海外情報   畜産の情報 2018年9月号


世界の食肉産業をめぐる今後の情勢〜Trusting in Trade〜

調査情報部 国際調査グループ



【要約】

 第22回世界食肉会議において、畜産物の貿易および消費者動向を中心とした食肉産業をめぐる情勢に関する講演などが行われた。
 米国のパーデュー農務長官、カナダおよびアルゼンチンの農業担当大臣はそれぞれ、農畜産物の自由貿易の重要性などについて語った。その後のパネルディスカッションでは、EUおよびメキシコの担当者から、米国が進めている保護主義政策に対する批判の声が聞かれた。
 消費者動向に関する講演では、多様化する消費者ニーズに応え、消費者へ透明性や安心感を提供するためには、一方的な情報発信ではなく、消費者の考えや疑問に耳を傾け、価値観を共有することの重要性が示された。

1 はじめに

世界人口の増加や経済発展に伴い食肉需要が高まっている中、米国の食肉生産量は増加傾向にあり、輸出量も記録的な水準になると予測されている。一方、米国の保護主義に端を発する各国・地域との報復関税の応酬が、米国の畜産物需給の先行きに不透明感を与えている。

このような状況の中、2018年5月30日から6月1日の3日間、国際食肉事務局(IMS)および米国食肉輸出連合会(USMEF)の共催により、米国テキサス州ダラスにおいて第22回世界食肉会議(World Meat Congress:WMC)が『Trusting in Trade(貿易を信じる)』をテーマに開催された。同会議は、世界の食肉需給動向などに関する情報交換、畜産関係者の交流を目的として、2年に一度世界各地で開催されている。今回は、世界40カ国以上から750名を超える畜産関係者などが一堂に会し、さまざまな課題について議論し、交流を深めた。

本稿では、同会議における米国農務長官などの基調講演、貿易政策担当者によるパネルディスカッション、最近の食肉需給や消費者の動向などに関する講演の概要について報告する。

なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=112円(2018年7月末日TTS相場:112.01円)を使用した。

2 基調講演

同会議は、USMEFのフィリップ・セング名誉CEOの挨拶で始まった。同氏は挨拶の中で、「農業は人が生きる上ですべての根本となるものであり、現在の貿易紛争には馴染まないことから、農業貿易は他の貿易と切り離すべきである。グローバル化を疑問視する声が増えており、農業の敵である保護主義が台頭している。この問題について、どのように対処していくべきかこの会議で議論したい。」とテーマを提示した。

続いて、IMSのギョーム・ルエ会長は、「現在、畜産業界は、2つの課題に直面している。1つは、食肉代替製品(注1)の増加であり、本物の食肉と比べれば小さな存在にとどまると見込んでいるものの、今後の動向を注視していかなければならない。もう1つは、コミュニケーションであり、畜産業界をより良くするために、消費者を含めた関係者と連携を密に取らなければならない。また、人類に食料を提供していくためにアニマルウェルフェアや環境に対応し、家畜を再生産していかなければならない。」旨を述べた。

(注1)植物などを原料にして、食肉に似せた食品。

(1)アルゼンチン農産業省エチェベレ大臣の講演

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基調講演では、アルゼンチン農産業省ルイス・ミゲル・エチェベレ大臣が、「グローバルな食料政策を」と題した講演を行った。

同大臣は、近年、消費者の厳しい視線が畜産業界に注がれており、この厳しい状況に対する効果的な対策として、畜産業界では健全で公正な競争が行われていることを消費者にアピールし、畜産業を理解してもらうことが重要であるとし、そのためには、今日ここに集まった畜産関係者が模範となって行動することが重要であると呼びかけた。

また、アルゼンチンでは、2015年11月以前の前政権において、国内の牛肉価格を安値に安定させる目的から、牛肉の輸出規制が行われた。この政策により、国内の肉用牛の飼養頭数は約1200万頭減少し、畜産業界が縮小したことは大きな失政であったと述べた。しかし、現在のマクリ大統領が就任してからは、牛肉輸出を積極的に行った結果、肉用牛の飼育頭数は増加傾向にあり、食肉パッカーも新設されている。さらに、2018年に入り、中国向けの輸出が開始され、近々、日本へも輸出が可能となる(注2)。アジアは、牛肉輸出において将来有望な市場であり、貿易は畜産物において非常に重要な要素である。畜産物貿易を健全に行っていくために、消費者に対し畜産業界全体の透明性を確保していくことが重要であるとした。

