海外情報   畜産の情報 2018年10月号


ミャンマーの鶏肉の生産、流通動向〜ヤンゴン、マンダレーの事例を中心に〜

調査情報部 青沼 悠平、小林 誠



【要約】

 ミャンマーの鶏肉生産は、経済発展に伴う内需の拡大などにより鶏の飼養羽数が増加し、生産量も増加している。一方、養鶏場での衛生対策や伝統市場などに流通する鶏肉の衛生面、品質面など課題は多い。しかし、飼料原料の確保が容易なことや労働力が安価なことに加え、鶏肉需要のさらなる伸展が見込まれるため、外資の進出が活発化しており、今後の動向が注目されている。

1 はじめに

ミャンマーでは、2011年の民政移管により、民主化と経済改革が推進されたことで、GDP(国内総生産)成長率が年率6〜8%で推移し、国民の所得水準は向上しつつある。

一般に、所得水準が向上すると食肉などの動物性たんぱく質摂取量が増えるとされているが、ミャンマーでもこの傾向が現れている。図1に示した通り、食肉の中では家きん肉の消費が最も多く、豚肉がこれに続いている。同国では、長年にわたり牛が役牛として飼養されてきており、また、法律で役牛のと畜が禁止されていることから、牛肉は、伝統的に食肉としてあまり利用されてこなかった。家きん肉は、牛肉や豚肉と比べて安価であり、また、最近は、外資系ファストフードチェーンの進出により、消費者が家きん肉を食べる機会がますます増加している。

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2018年に入り、ミャンマー商務省は、高い経済成長を維持するため、一定額を超える投資を条件として、小売・卸売業に対する外国企業による100%出資を認めることを発表した。ミャンマーのような1人当たりGDPが1200米ドル(13万4400円)を下回る後発開発途上国がこのような大幅な規制緩和に踏み切ることは珍しく、市場開放に向けて国内の中小企業の反対を押し切る、半ば強引な姿勢が示されている。今回の規制緩和の対象となる品目には、畜産物、動物用の飼料および医薬品などが含まれており、養鶏および飼料産業の今後の発展に期待した外資の進出をいっそう加速させるものとなっている。

世界の中間層人口の増加が最も著しいと予想されるアジアでは、今後家きん肉を含む食肉需要の増加が見込まれている。わが国の鶏肉供給は、その4割弱を輸入に依存しており、将来的には輸入調達先の競合が生じる可能性がある。また、ミャンマーは最後の投資フロンティアと呼ばれており、高齢化と人口減少によって大幅な成長が見込めない日本市場から海外進出に活路を見いだそうとする動きが畜産分野でも見られている。このような状況にもかかわらず、ミャンマーにおける家きん肉生産をめぐる状況についてはほとんど知られていない。本稿では、2018年6月に実施した現地調査を基に、同国の家きん肉、特に鶏肉をめぐる状況と今後の見通しを筆者の分析を交えて報告する。

なお、本稿中の為替レートは、1ミャンマーチャット=0.07円、1米ドル=112円(8月末日参考相場:0.073円、TTS相場:112.06円)を使用した。

2 肉用鶏の生産概況

(1)家きん生産量に占める肉用鶏の割合と生産地域

家きんの飼養羽数は、食肉需要の拡大に伴い増加しており、このうち9割以上を鶏が占めている(表1)。鶏肉の生産量もこれに連動して右肩上がりで増加しており、2015年度は150万トンと10年前に比べ約2.7倍となった(表2)。マンダレー畜産協会(以下「畜産協会」という)によると、ミャンマーの肉用鶏には、ブロイラーや地鶏のほか、卵用鶏の雄(セミブロイラー)、採卵鶏の廃鶏が含まれているとしており、全ての鶏が最終的には肉用として消費されていることが分かる。ブロイラーとは、外国鶏の品種であるコッブ、ロスなどを、地鶏とは、主に全国各地の村単位で飼養されている在来種のことを指す。地鶏は、大型の「Inbinwa」から小型の「Tain Nyim」までさまざまな系統があり基本的には農家の庭先で飼養されている(写真1)。市場関係者によると、消費者は、肉の締まりや味が良いとして、ブロイラー以外の鶏肉を好む傾向があり、価格も高いとのことである。

