特別レポート 

第11回 ワールド・ミート・コングレスより <世界食肉会議*(WMC)>

企画情報部 塚田 幸雄


(参考)* パリに事務局を置く国際食肉事務局 (IMS) が2年毎に開催する、 食肉の需給 や貿易動向に関する情報交換、 食肉関係団体等の交流を目的とした国際会合


37カ国から約600人が参加


 アジアで初めて開かた、 今回の第11回世界食肉会議は、 9月23〜25日の
日程で中華人民共和国北京市の国際貿易飯店国際会議場で開催された。 会議には、 
37カ国からの参加があり、 参加人数も約600人に達した模様である (会議実
行委員会談:なお、 97年9月現在のIMSの会員数 (一国一会員制ではない) 
は93となっている)。 なお、参加者の約3分の2は地元中国からの参加者とみら
れ、 世界貿易機関 (WTO) 加盟促進を念頭において、 国際社会でのアピールを
重視する中国側の意欲が溢れた会合となった。 

 また、 会議実行委員会の人事においても、 主席が国内貿易部 (国内通産省に相
当) の次官、 又、 副主席が同部傘下最大の商業 「公団」 である中国食品公司の総
経理ほかと、 中国側がこの大会に寄せる熱意を十分に示す布陣であった。 


冒頭、 李副総理が中国食肉産業の発展を強調


 先ず、 会議実行委員会の何主席の開会挨拶に引き続き、 会議実質会合に先立っ
て、 冒頭講演が行われた。 冒頭講演には、 WMC開催直前の中国共産党第15回
大会で、 新たに党中央委員会政治局常務委員に選任されたばかりの李嵐清副総理
が立った。 同常務委員会の構成からみて、 李副総理の国家序列は7位とみられる
が、 こうした要人の講演を得た点においても、 中国側のこの会議を重視する姿勢
が強く示されている。 なお、 講演の中で李副総理は、 中国の食肉産業の現状等に
ついて触れ、 概要、 次のとおり説明した。 

(1) 経済の改革・開放が奏効し、 肉類の供給が潤沢となって、既に先進国の消費
 水準に近づいていること。 

(2) 肉類の生産・流通・消費における市場経済化をさらに推進し、政府の市場関
 与は、 それが必要となったときの最小限のマクロ調整に止める。 

(3) 生産・加工・販売の(部門間) 結合を強化し、 また、 流通市場の整備、 情報
 サービスの迅速化・効率化を通じて流通の近代化を図る。 

(4) 外国との交流、 技術導入等によって近代化を図り、また国際貿易の拡大に貢
 献することが、 食肉産業の発展にとって不可欠である。 

 かくのごとく、 この種の会議の冒頭講演としては、 ホスト国の事情説明や意見
開陳に重点が置かれるのが一般的である。 そうした中でも、 殊に、 李副総理の講
演内容は、 持続的経済成長の下で消費者物価の安定を達成し、 食料供給の面で自
信を深める中央政府の威信を、 内外に遺憾なくアピールするものであったと言え
よう。 

 なお、 最後に、 オバーストIMS会長が挨拶に立ち、 中国で開催された今回会
議の意義を強調すると共に、 IMSの最重要課題が、 家畜・食肉の国際貿易を促
進し、 障害の軽減に貢献することある点を強調した締めくくりの挨拶を行った。 
なお、 挨拶の中で同会長は、「現実には多くの貿易障壁がある」 と指摘した文脈の
中で、 最近の日本との貿易における 「変化」 を歓迎すると述べた。 このことが、 
何を指すかは明確にしなかったが、 同文脈の最後で同会長は、 障壁に対しては、 
今後も検証と問い質すことが重要と結んでいる。 


基調講演の筆頭課題は、 貿易円滑化と食肉の信頼回復


 続いて実質会合に入り、 基調講演の最初には、 ワシントンの国際農業食糧政策
評議会*会長のプラム卿 (イギリス) が立ち、 概要、 次のとおり講演した。 

 (参考)*
米国、 ワシントン市に本部を置く国際的な賢人会議で、 世界的な農業・食糧・通
商問題等を論議する場となっている…IPC

(1) 世界の食肉の消費は、 過去、 順調に拡大してきたが、先進国で牛肉の伸びの
 低下が見られるものの、 将来も概ね順調に推移するとみられる。 食肉産業の今
 後の課題は、 消費者の期待やライフスタイルの変化と調和しつつ、 将来の需要
 増に応えることである。 

(2) ウルグアイ・ラウンド(UR) 合意による貿易障壁の改善と市場アクセスの
 拡大により、 食肉の貿易は安定的に拡大している。 次期ラウンド交渉に先立っ
 ては、 非関税障壁への取り組みが強調されるべきことに疑問はない。 

