調査・報告 専門調査 畜産の情報 2018年3月号
中村学園大学 学長 甲斐 諭
【要約】
従来、和子牛の多くは零細な高齢農家から供給されてきた。しかし、高齢農家の繁殖牛飼養中止などにより和子牛が不足し、価格高騰が発生している。その対策として注目されているのが、酪農経営が繁殖牛を飼養する乳肉複合経営である。現地調査によれば、大型酪農経営では人手不足とそれを補完する搾乳ロボット関連のトラブル、農地集積の困難性などの課題克服が必要であることが明らかになった。
1 はじめに |
従来、和子牛を供給してきた繁殖牛の飼養者が、近年、高齢化などにより飼養が困難となり、和子牛の供給不足が続いている。その対策の一つとして注目されるのが乳肉複合経営である。
乳肉複合経営には、酪農経営が肥育もと牛価格の高騰を背景に乳用牛に和牛精液を交配し、交雑種肥育もと牛を自己生産したり、繁殖牛を導入して和子牛を生産するタイプと、酪農経営が高齢化などにより乳用牛飼養を縮小し、省力化を目的に、あるいは高騰している和子牛の生産販売を目的に、和牛の繁殖牛飼養を開始する二つのタイプがある。
本稿では、前者の事例として宮崎県に立地している大型乳肉複合経営である有限会社阿部牧場(以下「阿部牧場」という)(社長は千葉県の株式会社阿部商店代表取締役社長阿部孝男氏)を調査し、その存立要因と今後の課題、さらに和子牛増産の対策を考察する。
2 宮崎県の農業と肉用牛および酪農の概況 |
宮崎県は平均気温が高く、温暖な気候で、日照時間および快晴日数が全国トップクラスであるなどの自然条件に恵まれている一方で、農地の多くは火山性特殊土壌で覆われているので生産性が低く、台風や集中豪雨などの自然災害を受けやすい上に、大消費地からは遠隔地であるなどの不利な条件も有している。
宮崎県では上記の有利な条件を生かし、不利な条件を克服すべく、後述のように畜産業を中心に熱心な農業が取り組まれている。
図1から農家数の推移をみると、昭和55年の8万3138戸から平成27年の3万8428戸へと、35年間に4万4710戸(53.8%)も減少している。しかし、それは表1に示すように全国の同期間の減少率と同値である。農家の中でも主業販売農家数は17年の1万2588戸から27年の8940戸へと10年間で3648戸(29.0%)減少している。だがそれは全国の減少率の31.5%に比較すれば、宮崎県の減少は小さく、主業販売農家が比較的多く残って、地域農業を支えていることが分かる。
宮崎県の農業産出額は、図2に示すように昭和55年の2705億円から平成27年には3424億円と、35年間に719億円(26.6%)も増加している。それは表2に示すように、全国では10兆2625億円から8兆7979億円へと、1兆4646億円(14.3%)の減少と比較すると大きな相違である。
農業産出額の宮崎県における増加と全国での減少という大きな現象の違いを発生させた要因の一つは、畜産部門の構成比の違いに起因する。昭和55年から平成27年の35年間にかけて畜産部門の構成比は54.5%から61.2%に大きな比重を占めるようになってきたが、全国では31.4%から35.4%に増加した程度である。
宮崎県においては畜産に比重を移すように農業の構造を変化させたことが農業産出額を増加させた要因である。宮崎県においては畜産部門が農業産出額の増加に大きく貢献していると言えよう。
畜産部門のどの畜種が産出額の増加に貢献したのか検討したのが表3である。昭和55年から平成27年の35年間にかけて肉用牛は81.4%、ブロイラーは66.6%、豚は16.5%伸びたが、乳用牛と採卵鶏は逆に減少している。肉用牛とブロイラーの農業産出額への貢献度が高いことが判明した。
宮崎県農業に大きく貢献してきた肉用牛飼養は、図3に示すように平成21年には29万7900頭まで増頭していたが、不幸にして22年の口蹄疫発生により、肉用牛が大量に殺処分されたために、23年には23万9700頭まで減少した。
