調査・報告 畜産の情報 2018年5月号
畜産需給部 乳製品課
【要約】
当機構では、乳製品の流通実態を的確に把握するため、毎年度、乳業メーカーや小売業などの幅広い業種を対象に「乳製品の流通実態調査」を実施している。
平成29年度に実施した調査結果によると、28年度のバターと脱脂粉乳については、生乳生産量がほぼ横ばいで推移している中で、乳業メーカーは需要者に自社製品(国産品)を優先的に供給している状況がうかがえた。また、チーズについては、消費量が過去最高を更新し、ナチュラルチーズは家庭用と業務用向け、プロセスチーズは家庭用向けを中心に消費されていることが確認された。
1 調査対象および回収率 |
本調査は、乳製品の供給者である乳業メーカー、需要者である全国の食品製造業や外食業、ホテル業を対象に実施し、有効回収数は264企業(有効回収率25.1%:調査対象数1051企業)であった。また、バターおよび脱脂粉乳に係る調査については、大手乳業メーカーなどからの回答を得たため、前年度と同様にカバー率は出回り量ベースで9割程度となった。
なお、プロセスチーズの消費量については、農林水産省が公表している「チーズの需給表」の数値を使用した。
2 平成28年度の乳製品需給 |
平成28年度のバター、脱脂粉乳の生産量は、生乳生産量がほぼ横ばいとなる中で、それぞれ、前年度比4.1%減、同5.1%減とやや減少した。
同年度の乳製品需給は生乳の供給が不安定な中、国産のバターや脱脂粉乳生産量が減少したものの、適時の追加輸入を実施したことで、安定的に推移した。チーズについては、多種多様なチーズに加え、チーズを使用した製品などが消費者に浸透しつつあることから、前年度に引き続き需要は堅調に推移しており、総消費量は過去最高を更新した。
バターの需給は、生乳生産量が前年度からほぼ横ばいの中、飲用牛乳向けは堅調に推移したため、生産量は減少した。このため、需要量に満たない分は輸入で補う形となった。同年度は、国内生産量として6万3583トン(前年度比4.1%減)、機構によるカレントアクセス輸入や追加輸入により1万1777トン(同7.6%減)が市場に供給された。この結果、推定出回り量(注)は7万3214トン(同2.7%減)となった。なお、バターの大口需要者価格(農林水産省)は、加工原料向け乳価が引き下げられたこともあり、年度平均で1キログラム当たり1354円(同1.0%安)とやや低下した。
(注):推定出回り量(推定消費量)=前年度末在庫量+当年度生産量+当年度輸入量−当年度末在庫量
脱脂粉乳の需給は、バターと同じく生産量が減少し、需要量に満たない分は輸入で補う形となった。同年度は国内生産量として12万3500トン(前年度比5.1%減)、機構によるカレントアクセス輸入や追加輸入により3908トン(同74.3%減)が市場に放出された。この結果、推定出回り量は13万6720トン(同0.4%増)となった。なお、脱脂粉乳の大口需要者価格(農林水産省)は、年度平均で25キログラム当たり1万7537円と前年同水準となった。
チーズの需給は、堅調な消費を要因に国内の生産量は前年度を上回った。プロセスチーズ原料用以外で見ると、国産ナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用以外)の生産量は2万3785トン(前年度比9.0%増)となった。一方、輸入ナチュラルチーズの輸入量は16万5159トン(同3.3%減)となった。チーズ総消費量は、ナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用以外)が、18万8944トン(同1.9%減)と減少したものの、プロセスチーズが13万2605トン(同3.7%増)となったことから、合計で32万1549トン(同0.3%増)と過去最高を更新した。
3 流通経路と業種別・用途別消費量 |
平成28年度の推定出回り量7万3200トン(機構調べ(注))の流通経路および業種別、用途別消費量の推計を行った結果、次の通りとなった。
(注):機構調べは、今回の調査結果に基づき推定したものを指す。
ア 流通経路
推定出回り量のうち、国産品((1)乳業メーカーの自社製造と在庫取り崩しの合計)は6万1000トン(出回り量に対する構成比83.3%)、輸入品((2)乳業メーカーの取り崩しなどと(3)機構輸入の合計)は1万2200トン(同16.7%)となった(図1)。
また、乳業メーカーの利用(社内消費)は7100トン(同9.7%)、乳業メーカーの社外販売は5万9000トン(同80.6%)、機構から一次卸への売渡しは7100トン(同9.7%)となった。