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鶏は全国各地で生産されており、各地域で消費する鶏肉の供給は、その地域の農家が担う、いわゆる地産地消型の生産・消費構造を持っている。そのため、生産地域を見ると、人口が多く、かつ都市部に住む割合(都市化率)の高い地域、つまり消費地に近づくほど飼養羽数が増加する傾向にある。実際に国内最大の都市ヤンゴン市を擁するヤンゴン地域をはじめ、人口400万人以上が居住している地域や州の鶏の飼養羽数は2000万羽を超えている(図2)。

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(2)肉用鶏経営の形態

畜産協会によると、ミャンマーでは、飼養羽数により養鶏農家を(1)零細・小規模農家:3000羽未満(2)中規模農家:3000〜1万羽(3)大規模農家:1万羽超に3分類しており、(2)と(3)の農家を商業規模(Commercial)と称している。農家数では零細・小規模農家が圧倒的多数を占めており、その割合を8割程度としている資料もあるが、正確には2017年末に実施された農業センサスの結果公表を待つ必要がある。

零細・小規模農家のうち特に羽数の少ない農家は、庭先で地鶏を放し飼いにしていることが多く、市場アクセスの乏しい農村部でこのような飼養方法が多い。

中規模農家は、市場出荷を目的とした商業的な生産が多く、今回訪問した農家の多くは高床式の開放型木造鶏舎などを保有し、そこでブロイラーなどを飼養していた。

大規模農家は、期待できる収益も高いが、多額の資本投入が必要なだけでなく飼養管理技術やバイオセキュリティ対策などが必要になる。畜産協会のナイ・トゥイェイン事務局長は、農業資材店(Farm Shop)を経営する傍ら(写真2、3)、閉鎖型鶏舎で5万羽のブロイラーを飼養している。同氏によると、飼養羽数は毎年15%ずつ増加しており、このような規模拡大を実現できるのは、バイオセキュリティ対策を行っているからだとし、飼養管理を適切に行えれば養鶏は収益性が高い業種だとしている。

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2011年以降、各国で飼料、畜産・養鶏、食肉関連の事業を営む大手企業(以下「外資系養鶏企業」という)の飼料および養鶏産業への進出が相次いでおり、最近では、外資系養鶏企業が直営のブロイラー農場を保有する例もいくつか見られるようになってきた(表3)。いずれの企業も畜産協会の会員だが、経営概況に関するデータの提供がないため、鶏舎数や飼養羽数などの詳細を把握することは難しい。

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現在のところ、各国のブロイラー産業に見られるような飼料生産から食肉処理・加工までを垂直統合(インテグレーション)したシステムは構築されていない。しかし、オランダ政府は、鶏肉のバリューチェーン構築のために280万米ドル(3億1360万円)を投資することを決定しており、これに先立ち2015年に同国の家きん専門家がミャンマーの関係施設を訪問して事業化の可能性調査を行っているが、結果は公表されていない。

注: 農業資材店とは、飼料、動物用医薬品、農機具、初生ひななどの生産資材をメーカーから仕入れ、畜産・養鶏農家や小売店に販売する店のことを指す。経営規模の大小は異なるが、ミャンマーではこうした業態の店が多く見られる。

(3)生産資材の購入と生産技術

養鶏農家は、飼料、初生ひな、動物用医薬品を農業資材店や外資系養鶏企業の代理店を通じて購入している(写真4)。外資系養鶏企業は、自社の飼料工場や種鶏場で生産した飼料や初生ひななどを農業資材店に販売している。養鶏農家の多くは、初生ひなの品種やメーカーなどにこだわりを持っておらず、まずは価格の安いもの、次に強健なものを選定する傾向にあるという。

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ブロイラーの初生ひなは導入後、45〜46日齢、2.5〜3.2キログラムまで飼育された後、バイヤーやコレクターと呼ばれる流通業者に出荷される。飼育期間は日本の49日齢よりわずかに短い。農家の中には、農家出荷価格の動向を見ながら販売する者もおり、40日齢以下や50日齢以上で出荷することもある。セミブロイラーは、ブロイラーに比べて成長速度が遅く、飼料効率が悪いことから、出荷日齢は70日程度、出荷体重は1.1キログラム程度となっている。

(4)ブロイラーの収益性とバイオセキュリティに対する意識

中規模農家において、ブロイラーを42日齢、2.6キログラムまで飼養した際の1羽当たり生産費は、4512チャット(316円)となる(図3)。

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飼料費が7割強、初生ひな購入費が1割強と、この二つの費用で9割弱を占めている。配合飼料原料の半分を占めるトウモロコシは、国内生産量の半分が陸路で中国に輸出されているため、国内トウモロコシ価格が中国の価格動向によっては大きく変動し、配合飼料価格にも影響を与える。

