96年 (通年) の穀物収穫見込みは過去最高に (中国)



● 好調だった春収穫穀物


 中国のこの春収穫 (概ね6月までに収穫されるもの) の糧食 (注) の生産は、 小麦がその中心を占めるが、 主要な生産地帯で概ね天候が良好であったことから、 その作柄は順調なものとなり、 全体では、 対前年比2%増の1億9百万トンにな ると予測されている。  春収穫の糧食は、 年間の全収穫量の2〜3割を占めるに過ぎないが、 穀物市況 に与える心理的な影響は、 極めて大きなものがある。 なぜなら、 その年のその後 の作柄を予測するうえで、 春の作柄のインパクトが大きく、 また、 仮に、 それが 減収予測であった場合は、 (緩和したとはいえ) インフレ傾向の続く市場環境下 では、 価格動向に及ぼす影響が大きいからである。  なお、 昨年の豊作 (4億6千6百万トン) や今春の好収穫を反映して、 昨今で は、 食用、 飼料用共に、 穀物の市場価格は概ね安定的に推移している。 (注) 糧食:食用、 飼料用穀物の総称で、 一部のマメ類・芋類を含む    (約1割程度)

● 通年では史上最高の収穫見込みも


 こうした中、 8月末には農業部 (農林省に相当) が、 96通年の糧食の収穫見込 みについて、 今年の目標と同じ4億6千5百万トンと発表したが、 9月初めには 国家統計局が、 秋の天候が良好な場合には、 さらに1千万トン程多い、 史上最高 の豊作になるとの見通しを示した。 なお、 増産要因については、 糧食の国家買上 価格の引き上げや、 農業資材・化学肥料の調達容易化政策により、 農民の生産意 欲が向上したことによるものと分析されている。  これに対して、 周知の通り、 長江中・下流域で洪水被害が大きかったことから、 この発表は意外性を持って受けとめられている。 長江流域の水害は毎年のことで、 それ自体は必ずしも特筆すべきニュースではない。 しかしながら、 今年の場合、 被害が福建省、 広東省などにも及んでおり、 民生のみならず、 コメを中心とした 農作物にも大被害が及んだと報道されている。 こうした、 作柄に関する悪条件と 豊作見通しとのギャップについては、 「他の主要穀物産地の天候が良好で豊作が 期待され、 洪水による減収分を埋め合わせた。 また、 早生種のイネの作付けが増 えて洪水被害を軽減することができた」 との趣旨の説明がなされている。

● 「激減」 したトウモロコシの輸入


 一方、 昨年来、 世界の穀物関係者の間で大変注目され、 世界の穀物需給逼迫の 要因の一つとなった中国の穀物輸入は、 今年の春以降は減少している。 通関統計 によれば、 1〜7月の間の穀物輸入量は725万トンと、 対前年比で15%の減少と なっている。 なお、 輸入の大部分は、 春が端境期の小麦 (前年同月比+30%:大 部分が食用) である。 一方、 飼料穀物の大部分を占めるトウモロコシについては、 前年同期実績の4分の1以下 (44万トン:特に7月はほとんど停止) にまで 「激 減」 している。 輸入が大幅に減少した理由は、 豊作だった昨年の収穫物が末端ま で行き渡りつつあることや、 政府の調達・流通対策が、 徐々に効果を表しはじめ た結果と見ることができる。

● 飼料穀物の需給逼迫は緩和されるか


 一方、 穀物消費の面では、 近年、 畜産部門の消費急増が穀物不足の要因となっ ているが、 国家統計局によれば、 96年上半期の食肉生産は、 前年同期比約16%増 の2千6百万トンと、 依然として極めて高い増産傾向を示している。 したがって、 畜産分野の関心事項は、 今後の飼料穀物の需給動向であるが、 かなりの部分で飼 料用と食用の間に明確な区分がない中国では、 コメの減収分が、 本来飼料用に向 けるはずの品目から埋め合わされる可能性を指摘する向きがある。 しかしながら、 食習慣や嗜好の違いが大きいことや、 生活水準が向上した現在では、 食用につい ては、 他の穀物で補うことが大規模に行われるとは考えにくい。  これに対して、 飼料用に供されるクズ米等に関しては、 一部、 飼料穀物での埋 め合わせが考えられる。 また、 近年、 長江中流域で拡大したトウモロコシなどの 飼料穀物には、 大きな被害が出た模様である。 しかしながら、 圧倒的シェアを占 める主産地の豊作によって、 これらの減収要素の影響は、 極めて限定的なものに とどまると考えられる。  なお、 最近出された国際穀物理事会 (IGC) の96/97年生産予測では、 中国の 粗粒穀物 (その多くが飼料穀物) 生産量は1億2千4百万トン (95/96年比、 約 +4%) の豊作見通しとなっており、 全体としての供給面には明るいものがある。  世界最大の穀物供給国である米国の需給逼迫・在庫払底と価格の高騰は、 既に 世界の穀物マーケットに大きな影響を与えているが、 穀物輸入国に転じた中国が 自給状態を回復すれば、 輸入穀物への依存度が高い国々にとっては、 大きな朗報 である。
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