その後の各種施策の展開により、24年には25万1200頭まで回復したが、それ以降は伸び悩みに直面している現状にある。低迷の主要な原因は、高齢化による少頭数飼養農家の離脱である。その結果、図4に示すように10頭以上飼養農家の割合が増加している。以上により、今後も経営規模の拡大支援を強化していく必要があることが分かる。
平成27年の全国の肉用牛飼養頭数は248万9000頭のうち、宮崎県は24万9000頭と、全国に占める宮崎県の肉用牛飼養頭数のシェア(宮崎県の肉用牛飼養集中度)は10.0%である。
一方、27年の全国の144家畜市場における黒毛和種の家畜市場売買頭数は37万9013頭〔※〕であり、また図5に示すように宮崎県の8家畜市場におけるそれは6万1556頭であるので、全国に占める宮崎県の家畜市場売買頭数のシェア(宮崎県の子牛出荷集中度)は17%である。
宮崎県の子牛出荷集中度を肉用牛飼養集中度で除すと1.7(=17%÷10%)となる。この1.7が宮崎県の子牛出荷特化係数である。宮崎県の子牛出荷は全国平均の1.7倍も特化していると言えよう。
図5から明らかなように、市場へ出荷された6万1556頭の子牛は60.7%が県内に保留され、残りの39.3%が三重県、佐賀県、鹿児島県、滋賀県、山形県などの主要な肥育地帯に販売され、わが国の和牛肉生産を支えている。
宮崎県は上記のように子牛生産に特化した県であるとともに、近年、同県からの牛肉輸出量が急増しており、27年度には図6に示すように208.6トンになり、全国の1583トンの13.2%のシェアを占めるまでになっている。宮崎県は「世界の和牛の故郷」の一つである。
宮崎県における酪農の推移を、図7は如実に示している。乳用牛飼養戸数は、昭和55年の1350戸から平成28年には262戸と、36年間に1088戸(80.6%)も減少している。しかし、それは表4に示すように全国の減少率(85.3%)より小さい。また、同期間に乳用牛飼養頭数は、3万1300頭から1万3800頭へと、55.9%も減少している。これは全国の減少率の35.7%より大きい。
1戸当たり飼養頭数は23.2頭から52.7頭へと増加しているが、それは北海道を含む全国より小規模である。しかし、規模拡大は確実に進展しているので、今後は宮崎県でも酪農経営の少数精鋭化を推進する必要がある。
3 千葉県に立地する株式会社阿部商店の宮崎県での経営参入の経緯 |
千葉県に立地する牧草・飼料販売の総合商社である株式会社阿部商店(以下「阿部商店」という)は昭和36年に創立され、それ以来、飼料販売を全国的に展開し、専門家以外には品質の判定が難しい輸入牧草の販売を中心に、誠実な営業を継続し、合理化と改革を進め魅力ある商品を開発して、それを迅速に農家に届けることによって全国の利用者から厚く信頼され、高い評価を受けてきた。
約15年前に、阿部商店は宮崎県都城市で経営していたある酪農家にコンテナ1本分の輸入牧草(約100万円相当)を毎月販売していた。その酪農家が農協組織の支援を受けて地元農家に販売するTMRセンターを開設することになり、阿部商店は毎月コンテナ20本分の輸入牧草(約2000万円相当)を納入することになった。
しかし、開設から3カ月で牧草販売の支払いが滞り、調べると約8億円の負債を抱えていることが判明した。熟慮の結果、その牧場と約8億円の負債を引き受けたことが、阿部商店が酪農経営を開始した理由である。
阿部商店が負債を引き受けたことにより、農協組織などは債権を保全することができ、地元への影響は回避され、地域から感謝された。
その後、平成14年に阿部牧場へ名義変更して以降、15年間堅実な酪農経営を展開することにより、またここ4年間は有能な部長の懸命な指導により、最近では経営が黒字に転換している。以上が、阿部商店が酪農経営に参入した経緯である。
酪農経営を開始したものの平成13年に発生したBSEの影響により、交雑種のヌレ子の価格が暴落し、販売にも苦慮した。その時、阿部商店の輸入牧草の販売先でもある飼料販売・肉牛預託業者から、交雑種ヌレ子の預託肥育をあっせんされ、他の農家へ預託することにした。