(注2)2018年6月27日、アルゼンチンのパタゴニア地域からの対日輸出が可能となった。

(2)カナダ農業・農産食料省マッコーリー大臣の講演

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続いて、遅れて会場に到着したカナダ農業・農産食料省ローレンス・マッコーリー大臣が、「貿易とイノベーションを通じて世界に食料供給を」をテーマに講演した。

同大臣は、現在、カナダの食肉業界には、(1)持続可能な方法で世界に食料を供給すること(2)科学技術の発展(3)貿易の促進という3つの課題が存在するとした。北米一体となり、牛肉と豚肉の生産を拡大させてきたカナダは、水や肥料の削減、カーボンフットプリントの低減、飼料効率の改善など21世紀の持続可能な方法で、牛肉と豚肉の生産量をさらに増加させる必要があると述べ、その際、科学の果たす役割は大きいとした。北米の食肉産業は、一体化しており、カナダで生まれた牛が米国で処理され、テキサスでハンバーガーになったりする。北米自由貿易協定(NAFTA)で生産者や加工業者は連携している。北米のサプライチェーンの安定化は世界の畜産業界にも良い影響を及ぼすだろう。NAFTAは、修正の必要性はあると思うが、白紙に戻す必要はない。カナダはハードに交渉していると締めくくった。

(3)米国農務省パーデュー長官の講演

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米国のソニー・パーデュー農務長官は、世界にはまだ3億7200万人の人々が飢餓で苦しんでおり、米国や世界に食料を安定的に供給することが米国の使命であるとし、4つのポイントを挙げた。

ア 生産性の向上

今後も遺伝子の改良における技術革新を進め、家畜の伝染性疾病をコントロールし、肥料の適切な使用などにより生産性の向上に努める。

イ 研究開発の促進

米国は牛ダニ熱、牛結核および口蹄疫などの伝染性疾病について、他国と共同するなどして研究を行う。このため、USDAは、2018年〜2022年の5カ年計画で大学や国立食品農業研究所(NIFA)の研究に補助金を給付するだけでなく、全米バイオ農業対策施設をプラムアイランドからカンザス州マンハッタンに移設し、最新の疾病研究を行う。なお、米国は家畜の伝染性疾病だけでなく、ジカウイルスやエボラウイルスなどの研究により公衆衛生分野にも貢献している。

ウ 科学に基づく規制

USDAは、科学や事実に基づき農業に関する規制や決定をしていく。これにより、食肉や食鳥の食品安全上のリスクは低減する。また、食肉代替製品のラベル表示などにも対応中であり、ラベル表示法については、より消費者が理解しやすいように、米国議会が食肉の基準の近代化に努めている。

エ 自由貿易

2017年の米国の農業輸出額は1380億米ドル(15兆4560億円)であり、農業は米国の経済を支えている。米国の人口は世界の5%にすぎないため、自由貿易によって、畜産物のより広域への供給を目指したい。自由貿易によって牛肉と豚肉の輸出量は5〜6%増加しており、生産量も増加している。その結果、飼料穀物生産者の利益にも繋がり、穀物業界に雇用の創出や安定をもたらしている。米国と中国の貿易紛争は、USDAのマッキニー次官(貿易担当)が中国を訪問し問題解決を探っている。日本とも大いに協議をしている。日本は、牛肉、豚肉、野菜の有望な市場である。インドネシアなど東南アジアも輸出先として希望が持てる市場である。米国は自由貿易を目指し、10カ国と二国間協定について協議中である。自由貿易を推進するために、科学的根拠に基づく規制などによる公正な政策決定が重要である。

3 世界的な貿易システムの展望(パネルディスカッション)

USDAのマッキニー次官が当初出席予定であったが、米中通商協議のため、代理としてUSDA海外農業局のケン・アイズレー氏が出席した。他にメキシコ経済省NAFTA主席交渉官のケネス・スミス氏、欧州連合駐米代表部公使参事官のヘスス・ソリーリャ氏の計3名が、前米国通商代表部首席農業交渉官のダーシー・ベッター氏の進行の下、世界の畜産物貿易についてそれぞれの立場から意見を述べた。

