調査・報告 学術調査   畜産の情報 2018年9月号


未利用資源(焼酎粕)に含まれる機能性成分が牛の生産性に及ぼす影響について

宮崎県畜産試験場 家畜バイテク部 部長 須崎 哲也
副部長 黒木 幹也
宮崎県食品開発センター 応用微生物部 副部長 山本 英樹
技師 藤田 依里



【要約】

 焼酎粕に乳酸菌培養液ならびに植物性食品残渣および酵素を加えることで、保存性が高く(91日後pH変動少ない)、オルニチンを高含有(1リットル当たり約1500ミリグラム)した機能性乳酸発酵焼酎粕飼料を製造することができた。このオルニチンを高含有する乳酸発酵焼酎粕を、濃厚飼料の代替として一定期間、黒毛和種繁殖雌牛に給与し、繁殖性や血液性状、ルーメン液性状について調査を行った。その結果、乳酸発酵焼酎粕を短期間(43日間)、あるいは長期間(76日間)にわたり給与しても、牛の健康性や繁殖性に問題がなく、濃厚飼料の代替として利用できることが示唆された。また、嗜好性も非常に高く、牛の肝機能改善につながることも期待された。

1 はじめに

わが国における家畜の飼料の大部分は海外からの輸入飼料に依存しており、飼料自給率は約28%にとどまっている。海外からの輸入飼料は為替相場や原油価格、社会情勢により大きく変動するため、畜産経営の不安定化の要因となるとともに、家畜防疫の面からもリスクが高いことから、国産飼料や未利用資源(エコフィード)の利用推進はますます重要となっている。昨年、焼酎粕を乳酸発酵することで、オルニチンなどの機能性成分が生成されるとの報告がなされており(平成28宮崎県食品開発センター)、これを牛に給与することで、肝機能改善など牛のストレス軽減につながるものと期待される。そこで本調査では、焼酎粕に含まれる機能性成分が牛の生産性に及ぼす影響を明らかにすることで、焼酎粕のエコフィードとしての有用性を実証し、国内飼料自給率の向上に資するものである。

2 焼酎粕の乳酸発酵試験

(1) 目的

宮崎県畜産試験場と食品開発センターでは、焼酎粕に糖蜜と市販サイレージ用乳酸菌製剤アクレモコンク(販売終了、後継商品はサイマスターAC:雪印種苗(株))を添加して発酵させることで、保存性の高い乳酸発酵焼酎粕飼料を製造できることを過去の研究で明らかにしている(日本醸造協会誌106巻(2011)11号 p785〜790)。

一方、近年の研究で、食品開発センターが県内焼酎もろみから分離した乳酸菌は、肝機能改善効果があるとされる機能性成分オルニチンを生成することが分かった。

本研究では、従来の乳酸発酵焼酎粕飼料の製造方法に、乳酸菌培養液および植物性食品残渣の添加を組み込むことで、オルニチンを高含有した乳酸発酵飼料の製造を試みた。

(2) 試験方法

写真1の500リットル容量のプラスチックタンクを用い、焼酎粕に植物性食品残渣を添加した試験区1と、現行の乳酸発酵焼酎粕の製造方法に準じた試験区2について乳酸発酵試験を実施した。各試験区に添加した製剤等の量を表1に示す。発酵槽は屋内に静置し、試験開始後1週間は1〜2日ごとに、その後は91日後まで1〜2週間ごとにかくはんおよびサンプリングを行った。得られたサンプルのpH、乳酸濃度およびオルニチン濃度を測定した。

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(3) 結果と考察

pH測定結果を図1に示した。一般に、雑菌汚染があると急激なpH変動が見られる。今回、試験区1、試験区2ともに91日後までpHはほぼ一定であった。

乳酸濃度の測定結果を図2に示した。乳酸には静菌性があるため、乳酸量が多いと雑菌汚染の防止効果が期待できる。試験区1の方が試験区2より乳酸生成量が多かったため、従来法である試験区2より試験区1の条件の方が保存性に優れていることが示唆された。

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また、オルニチン濃度の測定結果を図3に示した。オルニチンは試験区2では全く増加しなかったが、試験区1では発酵開始後3日後には著しく濃度が上昇していた。その後、時間経過とともにゆるやかに減少しはじめたが、41日後以降は一定となった。

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これらのことから、従来の乳酸発酵焼酎粕飼料の製造法に、乳酸菌培養液および植物性食品残渣を加えることで、保存性が高く、オルニチンを高含有した機能性乳酸発酵焼酎粕飼料を製造できることが分かった。

3 焼酎粕の牛への給与試験

(1) 目的

宮崎県畜産試験場では、乳酸発酵芋焼酎粕を長期間(36カ月間)黒毛和種繁殖雌牛に給与し、繁殖性や血液性状に問題はなく、飼料費の削減が可能であることを過去の研究において示している(宮崎県畜産試験場研究報告 第25号 2013)。