(3) また、 UR合意に伴う動植物検疫協定(SPS協定) の成立により、 衛生問
 題では、 国際的に承認された科学的な基準等が求められる一方で、(不当な) 貿
 易障壁の導入を防止することができることから、 貿易の円滑化、 自由化にとっ
 ては極めて重要だ。 

(4) 一方では、 牛海綿状脳症 (BSE)、 病原性大腸菌 (O−157など) の発
 生問題等、 食肉に対する消費者の信頼やイメージを著しく傷つける衛生問題が
 世界的に発生しており、 それが食肉消費の減退をもたらしている。 

(5) その結果、 EUでは、 輸出補助金を削減しなければならない中で、BSE問
 題による消費減退に伴う介入買入れの再開により、 牛肉在庫が増加するという
 ジレンマを抱えている。 さらに、 オランダでは豚コレラ(CSF)、 また、 台湾
 では口蹄疫 (FMD) が発生し、 それが豚肉の国際貿易に大きな影響を与えて
 いる。 

(6) また、 衛生問題に端を発した「危機」 は、 マスコミ報道による影響も大きい
 ので、 今後の課題としては、 食品の安全に関する正確な情報提供と教育がなさ
 れねばならない。 そのための一つの方法としては、 行政、 業界、 研究者、 消費
 者団体との協議を通じて、 ラベル表示基準を強化することが有効である。 

(7) また、 消費者の信頼を完全に回復するためには、危険な食品が消費者に届か
 ぬよう、 世界レベルにおいて食品の安全に注意を喚起すると共に、 各国は、 食
 品業界を挙げて、 検査・監視・規則の改善等に統一的に取り組まなければなら
 ない。 

 これらの、 食肉産業を巡る国際的な現状分析と問題点等の指摘は、 世界の食肉
関係者にとっては、 ある意味で衆目一致する普遍的なものであったといえよう。 
刮目に値する指摘は特にはなかったものの、 今日の複雑な世界情勢の中において、 
共通的な現状把握と問題点の整理と言う意味では、 十分要点を衝いた論考であっ
たと思われる。 

 なお、 EUの介入買入れについて触れられたものの、 現実には、 本年8月で在
庫が既に約62万トンに達している中で、 その 「処分」 問題や、 それがもたらす
国際需給への影響に触れられなかった点については、 若干の不満が残る。 


農民支援/貿易自由化や食糧問題/効率的農業も基調講演に


 その他にも、 二つの基調講演があったが、 先ず、 国際農業者連合 (IFAP:
62カ国参加) のG.ブライト会長 (豪州) が、 農村社会への支援、 貿易自由化
と農民、 また、 農業を取り巻く産業と農業との関係などをテーマに、 概要、 次の
とおり述べた。 

(1) 農民は世界の食料供給という重要な使命を果たしているのに、農民や農村に
 対しては、 わずかな 「関心」 しか払われていない。 (先の)世界食料会議でも、 
 農民については殆ど触れられていない。 各国政府は、 農村社会への支援と農村
 におけるサービス向上に努力すべきだ。 

(2) WTOの下で、 開放的で透明な貿易ルールが方向づけられており、IFAP
 は 「ガット体制下での農業」 を支持する。 保護が高度な国でも、 もはや後戻り
 することはできない。 農民にとって最も重要な貿易論議は、 もっと自由で開か
 れた市場である。 

(3) 今日的な課題は、農業関連産業が強大となり農民は弱い立場に立たされてい
 ることである。 たとえば、 種苗会社は寡占化を強め、小売業界は大型化して(生
 産者との) 交渉力を高めている。 これに対抗するため、 世界の農民は団結する
 必要がある。 

 WMCの基調講演としては、 いささか 「特別」 な内容ではあったが、 農民代表
という意味では、 傾聴に値する面があると考えられる。 すなわち、 論者の主題で
ある上記の (2) が、 専ら農産物を輸出する主産国の素朴な自由貿易論 (食料安
保や多面的機能面での保護論議に触れられていない) に基いているのに対して、 
同じ論者の (1) (3) は、 いわゆる農業弱者論が述べられている。 

 したがって、 わが国のように、 専ら農産物を輸入する国の生産者は、 今後の農
産物貿易論議においては、 益々市場開放要求を強める輸出国群に対して、 輸入国
の農民にも 「関心」 を払うべきことを求める権利があると思われる。 