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(1)世界貿易を活性化するための最も効果的な政策や今後の有望市場をどう見るか

アイズレ―氏(米国農務省)

消費者や生産者に対して畜産物に関係する世界的な状況を説明し、理解を得ることが大事である。米国は、生産性向上を図るため、最新の科学技術の導入に努めていく。今後、アジアは有望市場であると考えているが、中国は障壁が多いことを忘れてはならない。アフリカも今後有望市場となり得るだろう。

■スミス氏(メキシコ経済省)

米国は保護主義を止めて、自国の市場を開放するべきである。メキシコの輸出では米国向けが80%を占めているため、一極集中によるリスクを分散させ、より安定した経済発展を目指していきたい。NAFTAは、メキシコにとって最も重要であるが、依存度を低下させる必要があり、多国間貿易が大切だと考えている。

TPP11は国内手続きがほぼ終了しつつあり、早期の発効を望んでおり、日本とベトナムに期待している。今後、アジアは有望市場であり、TPP11を中心にインドネシアにも注目している。米国がNAFTAから離脱するならば、特に農産品の新たな市場開拓に努めなければならない。中国は障壁が多いということには同意する。また、ハラールも貿易に必要な要素となる。

■ソリーリャ氏(欧州連合駐米代表部)

自分たちの国が間違った方向に進もうとしている時は、国民のみなさんが、批判を恐れず反対の声を上げることだ。米国は最大の貿易相手国であるが、今は日本をはじめ、インドネシア、フィリピンなどと自由貿易に関して協議しており、韓国やベトナムとはすでに協定を締結済みである。アジアは今後有望な市場である。畜産貿易では、動植物検疫や食品安全、衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)が問題となり得るので、科学に基づき対応することが大事である。

(2)WTOが果たすべき役割をどう考えるか

■アイズレ―氏(米国農務省)

WTOは必要な機関であるが、現在は多国間貿易協定よりも二国間貿易協定が主流となり、WTOの在り方を検討すべき時期に来ている。必要であればWTO改革を行うべきであり、現在の適切な貿易の在り方に合わせてWTOは存在すべきである。

■ソリーリャ氏(欧州連合駐米代表部)

WTOのルールが最も尊重されるべきだと考えている。そのため、国内産業保護のための補助金の交付や、輸入品への関税の賦課などの貿易に影響を及ぼす事項は、すべてWTOで認められたものであるべきである。国際ルールに従うことが最優先であり、自国が抱える特有の事情は二の次である。WTOを過小評価してはいけない。

■スミス氏(メキシコ経済省)

ソリーリャ氏の意見に同意する。WTOは世界貿易の根幹であり、何事も交渉により、解決すべきである。

(3)食肉代替製品(フェイクミート)についてどう考えるか

■アイズレ―氏(米国農務省)

食品としての安全性を確保することと、消費者の理解を深めることが重要である。食肉代替製品であっても従来の畜産物に対する食品安全に関する規制を適用すべきであり、従来の畜産物と区別するためのラベル表示を適用すべきと考えている。

■スミス氏(メキシコ経済省)

食肉代替製品は時代の流れであり、いつの時代も数十年前までは存在しなかった新しい食品が誕生してきた。食肉代替製品は先進国で問題となっている肥満問題などの解消にも役立つかもしれない。新しい食品に対しては、適切な規制を適用すべきであり、消費者に対して正確な情報を伝えるため、ラベル表示は大切であると考えている。食肉代替製品は、NAFTAにおいても検討すべき課題の一つとして挙げられている。

(4)消費者ニーズなど

■アイズレ―氏(米国農務省)

消費者のニーズに応えるため、ファーマーズマーケットが増えてきている。消費者の食への関心は高まっているが、新しい技術の導入は生産効率を高める上でも非常に重要であるため、適切なリスク評価を行えば、科学技術を否定する必要はない。科学に基づく肥育ホルモンやラクトパミンなどの使用を否定する必要はない。

■スミス氏(メキシコ経済省)

消費者は食品の品質や栄養素だけでなく、アニマルウェルフェアといった食品の付加価値というべきものにも関心を持っている。このような消費者のニーズに対しては正面から向き合い、様々な選択肢を消費者に示す必要がある。