1キログラム当たり農家出荷価格を1813チャット(127円、現地調査時点)とすると、2.6キログラム当たり換算で4714チャット(330円)となり、1羽当たりの利益は202チャット(14円)となる。3000羽規模の農家で、年5回出荷したと仮定すると、年間303万チャット(21万2100円)程度の利益となる。現在のミャンマーの最低賃金は、東南アジア最低水準の日額4800チャット(336円)となっており、これを年額換算すると175万2000チャット(12万2640円)となる。したがって、現在の農家出荷価格の水準であれば、ブロイラーを3000羽以上飼養すれば、疾病発生などのリスクはあるものの、最低賃金以上の利益が得られていることが分かる。

一方、2006年に国内で初となる高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が北西部のサガイン地域で確認されて以降、これまでに2〜3年に1度の割合で発生事例が報告されている。2007年には、シャン州で人への感染事例も発生し、大きな社会問題となった。ミャンマー農業・畜産・灌漑省畜産・獣医局(以下「畜産・獣医局」という)は、現在のところ発生件数が少ないため、インドネシアのように環境中のウイルス量を減らし、感染の拡大や人への感染リスクを少なくする目的での予防的なワクチンの接種を行っていない。同局は、HPAIの防除対策として、養鶏場でのサーベイランスの実施や養鶏農家に対するバイオセキュリティ強化の指導を行っている。しかし、養鶏農家のバイオセキュリティに対する意識は、外資系養鶏企業や一部の大規模農家などの養鶏場を除いてかなり低い。今回訪問した養鶏場でも、噴霧消毒、養鶏場への入場時の衣服の交換などの対策も行われていなかった。そのため、HPAIの発生こそないものの、伝染性気管支炎や伝染性ファブリキウス?のう病(ガンボロ病)がかなりの頻度で発生しているとされ、大きな経済的損失を被っている者もいると見られる。

コラム ミャンマーの農業・畜産特区

農業・畜産特区とは、1999年度(4月〜翌3月)にタンシュエ国家平和・開発評議会議長の発案により、ヤンゴン市への鶏肉、野菜の供給増加と安定化を目指して設置された特別区域である。養鶏のほかに養豚や酪農なども営まれている。現在全国に27カ所あり、ヤンゴン地域にはニャンナピン地区に3600ヘクタール規模の特区が1カ所ある。政府は、軍事政権下において強制収用された同特区内の土地については、取得を希望する農家に対し、1区画(2ヘクタール)当たり50万チャット(3万5000円)で分譲している。当初、外資の購入は認められていなかったが、ミャンマー投資委員会は2018年7月26日、ミャンマーCP社がニャンナピン地区内の3区画を養豚事業用に取得することを承認した。現在、同地区の売却価格は、同7500万チャット(525万円)まで上昇している。

農業・畜産特区のほかに、2011年には経済の活性化を目的として、操業開始後の5年間の免税や税制優遇措置を含む経済特区法を制定し、外資の誘致を実施している。

なお、これらの特区については、設置の際の土地の強制収用により、当該地で農業などを営んでいた農民が代替地の提供や補償を受けることなく移動させられたとして、国際人権団体から人権を無視した措置であるとの批判を受けている。

3 肉用鶏農家の生産・出荷方式

ミャンマーの肉用鶏生産は、地域、規模などの条件によって飼養方法、生産・出荷方式が大きく異なっているため、以下に現地調査の結果を地域、規模ごとに報告する。

(1)ヤンゴン地域

住宅街のあるヤンゴン市には養鶏場は少なく、肉用鶏はニャンナピン地区にある農業・畜産特区など、主として郊外において生産されている。肉用鶏は、流通業者や卸売業者によってヤンゴン市にある三つの家きん卸売市場に出荷されることが多い。その中で最大の取引量を誇るのが後述するミンガラ家きん卸売市場である。

ア ヤンゴン市内(ツン・キー氏、中規模農家)

ヤンゴン市内に住むインド系のツン・キー氏(66歳)は、2010年に肉用鶏経営を開始し、現在の飼養羽数は5000羽である。同氏は肉用鶏経営のほかに、獣医師として家きんその他の畜産農家に対する技術指導を行っている。