しかし、預託した肥育牛を食肉処理場でと畜してみると、痩せており、肉質も最悪であることが判明した。それは預託先の農家が飼料を牛に充分与えておらず、また飼料販売・肉牛預託業者も管理不行き届きであったために発生した事態であった。その反省を踏まえ他人に任せることの危険性を痛感していた。折しも、その時点で近隣の酪農家2戸が経営に行き詰まり、牧場の買い取りを依頼されたので、その牧場2カ所を買収し、牛舎を酪農用から肥育用に改修して、17年からは阿部牧場自ら交雑種の肥育を開始した(写真1)。
当初、阿部牧場の搾乳頭数は約200頭(搾乳量約5トン)であったが、約8億円の負債は輸入牧草の販売だけでは容易に回収できないため、さらに搾乳頭数を増やす必要があった。しかし、労働力に限界が発生し、中国人研修生を引き受けたが、種々の制約があったので、ヨーロッパ製の搾乳ロボットを2台導入することにした(写真2)。
だが、その搾乳ロボットの配線を牛舎内のネズミがかじり、漏電してたびたび故障した。また、しばしば雷によっても搾乳ロボットのシステム基盤が破壊され、その修理に約200万円を要したこともあった。
さらに台風による停電のため、搾乳ロボットが1日半機能せず、搾乳牛400頭の1日3回の搾乳ができず、泌乳サイクルを狂わせるなど大きな被害が発生したこともあった。この停電に際しても電力会社は特別な復旧対策を講じてくれず、農協からの補償も無いままであった。大型の自家発電機の設置が必要になっている。
平成23年8月に経営破綻した大規模畜産業者に肥育牛舎用に土地を貸していた友人から牛舎の再利用を依頼され、肥育牛舎を繁殖牛舎用として24年に借りることにした。これが、阿部牧場が和牛繁殖経営を開始した理由である。同牛舎には電気も引いてなく、給水施設も少なく、牛には劣悪な環境であったが、約5000万円を投資して、繁殖牛牧場へ改修し、26年に繁殖牛を導入している(写真3および4)。
また、22年に宮崎県で発生した口蹄疫の影響で、和子牛の価格が安く、子牛の購入が比較的容易であったことも遠因として影響していたものと思われる。
阿部牧場では平成28〜29年に約2億数千万円の投資をして、交雑種肥育牛舎(300頭収容)を建築し、酪農部門も増築して、搾乳ロボット4台を新調している。うち3台は国のリース事業で導入し、1台は自己資金で導入している。
搾乳ロボットの導入費用は、1台2500万円(償却期間は5年)であり、また年間120万円のメンテナンス料を要し、さらに雷などでシステムの基盤が故障すれば交換に30〜40万円が必要になる。これらの増嵩する経費に見合う規模の確保が必要になっている。
しかも、搾乳牛のうち約10%は搾乳ロボット不適合牛(ロボットを嫌悪する牛、乳器が合わない牛、治療牛)がいるので、搾乳パーラーも付随的に必要であり、それが労働費と諸経費の負担を増加させている。
4 阿部牧場の乳肉複合経営の現状 |
阿部牧場における飼養頭数の推移を表5に示す。平成24年度当時は搾乳牛403頭、交雑種肥育牛625頭であった。26年度からは、和牛の繁殖牛の飼養を開始したので、搾乳牛を400頭以下に減らしている。
平成29年6月時点では搾乳牛373頭、交雑種肥育牛516頭、繁殖牛227頭となっている。表6に示すように阿部牧場の生乳生産量は毎年度約3000トンを超える。今後4000トンの生乳生産を目標にしている。1日1頭当たり平均乳量は31.08キログラムである。
搾乳牛と繁殖牛を合わせた計600頭が子牛を生産できる母牛であり、阿部牧場の大型乳肉複合経営としての基本的基盤である。
阿部牧場では、酪農用の後継牛である初妊牛の購入価格や和子牛価格の動向をみながら、乳用牛と和牛の生産比率を決めている。平成29年7月現在、北海道十勝での初妊牛価格は1頭当たり87万円であり、それを宮崎県都城市まで1台のトラックに15頭積載して運搬すると輸送保険料を含めて導入価格は約100万円になる。あまりにも北海道からの導入価格が高騰しているので、近々、豪州から7頭の雌牛を導入予定である。
導入価格が高騰しているので、阿部牧場では搾乳牛の約10%に雌雄判別精液を用いて、約5%の雌子牛を毎年確保していく方針で経営している。それ以上の乳用牛を生産すると、交雑種肥育もと牛の確保が困難になり、肥育経営に影響が生じてしまう。総合的視点に立って乳肉複合経営に取り組んでいる。