■ソリーリャ氏(欧州連合駐米代表部)

オーガニックへの関心が非常に高まっている。消費者が生産者とのつながりを求め始めているため、消費者ニーズに応えるためには、サプライチェーンを短くすることが必要かもしれない。また、EUは食の安全に関する貿易ルールが厳しいと言われているが、基準はEU域内すべてに適用しており、決して保護主義的という訳ではない。食の安全を確保するために必要な政策であり、肥育ホルモンのEU域内での使用は禁止されている。

コラム1 米国発貿易紛争の行方

連日ニュースで取り上げられている「貿易紛争」は、米国のトランプ政権が本年3月に中国製の鉄鋼とアルミニウム製品に追加関税を課したことに始まった。これに対する報復措置として、中国は、4月に大豆や豚肉などの米国産農畜産物などに追加関税をかけた。また、米国が5月末までは対象外としていたカナダ、メキシコ、EUの鉄鋼およびアルミニウム製品に対しても追加関税を課したことを受けて、これらの国・地域も米国産農畜産物などに対して追加関税を課すこととなった。これまでに米国産畜産物に課せられた主な追加関税は以下の表の通りである。

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米国の農畜産物に追加関税が課されたことにより、行き場を失った米国産農畜産物の市場価格が下落すると予想されている。実際、4月に中国が米国産大豆に対して25%の追加関税を課すと表明した時点で市場は反応し、6月末時点の米国産大豆の市場価格は4月時点よりも1ブッシェル当たり2ドル程度(1キログラム当たり8円)値を下げた。

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米国産大豆の輸出は、中国向けが約半数を占めており、追加関税の影響が大きい。米国産トウモロコシは、メキシコや日本向けが多く、中国以外の国が主要な輸出先となっているにもかかわらず、市場価格が下落している。米国産農畜産物の市場価格が下落すれば、追加関税を賦課していない諸外国に流れると予想されるが、買い付け量は限定的であると想定される。米国の畜産関係者の話では、今回の貿易紛争の終息予測が全く立たないことも状況を悪化させており、本年11月の米国議会選挙(中間選挙)前後の政治的な節目となるタイミングで貿易紛争が終息することを望む声がほとんどである。

貿易紛争が長引けば、世界の需給バランスが崩れ、世界の農畜産物市場を混乱させるだけであり、一刻も早い終息を祈るばかりである。

4 変化する世界〜食肉貿易への影響要因〜

USMEFのエリン・ボア氏から、今後の世界の畜産物需給予測が示された。

今後10年間の世界の食肉生産量は、牛肉、豚肉、家きん肉、羊肉すべてで、緩やかな増加が見込まれている(図1)。

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同様に、今後10年間の消費量についても、すべて増加すると見込まれているが、一人当たりの消費量については、家きん肉のみが増加するとされており、牛肉や豚肉の生産量が、世界の人口増加に追いついていかないためと推察される。

畜産物の消費量は経済成長とともに上昇するものであり、2017年の一人当たりの牛肉消費量は、韓国、中国、台湾が、また、豚肉については、韓国、日本、メキシコ、フィリピン、コロンビアが、それぞれ過去最高を記録した。

動物性たんぱく質のうち、消費量に占める輸入品の割合は魚介類がトップであり、次いで牛肉、家きん肉が続く。この傾向は今後10年間も変わらないとみられる。

また、アジアは、2020年において世界の中級階層の約半数を占め、2030年には60%以上にまで割合が高まると見込まれており、畜産業界から熱い視線を注がれている(図2)。

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世界の人口増加や経済成長を見込んで、食品業界においても今後5年間の売り上げは総じて増加すると予想されている。特に、eコマースの売上げは2017年の910億ドル(10兆1920億円)から約80%増の1630億ドル(18兆2560億円)と見込まれており、ここでもアジアにおける伸び率が際立っている。

今後の畜産物貿易を左右する要因は多岐にわたり、米国発の貿易紛争、欧州におけるアフリカ豚コレラの発生状況、ブラジルとインドの牛肉輸出に占めるシェア拡大、輸出国としてのロシアの台頭、中国による一帯一路などが挙げられる。

