調査・報告 専門調査   畜産の情報 2018年5月号


世代間連携を核とした
地域内和牛一貫生産の取り組み
〜秋田由利牛の展開と地域農業の振興〜

中村学園大学 流通科学部 准教授 中川 隆



【要約】

 全国的に繁殖農家の高齢化が著しく、肉用牛経営を諦める農家が増加する中、秋田県由利本荘市では、若手農家が親世代とうまく連携し、繁殖雌牛増頭に奮闘している。
 本事例は、若手繁殖農家と飼料生産および肥育を担う親世代による支援・育成という世代間連携を核とした地域内和牛一貫生産の取り組みを、地域ブランド牛の生産振興ひいては地域農業の振興につなげている好例である。

1 はじめに

わが国の和牛生産において、高齢化に起因する繁殖農家の廃業などにより、繁殖雌牛の頭数が減少し、これの維持・増頭が大きな課題となっている。このような中で、秋田県由利本荘市では、若手農家が親世代とうまく連携を図りながら、繁殖雌牛の増頭に奮闘している。元来、由利地域は年間約2000頭の和子牛を供給する有数の繁殖地として知られ、近年においては、耕畜連携を促す「秋田由利牛」の生産振興が行われている。

本稿では、「秋田由利牛」を事例に、地域内和牛一貫生産の取り組みの実態と課題を検討する。とりわけ、肉用牛繁殖を担う若手農家の取り組みを中心に、彼らを飼料生産・肥育の両面から支援する親世代との連携といった視点を踏まえ、考察したい。

2 秋田由利牛の生産・流通の実態

(1)地域の概要

秋田県の由利地域は県南西部に位置し、由利本荘市とにかほ市から構成される(図1)。南に鳥海山、西に日本海を望み、四季折々の多彩な自然に恵まれた地域である。同管内の総面積は1451平方キロメートルで県全体の12.5%を占めており、由利本荘市の面積は1210平方キロメートルで県最大の市町村である。

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(2)ブランド化の背景と定義

前身の「由利牛」という黒毛和牛ブランドが1997年の農協(現在の秋田しんせい農業協同組合(以下「JA秋田しんせい」という))肥育部会の設立に併せて創立されている。その後、秋田由利牛協議会(以下「協議会」という)が2006年2月に設立されている。協議会会員は現在26名で、会長は由利本荘市長が務めている。主な活動内容は、秋田由利牛に係る(1)調査・研究の実施(2)流通・販売促進の実施(3)消費拡大の推進(4)生産拡大の推進である。

「秋田由利牛」は2007年3月、地域団体商標に登録されている。元来、由利地域は繁殖地域であることから肥育農家戸数は少ない。なるべく出荷する子牛を地域にとどめ、地域で消費したい意向があり、戦略的にブランド化を促そうとする背景があった。現在、当該ブランド牛は県を代表する銘柄牛となっており、定義は以下のとおりである。

(1)JA秋田しんせい由利牛肥育部会員の飼育した黒毛和牛である。

(2)あきた総合家畜市場に上場されたもと牛を基本とし、他地域から導入の場合は飼養期間を20カ月以上とする。

(3)肉質等級が5等級および4等級とし、3等級の場合は30カ月齢以上とする。

(4)出荷6カ月前から飼料用米を1日当たり1キログラム以上給与しているものとする。

(3)地域における飼料用米の生産・利用動向

従来、秋田由利牛には飼料用米が給与されており、当初から生籾SGS(ソフトグレインサイレージ)の生産・利用に取り組んできた。飼料用米の流通は、耕種農家と畜産農家との相対取引であり、クローズドなものであった。その後、飼料組合の法人化により、耕種農家への飼料用米の作付け依頼、法人による全量買い取り、畜産農家への販売という形態をとるようになった。

飼料用米の作付面積の拡大に伴い、備蓄も増えてきた。表1は、秋田県における稲WCS(ホールクロップサイレージ)および飼料用米の生産面積の推移を示している。稲WCSの生産が先行していたが、近年、飼料用米の生産拡大は著しく、2016年度の生産面積は3150ヘクタールである。由利本荘市では管内15戸の耕種農家で飼料用米生産に取り組んでいる。SGSを給与した牛肉には、うま味が増すなど食味改善の効果も期待されている。