阿部牧場では430頭の乳用牛を飼養可能であるが、北海道からの後継牛の価格高騰、豪州から導入する後継牛のヨーネ病などの問題があり、急速な多頭化を控え、徐々に多頭を図る予定である。搾乳牛を密飼いすると1頭当たり乳量が減少したり、病気になりやすいので、牛の環境を良くするために搾乳牛の飼養頭数を削減している。
繁殖牛についても、高齢牛を販売して、自家産の雌子牛を保留することによって徐々に多頭化を図る予定である。自家保留は多頭化のスピードは遅いが、牛白血病の感染を回避できるメリットがある。
九州の季節別生乳価格の格差は大きく3月は1キログラム当たり91.65円であるが、需要の多い9月では121.45円となり、3月と9月の価格差は29.8円である。乳価の高い9月に増産するとなると7月ごろの夏に出産させることになり、母牛に大きな負担を強いる場合もあるため、適切な飼養管理が求められる。
阿部牧場の総農地面積は、酪農を営んでいる3ヘクタールを含めて約20ヘクタールである。そのうち、粗飼料栽培用耕地は貸し出している。その理由は親会社の阿部商店から牧草を購入するからである。また、牧草を自ら栽培すると労働力が必要になり、その労働力の確保が困難であるためである。
当初は耕地を購入してふん尿処理場として利用していたが、3分の1補助の県単事業、2分の1補助の口蹄疫対策補助事業などを利用して堆肥センターを建設したことに伴い不要となり、貸し出している。堆肥センターで処理した堆肥は耕種農家に販売するとともに、戻し堆肥として不足している敷料の代用として利用している(写真5)。
労働力については酪農部で社員6名(うち人工授精師4名)とパート1名、肥育部では社員3名、繁殖部では社員3名、事務では社員3名、飼料部では社員4名の雇用になっている。4台の搾乳ロボット(株式会社コーンズ・エージー社製 LELY ASTRONAUT)の導入により、作業が省力化されていることもあり、比較的少人数の経営となっている。
以前は、外国人研修生を受け入れていたが現在は中止している。
約3500万円を投じて、冷暖房機付きの個室10部屋を持つ寮を建設しているので、雇用者の受け入れ準備は整っているものの、市内から遠いということもあり、自動車所有者しか現実には住み込めない状況である。
平成25年ごろから子牛価格が高騰しているので、繁殖部門導入はメリットが大きい。毎月、去勢子牛だけを8〜10頭出荷しているが、雌子牛は自家保留して拡大再生産のための資源にしている。将来が楽しみである。
また肥育部門については、前述のとおり、ヌレ子の価格がBSEの影響などで暴落し、また預託農家における飼養管理の不手際から枝肉販売も順調でなく、自ら交雑種肥育を開始せざるを得ない状況であったものの、結果的には24年からの枝肉価格高騰に支えられて乳肉複合経営は順調に推移している。
17年5月には酪農を廃業した近隣農家の農地や古い牛舎を購入し、増改築し、さらに2棟の新築により、第2牧場とした。さらに、29年5月には300頭収容の肥育牛舎を約8000万円投資して建設している。自家産の交雑種ヌレ子をモネンシンフリーで肥育後、27カ月齢で福岡食肉市場に出荷し好評を博している。
阿部牧場の平成28年度の年間販売総額は8.14億円である。このうち、肉用牛部門である交雑肥育牛と去勢子牛の販売額は合計で約3.6億円であり、酪農部門である生乳の販売額が約3.5億円、TMRセンターでの作業請負が1.04億円である。
以上の成果は、大型乳肉複合経営の成果として高く評価できよう。
5 新たな大型乳肉複合経営の課題 |
農地利用に関して、借地において牛舎を建築する際の農地転用許可に長い時間を要する場合がある。また、農地に粗飼料を栽培しようとしても、耕地の区画が小面積であり、農道も狭隘であるために、大型農機を利用できず、飼料作物の栽培を断念している例もある。
農地を購入しようとしても、農地の名義変更をしていない農家が多く、事務処理が煩雑になり、結果的に迅速な対応ができなくなっている。
その点、阿部牧場の場合は、親会社の阿部商店が輸入牧草の総合商社であるので、自給粗飼料の生産が不要になっている(写真6)。