5 最近の消費者動向

(1) 消費者の関心

ミズーリ州カンザスシティに拠点を置く非営利団体であるフード・インテグリティセンターのロキシー・ベック氏によると、消費者が食品に関してインターネットで検索する事項の上位は、(1)原材料(2)健康への効能(3)食品安全(4)家畜に対する健全な取り扱いであった。また、消費者に対するアンケートから、食肉に対しては、肥育ホルモンの使用、食肉への抗生物質の残留に関心が高いという調査結果も判明した一方、ホルモン剤と抗生物質の違いを理解していない人が多いとみられ、業界と消費者のコミュニケーションが不足していることを示している。

現在、消費者は様々な手段で情報を入手することができるが、消費者の心情として、身近な人や影響力のある人からの情報を特に信用する傾向にある。これは時に事実以上に信用されることから、このような消費者の思考を意識したマーケティングを行う必要がある。

消費者と価値観を共有するためには、消費者の話をよく聞いて、最低でも3つ以上質問し、必要に応じて知識を共有することが重要である。

また、牛乳・乳製品の消費拡大に取り組む組織である米国酪農イノベーションセンターのリサ・ワトソン氏によれば、消費者の関心は、ひと昔前は、食品汚染、病気の家畜が食肉として供されないこと、低脂肪や塩分控えめなどの栄養成分に関する事項が中心であったが、現在は、安全性が確認されていない遺伝子組み換え作物(GMO)が使用されていないか、アニマルウェルフェアに配慮された家畜由来の食肉であるか、食肉生産に携わる労働者が不当な賃金で働かされていないか、リサイクル包装を使用するなど持続可能性への配慮がなされているかなど、多岐にわたっている。

酪農業界に関する消費者アンケート調査によると、80%以上の消費者が酪農業界に好意的で信頼を置いているが、消費者は乳製品に関するより多くの情報を求め、透明性や自身を安心させる事実を求めていることも判明した。

この消費者ニーズに応えるべく、酪農業界には、乳製品を生産し出荷するだけでなく、アニマルウェルフェアに配慮して牛舎へ空調を設置したり、持続可能性を考慮してメタンガス排出量を削減する装置を導入するなど、環境・人・家畜に優しい取り組みが非常に重要な要素となる。

インディアナ州にある「Fair Oaks Farm」という酪農場は、家畜の糞尿などのバイオマスからバイオ燃料を生成し、エネルギーを利用することで持続可能性に取り組んでいる。さらに、農場を消費者に開放し、消費者の理解醸成を図り、また、訪問した消費者とSNSなどを通じてコミュニケーションを図るなど、情報提供や透明性の向上に取り組んでいる事例として紹介された。この農場では、養豚およびトウモロコシ生産を行うだけでなく、自農場の商品を利用したレストランなども所有しており、6次産業化にも成功している。

(2)明日の消費者に備えて

米国のマーケティングコンサルタント会社であるMidan Marketingのマイケル・ウェッツ氏によれば、今後世界人口の中心となるミレニアル世代(2000年以降に成人となる世代)に向けた販売方法の検討が必要となる。ミレニアル世代は、特に企業や食品に対して透明性を求める傾向があり、商品を購入する前に商品に付されているQRコードなどをスマートフォンで読み取り、商品に関する情報を得ることが多いことも知られている。

また、消費者の健康に対する考え方も時代によって変化している。2000年代前半までは低カロリーや体重の管理が重視されていたが、2004年以降から現在までは、自然食やオーガニック、持続可能性が注目されてきた。そして今後は、摂取した食物が自分の体にどのような良い影響を与えるか、特定の栄養素が含まれているかが重視されるようになると予想される。

消費者の考える持続可能性と食肉業界の考える持続可能性は、必ずしも一致していないため、ここを上手くつなげる努力が必要となる。

コラム2  IT技術の農畜産物の生産・流通への活用〜ブロックチェーン〜

最近、何かと耳にするブロックチェーンは、分散型台帳技術または分散型ネットワークと言われ、仮想通貨「ビットコイン」を支える技術としても知られている。ブロックチェーンの特徴は、暗号化技術などを利用した特殊なデータ記録構造などに加え、関係者それぞれの取引データを関係者全体で共有し、一つの台帳として管理するところにある。関係者全体で台帳を監視・検証できることから、データの改ざんを試みたとしても、改ざんを瞬時に識別できる点が強みとされている。

