EUの牛肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇

○UR合意の実施で顕在化する供給過剰 −アイルランド−



 アイルランドの牛飼養頭数は、 EU15カ国中第4位で、 EU全体の8%に過ぎない

が、 人口が少ない (約350万人) ことから輸出依存度は最も高く、 同国の域外輸

出量はEU全体の輸出量の3割前後を占めている。 こうしたことから、 昨年7月か

らスタートしたEUのガット・ウルグアイラウンド (UR) 合意の実施は、 同国の牛

肉産業に少なからぬ影響を及ぼしはじめている。 



95年末から輸出は減少傾向

 アイルランドの食糧ボードの推計によると、 95年の同国の牛肉輸出量 (枝肉換 算重量) は、 域内、 域外併せて42万トンに上り、 前年を7%上回った。 ただし、 域外輸出については、 ロシア向けの大幅増や湾岸諸国向けの拡大があったものの、 エジプト、 イラン、 南アフリカなど従来の主要市場への輸出が、 昨年末あたりか ら減少傾向にあることにより、 前年並みの水準にとどまった。 また、 域外への生 体牛の輸出も、 前年より5%減少した。 これらの輸出の減少については、 昨年9 月以降の輸出補助金の引下げが影響したものとみられている。

強硬な反発を背景に補助金を引き上げ

 このような状況から、 2月2日に開催されたEU牛肉部門運営委員会では、 アイ ルランドを中心として輸出補助金の削減に対する反発が強く出され、 その結果、 雄牛牛肉の輸出補助金は5%、 雌牛牛肉及び加工品の輸出補助金は7.5%、 それ ぞれ引き上げることが決定された。  EUの輸出補助金については、 UR合意により、 95年度から2000年度までの間に、 その数量については21%、 金額については36%削減することが義務付けられたた め、 既に、 昨年9月以降数次にわたってその引下げが行われていた。 それだけに、 今回の引上げは、 EU当局にとって、 厳しい選択だったといえよう。

急がれる中長期的な供給過剰対策

 今回の輸出補助金引上げは、 一時的には、 アイルランド肉牛産業に利益をもた らすものと考えられる。 一方、 95年12月現在の同国の牛センサスによれば、 肉牛 経産牛は前年同期より3. 3%の増加、 また肉用繁殖未経産牛は13.8%の大幅増加 となっており、 同国の肉牛生産の拡大傾向が根強いことが示された。 中長期的に は、 輸出補助金の削減が不回避であることを考慮すると、 供給過剰体質という根 本的な問題の解決が、 アイルランドの牛肉産業にとって今後の大きな課題となっ ているといえよう。
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