と畜労働者の確保が大きな課題(シンガポール)


豚、鶏を生体で輸入

 シンガポールは、鶏卵など一部の農産品は自国で生産しているものの、他の多
くを輸入に依存している。食肉では、豚肉および鶏肉については、ほとんどを生
体でマレーシアから、牛肉を豪州、ニュージーランドなどから輸入している。生
体で輸入された豚および鶏は、国内のと畜場などで処理・加工され、マーケット
に出荷されている。

 しかし、最近では、食生活における健康志向の高まりなどから、96年まで順調
に拡大してきた同国の豚肉の消費は、鶏肉に押され減少している。また、マレー
シアから輸入される生体豚は同国で消費される豚肉の約9割を占めるが、スーパ
ーなどでの部分肉の取扱いの増加などから、94年の115万頭をピークに減少してい
る。


苦しいと畜場経営、進まぬと畜労働者の世代交代

 と畜場の経営は、97年3月、十数年ぶりに豚1頭当たり18シンガポールドル(約
1,500円: 1 シンガポールドル=約83円)に値上げした、と畜料金に依存してい
るため、と畜頭数の減少は、直接収入不足につながっている。さらに、昨年、値
上げされた水道料および1人当たり平均月額 1 千シンガポールドル(約8,300円)
を超える労働者の人件費などにより、運営経費は膨らんでいる。

 また、スーパーなどでは、冷蔵食肉の販売が増加しているものの、早朝からオ
ープンする伝統的な自由市場(ウエットマーケット)では、豚肉はいまだに温と
体流通が主流となっている。このため、と畜作業は早朝の出荷に間に合うように、
前日の午後8時から翌日の午前3時もしくは4時まで行われ、労働条件が厳しい
ものであるため、高齢化したと畜労働者に代わる若い労働者の確保が難しい状況
となっている。また、と畜頭数が減少する中で、労働者確保のための人件費の引
き上げも困難となっている。


と畜部門を海外に移管する動き

 このように、今後のと畜場の運営は、労働者の確保が大きな課題となっており、
現在同国に 2 カ所あると畜場に就労する約200名の作業員のうち、約4割はマレ
ーシア人となっている。

 一方、シンガポールの大手食品企業は、一昨年に1億USドル(約141億 5 千万
円: 1 USドル=141.5円)を投じて、上海郊外に年間10万頭の出荷規模となる養
豚場を設立した。今後、豚肉需要の増加が見込まれる同地域への安定供給を行う
と同時に、シンガポールへ安価でかつ新鮮な豚肉を部分肉で供給することを目指
している。


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