ミンガラ家きん卸売市場の卸売業者と委託生産に関する契約を締結し、生産資材の購入費や雇用労賃に充てるための経費4000万チャット(280万円)の資金提供を経営開始前に受け、鶏の販売代金の一部で返済している。

肉用鶏の出荷は、ヤンゴン市内の農家出荷価格の動向を見ながら行っており、最短で39日齢から出荷する時もあれば、最長で50日齢まで引き延ばすこともある。卸売業者が集荷を行う。

初生ひなや飼料は、ジャプファ社から購入してきたが、最近は、ひなの上乗せや割引をしてくれるデ・ハース社やスンジン社に移行している。ひなが成鶏まで育つ育成率は92%程度と日本に比べやや低い。この理由として、飼養期間中にガンボロ病などの疾病が発生して鶏が死亡することがあるが、防疫対策に投入できる資金が不足していることを挙げていた。

イ ヤンゴン市郊外(キュアウ・ウイン氏、大規模農家)

ヤンゴン市郊外にあるキュアウ・ウイン氏の養鶏場では、肉用鶏のほか、採卵鶏も飼養されている。同氏は、今回調査した養鶏場のほかにもニャンナピン地区の農業・畜産特区とバゴー地域にも養鶏場を保有している。ヤンゴン市郊外では、4000羽規模の鶏舎を9棟所有しており、うち3棟が閉鎖型鶏舎となる。鶏舎は全て養魚池の上に設置されており(写真5〜7)、鶏のふんは魚のエサとして養魚池に自然落下する仕組みとなっている。仮に、疾病が発生して鶏が死亡したり、肉用鶏の農家出荷価格が急落した場合でも、養魚の販売収入で補完できるため、この地域では養鶏・養魚の複合経営が多いという。肉用鶏の出荷先は、ミンガラ家きん卸売市場である。

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鶏の管理は、鶏舎に併設された居住スペースに住む労働者により行われている。1カ月の夫婦1組当たり労働賃金は17万チャット(1万1900円)と最低賃金より低いが、販売成績が良ければ上乗せがあるという。養鶏場の管理者が鶏舎の監視、労働者に対する技術指導を行っているが、同者も特段の農業教育は受けておらず、経験だけに基づく管理を行っているため、育成率は85%と低く、経済的な損失も大きいという。

(2)マンダレー地域

マンダレー地域においても、ヤンゴン地域と同様に養鶏・養魚の複合経営が多く見られ、特に、水資源の潤沢な北部の農家に多い。南部では、都市化の進展による環境問題や富裕層による土地の買い占めに起因する地価上昇などにより、養鶏業の継続が困難となっており、養鶏業は北部に移転してきている。

【マンダレー地域北部(コー・ゾウ氏、大規模農家)】

コー・ゾウ氏は、元々は米を栽培していたが、それだけでは収益が上がらなかったため、2015年に養鶏・養魚の複合経営を開始した(写真8)。4000羽規模の鶏舎を4棟保有し、肉用鶏を飼養している(写真9)。1棟当たりの建設費は1200万チャット(84万円)であり、労働力は、本人と3人の息子とその家族である。

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同氏によれば、外資系養鶏企業、特にミャンマーCP社はミャンマーに進出して以降着実に事業領域を拡大しており、資本や生産技術のノウハウが不足している中小規模農家では対抗することができないため、地元の養鶏業を圧迫しているとのことである。

(3)サガイン地域

サガイン地域では、人口37万人を擁するモンユワ市や車で2時間ほどにあるマンダレー市などに供給するための鶏肉を、モンユワ農業・畜産特区など主としてモンユワ市郊外において生産している。

【モンユワ市郊外(コ・イェ・ナイン氏、中規模農家)】

コ・イェ・ナイン氏は、2014年に脱サラして肉用鶏経営を開始した(写真10)。1500羽規模の鶏舎が2棟あり、肉用鶏を飼養している。労働力は本人と労働者2名の3名で、経営開始当初、民間の獣医師に飼養管理技術のノウハウを教わった。出荷日齢は45日程度だが、夏季は気温が40度を超えるため2.5〜2.7キログラム、気温が10度前後まで下がる冬季は3.2キログラム程度で流通業者に販売している(写真11)。同氏は、フェイスブックで日々公開されている全国各地の農家出荷価格を確認して流通業者と交渉に当たるなど、販売先に主導権を握られないよう情報収集を心掛けている。調査時の農家販売価格は、1キログラム当たり1969チャット(138円)とネピドー連邦領やマンダレー地域よりも高かった。また、他の養鶏場と離れているため、今のところ伝染性疾病の発生はない。現状では、日系大手電気メーカーの販売マネージャーをしていた時より儲かっているとのことで、資産があれば積極的に規模拡大を図りたいと意欲を示していた。

