副食品市場に見る肉類消費動向の変化等について (中国)




● 品揃え多様化、 鮮肉回帰、 鶏肉人気の冷却

 身近な消費現場における販売動向等に関する統計や関連情報が不足する中国で
は、 市場等の現場視察等を通じて、 それらの事情を観察・比較検討することが重
要で、 それが引いては全体的な需給・消費動向を把握する上でも重要である。 

 そうした観点から、 北京市の代表的な副食品卸売市場である大鐘寺市場 (後述) 
での観察 (9月下旬) で得た肉類関連 (魚類を含む) の知見で、 約3年前の観察
との比較において特記すべき点は、 およそ、 次のとおりである。 

1) (魚類を含めた) 肉類の取扱い量の増加、 店構えや品揃えの面での多様化、 ま
 た、 衛生面の向上。 

2)伝統的な肉類消費形態である常温肉 (鮮肉) への消費の回帰傾向と、 その反面、 
 冷凍肉取扱い量の減少傾向。 

3)鶏肉へのある意味で熱気のこもった需要が、 持続的な供給増により、 次第に冷
 却しつつあるかに見えること。 

4)活き魚を含む魚類 (スッポンやヘビを含む) の販売が、 量的にも、 また品揃え
 的にも拡大、 多様化していること。 

 (参考) 

 中国には各種の 「市場」 があるが、 近代的な小売り店舗であっても 「自由市場」 
と称されることがあるなど、 一般には理解が困難な側面がある。 

1)国営商店 (市場) 経済開放以前には、 原則、 小売り商店はこの形式であったが、 
 国営とはいっても、 経営主体は地方行政当局である。なお、商品調達は主に行政
 系統であったが、 経済開放により、 現在では多様化。 

2)自由市場 経済開放以降、 農民が自家産物を持ち寄り始まったものであるが、 
 現在では、 近代的な店構えをした私営専業者の大型店舗まで出現している。 な
 お、 店舗開設には当局の許可が必要である。 

3)スーパー (超市) 国営、 自由市場を問わず、 西欧風の近代的で豊富かつやや高
 級な品揃えをした店舗が、 俗にそう呼ばれている。  「商城」 と呼ばれることも
 ある。  (なお、 デパートとの区別は必ずしも明確ではない) 

4)批発市場 文字どおりは卸売り市場であるが、 その多くは小売りもする総合的
 な市場である。 開設者は地方当局で、 運営形態は、 一般的には、 独立業者が開
 設者からコマ (小間) を借りる店子方式。 

5)拠点的批発市場 中央政府の肝いりで、 主産地又は大消費地の地方政府が、 売
 手と買手相互の大口取引を推進しつつ建値市場機能を期待し設けた卸売市場。 
 市場には現物持込みはなく、 コンピュータ取引きが行われる。 


● 北京市が開設する 「大鐘寺副食品批発市場」

 北京市の北部に位置する最大の副食品 (主食穀類以外の食品の総称) の 「台所」 
の一つであり、 前記の分類では、 4)に当たる現物市場である (なお、 店子として
は、 国営も私営も併存している)。 なお、 「青物・油脂等」 と 「肉類・魚類」 のパ
ビリオンは、 それぞれ 「別の棟」 になっている。 

 この市場での卸売り取引きは、 (1) 小売り販売 (主に自由市場向けか)用の仕
入れ、 及び (2) レストランやホテルの仕入れが主体とのことで、 受け渡し後は、 
リヤカーや小型トラックにて積み出されている。 

 なお、 小売りはパビリオン内の各店舗 (店子のコマ) にても可能であるが、 パ
ビリオン周囲の小売り専門の 「場外市場」 でも、 多数の品目が扱われている。 
…北京の 「築地」 的な様相を帯びている。 


● 赤肉類を中心とした需要動向の変化

(1)魚類の多様化と売り場面積の拡大

 肉類と魚類は同じパビリオンで扱われているが、 魚類では、 以前は殆ど扱われ
ていなかった高級品目であるカニや活き魚 (スッポンやヘビを含む) の店舗が新
設・拡大され、 大きなコーナーを占めるようになった。 