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飼料用米の主な利用先は、後述の株式会社ゆりファーム(以下「ゆりファーム」という)などの肥育経営である。前述のとおり、「出荷6カ月前1日当たり1キログラム以上飼料用米給与」が、秋田由利牛のブランドの要件になっている。同管内でSGSは10アール当たり800キログラム(生籾)(10アール当たり600キログラム(乾籾))生産され、1キログラム当たり40円で販売されている。

乾燥した籾米はその後の加工が難しい。水分を吸収するにも時間がかかる。稲SGSの生産は出来秋の収穫後、雨天が多く、限られた期間に集中する。発酵させたものには相応の価値がある。詳しくは後述するが、ゆりファームのTMRセンターでは、乾燥籾米で十分である鶏などとは異なり、肥育牛には発酵させた胃にやさしい飼料を追求している。

(4)生産・流通の実態

由利地域では、肥育農家13戸で1190頭の肉用牛を肥育している。このうち、秋田由利牛として出荷する農家は5戸であり、年間出荷頭数は209頭(2016年度実績)である。

秋田由利牛取扱指定店の認証制度は2011年度に開始している。指定店の要件は、(1)協議会が認定する4社の卸業者((有)秋田かまくらミート、(株)大商、(株)肉の若葉、(株)秋田県食肉流通公社)から仕入れること(2)秋田由利牛を常時取り扱っていること(3)年間取扱量がおおむね100キログラム以上であることなどである。2017年8月現在、指定店は飲食店26店、販売店15店が認証されている。図2に秋田由利牛と関連する地域ブランド牛の流通チャネルを示す。

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(5)小売りの実態

小売りの実態について、秋田由利牛取扱指定店である株式会社本荘消費を視察した(写真1)。当該店舗は由利本荘市内に立地しており、創業開始は1992年である。資本金は1825万円、従業員数は41名である(2017年8月現在)。

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食肉別にみた売上比率は、牛肉3割、豚肉5割、鶏肉2割である。牛肉は全て秋田県産和牛肉であり、豚肉も全て同県産である。鶏肉は岩手県産が主で、比内地鶏を扱っている。

秋田由利牛の販売は、前述の肥育部会設立が契機であり、後述のゆりファーム板垣幸三氏が発起人である。現在、和牛肉の取り扱いのうち6〜7割は秋田由利牛で、残りはそれ以外の県産和牛である。当該ブランド牛の2017年度4〜7月の取扱量は1600キログラムである。

また、部位別にみた販売単価(100グラム)は、ロース1200〜1400円、肩ロース680〜720円、外モモ650〜700円、バラ580〜620円、切り落とし450〜600円であった。

3 地域をリードする若手繁殖農家(1)〜堀内農場〜

(1)経営の概要

経営主の堀内拓也氏(32歳)は2009年6月に就農し、2011年に認定農業者となっている(写真2)。現在、JA秋田しんせい和牛青年部会幹事である。労働力は、拓也氏と経理などを担当する妻、両親、伯父の5名に加え、雇用3名の8名であるが、実質的には5名で運営している。肥育部門を担う父の忠氏とともに親子で経営を行っており、繁殖肥育一貫を実現している。

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2017年8月現在、繁殖雌牛59頭、肥育牛50頭、育成牛4頭を飼養している。ほかに3000羽の比内地鶏生産、水稲作(3ヘクタール)を行っており、飼料用米は30アールを作付けしている。草地面積(主にオーチャード、イタリアンライグラス)は18ヘクタールであり、4棟の牛舎(肥育・繁殖1棟、繁殖1棟、育成2棟)がある。80頭規模への繁殖雌牛の増頭を考えているが、これまで敷地をフル活用し牛舎を建築してきた経緯があり、目下、施設用地の確保が課題である。

(2)繁殖経営の経緯と特徴

就農当初、繁殖雌牛の飼養規模は20頭程度であった。2015年度に県の事業を活用し、繁殖雌牛30頭を導入している(写真3〜6)。近年、大幅な増頭を図っており、由利地域では最大規模である。後述の父親が担当する肥育牛の年間出荷頭数は約30頭であり、うち約8割が秋田由利牛として出荷される。