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4 飼料をめぐる状況

(1)配合飼料の生産

ミャンマーでは、牛がおおむね粗飼料のみを給与されるのに対し、養鶏および養豚は配合飼料中心である。鶏肉生産の増加を受け、養鶏用配合飼料の生産量は年々増加している。各飼料会社が公表している配合飼料の年間生産能力から推計すると、2017年の配合飼料生産量は250万トン程度とみられる。

1990年代初めには、国営の飼料工場が6カ所、自国資本の飼料会社が10社程度あったが(写真12)、2011年の民政移管後に外資参入のための法整備が行われ、外資が参入したため、現在までに、国営の飼料工場は全て、自国資本の飼料会社は半数近くが廃業した。ミャンマーCP社とジャプファ社は、軍政との特別なコネクションを築いていたため、民政移管前から例外的に活動していた。現在、同国の飼料、養鶏産業は好調であるため、各外資系養鶏企業は、新たな飼料工場の建設、工場設備の拡充、自国資本の飼料工場や養鶏場の買収などに積極的な投資を行っている。日本の商社なども自国資本の飼料会社に共同出資の話を持ちかけているとされるが、今のところ進展はないようである。

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(2)飼料原料の動向

肉用鶏用飼料の配合割合は、各工場によって異なっているが、今回の調査から整理すると図4の通りとなる。主原料のトウモロコシの割合は日本とほぼ同じだが、大豆油かすの割合は低い。ゴマや落花生の搾油かすなども利用している飼料会社もある。国内で圧倒的に生産量の多い米作から発生する砕米、米ぬかやトウモロコシなどは自給可能となっている。一方で、国産トウモロコシとの競合を理由に国産大豆の供給量が安定しないため、飼料会社は比較的廉価なインド産をはじめ、米国、ブラジルなどから年間7万トン程度の大豆油かすを輸入している。

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トウモロコシの生産量は、年々増加しており、2015年度は174万8000トン(前年度比3.2%増)となった(図5)。シャン州が主産地となっており、全体の約50%の生産量を占める。なお、飼料用トウモロコシのハイブリット品種は、ミャンマーCP社などが販売している。

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トウモロコシの生産量の半分は、流通業者によって陸路で中国に輸出されている。調査時点の中国の買取価格は、1キログラム当たり397チャット(28円)とのことで、国内卸売価格の250〜281チャット(18〜20円)より高い。流通業者は集荷したトウモロコシを買取価格が高い中国に輸出する傾向があり、このため国内価格は中国の購買動向によって大きく左右される。

砕米は、輸送コストが掛かるため、トウモロコシ産地から遠方にある飼料工場や農家で使用されることが多い。しかし、最近、中国にもみ殻付米を輸出できるようになったため、砕米が国内で流通しなくなってきており、飼料用としての利用が減少している。実際に、2017年度はもみ殻付米289万トン、砕米62万トンが海外に輸出されており、このうち6割が中国向けとなっている。

5 流通、販売および貿易

(1)鶏の流通

零細・小規模農家は、生産した鶏を自家消費するか、流通業者を介して地元の市場に出荷することが多い。中規模以上のいわゆる商業規模の農家は、流通業者や卸売業者などに出荷している(図6、写真13)。外資系養鶏企業が肉用鶏農家に生産委託しているケースもあり、現地報道によると、ミャンマーCP社は直営ブロイラー農場のほかに、肉用鶏農家1500戸と契約を締結している。同社は、2017年には1週当たり170万羽のブロイラーを全国に供給したとし、2018年は200万羽まで増やすとしている。出荷量の半分は、鶏肉加工品として量販店、自社の直営店、レストランなどに、残りの半分は生きた鶏として伝統市場に供給している。ミャンマーでは、伝統的に常温肉は新鮮、冷蔵・冷凍品は新鮮ではないというイメージが定着しており、処理された直後の常温肉を好む傾向がある(写真14)。量販店では、ミャンマーCP社の製造した鶏肉のソーセージやミートボールなどの商品を、店舗前では同社の屋台型フライドチキン店を多く見かけた(写真15、16)