 最後に、 米国の政策シンクタンクであるハドソン研究所のT.アベリー理事が、 
世界の食糧問題と農業生産性向上との関係をテーマにして、 概要、 次のとおり述
べた。 

(1)人口趨勢からみて、 世界の最大人口は85億人であり、農業生産性の向上によ
 って、 この人口規模を十分に養うことができる。 そのためには、 生産性の高い
 品種の開発など科学技術の応用によって、 高効率な農業生産を追求することが
 重要で、 その研究・開発に十分な投資を行わなければならない。 

(2)高効率農業生産の推進に対しては、環境保護派や動物愛護派等からの圧力があ
 るが、 増加する人口を養うための生産性の高い農業が、「農業による自然侵食の
 拡大」 を最低限に食い止めるうえで、 唯一の有効な方法である。 

(3) 「誰が中国を養うか」 の著者レスター・ブラウン氏の主張は、将来の巨大人口
 を養うためには、 世界の土地が 「はだか」 になると言うような極端な主張であ
 り、 科学技術の応用による生産性向上の評価において悲観的にすぎる。 

 中国が会場となったことから、 他のセクションでも食糧問題に触れた発言者が
多かったが、 同氏の主張は論旨が明快で説得力がある。 しかしながら、 この講演
においては、 1)最高人口を85億と評価している点 (別の見解では、 2025年
の予測が85億人で、 2050年にはさらに増加する予測もある) や、 2)生産性
の高い農業が、 ともすれば、 土地収奪型(「地力」 以外の要素も含めて) に陥りや
すい面を過小評価しているといえる点に若干の難点があり、 全体を評価する上で
は、 その点に留意すべきである。 


広範でかつ盛りだくさんの分野別セミナー


 基調講演に引き続いて、 講演と質疑応答からなる分野別のセミナー (全体参加
の会議) に移った。 同セミナーは、 下記の分野に講演テーマを整理して行われた。 

 全過程を終えて感じることは、 講演内容の各論に属する部分を除けば、 全体を
通じて、 プラム卿の基調講演に見えた現状分析や指摘が、 概ねその基調となって
いた点である (なお、 会議の性格上、 決して、 講演者の間で予め発言要旨のスリ
合わせが行われている訳ではない)。 

 なお、 発言者の数が多く、質疑応答に割くべき十分な時間が得られなかった。し
たがって、 必ずしも議論が十分に深まった訳ではないが、 反面、 発言者が多い分
だけ、 世界の食肉関係者の現状認識や輸出意欲、 また衛生問題等への取り組みな
ど、 多様なテーマが表出し、 集約的に世界の動向に触れるという意味では意義深
いものであった。 
記

1 国際 (世界) 貿易の展望

 (特記的コメント) 

・UR合意後、 市場アクセスの改善や価格上昇による期待感から、 一般的傾向と
 しては生産拡大傾向が出てきている。 なお、 近年、 生産、 消費とも拡大傾向が
 顕著で注目されるのは中国である。 

・需要面では、 経済好調なアジアが伸びているのに対して、 需要が急減した旧ソ
 連諸国では、 鶏肉 (参考:主に米国からの輸入により賄われている) を除いて、 
 需要回復の兆しがあまり見られない。 

・UR合意により、 貿易障壁の軽減、 制度等の透明性が高まったが、 今後は、 非
 関税障壁の採用やUR合意実施の過怠等への監視・点検等に努めなければなら
 ない。 

2 アジア・太平洋地域の動向

 (特記的コメント) 

・北アジアに加えて、 経済成長が持続する東南アジアでの需要の拡大が続く。(講
 演原稿締め切りが通貨危機前であったため、 それが織り込まれていない) 

・豪州をはじめとして、 主要食肉生産国へのエルニーニョの影響 (旱ばつ) の拡
 大が、 今後懸念される。 

・米国がアルゼンチン産牛肉を 「FMD解禁」  (8月25日) したことに伴い、 
 牛肉の国際貿易秩序への今後の影響について、 注目すべきである。 

3 中国の動向に関する特集

 (特記的コメント) 

・中国側の講演者の基調は、 李副総理の冒頭講演に集約されるものであるが、 各
 論的には次の点が主に強調された。 

1)改革・開放による経済成長の継続と、 肉類の生産・消費の持続的拡大
2)国際的な技術交流の拡大、 また、 外国の資本投資、 企業進出を歓迎
3)市場経済化の一層の推進と国内市場開放の促進 (関税引き下げなど) 
4)生産・流通の近代化と衛生水準の向上 (食肉衛生検疫法の制定など) 
5)香港の返還・マカオ返還決定に伴う、 これら地域への 「輸出」 の拡大

4 21世紀への課題 (食肉への信頼の回復) 