乳業メーカーなどから需要者に供給される流通経路では、一次卸を通じた販売は5万9300トン(同81.0%)と大きなシェアを占めている。バターは、さまざまな製品の原材料としても使用されることから、需要者は多岐にわたっている。そのため、流通における卸売業者の役割は他の原料乳製品と比べて重要となっている。
イ 業種別消費量
バターの業種別消費量について見ると、業務用が4万8900トン(推定消費量に対する構成比66.8%)と最も多く、家庭用は1万7200トン(同23.5%)、乳業メーカー(社内消費)は7100トン(同9.7%)となった。業務用の内訳では、菓子メーカーが2万2900トン(同31.3%)で最も多い(図1)。国産品と輸入品の業種別消費量の内訳を見ると、国産品は菓子メーカー向けが全体の32.8%と最も多く、次いで小売業向け家庭用が27.7%となった。一方、輸入品は乳業メーカー(社内消費)が全体の24.6%と最も多く、次いで加工油脂メーカーおよび菓子メーカーが23.8%となった(表1)。
国産品は菓子メーカー向けを主体にしつつ、各業種で幅広く使用されている一方、輸入品は乳業メーカー(社内消費)が約4分の1を消費する形となった。国産品の供給が減少傾向にある中、乳業メーカーは社内消費の一部を輸入品や他の乳製品で代替し、国産品を重視する需要者向けに自社製品(国産品)を優先的に供給していることがうかがえる。
ウ 用途別消費量
バターの用途別消費量の割合を見ると、製品の風味を高めるための乳脂肪源としての利用が多い菓子・デザート類が2万1900トン(構成比29.9%)と最も多く、次いで、家庭用が1万7200トン(同23.5%)、外食・ホテル業が8100トン(同11.1%)となった(図2)。
バターの用途別消費量を27年度と比較すると、菓子・デザート類(前年度比15.1%減)および外食・ホテル業(同5.8%減)は減少したが、小売業(同3.6%増)は27年度から引き続き微増で推移している(表2)。
28年度の推定出回り量13万6700トン(機構調べ)の流通経路および業種別、用途別消費量の推計を行った結果、次の通りとなった。
ア 流通経路
推定出回り量のうち、国産品((1)乳業メーカーの自社製造と在庫取り崩しの合計)は12万4900トン(推定出回り量に対する構成比91.4%)、輸入品((2)乳業メーカーの取り崩しなどと(3)機構輸入の合計)は1万1800トン(同8.6%)となった(図3)。
また、乳業メーカーの利用(社内消費)は4万5600トン(同33.4%)、乳業メーカーからの社外販売は8万7200トン(同63.8%)、機構から一次卸への売渡しは3900トン(同2.9%)となった。
脱脂粉乳は一般的に二次加工製品向けの原材料であることから家庭用の消費量は非常に少なく、はっ酵乳や乳飲料などを生産する乳業メーカー(社内消費)の割合が高いことが特徴である。また、卸売業者を経由せずに需要者に直接販売される割合が全体の約2割を占めており、バター(直販割合4.9%)と比べて高い水準にある。これは、大口の需要者が特定の業種(はっ酵乳など)に集中していることによる。
イ 業種別消費量
脱脂粉乳の業種別消費量を見ると、業務用が8万9700トン(消費量に対する構成比65.6%)と最も多く、大手乳業メーカーの社内消費が4万5600トン(同33.4%)、家庭用は1400トン(同1.0%)とわずかであった。業務用の内訳では、はっ酵乳・乳酸菌飲料メーカーが3万1300トン(同22.9%)と最も多く、次いで乳業・アイスクリームメーカーが3万900トン(同22.6%)とこれら2つで全体の半分近い割合を占めている(表3)。
また、国産品は各業種で幅広く使用されている一方、輸入品は乳業メーカー(社内消費)が約3分の2を消費する形となった。国産品の供給が減少傾向にある中、乳業メーカーは社内消費の一部を輸入品や調製粉乳などで代替し、需要者には自社製品(国産品)を優先的に供給していることがうかがえる。
ウ 用途別消費量
脱脂粉乳の用途別消費量を見ると、はっ酵乳・乳酸菌飲料が6万7900トン(構成比49.7%)と最も多く、次いで、乳飲料が2万3300トン(同17.0%)、アイスクリーム類が1万4200トン(同10.4%)となった。バターと異なり、脱脂粉乳は消費量全体の8割弱がこれら上位3者で消費され、特にはっ酵乳・乳酸菌飲料は全体の約5割と最も多い状況となった(図4)。