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繁殖雌牛増頭への経緯については、肥育のみでは採算が取りづらいことから、経営として採算が取れる一貫経営に切り替えたものである。

現在、牧草の刈り取り・反転は拓也氏自らが行っている。牛舎を不在にすることも多く、牛温恵(2015年導入)を利用した分娩監視、牛歩システム(2016年導入)を利用した発情発見を1人で担っている。牛温恵の導入によりピンポイントで分娩が分かるようになるなど、労働負担軽減に大きく寄与し、分娩事故も少なくなった。牛歩システムについては使い方を模索している段階である。

給与飼料は、一般メーカーの配合飼料を利用するとともに、後述するゆりファームで生産される飼料(子牛用のTMR混合飼料スーパーゆりBB、繁殖雌牛用のTMR混合飼料デイリースペシャル)を利用していることが特徴である。

(3)子牛出荷の実態

子牛は、2012年4月に県内3カ所の家畜市場(広域由利、大曲、鹿角)を統合して開設されたあきた総合家畜市場(由利本荘市大谷地区に立地)に約9カ月齢で全頭出荷している(写真7)。当該経営では、子牛の販売価格は70万円前後で推移しており、2016年の子牛販売総額は2100万円であった。2017年は3000万円超えを見込んでいる。

同市場における取引頭数は、繁殖農家の高齢化による飼養頭数の減少が影響し、2012年度の4451頭から、2016年度には3883頭まで減少した。取引される子牛の6割は県内で購入される(東北3県(秋田・宮城・山形)で8割以上を占める)(表2)。肥育農家の大規模化により地元で子牛を調達することが近年増加している。これには拓也氏のような若手繁殖農家の拡大志向も背景にある。

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月一度開催される家畜市場は、JA和牛青年部会などとともに、繁殖雌牛増頭に努力する地域の若手農家にとって情報共有や連携を促す場として重要な機能を担っている点も指摘しておきたい。

(4)今後の課題と展望

繁殖雌牛の増頭に伴い、人工哺育を始めており、とりわけ哺育技術を確立させることを課題としている。

また、繁殖雌牛の分娩間隔は最短で380日だったが、増頭とともに420日まで延びてきている。1年1産(360日)を目標とした分娩間隔の短縮も課題である。

拓也氏は、現在の父親の肥育経営と連結した一貫経営を、最終的には6次産業化により精肉販売まで拡張することを展望している。

4 地域をリードする若手繁殖農家(2)〜齋藤農場〜

(1)経営の概要

経営主の齋藤喜仁氏(35歳)は2009年に就農している(写真8)。主な労働力は喜仁氏と妻の2名であり、父の喜良氏が時折ヘルパーとして加わる。妻は経理を担当している。飼養頭数は繁殖雌牛50頭、子牛30頭であり、近年中に繁殖雌牛の更新を計画している。繁殖雌牛は100頭まで増頭したい意向である。草地面積は借地を含め18ヘクタールであり、牛舎は2棟ある。牧草はリード、オーチャード、クローバー、イタリアンを栽培している。2013年度に県の事業を活用し、堆肥舎を建設している。2016年度の子牛販売総額は約3000万円であり、出荷先は全て前述のあきた総合家畜市場である。

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(2)繁殖経営の経緯と特徴

就農初期、成牛10頭を購入し、肉用牛飼養を開始した。県や市の事業なども活用しつつ、数年かけて現在の50頭規模に至っている。

酪農を行う父の影響を受け、早期離乳を実践していることがまず取り上げるべき特徴である。母牛の発情回帰を早め、分娩後1カ月での種付けを行うことで、1年1産を実現している。息子世代への技術継承が成果を上げているといえよう。

また、喜仁氏は省力化を図り、最大限の成果を出せるよう努力している。スマートフォンによる牛飼養管理の省力化は、2014年から実施している(写真9、10)。2016年には監視カメラを牛舎内に4台設置しており、スマートフォンでフリーバーンの牛の状態を確認できるようにしている。監視カメラの主な機能は、分娩日を過ぎた牛の監視と発情発見で、夜間においても赤外線で発情が分かる。家畜人工授精師の資格を持っているのも強みだ。