今回、「2 焼酎粕の乳酸発酵試験」において調製した、オルニチンを高含有する乳酸発酵焼酎粕を濃厚飼料の代替として一定期間、黒毛和種繁殖雌牛に給与することで、焼酎粕に含まれる機能性成分が牛に及ぼす影響を調査した。

(2) 試験方法

給与試験は短期給与と長期給与に分けて実施した。

短期給与の供試牛は当場けいようの黒毛和種繁殖雌牛4頭を用い、焼酎粕給与区2頭、対照区2頭に振り分け、反転法で2回実施した。試験開始20日前からならし期間として通常の給与メニューを給与した。1回の給与期間は42日間とし、1回目給与終了後、再度ならし期間として20日間、通常の給与メニューを給与した後、2回目の給与を開始した。

長期給与の供試牛は当場繋養の黒毛和種繁殖雌牛8頭を用い、焼酎粕給与区4頭、対照区4頭で実施した。試験開始20日前からならし期間として通常の給与メニューを給与し試験を実施した。

給与は、1日2回(9時、15時)に分け、午前は粗飼料のみ、午後は粗飼料に乳酸発酵焼酎粕と濃厚飼料を加えた。

焼酎粕の乳酸発酵試験でオルニチンを高含有する試験区1を給与試験に供し、その飼料成分を表2に示した。この数値を基に、給与設計を行い、乾物摂取量(DM)、可消化養分総量(TDN)、CP(粗タンパク質)が2区とも同等になるよう設定した。牛に実際給与する場合は、短期給与区では乳酸発酵焼酎粕1日当たり2.2キログラム、長期給与区では乳酸発酵焼酎粕同1.2キログラムを対照区の濃厚飼料同1.0キログラムの代替として給与した。

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過剰排卵処理に伴う処置は、発情前後3日間を避けてCIDR(膣内留置型プロジェステロン製剤)を膣内挿入(給与前)し、10日目にFSH(卵胞刺激ホルモン)の1回投与、12日目にPG(黄体退行物質)を午前、午後の2回投与した。14日目の午後と15日目の午前にAI(人工授精)し、21日目に常法により採卵した。

(3) 結果と考察

(1)嗜好性

給与に際し、粗飼料の上から焼酎粕をふりかけて給与すると、焼酎粕のみ選んで食べるなど嗜好性は非常に良好で、給与した焼酎粕を食べ残す個体もいなかった。

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(2)栄養度指数の推移

焼酎粕を長期給与した場合の栄養度指数(体重/体高)を図4、5に示した。いずれの区も給与前は上限値以上の過肥状態であったが、給与終了後はやや過肥の状態となり改善がみられた。

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(3)繁殖性

過剰排卵処置後の採卵成績を図6、7に示した。

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短期給与の正常胚率(正常胚数/回収卵数)は焼酎粕給与区45.3%、対照区58.3%で、長期給与の正常胚率は焼酎粕給与区39.4%、対照区43.9%であり、いずれも同等な成績であった。

(4)血液性状

血中尿素態窒素は牛のルーメン(第1胃)内でのタンパク質代謝の指標となる。短期給与では、給与後に両区ともほぼ適正範囲内に推移した(図8)。長期給与では、焼酎粕給与区がほぼ適正範囲内で推移したのに対し、対照区では有意に低下した(図9:P<0.01)。

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GGTはタンパク質分解酵素の一種で、肝細胞が破壊されると血中濃度が高まることから、肝臓障害の指標として用いられる。図10に短期給与試験のGGTの数値を示した。対照区ではほとんど数値に変化がみられなかったのに対し、焼酎粕給与区では給与前は上限値以上であったが、給与後には適正値内に推移した。図11に長期給与試験のGGTの数値を示した。長期給与においては両区ともほとんど数値に変化はなかった。

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4 まとめ

以上のことから、乳酸発酵焼酎粕を短期、あるいは長期間にわたり給与することで、牛の健康性や繁殖性に問題がなく、牛のルーメン内においてタンパク質代謝が正常に行われていることが示された。また乳酸発酵焼酎粕中にはオルニチンが高含有することも認められ、血液性状の項で示したように、牛の肝機能改善につながることも期待された。今回、短期給与試験においてGGTの低下が見られたのは、1日当たりの給与量が2.2キログラムと長期給与の1.2キログラムに対し多かったことが考えられる。オルニチンが乳酸発酵焼酎粕に1リットル当たり約1500ミリグラム含有した場合、短期給与では1日当たり3300ミリグラムのオルニチンを摂取したことになる。牛はルーメン内で盛んに微生物が発酵を行っているため、オルニチンなどのアミノ酸の一部は分解されたと考えられるが、分解される以上のオルニチンを摂取したため、一部のオルニチンはルーメン内での分解を回避でき、その結果GGTの低下が起きたと推察された。


				

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