業務用脱脂粉乳の用途別消費量を27年度と比較すると、消費量が最も多いはっ酵乳・乳酸菌飲料(前年度比2.7%増)、アイスクリーム類(同10.1%増)、乳等主要原料食品(同11.1%増)はいずれも増加した(表4)。はっ酵乳・乳酸菌飲料は定番のプレーンヨーグルトに加え、いわゆる機能性ヨーグルトの消費が堅調となっている。また、アイスクリームは夏場の需要期に好調だったことに加え、通年での摂食機会が定着しつつあるためである。
ア ナチュラルチーズ
28年度のナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用以外)の消費量20万3800トン(機構調べ)の種類別および業種別消費量の推計を行った結果、次の通りとなった(図5)。
消費量は20万3800トンとなっており、うち国産品は、3万8600トン(消費量に占める構成比は18.9%)、輸入品は16万5200トン(同81.1%)となっている。その内訳としては、シュレッドタイプが10万400トンと最も多く、次いで、クリームタイプが6万7300トンとなった。シュレッドタイプのうち、輸入品は8万3000トン、国産品が1万7400トンとなり、輸入割合は8割を占めている。また、クリームタイプも、輸入品は6万2600トン、国産品が4700トンと輸入品が9割を占めた。シュレッドタイプの業種別の内訳は、小売業が2万5800トン(推計消費量に占める構成比25.7%)、次いで、乳業メーカーが1万9700トン(同19.6%)となった。多くのチーズで輸入品の割合が高い状況となっている一方で、カマンベールやフレッシュ・モッツァレラは、輸送時間や輸送コストに優位性があることなどから、国内メーカーの商品が国内市場に受け入れられ、国産品の割合が全体の8割以上を占めている。
業種別の内訳(プロセスチーズ原料用以外)では、小売業が4万9600トン(全体に占めるシェアは24.3%)と最も多く、次いで乳業メーカーが3万8100トンとなった(表5)。小売業のうち、輸入品は3万5400トン、国産品は1万4200トンと輸入品が全体の約7割を占めた。また、乳業メーカーについても、輸入品が2万8400トン(乳業メーカーにおける輸入品の割合が74.5%)と全体の約7割強を占めた。
イ プロセスチーズ
28年度のプロセスチーズの消費量13万2605トン(農水省調べ)のうち、国内生産量12万3500トンについて、流通経路および業種別消費量の推計を行った結果、次の通りとなった。
推定出回り量のうち、乳業等メーカー(社内消費)は2300トン(推定出回り量に対する構成比1.9%)、乳業等メーカーからの社外販売は12万1200トン(同98.1%)、また、一次卸への売渡しは8万1500トン(同66.0%)となり、乳業等メーカーからの直接販売の割合は少ない。これは、バターと同様にチーズの需要者が多岐にわたっており、特に家庭用として多数の小売業者へ販売する上で卸売業者を利用するケースが多いためである(図6)。
国内生産プロセスチーズの業種別の内訳では、家庭用は8万4600トン(消費量に対する構成比68.5%)と最も多く、業務用は3万6600トン(同29.6%)、社内消費用は2300トン(同1.9%)となった(表6)。また、業種別消費量(家庭用を除く)では料理に使用する、外食・ホテル業が2万200トン(同16.4%)と最も多く、次いでサンドウィッチなどの調理パンなどに使用するパンメーカーの割合が高い。
4 まとめ |
近年、生乳生産量が減少傾向にある中、はっ酵乳やチーズを中心とした乳製品需要は、年々、増加傾向にあるため、輸入品の占める割合が増加傾向にある。
代表的な乳製品であるバターは、量販店などで目にする機会が多く一次加工品(主に家庭用バター)としても消費される反面、洋菓子や飲料などの二次加工製品の原料(主に25キログラムの業務用バター)としても使用されており、流通範囲が多岐にわたる。また、脱脂粉乳は、バターに比べ二次加工製品の原料としての側面が強く、需要者が特定の業種に集中していることから、供給者から需要者への直接販売の割合が高い。チーズはバター同様、一次加工や二次加工の用途として使用されることから、バターと似た流通形態となっている。
バターおよび脱脂粉乳は、比較的保存性が高いことから生乳需給の調整弁としての役割を担っており、生乳の供給や他の乳製品のトレンドにより需給動向に変動がみられる傾向がある。
平成28年度は、年度を通して機能性ヨーグルトの市場が拡大・定着し、はっ酵乳・乳酸菌飲料の需要は堅調に推移した。原料となる脱脂粉乳の用途別消費量も、はっ酵乳・乳酸菌飲料の割合がわずかに高まった。バターは、コンビニエンスストアで販売されるスイーツ向け需要が一巡し、輸入による十分な供給量とが相まり、安定的な在庫水準で推移した。