 (特記的コメント) 

・食肉の衛生 (含む、 家畜の疾病) 問題の解決、 同調査・研究、 安全性向上への
 取り組み強化 (HACCPの普及など) の重要性

・衛生問題への行政と民間の組織的取り組み (例:追跡可能性の向上や自律的衛
 生制御システムなど) の重要性や、 SPS協定を遵守した検疫・安全措置の採
 用による消費者の信頼性の向上

・衛生問題等に関する、 正確な情報提供や正しい知識の普及・啓蒙等、 消費者教
 育の重要性


中国の市場開放、 アルゼンチンの意欲等のアピールが印象的


 最後に、 分野別セミナーの講演と質疑応答を通じて、 特に印象的であった 「ア
ピール」 を振り返ると、 次のとおりであった。 

 (1) WTOへの加盟促進を念頭に置いた、 中国の市場開放アピール

・WMC開催直前に、 中国は独自に、 畜産物を含む4800を上回る品目の平均
 関税率を、 現行の23%から、 97年10月1日からは17%に引き下げるこ
 とを発表し、 国際的なアピールの面では、 絶好のタイミングを捕らえたものと
 なった。 

・会場からの、 食肉の輸入制度への質問に対しては、「1)食肉の輸入は既に自由化
 されており、 2)輸入成約を証する契約書を提示すれば、 当局の輸入承認が得ら
 れる。」 との明言があった。 

 (2) 牛肉の対米輸出が解禁となった、 アルゼンチンの輸出拡大アピール

・1)生産条件から牛の大部分はグラスフェッドである。 2)牛群の大きさに比べて
 牛肉生産量が少ないのは、 子牛繁殖率が悪い (母牛頭数に対して60%程度) 
 ことが原因であるので、 3)管理や飼養技術の改善により生産性を高めて、 増産
 と輸出拡大に取り組む、 との考えが示された。 

・会場からの、 穀物増産と牛肉増産の関連性の有無を問う質問 (米国) に対して
 は、「1)増頭は穀作不向きな未開拓地で実現すべきで、 それは土地の有効利用に
 あたる。 2)グレインフェッドは一つの選択であるが、 現状ではグラスフェッド
 の方が有利で競争力があるため、 増産はグラスフェッドで行われると思う。」と
 の応答があった。 

・米国の解禁により、 一部では穀物肥育を取りざたする向きもあるが、 この応答
 が、  「米国向け」 のものであったのか否かについては、 今後注目すべき点であ
 る。 

・また、 その他のセクションにおいては、 輸出国としてUR合意の効用を認めつ
 つも、 勢い余って、 輸出補助金削減に関してその履行スケジュール (期限) を
 98年に繰り上げることを提唱するという、 「過激発言」 も飛び出した。 

 (3) 南米最大の畜産国であるブラジルの大型代表団によるアピール

・ブラジルは、 南米の畜産では隔絶的に大きな地位 (ブラジルに次ぐ畜産国アル
 ゼンチンの生産量に比べて、 牛肉は倍、 鶏肉では6倍、 また豚肉では他の追随
 を許さない水準) を占めるが、 FMD清浄化の関係で輸出面では後れを取って
 おり、 この分野別セミナーにおいても、 世界と自国の鶏肉部門に関して講演し
 たのみであった。 

・今回は、 中国以外では最大の三十数名が参加している。 このことは、 次回開催
 国としての立候補と関連しているが、 その背景には、 この 「後れ」 を取り戻し、 
 将来の食肉輸出大国を目指して国際的なアピールを狙ったものと受け止められ
 る。 

・なお、 次回開催国は、 結果的にはアイルランドに決まったが、 今回の熱意から
 推すと、 FMD対策も含めて、 今後、 輸出拡大への取組みが強化されると思わ
 れる。 

 なお、 各別に意義深いと考えられるものは、 今後、 「畜産の情報」紙上において、 
順次、 報告することと致したい。 


IMS新会長にセング氏 (USMEF会長) を選任


 食肉会議の終了後に別途開催された、 IMSの一般集会 (加入会員による総会
に相当) では、 オバースト会長 (イギリス) の退任を承認すると共に、 新会長と
して、 IMS副会長で、 米国食肉輸出連合会 (USMEF:本部/米国デンバー
市) 会長のP.セング氏を選任した。 

 また、 次回 (第12回:1999年) 世界食肉会議の開催地としては、 ブラジ
ルとアイルランドが立候補したが、 結果的には、 アイルランドに決定された。 な
お、 第12回会議は、 首都のダブリン市において、 1999年5月に開催される
予定である。




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