話 題 畜産の情報 2018年10月号

新規参入に携わることで見えてきたもの
〜地域づくり(農業振興)とJAの役割〜

北海道計根別農業協同組合 営業部 部長 金野 智樹


1 JAけねべつの概要

計根別農業協同組合(JAけねべつ)は北海道根室管内の中標津町・別海町にまたがる酪農専業エリアに立地し、耕地面積約1万1000ヘクタール(うち近年作付けが増えるデントコーンは約900ヘクタール)、酪農家戸数139戸、正組合員数171名(平成30年3月31日現在)、生乳出荷量8万7576トン(H29年度実績)と根室管内で最も小さい組合である。

2 農業振興の経過と課題解決への対応

(1)課題の抽出

平成17年以降、酪農家の経営マインドは現状維持志向のところが多く、施設建設を伴う大型投資を試みることはない。さらに酪農家の減少が加速したことをきっかけに、21年に今後の経営継続を含めたアンケート調査を行った。その結果は、予想した通りであったが、改めて見える化することで現実を突き付けられた形となった。主な結果としては、当時の酪農家149戸のうち10年以内に離農する可能性を示したのが31戸で、その耕地面積の合計は1850ヘクタールであった。一方、営農規模拡大を検討している酪農家は40戸で、その耕地面積の合計は400ヘクタールとなり、耕作放棄地は1400ヘクタール以上発生することとなる。また、10年以内に離農する可能性を示した31戸のうち、16戸が新規参入の受入を希望していることがわかった。農協として取り組むべき課題については、昨今全国的に対応を迫られている同様の課題が、この時点で挙げられている。(表1の上位5課題)。

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(2)話し合いの場

地域に密接に関わっているJA職員にとって、課題抽出や解決策立案は容易であり、前述したアンケートを基にさまざまな検討と対策を講じてきた(表2の参照)。しかし、組合員や地域住民の参画意識の醸成や課題などの情報共有は非常に難しく、特に農業者の資産形成に直結する農地売買や賃貸など農地流動化については、お互いの本音を隠し『タブー視』された領域となり、このことにより地域プロジェクト的活動が行き詰まることも少なくないと感じている。

そこで、重要な役割を果たしたのが『農地利用集積推進会議(注)』である。この会議体は真剣に話し合える場として位置付けられ、当JA管内にある7地区全てに設置した。設置当初は、地域の課題を提示し意見を求めても最初は個々人が地域の課題を把握していないことから反応が鈍く、他人事的な雰囲気が大勢を占めていた。しかし、回数を重ねるうちに全ての地区で活発な意見が出されるようになり、特に離農予定者から離農年次や資産処分意向が表明され、それに伴う農地取得希望や新規参入受入協力など地域合意が形成される場へと姿を変えるまでになっていった。

注:農地利用集積推進会議の目的は、「農家の減少は、農地受皿機能の維持を困難にし、地域生産基盤の衰退、農地価値のそんを招いている。このことは離農者だけでなく農業継続者の足元を揺るがす問題に発展していく。そこで当会議体を立ち上げ、真剣に話し合える場を設けることで農地流動化・地域生産力・労働力不足・新規参入等々の課題解決に向け地域を上げて取り組む」とされている。また、同会議は平成30年から「アクティブ会議」に名称変更される。

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(3)課題解決策の実践

JA職員など関係者が農業者へ離農のことについて尋ねることや地域に周知することは『タブー視』された領域の最たる事柄であった。しかし、農地利用集積推進会議により各地区・JAとも離農を事前に知ることができるようになり、調整等準備を計画的に行いながら個人だけでなく地域の意向を汲み入れた農地流動化を進めることが可能となった。特に、新規参入の受け入れについては、地域内において新規参入の合意が得られた物件を参入希望者に紹介することが、受け入れ地域の協力も得やすく、農地売買などのトラブル抑制につながり、円滑な参入に資することとなる。同会議により、世代を超えた話し合いの場が形成され、親から伝えられている過去の情報以外も知ることができ、視野を広げることにつながっている。これにより地域の「新常識」が形成され、過去にとらわれない農地流動化を進めることができている。このことは、数字にも表れ、平成23年〜30年の新規参入者は17戸と酪農においては一地域としては突出した参入数となっている。

現在では、各農業者の農地需給意向を各地区・JAが把握し、効率的農地集積や地域をまたいだ既存農家の移転を検討できるまでに有益な情報が恒常化するところまで進展している。

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3 JAの果たす役割

新規参入に携わるということは、『経営を閉じる』と『経営を始める』への関わりをほぼ並行して行うことであり、シンプルに表現すると「高く売りたい」と「安く買いたい」の間で困難な調整を行うことである。一般的には、嫌な役回りで場合によっては話がまとまらなかったり、後に禍根を残すケースがあるなど精神的ストレスを受けやすい仕事となる。しかし、話し合いの場により地域の協力を得ながら地域の常識の範囲で調整を行うことができるため、納得を得やすい環境が整いつつある。

これひとつとっても話し合いの場の重要性を理解していただけると思うが、これを重ねることで、農業者や地域住民の思考能力を呼び起こし、意見を擦り合わすことで共通認識が深まり、地域の現状に合った「新常識」が醸成され、次世代に歴史を紡ぐことができる唯一の方法と考えている。そのためにも、地域に密接に関わっているJAがさまざまな情報を発信し続け、コーディネーターとして存在し続けることが重要である。

(プロフィール)

阿寒町出身

昭和63年 販売部酪農課職員(家畜人工授精師)としてJAけねべつに入組

平成13年 JA育成センター・牧場担当を兼務

平成15年 販売部酪農課(家畜人工授精師)

平成18年 営農部と販売部を兼務

平成21年 営農部営農支援課

平成28年 営農部部長



				

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