◇絵でみる需給動向◇
96年10月から一貫して上昇を続け、97年12月、98年1月にピークとなった域内 バター価格は、その反動から一時期下落したものの、ここにきて再び強含みに転 じている。域内の指標価格の一つであるオランダのブランドバターの取引価格(以 下「バター価格」)は、97年12月に前年同月を15.0%上回る780ギルダー( 5 万 4 千 7 百円: 1 ギルダー=70.2円)/100kgに達した。98年 1 月は横ばいとな った後、 5 月には740ギルダー( 5 万 1 千 9 百円)まで下落し、 6 月も同水 準で推移したが、7月には前年同月を2.3%上回る745ギルダー( 5 万 2 千 3 百 円)と再び上昇に転じた。 昨年来のこうした動きはいずれも、バター価格が高騰した昨年を除く過去5年 間の最高値である730ギルダー( 5 万 1 千 2 百円、95年12月)を上回る高値圏 でのもので、依然としてかなりの高水準にあると言える。 ◇図:EUのバター域内価格と介入在庫量の推移◇
この原因は、バター生産量が減少した中、域内のアイスクリーム、菓子類など の製造業者からの需要が昨年同様に旺盛であったことが挙げられる。域内のバタ ー生産量は、4月から6月の生乳生産量が前年に比べ減少したことに加え、生乳 が域内需要の強いチーズやクリーム類などに仕向けられたことなどにより、イギ リスやアイルランドなどを中心に減少した(EU15カ国の4月および5月の生産量 は前年同期比1.5%減の33万484千トン)。域内の多くの地域で昨年に比べ生乳中 の脂肪含有量が少ないと報告されていることもバター生産の減少に影響している ものと思われる。 また、昨年、最大の輸出先であるロシア向けなどの輸出が好調であったことや、 域内のバター需要者に対する介入在庫からの売渡しに係る各種補助制度により、 介入在庫量が大幅に減少したことも、バター価格にかなり影響を及ぼしていると 考えられる。97年7月末で約434万444千トンあった介入在庫量は、98年7月末に は約424千トンにまで減少した。
一方、現在のところ、EUのバター需給の重要なカギを握るロシア向け輸出は、 ほとんど行われていない状況にある。これは昨年、経済回復の兆しが見え始めた 同国で、今年5月に通貨・金融危機が起こり、輸入需要が停滞しているためと考 えられる。また、今後バター輸出を行うとしても、現在の域内バター価格の水準 が高いため、当分の間は輸出よりも域内向け志向が続くものとみられる。 このような状況から、今後のEUのバター価格動向は域内の需要如何にかかって いるが、EUでは 8 月半ばから来年の 3 月半ばまで、夏期の過剰と冬期の不足を 調整する目的で行っている民間在庫補助制度に基づく在庫(7月末で約14万7千 トン)からの放出が行われる。これにより、域内のある程度の需要は満たされる とみられることから、価格は堅調に推移するとしても、昨年のように急騰する可 能性は少ないと考えられる。
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