 豚、 牛、 羊肉の赤肉類に関しては、 店舗数、 扱い量にはあまり変化は見られな
いが、 魚類コーナーの拡大により同一パビリオン内に全て収容できなくなり、 赤
肉類のうち牛、 羊肉は、 付属の別館 (元は倉庫) に移転した。 なお、 これについ
ては、 牛、 羊肉業者の多くが回教徒であることから、 豚肉との 「別居」 が受け入
れられ易かったものと考えられる。 

(2)鮮肉への需要の回帰現象

 伝統的な嗜好である常温肉 (鮮肉) への需要の回帰傾向がみられる。 農業関係
者は、 鮮肉への 「回帰現象」 は都会での最近の傾向 (農村部では依然として主流
とみられる) と指摘しているが、 同市場でも、 内臓は勿論のこと、 鮮肉の需要拡
大傾向は見た目にも明らかである。 一方、 かっては多く見られた、 四川省産豚肉
などの冷凍肉の扱い量が、 以前に比べて減少しているように見受けられる。 

 鮮肉への回帰現象は、 食肉供給が順調に拡大し、 西欧諸国並みの消費水準 (9
6年の一人当たり食肉消費量 (全食肉) は約48kg) に達したことから、「懐か
しい嗜好」 への回帰が起こったものと考えられる。 さらに、 輸送手段の発達や衛
生水準の向上、 また、 副食品供給の市長請負制の普及により、 都市周辺地域での
食肉生産が軌道に乗ったこともまた、 その背景にあると考えられる。 

(3)鮮肉需要の増大と内陸部主産地との関係

 なお、 沿海部の大都市での鮮肉需要の拡大は、 これらの消費地を冷凍・冷蔵肉
の市場と位置づけて生産を拡大してきた、 四川省など内陸部の豚肉生産地域にと
っては、 影響が大きいと考えられる。 これら内陸部の主産地では、 今後、 内陸部
での新市場開拓と共に、 豚肉加工品の生産増加傾向を捉えて、 加工原料用として
の需要拡大にも取り組むことが必要となろう。 


● 鶏肉の需要動向の変化等

 鶏肉は、 中国の食卓に不可欠であるのに、 従前は食肉全体の1割強を占めるに
過ぎず、 かつ、 零細経営が多かったことから他の食肉に比べて割高で、 かっては、 
一般消費者にとって鶏肉は、 ある意味でハレの食材的なものでもあった。 その後、 
ブロイラー生産の急拡大により供給が急増して、 価格が他の食肉並みか又はそれ
以下の水準に低下した。 このため需要が急拡大し、 その後は、 鶏肉店舗の回りに
は消費者の 「熱気」 が見られるようになった。 

 今回の観察では、 同市場ばかりでなく、 他の訪問先においても、 明らかに鶏肉
店舗の賑わいは以前に比べて減退しているように見受けられる。 これは、 ブロイ
ラーによる供給の急拡大が数年にわたって継続し、 鶏肉がもはや 「あこがれ」 の
食材でなくなったことが原因と見られる。 

〈家きん肉生産量の推移〉

(注)1 資料 中国統計年鑑  
   2( )内は、食肉全体に対する家きん肉のシェア
   3 96年実績は、9月末現在未公表であるので、米国農務省の予測値を採
     用した。

 なお、 そうした状況下でも、 穀物の消費効率 (飼料変換率) の良さや投下資本
回収が早いことから、 ブロイラー産業は引き続き奨励されている面があり、 今後、 
鶏肉の供給過剰感が強まる可能性が少なくないと思われる。 

 その場合、 想定されることは、 輸出意欲の増大や輸入の減少であるが、 それが
現実となったときには、 既に中国は、 世界的にみても生産・消費規模が大きいだ
けに、 国際貿易に対する影響が大きいと考えられる。 

 なお、 こうした昨今の鶏肉の需給事情を反映して、 農業部調べの鶏肉価格 (全
国平均:中抜き丸鳥)は、 8月が11.66元 (175円)/kgと前年同月を約
12%下回っている。 また、 農業関係者によれば、 ブロイラーの供給増により、 
かっては殆どなかったブロイラーと地鶏の価格差が既に表れており、 それは10
%前後のケースもあるとのこと。 



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