阿部牧場では、恒常的に労働力不足となっている状況である。現在の従業員は地元とそれ以外の方が半々である。
大型畜産経営は比較的市街地から遠隔地にあることが多く、コンビニなどが近くになく、バイクや自動車の運転免許がないと通勤が不便であり、孤立感が深くなり、就業に耐えなくなる心理的状況になると思われる。
搾乳ロボットは労働力不足解消に有効であるだけではなく、乳量の増加にも貢献している。阿部牧場の場合、ロボット搾乳とパーラー搾乳を含めた全平均乳量は1日当たり31キログラム(年間約9000キログラム)であるが、ロボット搾乳に限れば37キログラムとなっている。ロボット搾乳の方が牛へのストレスが少なく、乳量に応じて濃厚飼料給与量を増減させていることが影響しているものと思われる。
しかし、搾乳ロボットの導入費用は一台約2500万円と高価であり、メンテナンス料も毎年120万円ほど必要となるので、コストアップの要因になっている。それをカバーするには多頭化する以外にないが、多頭化すれば搾乳ロボット不適合牛が増え、搾乳パーラーを増設する必要性が発生し、同時に労働力が必要になる。そもそも酪農は全ての作業を機械化できないので、人力が必要になるが、人力確保には上記の雇用者確保の困難性が壁になる。
また、阿部牧場では、搾乳ロボットを利用するなかで配線をかじるネズミの被害や突発的に発生する雷の被害を受けたこともある。ネズミ対策に多数の猫を飼ったとしても、夏には猫も冷涼な場所を好むので、万全なネズミ対策となっていない。
また、停電などによる搾乳ストップは搾乳牛の乳房炎などの原因になる。また、停電すれば貯乳しているクーラーの冷却がストップし細菌増殖の原因になる。これらの問題を克服するには大型発電機の設置などが課題になる。
多頭化すれば、それに伴い粗飼料が必要になるが、そのための労働力を確保しなければならない。耕地については、大型農業機械を移動させる農道が狭く、小型機しか利用できない場合が多い。小区画の耕地での栽培では非効率となり、輸入粗飼料に依存する方が効率的となる場合もある。そうすれば農地から離脱した畜産経営となり、ふん尿の農地還元が不可能になる。
前述のとおり、阿部牧場では堆肥センターを建設し、乾燥した堆肥の一部を戻し堆肥として不足している敷料の代用品として再利用している。残りの部分は販売しているが、近隣には畜産農家が多く、販売に苦労している。
大型畜産経営からは常時堆肥が製造されるが、利用する耕種農家の堆肥施用時期は春と秋に限定されるため、堆肥供給の通年性と需要の季節性のミスマッチを回避するには、堆肥の輸出も考慮すべき課題である。
最近ではバイオマス発電により間伐材が高く買い取られているので、畜舎用の国内敷料であるおがくずが不足する結果になり、現在ではベトナム産が利用される例もある。
阿部牧場の経営者は、千葉県にある阿部商店の代表取締役社長である阿部孝男氏である。しかし、阿部氏は農業経営基盤強化促進法に基づく認定農業者に認定されていないため、同法による認定農業者に対するスーパーL・S資金などの低利融資制度、農地流動化対策、担い手を支援するための基盤整備事業、農業者年金の保険料助成などの各種施策の対象外となっている。
阿部牧場のように倒産した農家、離農した農家の施設と農地を有効活用して、地域住民を雇用している大型経営の経営者に対する弾力的な対応が課題である。
6 おわりに |
今、わが国においては、和牛繁殖農家の高齢化などにより、和子牛の供給不足が問題になっている。その対策の一つとして乳肉複合経営が注目されている。
以上の阿部牧場の現状分析により、大型乳肉複合経営には和子牛拡大再生産の可能性が高いことが判明した。しかし、上記のように大型乳肉複合経営には技術的ならびに制度的な課題もあることが明らかになった。これらの課題の早急な改善が望まれる。
【追記】
現地調査に際しては、株式会社阿部商店代表取締役社長 阿部孝男氏および営業部長 木久美子氏が、わざわざ千葉県から宮崎県都城市までお越しいただき、貴重なご教示を賜った。さらに公益社団法人宮崎県畜産協会にも種々ご高配をいただいた。記して、皆様に御礼を申し上げ、感謝の意を表します。