◇絵でみる需給動向◇
EUの脱脂粉乳価格は、98年に入り、生産量が減少している(98年1月から4月 は前年同期比3.0%減の約36万 6 千トン)にもかかわらず弱含みの展開となって いる。指標価格の一つであるドイツの工場渡し価格は、97年9月から12月まで上 昇(12月は414マルク/100kg(約3万2千円):1マルク=76.8円)した後、98 年1月以降は下落に転じた。6月は横ばいとなったものの391マルク/100kg(約 3万円、前年同月を1.8%下回る)となり、この半年間で5.6%低下した(左図参 照)。また、輸出依存度の高いオランダや、フランスの工場渡し価格もほぼ同様 の値動きを示している。 ◇図:EUの脱脂粉乳の域内価格と介入在庫量の推移◇
この原因として、かつて域内消費量の6割を占めた飼料向けの需要が依然とし て低迷していることが挙げられる。背景には、96年3月の牛海綿状脳症(BSE)問 題の発生以降、域内牛肉生産の抑制対策として、各加盟国が実施している子牛の と畜奨励事業などが進展していることに加え、酪農家がクオータを超過した生乳 を子牛に与える傾向が強まっていることがある。 さらに、EUの脱脂粉乳の主要輸出先の一つであるマレーシア(96年は1万2千 トンを輸出: 3 番目の輸出先)、タイ(同 9 千トン: 4番目)など一部アジア 諸国において通貨急落の影響から、輸入需要が減退していることなどが弱含みの 展開に一層の拍車をかけている。なお、脱脂粉乳の国際需給は、これら諸国の輸 入需要減退の影響などを受けて緩和傾向となっている。ドイツ市場価格情報セン ター(ZMP)によると、98年 6 月の脱脂粉乳の国際価格(西欧主要積み出し港の 本船渡し価格)は、1,385米ドル/トン(約18万 8 千円:1米ドル=136.0円)と 前年同月を14.8%下回った。
EUでは春から初夏にかけて生乳生産が増加することに伴い、 3 月から 8 月ま で脱脂粉乳の介入買い上げが行われるが、このような状況から、その介入在庫量 は98年3月以降再び増加している。6月末の在庫量は前年同月比30.8%増の約17 万トンと大幅に増加した。 こうした中で、EU委員会は 6 月26日付けで、脱脂粉乳の輸出補助金を68ECU/ 100kg(約 1万3百円:1ECU=152.4円)から過去10年間で最も高い74ECU/100kg (約1万1千 3 百円)へと8.8%引き上げた。これは、EU委員会が、さらに増加 が予想される介入買い上げに要する財政負担を考慮した結果、少しでも輸出に仕 向けることで財政負担を減らすとともに、域内市況へのテコ入れを狙ったものと 考えられる。 しかし、業界関係者の間では、今回の輸出補助金の引き上げは、現在の国際需 給から見ると、域内の脱脂粉乳市況を回復させるには至らないとの見方が強い。 また、米国が乳製品輸出促進計画(DEIP)に基づき、EUの最大の輸出先であるメ キシコなどに輸出される脱脂粉乳3万トンに補助金を追加交付するとしたことは、 EUにとってかなりのマイナス材料になることが予想される。今後とも、域内需要 の増加目算が立たないだけに、EUの脱脂粉乳価格は、依然として弱含みの展開が 続く可能性が高いとみられる。
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