に対する関心も少しずつ高まってきており、今後は近代的な小売店で食肉を購買する方向に変化すると思われる。こうした変化は食品衛生水準の底上げにつながり、ひいては将来の鶏肉輸出の拡大にもつながるとみられる。

一方で、今後のブロイラー産業の発展に有利となる点も多数ある。まず、配合飼料の5割を占めるトウモロコシをほぼ自給できており、今後も、中長期的に持続可能な生産を行えるようになれば、外国の相場に左右されず、トウモロコシを安定的に調達できるようになる。次に、若年層が多く安価で豊富な労働力を確保しやすい。さらに、CPグループなどタイにおいて対日輸出の実績がある企業がインテグレーターとして事業展開しているため、従業員へのカット技術の指導や製品品質の追及など日本の要求に応じた細かな対応も可能だと考えられる。

現在のところ、2004年のAI発生以後の対日輸出の実績はなく、2018年に入ってようやく第一歩を踏み出そうとしている段階だが、ブロイラー産業発展の諸条件はそろっていることから、今後、日本を含む海外への輸出が注目されそうである。


				

元のページに戻る