◇絵でみる需給動向◇
EU統計局によれば、97年12月現在の牛飼養頭数は、前年同期比1.7%減(144万 頭減)の8,307万頭となった。EUの牛飼養頭数は、94年以降、8千 4 百万頭を超 える水準で推移してきたが、97年は 8 千 3 百万頭台に減少した。 国別にみると、EU15カ国のうち、アイルランドを除く14カ国で減少した。飼養 頭数が 10 千万頭を超えるフランス、ドイツ、イギリスの上位3国では、それぞ れ、2.5%、3.4%、1.1%の減少となっており、全体の頭数減に大きく影響してい る。 また、今後の飼養頭数を予測する上で、経産牛頭数の動向は重要なカギを握っ ているが、経産牛頭数の3分の 2 を占める乳用経産牛が1.7%減少したのに対し、 3分の1を占める肉用経産牛は0.4%増とほぼ横ばいであった。 EU主要国の牛飼養頭数(97年12月) 資料:欧州統計局 注:数値は暫定値
このように、総飼養頭数が減少した要因としては、乳用経産牛が生乳クォータ を引き上げられない状況の中、1頭当たりの泌乳量が増加していることにより、 長期的な減少傾向にあることが挙げられる。 加えて、96年 3 月に発生した牛海綿状脳症(BSE)問題に伴なう防疫対策とし て、イギリスで実施された30ヵ月齢以上の牛の淘汰事業(Over Thirty Month Sc heme)が98年1月末時点で約220万頭に達したことが挙げられる。さらに、BSEに よる牛肉消費の低落から過剰対策として実施された子牛のと畜奨励事業(Calf Pr ocessing Premium)が98年1月末現在で150万頭以上に、子牛の早期出荷奨励事業 (Early Marketing Premium)も180万頭以上に達したことも影響したとみられる。
イギリス食肉家畜委員会(MLC)は、98年および99年の牛肉需給見通しを発表し た。これによれば、97年12月時点の牛飼養頭数の減少を受けて、98年のEU15カ国 の牛肉生産量は、前年比3.6%減の765万トン(枝肉ベース)に減少すると見込ま れている。さらに、99年の生産量は、98年の水準をさらに1.3%下回る755万トン と予想されている。 一方、牛肉消費量は、BSEの影響を受けた96年を底にわずかづつではあるもの の回復傾向にあり、99年には730万トンと予想されている。 この結果、96年に116.2%であったEUの牛肉自給率は、97年に110.4%、98年に 105.2%となり、99年には102.7%にまで低下するとみられている。
一方、中期的には、EU委員会が先に提案した共通農業政策(CAP)改革が、牛飼 養頭数の動向に影響を及ぼすものと予想される。この改革案では、価格支持から 所得補償への政策転換がうたわれており、2000年から2002年の3年間に牛肉の介 入価格が実質30%引き下げられる一方、直接所得補償としての各種奨励金が増額 または新設されることとなっている。また、酪農部門においても、乳製品の介入 価格の15%引き下げと直接所得補償としての新たな奨励金制度の創設、クォータ 制度の2006年までの延長およびクォータの 2 %増枠などを提案している。 EUの肉用牛および酪農経営は、需給動向に加え政策にも大きく左右されること から、2000年以降の牛飼養頭数は、今後議論が深まると予想されるCAP改革のゆく えに少なからず影響されるとみられる。
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