豪州政府、豚肉業界支援策を発表


当初は肉豚生産者の要求を却下

 豪州の豚肉価格は昨年末以来、一貫して下落し、実質的に過去最低ともされる
価格低迷が続いており、生産者は、農業紙などで反輸入豚肉キャンペーンを展開
するなど、その窮状を政府に訴えていた。これに対し、内外に自由貿易を標榜す
る立場にある豪州連邦政府は、当初、生産過剰を価格低迷の主要因とした上で、
相手国の報復措置による他の豪州産農産物輸出への悪影響の方が大きいとして、
輸入規制の導入を否定するなどしていた。


政府は一転して支援策を発表

 しかしながら、6月10日、政府は急きょ豚肉業界の支援策を発表した。今回発
表された支援パッケージは、生産技術の向上や施設近代化などを目的に、昨年11
月から1千万豪ドル(約8億7千万円:1豪ドル=87円)規模の補助事業として
実施されている全国豚肉産業発展計画に、新たに9百万豪ドル(約7億8千万円)
を追加して、肉豚と畜加工場の施設合理化への補助や、短中期的アジア向け輸出
可能性調査などを実施することとしている。また、パッケージには輸入規制の検
討も含まれており、豚肉輸入へのセーフ・ガードに関して、世界貿易機関(WTO)
と国内法の両面から照らし合わせ、制度化が可能かどうかを財務省管轄下の生産
性委員会に諮問するとしている。


決定には政治的要因も

 今回の発表に関して、農業紙などに見られる生産者の声は「非常に失望した」と
して、なおも輸入規制や国内価格支持の導入を求め、政府を厳しく追求するもの
が多いが、クインズランド州議会の選挙投票日である6月13日を目前に控えた今
回の決定には、政治的な背景も強く影響したとみられる。

 選挙が近づくにつれ、自由党と国民党による現在の保守連合政権苦戦との予想
が強まっていたことは、同様の保守連合政権である連邦政府の今回の決定に大き
な影響を与えたと想像される。なお、選挙の結果は、保守連合が大きく議席を失
う一方、アジア移民の排斥や銃規制の大幅緩和などを掲げる極右ワン・ネーショ
ン党が躍進した。ワン・ネーション党は、豚肉輸入に関しても「全面凍結」を表
明するなど、実行の可能性を度外視した保守色の強い単純な政策を掲げ、保守連
合の地盤を奪うように支持を集めた。


貿易自由化と国内農家保護をどう調和させるか

 今回の支援策発表に当たっても、アンダーソン第一次産業大臣は、価格低迷の
主要因は生産過剰にあるとしていることなどからみて、一時的にせよ、輸入規制
が発動される可能性はかなり低いとみられる。セーフ・ガードに関しては、生産
性委員会の判断が下るまでに150日を要するとされており、年内にも予想されてい
た連邦議会上下院の解散総選挙を考慮に入れた上で、結論の先送りを図ったもの
ともいえる。

 現時点では、豪州先住民の先住権問題に端を発した解散総選挙は回避される見
通しが強いが、クインズランド州議会における極右政党の躍進は、現行の保守連
合による今後の政策運営に大きな影響を与えるものとみられる。

 フィッシャー副首相兼貿易大臣は、今回の政府の決定について「これまでの国
際貿易の自由化を目指した政府の確固たる方針から、少しも後退するものではな
い」としているが、WTO次期農産物貿易交渉をにらんで、今後、自由化と、国内農
家の保護という問題をどのように解決していくのか注目される。


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