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(3)世代間連携による飼料給与の実態

飼料給与作業には、後述のTMRセンターの経営者で、飼料配合のプロである父親の喜良氏が関与する。給与飼料は、ゆりファーム飼料(繁殖牛用デイリースペシャル、子牛用スーパーゆりBB)、くみあい飼料のものを利用している。

ここでも、堀内農場と同様の和牛生産における見事な世代間連携の実践を確認することができる。

(4)今後の課題と展望

規模拡大の意向はあるが、草地面積の制約が課題である。 分娩間隔のさらなる短縮にも挑戦しているところである。

また、繁殖経営の展開とともに道楽を兼ねた竹栽培による近隣の山の維持などを展望している。由利地域が誇る豊かな地域資源の未来世代への継承につながる構想であると評価できよう。

5 ゆりファームの経営実態

(1)経営の概要

ゆりファームは2014年4月より、ゆり高原ふれあい農場の指定管理者として運営されている。資本金は1000万円である。当該経営の代表取締役社長は、前述の拓也氏の父親の堀内忠氏である。現在、取締役である板垣幸三氏(写真11)の指揮の下、専従者3名のほか臨時オペレーター2名を雇用し、牧場を管理している。同氏自身も100頭規模の肥育経営を行っており、第11回全国和牛能力共進会宮城大会では県の代表牛を出品している。牧場では、肥育牛230頭、預託牛70頭(妊娠牛を草地に放牧)で計300頭を飼養している(写真12、13)。300頭のうち、去勢は1割、残りは雌牛である。放牧地30ヘクタール、草地50ヘクタールであり、3棟の牛舎がある。当該経営は秋田由利牛の基幹的な牧場であるが、市の貴重な観光資源としても活用されている。

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(2)肥育経営の実態

もと牛の導入先は前述のあきた総合家畜市場である。導入月齢は9カ月であり、導入時体重は300〜320キログラムである。また、出荷月齢は28カ月であり、出荷時体重(枝肉重量)は500キログラムである。上物率は85%で、それらは秋田由利牛として出荷する。残りの15%は「秋田牛」として出荷する。以前は事故が多発していたが、ワクチン投与や観察の徹底などが奏功し、近年、激減している。

肥育牛への米(あきたこまち、ひとめぼれ)給与は2008年ごろから開始している。契機は米の利用による由利牛の高付加価値化であり、おいしい和牛肉にすること、特に肉の味わいをすっきりしたものにすることであった。また、酒かすを導入したことも特徴である。飼料生産については後述するが、導入から出荷まで、後述の「ゆりスペシャル」とは別に、単独で酒かすを1日当たり500グラム給与している。これの持つ生理作用により飼料用米の持続的給与が円滑なものになり、費用対効果の大きさを実感している。SGSは1日当たり1キログラム給与している。

肥育牛の出荷先は全て株式会社秋田県食肉流通公社である。その後、卸業者を通じて、一部県外などにも流通している。

(3)今後の課題

当面は、現在の1月当たり出荷頭数を20頭から30頭にすること、すなわちロット拡大を課題としている。都内に取扱指定店を進出できるくらいの規模になれば、当該ブランド牛の販売・プロモーションにおいて、よりバリエーションを持たせることができる。そのためにも、飼養頭数規模の拡大が課題である。

6 発酵TMR飼料生産の取り組みの実態

(1)ゆりファームTMRセンターの概要

ゆりファームTMRセンターは由利本荘市石脇字山ノ神(旧広域由利家畜市場敷地内)に立地している。活用した事業は平成26年度畜産競争力強化対策緊急整備事業であり、自給飼料関連施設(飼料用米TMRセンター)を整備した。施設規模は加工施設1棟198.0平方メートル、保管施設1棟148.5平方メートルであり、総事業費は約6000万円である。事業実施主体は由利地域畜産クラスター協議会である。取組主体はゆりファームであり、喜仁氏の父親である専務取締役の齋藤喜良氏を中心に3名で飼料生産に携わっている(写真14)。喜良氏自身は酪農(搾乳牛16頭を飼養)を行っている。同センターは2016年2月から稼働しており、勤務時間は8時〜17時である。適正な備蓄量確保を念頭に、1カ月のストックに見合った量を生産している(写真15、16)。