このブロックチェーンを農畜産物の生産・流通においても活用する動きがみられる。例えば、農場から出荷された農畜産物が消費者の手元に届くまでには、加工場、倉庫、小売店などのさまざまな段階を経ることになる。この時、農畜産物(製品)の情報を、各段階においてQRコードを読み取ることなどによって登録して、関係者全体で管理することで、何らかの問題が発見された場合に、対象製品を瞬時に判別し、出荷を停止できるだけでなく、すでに店頭に並んでいるものを的確に追跡、回収し、問題の拡大を防ぐことにも役立つ。また、消費者の手元にある商品の回収にもつなげられる。

また、消費者も、製品に付されているQRコードを読み取ることで、製品のたどってきた流通経路や遺伝子組み換え原材料の含有など製品に関するさまざまな情報を確認できることから、消費者に対して透明性を確保できる技術としても期待されている。食の安全をより確かなものにするためには、こうしたサプライチェーンの透明性は非常に重要であり、今後もIT技術の応用から目が離せない。

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6 畜産業界の主な課題〜動物福祉とSPS協定〜

国際獣疫事務局(OIE)前事務局長であるベルナール・ヴァラ博士によると、動物は人間にとって必要不可欠なアミノ酸を含む貴重なたんぱく源であったり、衣料品などに欠かせない毛や皮を提供してくれるだけでなく、人間の代わりに探知犬として働いたり、人間に癒しを与えたり、臓器提供の可能性や科学技術の進歩にも貢献する、人間が生きていく上で必要不可欠な存在である。

現在、この動物に関連して、人間と動物の適切な関係性、人獣共通感染症、薬剤耐性菌(AMR)、環境問題などの様々な問題が提起されている。これらの問題に対処すべく、公衆衛生と家畜衛生が一つとなった「One Health」という概念の下、FAO・OIE・WHOが協力する世界的な取り組みが行われている。

しかし、AMRや人獣共通感染症を含む家畜の伝染性疾病に対処するには、国際機関レベルでの取り組みも重要ではあるが、各国・地域特有の事情をそれぞれが理解し、同じ目線を持ってこの問題に取り組む必要がある。

SPS協定は、WTOにおいて順守すべき事項の1つであり、OIEがガイドラインを作成している。アニマルウェルフェアは、SPS協定に含まれていないものの、OIEが基準を作成しており、協議の出発点を提供している。国際標準化機構(ISO)にも徐々に受け入れられ始めている。各国がアニマルウェルフェアを受け入れるよう、声を上げる必要がある。

7 おわりに

今回のWMCは世界の食肉の需給動向だけでなく、消費者の動向にも力点が置かれた会議であった。消費者の嗜好は多様化しており、生産者は食品として安全な食肉を供給するだけでなく、アニマルウェルフェアに配慮して家畜を飼育し、環境に優しい生産体制を確立し、インフルエンサー(影響力のある人)などを活用して、それらの状況を消費者に正確に情報提供することが求められていることを感じた。

これらの取り組みは、すぐに生産者の収入へ結びつくものではない。しかし、長期的に、畜産業の安定的な発展を目指すのであれば、消費者の理解は欠かせないことから、畜産関係団体や組織がこれらの取り組みを支援することが必要であろう。これらの地道な取り組みにより、生産者と消費者がお互いに求めあう関係になれば、畜産業の安定的な発展は約束されるものと思われる。

世界食肉会議の翌日、テキサス州フォートワース近郊の肉用牛農家を視察するバスツアーに参加し、肉用牛の育種、繁殖、育成農家を訪問した。これらの農場を訪問して感じたことは、日本と比べれば、米国の肉用牛農家は広大な土地や十分な畜舎などの施設を所有し、増頭して規模を拡大する余地をまだまだ有しているということである。このような牛肉生産大国と国際市場で競争するためには、日本の畜産物は農業HACCPやGAPなどの取得を通じた高付加価値化や和牛に見られる霜降りなどの品質面での差別化が重要であることを再確認した。

(鈴木 浩幸(JETROニューヨーク))


				

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