EUの牛肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇

○BSE問題、 アイルランドに大きな打撃


● 300億円を超す経済的損害


 アイルランドの肉牛生産者団体は、 牛海綿状脳症 (BSE) による同国の牛肉業 界全体の経済的損失が、 最悪の場合、 2億アイルランドポンド (約357億円) に 上るとの見通しを発表した。  同国では、 牛肉生産の8割以上が輸出に向けられており、 輸出全体の中でも、 牛肉関連部門は比較的重要な位置づけにある。 このため、 BSE問題の発生後は、 域内牛肉消費の落ち込みと、 域外諸国のEU産牛肉に対する輸入規制措置などで、 輸出が大幅に減少したことにより、 輸出依存度が高い同国の牛肉業界が、 深刻な 経済的損失を被っている。

● 生体牛輸出は半分以下に


 アイルランド食料ボード (ABB) によれば、 96年上半期の生体牛輸出頭数は、 前年同期を約5割下回る9万頭に減少した。 このうち、 域外向けは、 リビア向け が年初の急増により前年同期より75%の増加 (BSE発生以降は輸入を停止) とな ったとはいえ、 主要相手国であるエジプト向けが7割も減少したことにより、 全 体としては5割以上減少した。  また、 域内のフランスやオランダなどへの輸出は、 生体子牛の輸出が前年同期 より3万頭も減少したことから、 6割以上の減少となった。

● 牛肉輸出は今後も減少予想


 アイルランドの牛肉輸出数量は、 3月末現在で、 域外向けを中心に、 既に大幅 に前年同期を下回っていたが、 その後も、 今回のBSE問題の拡大 (3月20日以降) により、 域内、 域外向けともに大きく減少していると伝えられている。  同国の牛肉消費量は、 BSE問題が発生する以前の8割以上の水準まで回復して いるとされるが、 国内消費分は、 輸出を含む肉牛・牛肉販売の全体の2割程度を 占めるに過ぎないため、 同国の牛肉業界にとっては輸出動向が最大の関心事とな っている。  現在、 アイルランド産の生体牛や牛肉の輸入を禁じているイランやリビアが年 内にも輸入を再開するという明るい観測もあるものの、 今後の輸出量は、 依然、 前年水準を下回って推移し、 96年全体では、 前年より4割程度減少するとの見方 が強い。

● 介入買入よりも、 直接補助を


 生産者団体の試算では、 輸出が回復せず、 牛肉価格が、 介入買入の発動レベル となるキロ当たり1.76アイルランドポンド (約314円) で推移した場合には、 肉 牛生産者の損失は総額で1億5千万アイルランドポンド (約268億円) に達する とされており、 アイルランドの牛肉業界にとっては、 非常に厳しい状況が予想さ れている。  過去には介入買入への依存度が高かったアイルランドではあるが、 現在の牛肉 業界には、 介入買入はその効果が薄いとして、 現状の低価格をもって需要拡大を 図り、 生産者の損失は直接、 補助金で補填すべきであるとの声も出ている。  隣国イギリスで発生したBSE問題は、 EU全域にさまざまな影響を与えているが、 イギリス以外では、 牛肉輸出国アイルランドの被った経済的な打撃が突出してい るといえよう。
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