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(2)肉用鶏の集荷から食鳥処理までの流れ(ミンガラ家きん卸売市場の事例を中心に)

ヤンゴン市開発委員会が設置しているミンガラ家きん卸売市場内には卸売業者の店舗スペースが94カ所ある。市場で取引されているのは、ブロイラー、セミブロイラー、採卵鶏の廃鶏、アヒルで、それらはヤンゴン地域、バゴー地域の家きん農家から集荷している(写真17)。地鶏の集荷はない。1日当たりの取引量は128〜160トンで、このうちブロイラーが6割強、セミブロイラーが2割、残りが採卵鶏の廃鶏とアヒルである。また、同市場に搬入される家きんの約6割が生きた鳥で、残りは丸鶏となる(写真18、19)。生きた鳥は、隣接する食鳥処理場で処理される。ミャンマーは人口の88%が仏教徒であり、仏教の不殺生の戒律から仏教徒は故意に生物を殺すことを嫌うため、食鳥処理はもっぱらイスラム教徒またはキリスト教徒などが行なっている。食鳥処理場は川に隣接しており、そこでと殺、放血、脱羽、内蔵摘出、洗浄などの一連の処理が行われ、血液などは未処理のまま川に放出されている。日本のような近代的な設備は整っておらず、鶏の処理や鶏肉の流通工程において、冷却や消毒を行うという意識は乏しく、衛生環境は良いとは言えない。通常、外国人の立入りは禁止されているが、今回の調査では、市場内に立ち入る特別な許可を得た。

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ミャンマーにおける近代的な食鳥処理施設は、現在のところ、ミャンマーCP社が保有している数施設のみである。現地報道によると、同社は、フライドチキンなどのファストフードの需要増から、1日当たり5000羽の処理が可能な施設を建築するために300万米ドル(3億3600万円)を投資したとしている。

ミンガラ家きん卸売市場の管理者は、内務省所管でヤンゴン市の行政機関であるヤンゴン市開発委員会の委員も兼任しており、市場内の衛生、保安、紛争解決などのほか、毎日の取引量や販売価格を記帳し、同委員会と畜産・獣医局に報告している。調査時の卸売価格は、採卵鶏の廃鶏、セミブロイラーの順に高く、ブロイラーが一番安かった。

(3)貿易

畜産・獣医局の資料によると、冷蔵牛肉および羊肉は輸出されているが、家きん肉の輸出実績はない。また、2016年の家きん肉の輸入量は3971トンとごくわずかである。しかし、畜産協会は、中国から大量の冷凍鶏肉が陸路を通じて非正規輸入されており、主に都市部にあるバーベキューレストランなどに供給されているとしている。

6 おわりに

これまで見てきたように、ミャンマーの肉用鶏産業は、旺盛な食肉需要を背景に鶏の飼養羽数とともに、鶏肉生産量も増加しており、伸び盛りの分野であると言える。隣国タイのブロイラー産業は、輸出産業としてインテグレーションによる生産から販売までの一貫的な管理体制が構築されているが、ミャンマーの場合、人件費が安いなどコスト面で優位にはあるものの、長く続いた経済制裁が解除されてからの日が浅く、品質面でも輸出に耐えられないため、インテグレーションはまだ伸展していない。

採卵鶏の廃鶏が食用としてブロイラーよりも高値で取り引きされているように、同国内におけるブロイラー肉への評価は低い。さらに、飼養期間が圧倒的に短いため、疾病が発生しても比較的短期間で回復可能であるとの意識があり、衛生対策も十分に行われているとは言い難い。

このような状況にあるものの、試算では、現在の農家出荷価格の水準であれば、ブロイラーを3000羽以上飼養すれば、農家は最低賃金以上の利益が得られていることから、さらなる生産拡大の意欲は高い。また、飼料原料が確保できることや、労働力が豊富であること、外資の投資環境が安定化してきていることなど今後の発展に有利な点も多い。実際に、ミャンマーCP社が事業領域を拡大していることや、オランダも鶏肉のバリューチェーン構築のため政府主導でミャンマーの養鶏業に進出していることを見ても、肉用鶏産業の成長が期待されていることが分かる。こうした発展の諸条件に加え、経済発展が続けばさらに食肉需要が高まることが予想され、外資によるインテグレーションが進めば、後発開発途上国向け特恵関税を利用した輸出も視野に入れた発展が起こる可能性もあり、同国における肉用鶏産業の今後の動向が注目される。


				

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