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(2)主な発酵TMR飼料原料と調達先

喜良氏はこれまで試行錯誤を重ねながら、「胃にやさしい飼料」を追求してきた。発酵TMR飼料生産のきっかけは、バイオエタノール生産に関する大学教授の講演である。牛の胃の発酵メカニズムとともに、いかにアルコール発酵させると飼料としての価値が高まるかについて学んだ。

発酵TMR飼料の主な原料は、発酵おから、お茶がら、おから培地、酒かす、焙煎大豆、籾米サイレージ、配合飼料(特配合)、ミルクアップ、ゆりベースである(写真17)。これらをもとに5種類のTMR混合飼料((1)ゆりスペシャル(肥育牛用)(2)スーパーゆりA(肥育前期用)(3)スーパーゆりBB(哺育・育成用)(4)デイリースペシャル(搾乳・繁殖牛用)(5)ミセスブレンド(搾乳牛用))を生産している。このうち、最も高単価なものはスーパーゆりAで、1キログラム当たり67円(運賃、税抜で400キログラムのフレコン)である。原料の調達先は、往復1時間程度の食品工場から遠方は宮城県名取市に立地する食品工場(焙煎大豆)である。現在、ビール用大麦の調達なども検討中である。調達先はほとんど地場食品産業であるが、酒かすなどは通年利用となると地域で賄いきれないため、県外からも調達している。

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(3)成育ステージに合わせ生産される発酵TMR飼料

発酵TMR飼料の主な特徴は以下の3点である。

(1)乾物65%前後の発酵飼料のため、保存性に優れ、嗜好性が良好である。

(2)pH5〜6で、乳酸過多のTMRとは異なり、ルーメン内によくなじみ、消化吸収性に優れている。

(3)アンモニア、メタン、乳酸、水素などの発生を抑え、免疫性、抗病力、体力の増大が期待される。

発酵TMR飼料は1日平均5トン生産されており、肥育牛用のゆりスペシャルおよびスーパーゆりAの生産が主である。前者の生産量は全体の70%を占めている。デイリースペシャルは本来搾乳牛用であり、含有ビタミン値は高めの設計となっている。1日当たり1〜1.5キログラムを繁殖雌牛に給与すると発情回帰が早まり、受胎率向上の効果が期待できるとされる。

上記5種の飼料は同じ機械で生産されているが、配合に間違いが出ないよう、作る順番などには十分留意している。ビタミン値が高いものを給与すると肉色が悪くなったりする。使い始めて2年目だが、肉の成績は少しずつ上昇してきているという。

(4)今後の課題

工場の稼働を円滑にし販売量を確保するためにも、原料の安定供給が大きな課題である。また、飼料の構成成分の見直しも課題である。発酵飼料のため、放置するとカビが生えることがあり、保管にも十分注意を払う必要がある。

7 おわりに

本稿では、「秋田由利牛」を事例に、地域内和牛一貫生産の取り組みの実態と課題を検討した。由利地域では、意欲あふれる若手農家が親世代とうまく連携を図りながら繁殖雌牛増頭に努めており、こうした世代間連携が地域内の飼料生産、繁殖、肥育の連結をより円滑なものにしている実態が明らかになった。堀内農場における規模拡大、齋藤農場でみられたような良好な繁殖成績も注目すべき世代間連携による技術成果である。

以上のように、本事例は、世代間連携を核とした地域内和牛一貫生産の取り組みを地域ブランド牛の生産振興ひいては地域農業の振興につなげている好例である。全国的に繁殖農家の離脱が顕著である中、今後とも、堀内農場や齋藤農場のような若手農家が各地で躍動し、家族経営ならではのしなやかな和子牛生産が根強く展開されることを期待したい。

【謝辞】

本稿を草するに際して、調査にご協力頂いた繁殖農家の堀内拓也氏、齋藤喜仁氏、株式会社ゆりファーム(代表取締役の堀内忠氏、取締役の板垣幸三氏、専務取締役の齋藤喜良氏)、株式会社本荘消費(取締役精肉課長の小松正三氏)、由利本荘市農林水産部農業振興課、秋田県由利地域振興局、JA秋田しんせい営農生活部畜産振興課、あきた総合家畜市場株式会社の皆様に対して、記して感謝の意を申し上げたい。


				

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